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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

短編ホラー

薔薇色

作者: 壱原 一

大好きなお□さんが居なくなった。


どうして会いたいと粘り強く駄々を捏ねていたら「しつこい」と小っ酷く叱られた。


不貞腐れてお庭を歩く。お□さんが好きだったお花が満開に咲いている。


感傷的な気持ちで傍を通り過ぎる途中、群生の翳りの中に、当人が屈んで隠れているかの如く正にいま求めて止まない大好きなお□さんの声がふうっと漂い流れて来た。


□□さん。


□はここ。


ここだよ、ここ、こ。ここ。


ここー。


低く入り組んだ群生の翳りにお□さんが潜める隙はない。


その認識に至るより早く、背を丸め両手を浮かせお花の茂みを掻き分けてお□さんを見ようと覗き込んでいた。


途端、左手の人差し指の先の右の側面がちくんとして、すぐさま体を引き戻す。


該当の箇所を右手の人差し指と親指で摘まんで搾ると、薄赤い流れが差し混ざる透明な液の玉が盛り上がった。


お□さんが好きだったお花の枝に備わった鋭い棘に皮膚を貫かれたと知った。


*


傷口を水道の流水で洗い、消毒液で拭く。夜にお□さんの夢を見て朝めざめ、左手の人差し指の先の右の側面がちくんとしたので見る。


昨日、皮膚の指紋や皺に紛れて全く見えなかった傷口が、皮膚の奥にぽつんと薔薇色の点を穿っているのが見て取れる。


摘まんで搾る。薄赤い液と透明な液が混ざって、点と同じ薔薇色になった玉が、朝焼けに染まる葉先の露のように盛り上がる。


以降、薔薇色の点はお花が成長する風にゆっくり少しずつ根と径を増し、ちくんちくんと細やかに鋭い疼きを伴って、薔薇色の玉をほつほつ生む。


左手の人差し指の先の右の側面で、柔らかく膨らんで温かく満ち、とくとくと脈打ちながら、狭そうに肉と皮膚を押し上げて、花開くように捲れ始めている。


明日あたり咲くのではと思う。


お□さんに会える気がする。



終.

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