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フェアリーリング・ダイアリーズ  作者: Cigale
現世・桐野・イソマツ(2014-2017)
3/15

駄菓子屋と謎の笛〈2015年7月〉

「ねえ、これなんだろ?」


 イソマツが、黄ばんだビニールパックで包装された商品を取り上げて言った。表面には、ところどころかすれた明朝体で「マネキブエ」と印字されてあった。


「マネキブエ……? 何を招くのだ?」

「今どき、バーコードがないなんて……」


 現世と桐野は、訝るような目でそれを見る。


 三人がいるのは「駄菓子・いけだや」である。

 ここで売っている商品は、魔法の(キャントリップ)駄菓子(・キャンディ)と呼ばれるもので、ほとんどに何らかの不思議な力が込められているのだ。

 例えば、砕けると七色の音が響き渡る「萬音(ばんおん)チョコ」。

 袋を開けるとぐにゃぐにゃと這い回る、ミミズのような形の「応声虫(おうせいちゅう)グミ」。

 スイッチを押すとすすり泣く声(十分の一の確率で耳をつんざく悲鳴)を上げる、笑い袋に似た「バンシーの嘆き袋」。

 ごろごろ回って破裂する、でっかいネズミ花火のような「爆発! 火炎車」。

 口に加えると一回限りで、火遁の術(パイロキネシス)水遁の術(ハイドロキネシス)などの簡単な超能力が使えるようになる「忍者の巻物シリーズ」などなどが定番である。


「買ってみればわかるよ。おばちゃーん、これいくら?」


 店の奥には、ギョロリと目を剥いた小柄なおばあさんがちょこんと座っていた。ここの店主である。

 眉間には深い皺が刻まれたまま、微動だにせず金額を告げる。

 イソマツは言われた通りに五十円を出して、謎のアイテムを購入した。

 早速開けてみる。

 中からは、何の変哲もないホイッスルが出てきた。

 それと、一枚の紙片。そこには手書きのような筆致で、こうかかれていた。


 フクト、トリツキマス。


 現世はそれを見るなり眉をひそめた。


「取り付くって、何がなのだ?」


 イソマツはいたずらっぽい笑いを浮かべて「吹いてみようよ」と言った。


「やめなって! なんか気持ち悪いよ」


 ヒュウウウ――


 普通のホイッスルの音だった。


「なんだ、これだけ?」


 イソマツはがっかりしたような声色でそう言った。


「それより、かき氷食べたいのだ。さっきからのどが渇いたぞ」


 三人は店主にメロン味二つとオレンジ味一つを注文し、入り口に設置されたペンキのはげたベンチに腰かけた。

 蝉の鳴き声が三人の耳を刺激する。

 店主がお盆に、かき氷の器を乗せてこっちへやってきた。

 だが三人はそれを見るなり、「おや?」と思った。


 お盆のうえには、四つのかき氷。注文した憶えのないイチゴのかき氷が乗せてあったのである。


「一個多いよ? おばちゃーん」


 イソマツが声をあげる。

 だが店主は無反応で、背を見せたまま店の奥へ戻ってしまった。


「サービスかの……? でも、これでは取り合いになりかねんと思うのだが……」

「――ねえ」


 桐野が深刻そうな声で、はばかるように言った。


「まさか、さっきの笛……」


 三人は黙って顔を見合わせる。

 各々のかき氷を、頭が痛くなるのも構わず急いでたいらげた。

 そしてイチゴのかき氷には手を出さず、逃げるようにして「いけだや」の前から走り去った。

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