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大嫌いな君が死んでから。  作者: せろり


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1/1

前:RPG編



「君なんて、大っ嫌いだ」



 そう言ったのは何年前だったか。

 今でも鮮明に思い出せる君の顔。


「ずっと嫌だった。優しい振りをして、何度も君を助けたりして。その度にお礼を言って俺に信頼を寄せる君のこと、本当は鬱陶しいと思っていたよ」

「…………っ」


 君はある日突然現れた。

 何も特徴の無い、良くも悪くも何も取り柄の無い普通の女。秀でた才能も、目を引くような美しい容姿も、聖人のように非の打ち所がない性格でも何でもない。本当に、ただその辺にいそうな凡人だった。


 ……それなのに。



「……何故、君が選ばれた」


 特別な人の前にしか姿を現さないと言われている聖獣。

 それに選ばれた者は何でも欲しいものが手に入り、どんな願いも叶うと言う。それを知り、自分は幼い頃からずっと聖獣を探し求めてきた。その為にどんな辛酸も舐めて、苦しいことにも耐えてきた。何年も、何年も。

 けれど、俺は聖獣を手に入れられなかった。


「あの日から、嫌な予感はしてたんだ」


 聖獣を探し求めて数年間、俺はずっと旅をしていた。その日は雨も降っていないのに、雷が鳴る不思議な天候だった。……まるで何かを示唆するように。


 もしかしたらと期待して、俺はその雷の鳴る場所へ急いで向かった。そこに目的のものがあると思ったからだ。

 けれど辿り着いてみれば想定外。そこには聖獣ではなく、一人の女が倒れていた。


 女は見慣れぬ変な恰好をしており、ひどく怯えていた。聞けばよく分からない生き物に襲われたとか。何とか逃げてきたがここが何処だか分からず途方に暮れ、空腹に倒れていたところに俺が来たとのこと。


 俺は目当てのものでは無かったため内心落胆したが、話を聞いたところ女はここではないどこか違う場所から来たと言う。そんな与太話とても信じられなかったが、女の持ち物や知識量からその話に乗ってみようという気持ちが湧き上がり、最終的には共に山を下りる事にした。


 話せば話す程、この女はこの世界の人間ではないと確信していく。未知の存在。それは未だ手掛かりすら掴めていない聖獣が関わっている可能性がある。聖獣は人知の及ばない不思議な力を持つと言う。その力は世界の理を覆す力があると言われているほどだ。この摩訶不思議な現象も聖獣が関与しているかもしれない。

 俺は身寄りのない女の心配よりも、聖獣の手掛かりをやっと手に入れたたことを喜んだ。





 それから町に降りた後、俺は女を自分が所属している組織に連れて行った。するとそこのリーダーが俺に女の世話を焼くよう命じる。最初は面倒だと思ったが、よく考えれば傍にいた方が情報がすぐ手に入るし都合が良いと受け入れた。



「貴方の役に立ちたいんです」


 魔獣が存在するこの世界で、最低限自分の身を守る事は重要だ。毎日クタクタになるまで特訓を重ねる女に、リーダーが俺から少し休むように言って欲しいと頼まれたので、そのまま伝えたら女がそう答えた。何故女が努力することが俺の役に立つのだろうか。別に俺は女に情報以外、何も期待していない。一目で分かる筋肉の無い細腕に、平和ボケした隙だらけの雰囲気。どう見ても戦いからは縁遠い、守られる側の人間だ。


「その必要はないよ。俺が君を守るから」


 だから耳触りの良い言葉を適当に選んだ。



 それから時は経ち、彼女と出会ってから数か月後。女には特殊な力がある事が分かった。何か強い力だとか、奇跡を彷彿させるようなはっきりしたものではない。ただ、なんとなく動物に好かれやすい体質だということが判明した。

 普段は凶暴な魔獣も、彼女を前にすると大人しい猫のように腹を見せる。しかしそれは一定数の魔獣だけだ。全ての個体がそうではない。だから彼女自身も微妙な顔をしていた。しかしリーダーたちはそれを放っておかなかった。組織のことに興味が無かった俺は詳しいことは知らないが、組織の中には不満を持ち内乱を企んでいた者がいたのだとか。そこで都合よく表れた異世界人の特殊な力。物珍しい目を惹く力を大袈裟に誇示することで、彼らは彼女を特別な存在に仕立て上げた。それでも長年魔獣の脅威を知っている人々は彼女を最初異物と恐れたが、権力者の思惑を含むパフォーマンスにより、それは徐々に象徴を崇拝する動きへと変わっていった。


