6.5
こうしてレティスさんの護衛をしつつ、本来の目的である【知識】の進化を目指し1ヶ月ほどが経った。
色々とあったが、無事に【知識】は【情報】へと進化して次のステップへ行くことになった。
その前に、1ヶ月の間にあったハイライトをいくつかお見せしようと思う。
『勇者という存在への信頼感がおかしい姫様』
あの食事の後、まだ泊まる宿を決めていなかった俺は話の流れでレティスさんと同じ宿に泊まることになったのだが……。
「ユウ様、同じ部屋で大丈夫ですよね」
「いや、大丈夫じゃないでしょう!?俺男ですよ!?」
「私を守ってくださると言った〖勇者様〗が悪いことを起こす訳がないという信頼ですよ」
〖勇者様〗のところはエルフ語で誤魔化してくれたので約束は守ってくれるらしいが、勇者という肩書きに信頼を置きすぎじゃないか?
確かに何か事を起こそうなんて考えは微塵もないとは言え、男女が同じ部屋で寝るのはどうなんだ?
「それに寝ている間でも襲われたことがあるので、一緒にいてくれた方が心強いのですが……やはりご迷惑でしょうか?」
「うーん、それなら仕方ありませんね」
「ありがとうございます!ではそのように手配しますね」
レティスさんの貞操観念も心配だが、街の治安も心配になってきた。
ちゃんと寝れる日はいくつあるんだろう。
と、心配していたものの、複数人というのはそれだけで手が出しにくいようで最後まで襲撃されることはなかった。
『勇者の有用性を見透かされる』
ある日の夕食帰りのことだった、奴隷商人の手下に襲われた。
細い路地に逃げ道がないよう囲まれてしまいピンチ。
「もう逃げ場はないぞ!観念しろ!」
〖ユウ様、風魔法を使って目眩ましをするのでその間に逃げましょう……!〗
〖いや、その必要はありませんよ〗
「何喋ってんだ!?いけ!やっちまえ!」
今にも飛びかかってきそうなところを、素早くレティスさんを俵担ぎして【脱兎】を使う。
その瞬間、屋根に届くほど飛び上がる。
そのまま屋根の上に乗り、ぴょんぴょんと屋根から屋根へ移り逃げた。
「びっくりしましたが、新感覚でちょっと楽しかったです。あれは身体強化系のスキルですか?」
「いえ、【脱兎】です」
「【脱兎】!?人が習得している事象初めて知りました!これも勇者だからでしょうか?」
「【脱兎】って覚えられないんですか?」
「基本的に魔物しか習得できないとされていますね。まあ知能ある存在が【脱兎】を使えるようになったら犯罪し放題ですから」
レティスさんの発言に、それもそうかと目から鱗が出た。
もしかしたら勇者はどんなスキルでも覚えられる素質があるのかもしれない。
それが広く知られるとますます勇者の立場が危うくなるな……このことは他の人にはバレないように気を付けないとならないと身が引き締まる気持ちだ。
「やはり護衛を頼んで正解でしたね」
レティスさんのにこやかな笑顔に少し心が傷んだ。
最後にこれはどうでもいいことだけどある日、敬語疲れるからやめませんか?と聞いたら受け入れてもらえた。