紫陽花 プロローグ
紫陽花 プロローグ
あの人と出会ったのは
随分と前のことで
私の働いていた園芸店に
2人でよく来ていた
主にお花や苗を買うのは彼女の方で
あの人は付き添ってきている
そんな感じだった
たまたま頼まれたブーケを作ったのが
気に入られて、それからずっとブーケは
ご指名だし私を見つけると呼ばれるから
専任みたいになっていた
頑張って働いて
ちょっとしたカフェスペースもある小さな小さなお店を構えた
そこにも相変わらずお花を頼みに彼女は
来ていてお得意さんになっていた
ただ、あの人はその頃一緒には来なくなっていた
前の店は郊外で車でしか来られないような所だったからかなと、さして気にしてはいなかった
ある日
注文頂いた花をいつまで経っても取りに来なかった日があって、もう店も閉めようかなと
店仕舞いの支度をしていると
大粒の雨が降ってきて慌てて外の花たちを
中に入れてむせ返るほどの青々とした香りが
小さな店を包んでいた
窓の外は雨がカーテンで幕引きをした様に
景色をなにも見せてくれなくて
ただ上から下に向かって流れる線を
ぼぅっと見つめていた
その大量の線が流れるその先に
少しだけ影が震えて
段々と近付いてきていた
鞄を傘にした
あの人がかけてきて
雨の匂いと共に店の瑞々しい香りを解き放った