表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

虐殺の天使(金尾問はず語り)

〈めかり時(くす)我を待つそれだけさ 涙次〉



【ⅰ】


 魔界が今や合議制で運営されてゐる事は、既に書いた。

「シュー・シャイン」に依れば、その議長を務めてゐるのは、「市民サン=ジュスト」なる若い男の【魔】だと云ふ。

「シュー・シャイン」にはその知識は欠けているやうだつたが、「サン=ジュスト」と云へば、フランス革命期の「虐殺の天使」ルイ・アントワーヌ・ド・サン=ジュストを想起させる。


 カンテラ、一抹の不安を覺えた。サン=ジュストのやうな過激派を大將に擁立すれば、魔界はそちらに靡き、過激化するだらう。尤も、歴史上の著名人の名を騙る事は魔界にはよくある話。「まあ、様子見か」結局、そこに落ち着いてしまふ。



【ⅱ】


 金尾は每日弁当を持つてくる。事務所にゐれば、悦美と牧野の料理が食へるのだが、彼はいつも、ベーグルにサワークリームを挾んだのを自分で用意してゐる。

 カンテラ曰く、「彼はシオニストなんだらう。聖別された食べ物しか、食べないのだ」。實際、夢の中で、遷姫にはその事、告白してゐた。


 金尾はマンションの自室に、ベッドを持たなかつた。夜になれば、泥と化す彼なので、バスルームで眠る。従つてベッドは不要なのである。

 遷姫は、そんな彼の眠りの中、かう問ふた。「金尾ドノハ所謂しおにすとカ?」金尾「分かります?」遷「イヤごーれむハゆだやノ魔物デハナイカ」日本にもシナゴーグはあり、黑衣長髭のラビはをり、日本人にもユダヤ教徒は、ゐる。「父は外交官でした... イスラエル大使館付の書記官。大使館には同じく大使館付のラビがをり、その影響で、ユダヤ教徒となつた。私は父の勧めで、ユダヤ教の世界に足を踏み入れました」


 だが、彼は青春時代の一時期、荒れてゐて、暴走族の一員となつた。棄教- 元より不安定なティーンの事だから、その儘心は「(すさ)み」の一途を辿り、遂には魔界堕ち... 今では考へられない事だが、当時は氣持ちの振幅が激しかつたのだらう。そこでちやほやされた彼は、人間界より魔界に愛着を抱くに至つた。【魔】となつたのである。


 と云ふ譯で、カンテラに拾はれてから、人間めいた者として己れを律するには、やはりユダヤの律法が必要なのだと、彼は思つた。ゴーレムに變身出來るやうになつたのも、その心理の影響なのではないか、と自分では思つてゐる、と彼は語つた。



【ⅲ】


 サン=ジュストのお眼鏡に叶ふ過激な【魔】、と云へば、自爆テロの「セールスマン」が最右翼だらう。サン=ジュストは一應、魔界の議會で話し合つた事として、彼を無理無理蘇生させた。何せ、結界を物ともせぬ「セールスマン」。カンテラ一味に食ひ込むには、好都合な人選(?)である。


 君繪の乘る乳母車には、移動用の結界が張られてゐた。そのせゐもあつて、悦美は油断してゐたのだ。一人で君繪を公園に連れてゆき、「公園デビュー」を果たさうとしたのだが... 胸騒ぎがした金尾とテオは、密かに悦美の後をつけた。


「やあ可愛いね。女の子ですか」風體から云つて、堅氣の、悦美思ふに、営業さんのサボり組かしら、が語り掛けてきた。勿論「セールスマン」、である。「えゝ」その瞬間、


「危ない!!」金尾が割つて入つたと同時に、「セールスマン」は自爆した。


 悦美と君繪は無傷だつたが、金尾は即死。肉片と血飛沫(しぶき)が飛び散つた。「どどだうしやう、金尾さんが...」テオ、念の為、その肉片を一欠けら拾ひ、脊中の猫用バッグに入れた...



 ⁂  ⁂  ⁂  ⁂


〈春深し飛び出たくなる家の澱 涙次〉



【ⅳ】


 金尾のなれの果てゞある肉片は、カンテラに手渡された。外殻(=カンテラ)に依る蘇生術が直ちに始まつた。「彼も【魔】の端くれ。これで蘇る事は間違ひない」


 一日目、頭が。二日目、胴体が。三日目、手足が。それぞれ、外殻の中で形作られ、結果、金尾は元の姿の、金尾として復活した。「秘術・ホムンクルス」である。


 悦美「良かつた(大泣き)」カンテラ「魔界原理主義者め、思ひ知らせてやる」。さて、カンテラ、どんな策で、サン=ジュストに對抗するのか。勿論、金尾のゴーレムの氣が濟む迄、「自らの」身の復讐をさせてやらねば。それには、夜を待たねばならない。


 と云ふ譯で、このエピソオド、續きます。



 ⁂  ⁂  ⁂  ⁂


〈夜を待て魔神復活壽ぎの中に己れの復讐があり 平手みき〉



 また。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