プロローグ
張り詰めた空気が教会の中を漂う。
祭服を身にまとった神官のアムルさんは、緊張した面持ちで台の上の水晶玉を眺めている。
神の像を前に、中央には小さな台座があり、その上に置かれた水晶玉が僅かに光を放つ。
水晶玉を覆うように空中に浮いているのは一つのオーブで、大人の顔よりも二回りほど大きい。
お父様の視線はそのオーブに釘付けだ。
僕はノイアス。グレード子爵家の一人息子だ。
僕は今、『鑑定の儀』を受けている。
僕の住んでいる国では全ての人が一生に一度、十歳になるととある能力を授けられる。
この能力は『ギフト』と呼ばれていて、その内容は十人十色。
例えば『強化』のギフトを授けられた人は、力がとても強くなって、普通の人は持ち上げられないような大きな岩を持ち上げたり、木を素手で倒せるようになる。
『弓術』のギフトを授けられた人は、弓の扱いがとても上手になり、村を跨いだ先の的にも矢を当てられるほどの射手になる。
料理の達人になる『ギフト』もあるし、天候を予知できる『ギフト』もある。
僕の領地は初代当主様の『剣聖』のギフトで発展してきた歴史がある。
だから、お父様は僕が『剣聖』のギフトを授かることを期待している。
『鑑定の儀』では、僕がどんな『ギフト』を授かったのかが判明する。お父様の顔が先程からこわばっているのはそのためだろう。
「ノイアス・フォン・グレード殿」
アムルさんに呼ばれた。僕が考え事をしている間に鑑定が終わったようだ。
「貴殿の鑑定結果を申し伝える。貴殿の『ギフト』は……」
ゴクリ、と生唾を飲み込む音が聞こえる。お父様からだ。
「『ギフト』は……」
心なしか、アムルさんの顔が青い。何故だろうか。
「……『吸収』」
瞬間、集まった貴族たちの間でざわめきが広がった。