表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フェアリーリング・ダイアリーズ  作者: Cigale
その他の日々
15/16

おれは満月の夜がきらいだ〈1996年9月〉

 おれは満月の夜がきらいだ。


 普段夜ふかしに甘い母さんも、月が満月のときだけは「早く寝なさい」と言う。一度はそれで、お祭りにもつれていってくれなかった。

 だからおれは、満月の夜がきらいだ。


 ある日の夕方。おれはいつも一緒に帰る平祐(へいすけ)に、そのことを言った。

 そうしたらアイツは、「じゃあさ、維弦(いづる)。次の満月の夜、こっそり家を抜け出しておいでよ」と、ランドセルをカタカタ揺らしながら言った。


 次の満月の夜。

 おれは平祐に言われた通り、窓を開けて外へ出た。

 約束の場所へ向かうため、海岸通りをひたすら走る。夜の潮風が心地いい。冬じゃなくて良かった、と思った。

 平祐からは「オレと会うまでに月は見ないで」と言われていたので、おれはそれを守った。

 戦前に使われていた造船所の廃墟が見えてきた。約束の場所はその下の浜辺だ。

 小さな影が立っていた。平祐だった。


「維弦、海を見て」


 墨汁のような夜の海に、ぽっかりと月が浮かんでいる。

 ゆらり。

 その時、海の上の月が揺らいで、割れた。

 海を割って、黒い影がせりあがってきて、こっちへ迫ってくる。

 ――だけど、おれはそれどころじゃなかった。

 心臓が高鳴って止まらなかった。いま見るべきは明らかにおれたちに迫る何かなのだが、おれは月を見続けていた。身体がすごく、ざわざわとする。


 ……やがて、何もかもがわからなくなった。


 憶えていたのは、すぐ近くで鳴りひびく犬の遠吠えだけだった。


 ……

 …………

 ………………


 気がついたら、おれは自宅の寝室で寝ていた。何故か涙目の母さんに、「二度とこんなことはしないで」と怒られた。学校で平祐に会うと、頭にたんこぶがいっぱいできていた。


 おれはやっぱり、満月の夜がきらいだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