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案内されたのはさっきの場所からすぐ近くの趣きがある食堂だった。
案内されて店の一番隅のテーブル席に座る。
「自己紹介がまだでしたね……私はレティス・エヴィンと申します。あなたは?」
一瞬関わってはいけないような、そんな気配を察知したが一旦気のせいとする。
「俺はユウと申します。放浪の身故に家名はありません」
フルネームを言おうものならこの世界の住人でないことがバレてしまうので、名字は捨てたことにする。
自分の名前が異世界にもありそうな名前で良かったとほっとする。
「ユウ様、改めましてこの度は助けていただきありがとうございました。そして、恩人なのに剣先を向けてしまったこと大変申し訳ありませんでした」
「いやいや、俺も余計なお世話だったみたいで手を出してしまい申し訳ありません」
「そんなことはありません!あのしつこさにはうんざりしていたので、間に入ってくれて助かりました!」
「それなら良かったです」
どうしてあんな状況になっていたのか、気になるところだけども巻き込まれるのは勘弁だから深くは聞かない。
きっとレティスさんも踏み込まれたくはないだろう。
「ところで、ユウ様はなぜ探求者に?」
探求者とは【全智】を求める者のことを指す。
途方もない勉強量が必要とされているため、寿命の短い種族には縁遠いものとされている。
それなのに目指そうとしている俺をどう思っているのかは推し量れないが、レティスさんは興味深そうにこちらをじっと見つめてくる。
「とにかくこの世界のことを知りたいからですかね」
「良い心がけですね。私もエルフは自分の世界に引きこもってばかりでなく、もっと別の景色を見るべきだと思い探求者になろうと思いました。私たち似た者同士ですね、勇者様?」
「……ええと、何のことでしょうか?」
一気に冷や汗が出る……俺はどこで間違えた?
優しく微笑む顔が一転、こちらを値踏みしているかのような顔に見えてくる。
「今の環境では人間がその若さでエルフ語を独学で習得するのは不可能ですから。嘘をつくなら何を言っているか分からないと、とぼけるべきでしたね?」
「なるほど。後学のためにも、なぜ独学ができないのか聞いても?」
「否定なさらないんですね……ではお答えしましょう」