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フェアリーリング・ダイアリーズ  作者: Cigale
現世・桐野・イソマツ(2014-2017)
10/16

夕雲の巨人 〈2015年8月〉

 暑い夏の夕暮れのときの出来事だったのだ。


「おお!? 隠水(こもりず)の森の向こうに山が見えるぞ! あんな山は知らんぞ!?」


 現世は驚き、ついそう叫んでしまったのだ。

 坂の上から臨む、二つの山並み。日輪山(ひのわやま)月輪山つきのわやまの二つに挟まれた森の向こうに、別の山があったのだ。

 あり得ぬ。この先には海があるだけのはずだ。


「違うよ現世。あれは雲」


 そばで桐野が微笑んで言いおった。


「雲?」


 現世は、目を凝らしてよーく見た。しかし、どうしても山にしか見えなかったのだ。


「空に浮かんでいるのとはぜんぜんちがうぞ」

「夕日の影で、山みたいに見えるんだ。わたしも子どもの頃、そう勘違いしたよ」


 森の先の雲は色濃いだいだい色をしておって、本当に第三の山があるかのようであった。


「ほぉー……。雲というのは、形を変えて全然別のものに見えるのだな。不思議なものだの」

「そうだね。だから昔の人は、そんな雲を見て『山を超える巨人』なんて発想が生まれたのかもね」


 それまで黙っておったイソマツが、「『入道雲』なんて言葉があるくらいだしねェ」と口をはさんできよった。


「『ジャックと豆の樹』でも、雲の中に巨人が住んでおったな! 本当に住んでいたら面白いのにな!」


 現世はそういって、じっと雲を見る。


(――おや?)


 そこで現世は気づいた。

 一つの部分だけが飛び出ていて、人の影のように見えたのだ。

 よく見ると、他にも木々や家の屋根のように、様々な形に見えてきよった。


(……ほう! これは面白い! 本当に巨人が住んでいるかのようだ)


 そんなことを空想し始めた――そのときであった。


「……ほ?」


 雲の巨人が、手を振ったのだ。

 右腕にあたる部分を動かし、ゆっくりと二回。


「――桐野! 雲が、手を振ったのだ!」


 現世は叫んだ。


「なに言ってるの。そんなわけないでしょ」


 桐野は笑って言いよった。

 現世はもう一度、雲の方を見た。


 さっきと同じように、山並みのような雲が横に広がっているだけであった。


「日光の指し方や、風で動いてそう見えたのかも。想像力豊かだね、現世ちゃん」


 イソマツが、横でウインクをしながら言いよった。


「むー……」


 そうしていると桐野が「さ。夕飯の支度があるから、早く帰ろ」と現世の手を引っ張りよった。

 現世は釈然としないまま、帰りの道についたのである。


 ……たしかにそれは二人のいう通り、何かの見間違いだったのかも知れぬ。そう考えるのがフツーだ。

 けれども、今でもときおり現世は夢見てしまうのだ。

 あの雲が化けた山の中に、本当に巨人が住んでおるのではないかとな。

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