 皆に認められると、女はただの迷子から人々の希望へと立場が一変した。部屋が変わり食べる物も変わり、待遇も変わる。そういう扱いをされたら少しくらい驕るのが普通だと思うのだが、俺の予想とは裏腹に女の態度が変わることはなかった。そのため俺は彼女の護衛から外されるかもと思っていたが、本人の強い希望で引き続き傍にいることになった。


「知り合いが近くにいる方が安心出来ます」


 そう言って微笑む女に俺は内心笑った。好都合だ。流石に権力者に取り上げられれば、俺が彼女に近寄る術はない。聖獣への手掛かりを失う事になってしまう。正直リーダーたちが女を偶像化するのは予想外だったが、普段から人当たりの良く接していた自分を褒めた。



 それからはリーダーの要請で彼女は何度も旅に出て、行く先々で荒ぶる魔獣たちを鎮める任務を担った。戦闘技術が高く、彼女の信が厚い俺がついて行くのも当然で、その度に同行する。これは俺にとっても都合が良い。彼女が組織に囲い込まれた時はどうしたものかと思ったが、一緒に旅に出られれば各地を巡れるので聖獣の調査も捗る筈だ。

 実際期待通り、何度かそれらしき遺跡に遭遇したし、重要な書物を発見したりもした。そして魔獣が凶暴化する理由には聖獣が関わっていることも、旅が進むにつれ分かってきたのだ。




「……私について来るの、本当は嫌じゃないですか?」


 ある夜、焚火を囲んでいたら女が唐突に俺にそう聞いた。


「そんなこと少しも思ってないよ。むしろ楽しいし」


 その言葉は本心だった。確かに女のお守りは手間だが、ずっと探し求めていた聖獣の情報が、彼女と一緒だとどんどん集まってくる。ここ数年は何も進捗が無かったからこそ、今この状況は俺にとってとても嬉しい状況だった。


「そうですか。……それなら良かったです」



 そう柔らかい声色で言った彼女は、一体どんな表情をしていたのか。

 ……今では、もう思い出せない。






「危ない!!」

「――っ?!」


 ある日、温厚な彼女が大声を上げた。初めて聞いたその声色に驚いて振り向けば、赤が散る。


「なっ……! 何してるんだ!!」

「……っ」


 彼女の名声は何も良いことばかりではない。次第にその力を疎ましく思う者も出てきていた。ここ最近は特に襲われることもなかったので油断していたことが仇となり、彼女に怪我を負わせてしまう。

 だが、狙われたのは俺。恐らく邪魔な護衛を倒したところで彼女を誘拐し、その力を利用しようとしたのだろう。敵を認識した瞬間、俺は鍛え上げた身体能力で相手を倒し、急いで女の容体を確認する。


「何で、こんな馬鹿なことを!」


 槍が刺さった肩に応急処置を施し、急いで町へ向かう。意識はあるようで、今後こんな馬鹿な真似をしないよう釘を刺す。彼女が今でも足手纏いにならないよう、訓練を続けていることは知っている。けれど所詮付け焼刃だ。実践では役に立たない。それに何よりも、人の死を知らない彼女が他人に刃を突き立てる事は出来ないと分かっていた。言っても聞かないだろうから黙っているが、正直無駄な努力だと思っている。

 けれど今、その鍛えた俊敏な動きを活かさなくてもいいではないか。


「俺の方が丈夫だし、鍛えてる。君のような弱くて小さな体なんかじゃ、矢一本で致命傷になる事だってあるんだよ……!」

「……えへへ」

「は?!」


 馬を走らせながら小言を言う俺に対し、彼女は呑気に笑っていた。いつも友好的な関係を維持するために笑顔を心掛けているのだが、その時は無性に頭にきて思わず睨んでしまった。


「嬉しい。私の事、心配してくれるんですか?」


 俺の怒りなんて全然効いていない。それどころか女は頬を染めて嬉しそうに笑っている。反省していない様子に俺は更に怒鳴りそうになったが、そこで彼女が異様に冷や汗を掻いていることに気付いた。普段すり傷ですら悶絶している癖に、肩を貫通している怪我が痛くない筈がないだろう。……それでも俺に罪悪感を抱かせない様、必死に痛くない振りをしているのだと思い至る。


