第1話 追放
……『吸収』?
そんなギフトは聴いたことがない。どうしたものかとアムルさんを見るが、彼も困惑している。
貴族の人たちを見ると、明らかにこちらを侮辱するような視線を向けていた。お父様は額に青筋をたてている。『剣聖』のギフトが授けられなかったためだろう。
『剣聖』のギフトを持つ者だけが領主に成れる。
これは初代当主様がグレード家の創設と共に作った家訓だ。お父様は初代当主様を崇敬していて、ことある事にこの家訓のことを僕に話した。
『ギフト』はその人に相応しいものが選ばれると言われている。だから、僕は剣の腕を鍛えるように言われてきた。来る日も来る日も暇があれば剣の練習ばかりで、家族として一緒に食事を摂ったり、遊んだりすることは許されなかった。その御蔭か、僕の剣の腕はみるみる内に上達していった。お父様はきっと、長男の僕を領主にしたかったのだろう。お父様は社交界や舞踏会で自分はきっと長男を領主にすると豪語していた。
しかし、僕は『剣聖』のギフトを得られず、得られたのは剣に関係のない謎のギフト。もっとも、僕が剣に関係するギフト、『剣術』や『快刀』のギフトを授けられたとして、僕は領主になれなかっただろう。
家訓で領主に成れると書かれているのは『剣聖』のギフトを持つ者だけだからだ。
「……ノイアス、話がある」
どう転んでも嬉しい内容ではないだろう。
◆◆◆◆◆
「ノイアス、貴様は今日からベルティア男爵家の婿養子だ。今後はノイアス・フォン・ベルティアを名乗り、グレードの姓は二度と名乗るな」
……勘当されてしまった。お父様、いや、ドルヴァ・フォン・グレード卿は僕のことを息子とも思っていなかったようだ。
「それと馬車を用意した。ベルティア領から逃げ出して、戻ろうだなんてくれぐれも考えるなよ?今のお前はノイアス・フォン・ベルティアだ。お前がここに戻ったら、領主命令で断頭を実行する」
どうやら本当に僕のことが嫌いになったらしい。流石に領主命令で処刑なんてできないだろうが、永久追放くらいは可能かもしれない。
「退出を許可する。……良くて3日、悪ければすぐにでも、か」
ドルヴァ卿は何やら不穏なことを呟き、顔も見ずに僕を追い出した。
◆◆◆◆◆
元使用人が運転してくれていた馬車がベルティア領に着いた。
「ここから先がベルティア領です。どうかご無事で」
思ってもないことを言っているのは顔を見れば分かる。僕は短くお礼を言った後、すぐに周りを見渡した。
……森ばかりだな。ここに来る途中で馬の走る道が獣道になった時点で薄々勘づいていたが、やはりベルティア領は相当な辺境、いや、魔境のようだ。
途中で出くわしたスライムを倉庫から失敬した剣で切り倒しながら歩いていると、遂に領主の館みたいな建物にたどり着いた。蔓が絡みつき、ところどころに苔の生えたその舘は、近くにあった看板でようやくベルティア領主の居城であると分かった。
……本当にここに人が住んでいるのか?昔は人が住んでいたけど風化して心霊スポットになった廃墟とかじゃないのか?壁から変な汁出てるけど大丈夫なのか?とか色々思うことはあったが、意を決してドアを叩いてみた。こんな亡霊の溜まり場みたいな場所にも一応の礼儀を示すのが貴族である。決してドアをこじ開けようとしたら予想に反して鍵がかかっていたわけではない。
「入りなさい」
すると中からちゃんと声がした。驚きである。