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猫との決別4

ニヤが部屋を出ていったあと、

リビングで僕はひとり、長く息を吐いた。


――ああ、これは。

僕は、ひどくショックを受けているのだと、

ようやく自覚した。


夕飯の支度をしながら、牛乳を切らしていることに気づいた。

だから買い物に出た。

ついでに、ニヤを迎えに行こうと思った。


……いや。

それは、都合のいい言い訳だ。


腕からブレスレットが消えたこと。

最近の、どこかよそよそしい態度。

そして、いつもより遅い帰宅。


不安になっていた。

ただ、それだけだ。


自宅前の緩やかな坂を下り、

角を曲がり、繁華街へ差し掛かったとき。


――聞こえた。


『好きだよ』


反射的に、声のほうへ視線を向ける。


詰め襟の制服を着た、同じ年頃の少年。

その腕の中に、ニヤがいた。


重ねられた唇。


僕は、慌ててその場を離れた。

牛乳のことなど、すっかり忘れて。


何事もなかったように家へ戻り、

キッチンで手を動かしながら、

何でもない顔でニヤを迎えた。


頭の中は、疑問でいっぱいだった。


……いや。

疑問など、持つ必要はない。


ニヤに、好きな人ができた。

ただ、それだけのことだ。


ニヤは、これまで僕に依存してきた。

それは恋慕などという淡い感情ではなく、

子どもが親に向ける、親愛に近いものだった。


それを恋だと勘違いしていた魔法が解け、

彼女はちゃんと、相応しい相手を見つけた。


――そういうことだ。


わかっていた。

いつか、こうなることは。


僕は自分の罪悪感や寂しさを埋めるために、

ニヤを引き取り、

無意識のうちに、依存するよう仕向けてきた。


それは、ニヤの人格を否定する行為だった。


森川さんに言った通りだ。

僕はもう、二度と、

自分の欲や懺悔のために

誰かを縛りつけてはいけない。


本来なら、ニヤは僕のような人間ではなく、

ちゃんとした家庭に、

親の情をもって愛される場所に

預けられるべきだった。


だから――

今度は、僕の役目だ。


自分の心を優先してはいけない。

手を伸ばしてはいけない。

引き止めてはいけない。


何度も、何度も言い聞かせながら、

僕は、いつまでもそこに座っていた。


動けないまま、

静かに、

夜が深くなっていくのを待ちながら。


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