「……当たり前でしょ。君は国の宝なんだから。それにいつも守ってるじゃん」


 自分より弱い存在が懸命に虚勢を張っている。そんな彼女を見て、俺はそれ以上追及するのは止めた。


「……そうですね。ありがとうございます」

「…………」


 そう言ってそっと体を俺に預ける彼女に何も言えなくなった。

 本当は大義名分なんかどうでもいい。俺は聖獣への手掛かりを失いたくないだけだ。そのためなら体を張ってだって、この女を全力で守りきる。


 ――それなのに。

 何で、どうして。別に悪いだなんて思ってない。俺は俺の叶えたい夢の為に、彼女を利用すると決めたじゃないか。


 ……それなのに。今更罪悪感を感じるなんて、どうかしている。


「……って、大丈夫?!」

「うー……痛い。意識が飛びそうです……」

「寝るな! 馬上で気絶は本気で危ないから!!」


 思考が沈みかけた時、今にも意識を失いそうになっている彼女に気付いて焦る。つい怒鳴りながら医者の元まで走ったことは、懐かしい思い出だ。





「とうとうここまで来ましたね」

「うん」


 それからまた時間が経って、彼女は俺を全面的に信用するようになっていった。不安があれば一番に俺に相談するし、新事実が分かればまず俺に報告する。

 そのおかげで俺は情報を厳選し、リーダーたちに伝える内容を意図的に操っていた。聖獣に辿り着くのは俺だけでいい。


 長い長い旅の終わり、とうとう俺たちは聖獣の元へ辿り着く。

 伝承通り聖獣には世界を変える程の、何でも望みを叶える力があるらしい。


「これでお別れですね……」

「そうだね」


 女がしんみりと呟き、俺はそれに同意する。彼女は聖獣に、元居た世界に帰すよう願うらしい。


「この世界と……貴方とお別れするのは、やっぱり寂しいです」


 目的の場所へと向かいながら、女がポツポツと話す。

 しかし俺はそれに適当に相槌を打ちながら、内心歓喜に震えていた。


 ――とうとうこの時が来た! 聖獣に会うこの時が!!


 逸る気持ちを抑え、一歩一歩前へ進む。そしてとうとう辿り着いた、最果ての場所。






 ――そして、聖獣は俺じゃなくて、女を選んだ。



「どうして!!!!」


 長い間ずっと捜し続けた。そのために沢山の努力を重ね、時間を費やしてきた。

 ――それなのに、ぽっと出の女に聖獣(俺の夢)を奪われた。

 

「何故俺じゃない! 何故その女なんだ! お前の何が特別なんだ!!」


 怒りで被っていた仮面を投げ捨てる。

 ずっと探していたのは俺なんだぞ。幼い頃からずっとずっと聖獣を求め続けてきた。たかが別の場所から来たという理由だけで、俺の欲しいものを手に入れるというのか。

 ――それが欲しくて、今まで俺がどれだけ苦労したと思ってる。


「……君なんて」


 ギリ、と両手を握りしめる。

 ずっと我慢していた言葉を口にした。



「君なんて、大っ嫌いだ」

「……っ」


 ひゅっと息を呑む音がしたが、構わず続ける。


「……ずっと嫌だった。優しい振りをして、何度も君を助けたりして。その度にお礼を言って俺に信頼を寄せる君のこと、本当は鬱陶しいと思っていたよ」

「…………どうして」


 ずっと隠していた心情を吐露する。赤子ですら知っているこの世界の常識を知らない人間のお守りにやりたくもない護衛任務、そしてそれを勘違いして赤面する女のご機嫌取り。

 そうまでして耐えた結果がこれ。ああ、やっていられない。


「何故、君が選ばれた」


 一通り不満を吐き出せば、まだ愚痴を言いたい気持ちはあるけれど、煮えたぎるような怒りは収まった。下げていた視線を上げる。


「……っ」


 するとそこには必死に泣くのを我慢している女の姿があった。それを見て、何かが揺らぎそうになる。けれどそれは俺の意地が許さなかった。


「……あの日から、嫌な予感はしてたんだ」


 俺の子供の頃からの夢。まるで何年も欲しかったものを横から搔っ攫われた気分だ。たかが涙一つで彼女を許したら、今まで努力していた俺が馬鹿みたいじゃないか。


「君と出会った日」


 憎たらしい気持ちと何か別の気持ちがせめぎ合う。そんな俺の前で、反論せずにただ嗚咽を漏らさないように必死に唇を噛む彼女。その姿は何かを彷彿させる。……あれはいつの事だっけ。


