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「ご存知の通りエルフは鎖国しており、他の種族に対して排他的です。人間の世界ではエルフ語の書籍は出回っていません。ですから、エルフ語は放浪のエルフに頼んで習うしかありません」
「それで残る可能性は勇者のみになった訳か……」
「そういうことです」
重たい沈黙が訪れる。
勇者というだけで利用価値はとてつもない。
これから何を言われるか気が気じゃない。
「さて、そんな勇者様にこのことを公にしない代わりにお願いごとがあります」
「何でしょう?」
「私は現エルフ族長の娘です。エルフの閉鎖的な現状をどうにかしたくて探求者を目指していますが、周りには理解を得られず連れ戻そうとする追手があります。それにエルフというだけで狙ってくる悪人もいます。それらから守って欲しいのです。勇者様にならできるでしょう?」
名前を聞いた瞬間に嫌な予感がしたのはこれだったのかと気付く。
どこかのシーンで、エルフの族長の娘が家出中で見付け次第捕まえろっていうシーンがあったっけな。
「事情はよくわかりました。しかし、勇者という存在を過大評価しすぎていますね。現在勇者として名が知れ渡っている、サースモア王国のヒナタとアルマ帝国のレイナは環境に恵まれた結果名を轟かせるほどの強さになりました。しかし、他の勇者は様々な理由で人知れず生まれては消えています。俺もその名も無き勇者のひとりであり、あなたを守りきれるという約束はできません」
「さすが探求者を目指す勇者様、博識ですね。確実性はなくても大丈夫です、ひとりより誰か一緒にいるだけでも牽制になりますから。それに探求者を目指すという目的は同じでしょう?」
「それなら……承りましょうか」
「ありがとうございます!それではこれからよろしくお願いいたしますね、ユウ様」
早々に面倒事に巻き込まれてしまって憂鬱だが、彼女の言う通り【全智】を目指すためにメリットもあるから前向きに考えよう。
「こちらこそ、よろしくお願いいたします」
固い握手を交わす。
そしてちょうど良いタイミングで注文していた料理が届く。
「ごゆっくりどうぞ」
食欲には逆らえない、いい匂いと美味しそうな料理を前にお腹が鳴る。
「ふふ、それではいただきましょうか」
「そうですね、お腹が空いてしまいました」
「「いただきます!」」