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こんなハズじゃなかった――
下卑た男たちに好き放題された身体は、もう私のいうことをきいてくれない。
「さあて、そろそろ終わりにするか。ま、恨むなら無知で無力だった自分を恨んでくれや」
男たちのリーダーらしき人物のその気だるげな言葉を皮切りに、刃物を持った男たちは動き出した。
そして、私の意識は、言葉にできない痛みと熱に包まれながら、途切れた。
「山中萌編これにておしまい、か……相変わらずえげつない終わりかたするなあ」
とりとめのない感想をぼやきながら、スマホを机に置いて布団にダイブする
就活に失敗し敷かれた道を外れた俺は日雇いバイトでその日暮らし。
そんな半分ニート生活の中であまりある時間を彩ってくれているもののひとつがウェブ小説だ。
最近のお気に入りは、魔王が魔物を従え人間の領域を脅かしているベタな異世界へ地球に住む人が勇者として異世界転移する小説だ。
あらすじだけ言うと普遍的だが、この小説の勇者は異世界転生転移ものでおなじみのスキル習得とかはそういう強化はあっても主人公補正なんてものはなく簡単に死ぬ。
そして死ねば別の人が新たに勇者として召喚されてその間もずっと世界の時間は進んでいるという、【勇者】ですら代わりがいる現実的な無慈悲さ。
さらに現実の時間で1ヶ月に1回新しい勇者が呼ばれることで視点が追加され、まだ生きている主人公の視点と並行して1日1話更新とボリュームたっぷりなところが個人的な好きポイントだ。
「でもリアリティー追及しすぎてるからか全然話進まないな……魔王討伐とかできるのか?魔王そっちのけで人間同士の戦争が始まりそうだし」
「分かります…なんかもうこのまま世界滅びてもいいかなって気持ちにもなってきますよね……」
「いや、ハッピーエンドを見たいに決まって……!?」
幻聴に返答しながら瞬きをした瞬間、足場は石畳で天井も壁もない真っ黒な空間が広がっている……そんなへんてこな場所に立っていた。
そして目の前にはスポットライトに照らされたかのようにぽつりと浮かび上がる玉座があり、そこへ優雅に座っている金髪碧眼の女性がこちらをじっと見つめている。
あまりにも現実からかけ離れた突然の出来事に思考がついていけず、とりあえず頬をつねってみる……痛い。
痛みを感じるということは現実なのだろう、なんて物語でよくあるけれど本当に夢では痛みを感じないのか?
実は夢でも痛みは感じるんじゃないかなどと否定したくなるほど、目の前の光景が信じられない。
「初めまして識崎結さん、私はイニティウムの神です。突然で申し訳ありませんが、物語のハッピーエンドを強く望む読者であるあなたの力を貸して欲しいのです。世界の知識があるあなたではればあるいはと……」
混乱している俺をよそに、女性はそう言うと玉座から立ち上がって柔和な笑みを浮かべながらぺこりとお辞儀をした。
「それでは改めて、イニティウムへようこそ結さん」
女性は天使のような優しい微笑みを浮かべながら手を差し伸べてきた。