「……特別な存在は、いとも簡単に凡人を飛び越える」


 ああ、俺が初めて彼女の前で怪我をした時か。


「どれだけ欲しいと願い血の滲むような努力をしても、涼しい顔で搔っ攫って行くんだ」


 自分のせいで俺が傷を負ったと自分を責めて。でも泣くのは違うといって必死に涙を我慢していたな。

 ……それからだっけ。彼女が毎日日が暮れるまで無駄な訓練をするようになったのは。

 生まれ故郷で迫害されていた俺にとって、今更傷が増えたって……どうでもいいのに。


「……っ、レグルス!」

「同情なんか要らない」


 なんとなく、それなりに時間を共にした彼女が次にいう言葉が分かって遮った。聞きたくない。

 ……君だって、どんなに言葉を飾ったって……結局俺を置いてどこかに去ってしまうんだろ。


「俺じゃない誰かを選んだ聖獣なんて、探し求めていたモノじゃない」


 欲しかったのは完璧で完全な永遠。俺以外を選ぶ獣なんて紛い物だ。

 俺が手に入れたかったのは。俺が求めたものは……もっと。


「……さっさと元の世界でも、どこへでも行ってしまえ」

「待って! レグルス!!」


 俺のものではなくなった聖獣と、俺の夢を奪った彼女をそれ以上見たくなくて、俺はその場から立ち去る。何かを叫ぶ心の声は聞かないで、俺はプライドを選択した。







「……な、んで。こんな所に」


 あれから一年後、俺は自由気ままに旅を続けていた。勿論新しい聖獣を探すためだ。聖獣は一匹だけだと誰が決めた。種は繁殖する。もしかしたら他にも個体がいるかもしれないと考えたからだ。


 一人旅は気楽でいい。自由に動けるし、守らなければならないお荷物がいなければ自分が怪我を負わないよう気を配る必要もない。騒がしい会話も付き合わなくていいし、毎晩遅くまで続く訓練にハラハラしなくてもよくなった。

……未だ二人分作ってしまう食事も、ふと誰もいない空間に話しかけてしまう癖も、ただ長年の後遺症なだけだ。


 そうやって快適な一人旅をしながら各地を周り続けていたある日、樹海の奥深くを訪れた。近くの住人も立ち寄らないような、そんな場所。ここならまだ見つかっていない手つかずの遺跡や伝承が残っているかと思ったからだ。だが、そこには懐かしい先客がいた。


 ――代わり果てた姿、で。



「……な、ぜ。君が……こんな、所に……いる、の……?」


 思いもしなかった、突然の再会に全身が震える。


「……元の、世界に……戻ったんでしょ?」

「…………」


 目の前の光景が信じがたくて。現実が受け入れられなくて。

 恐る恐るその女の首の裏に腕を差し込み、体を起こした。


「聖獣は、どうしたの……」

「…………」


 周りを見渡すもここにいるのは彼女だけ。辺りに、あの日感じた聖獣特有の気圧されるような気配は微塵も感じない。


「……なん、で」

「…………」


 ピクリとも動かない彼女の頬に触れようとして、触れられない。目の前の現実を脳が拒否しているのか、激しい頭痛が自分を襲い手が震える。


「どうして……!!」


 疑問を投げかけるが、彼女は答えなかった。


「君は特別な人間なんだろう?! 稀有な力を持ち、魔獣を鎮め、聖獣に選ばれた存在だ!!」


 自分を無視する彼女に届くよう、大声で叫んだ。それは慟哭に近かったかもしれない。近くの木々に止まっていた鳥たちが、驚いて一斉に飛び立つ。それほど大きな声だったのに、彼女は一切返事を返さない。


「……答えて、……っ俺を見てよ!!」


 ただその瞳は濁り、渇いた空を映すだけ。

 ――命の灯がとうに消えた彼女は返答はおろか、二度とレグルスに視線を移すことはない。


 ポタポタと自分の目から零れ落ちる雫が彼女の頬に落ちて唇へ伝う。けれど彼女が反応することは無かった。


「――――っっ!!!!」



 何を叫んだのか、それとも言葉にならなかったのか。その後どうなったのかは分からない。


 ……ただ視界が暗転し真っ暗になって、どこか遠くで聖獣の鳴き声を聞いた気がした。






 〜 GAME OVER 〜



主人公と旅をする仲間が途中で敵だったと判明するパターンのゲーム世界。

そして主人公がエンディングを迎えずに冒険し続けた結果、途中でゲームオーバーになってしまったら、という話。

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