駄菓子屋と謎の笛〈2015年7月〉
「ねえ、これなんだろ?」
イソマツが、黄ばんだビニールパックで包装された商品を取り上げて言った。表面には、ところどころかすれた明朝体で「マネキブエ」と印字されてあった。
「マネキブエ……? 何を招くのだ?」
「今どき、バーコードがないなんて……」
現世と桐野は、訝るような目でそれを見る。
三人がいるのは「駄菓子・いけだや」である。
ここで売っている商品は、魔法の駄菓子と呼ばれるもので、ほとんどに何らかの不思議な力が込められているのだ。
例えば、砕けると七色の音が響き渡る「萬音チョコ」。
袋を開けるとぐにゃぐにゃと這い回る、ミミズのような形の「応声虫グミ」。
スイッチを押すとすすり泣く声(十分の一の確率で耳をつんざく悲鳴)を上げる、笑い袋に似た「バンシーの嘆き袋」。
ごろごろ回って破裂する、でっかいネズミ花火のような「爆発! 火炎車」。
口に加えると一回限りで、火遁の術や水遁の術などの簡単な超能力が使えるようになる「忍者の巻物シリーズ」などなどが定番である。
「買ってみればわかるよ。おばちゃーん、これいくら?」
店の奥には、ギョロリと目を剥いた小柄なおばあさんがちょこんと座っていた。ここの店主である。
眉間には深い皺が刻まれたまま、微動だにせず金額を告げる。
イソマツは言われた通りに五十円を出して、謎のアイテムを購入した。
早速開けてみる。
中からは、何の変哲もないホイッスルが出てきた。
それと、一枚の紙片。そこには手書きのような筆致で、こうかかれていた。
フクト、トリツキマス。
現世はそれを見るなり眉をひそめた。
「取り付くって、何がなのだ?」
イソマツはいたずらっぽい笑いを浮かべて「吹いてみようよ」と言った。
「やめなって! なんか気持ち悪いよ」
ヒュウウウ――
普通のホイッスルの音だった。
「なんだ、これだけ?」
イソマツはがっかりしたような声色でそう言った。
「それより、かき氷食べたいのだ。さっきからのどが渇いたぞ」
三人は店主にメロン味二つとオレンジ味一つを注文し、入り口に設置されたペンキのはげたベンチに腰かけた。
蝉の鳴き声が三人の耳を刺激する。
店主がお盆に、かき氷の器を乗せてこっちへやってきた。
だが三人はそれを見るなり、「おや?」と思った。
お盆のうえには、四つのかき氷。注文した憶えのないイチゴのかき氷が乗せてあったのである。
「一個多いよ? おばちゃーん」
イソマツが声をあげる。
だが店主は無反応で、背を見せたまま店の奥へ戻ってしまった。
「サービスかの……? でも、これでは取り合いになりかねんと思うのだが……」
「――ねえ」
桐野が深刻そうな声で、はばかるように言った。
「まさか、さっきの笛……」
三人は黙って顔を見合わせる。
各々のかき氷を、頭が痛くなるのも構わず急いでたいらげた。
そしてイチゴのかき氷には手を出さず、逃げるようにして「いけだや」の前から走り去った。