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猫との決別3

岩城と付き合い始めて、一週間が過ぎていた。


放課後の教室で、ニヤは机に頬杖をつき、校庭を眺めながら部活の終わりを待っていた。

日曜のあの日以来、玲とはまともに言葉を交わしていない。

意識的に避けている、というより――距離が必要だった。


一緒にいるのがつらい。

それ以上に、玲離れをしなければならなかった。


夕日が完全に沈み、校舎が闇に包まれたころ、

部活を終えた岩城が、ようやく教室に現れた。


「神山? 何してんだよ、こんな暗闇で」


電気が点き、岩城が近づいてくる。

ニヤは眩しさに欠伸をひとつし、背を伸ばした。


「電気つけて寝るタイプじゃねーんだよ、ニヤは」


鞄を掴み、ペットボトルを取り出して岩城に投げる。


「今日もお疲れ。帰ろ」


さっさと歩き出すと、岩城は慌てて電気を消し、後を追ってきた。


校庭を抜ける夜道。

怖々と差し出された岩城の手を取ると、

十一月の冷たい風の中、そこだけが少し温かくなった。


「そういえばさ」


岩城が言う。


「最近、あのブレスレットしなくなったな」


「ああ。やっぱ似合わないから。捨てた」


実際には、机の奥に仕舞い込んだだけだ。

玲との決別を決めた日、

あの青は、あまりに眩しかった。


「そんなことねーよ。似合ってたって」


「散々けなしてたじゃん。ニヤがつけてると」


「……妬いてただけ」


岩城が照れたように頬を掻く。


「嬉しそうに見てたからさ。

大切な人からのもんなんだろって」


握られた手に力がこもる。


――大切な僕のニヤ。

――あんな形で引き取ったのは、間違いだった。


優しい声と、冷たい言葉が同時に蘇る。


「神山? 神山?」


気づけば、別れ道の十字路に立っていた。

ニヤは手を離し、軽く手を振る。


「じゃ、また明日」


岩城は動かない。


「なあ……オレのこと、好き?」


唐突な問いに、ニヤは少し間を置いて答えた。


「好きだよ」


岩城は小さく笑い、俯いてから、思い切ったように抱き寄せ、

唇に短く触れた。


驚きながらも、

(玲のほうが、柔らかかったな)

そんなことを、どこか他人事みたいに思っている自分がいた。


その瞬間、視界の端に見慣れた影が掠める。


「……!」


反射的に岩城を突き飛ばし、影の消えた道を駆ける。

探しても、玲はいない。


「痛ってー」


我に返り、手を差し出す。


「……わりぃ」


「いや、オレこそ。急にごめん」


起こしながらも、ニヤの意識は周囲を探っていた。


家に帰ると、玄関に玲のブーツが並び、

キッチンからいい匂いがしている。


見間違いだったのだろうか。


着替えてリビングへ出ると、

「お帰り」と玲が言った。


視線を合わせず、「ただいま」と返し、テレビをつける。

言葉の少ない夕食。

最近は、静けさがいっそう重い。


「ニヤ、最近帰りが遅いね。どうしたの?」


パンを千切りながら、玲が尋ねる。


「……テスト近いから、補習」


「そうか。大変だね」


よそよそしさは、気のせいだろうか。


半分ほど残して席を立つ。


「ごにそうさま」


逃げるように部屋へ向かう背に、声がかかる。


「ニヤ」


「遅くなるときは連絡して。迎えに行くから」


ニヤは振り返らず、頷いた。


その夜、それ以上、玲と話すことはなかった。


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