「第四話」乱入
血を滴らせた爪が、ヴィーザルの華奢な身体を吹き飛ばすべく迫る。だが彼女は落ち着いてそれを避け、お返しと言わんばかりに軽い斬撃を見舞っていく。
『────!!!』
苛立つような咆哮が響き渡り、さらにオーガは攻撃を繰り返す。それでもヴィーザルに当たることは無く、攻撃の後に生じる隙に確実な反撃を入れ込まれていた。まるで掌の上で踊る人形、俗に言う人形劇とやらに近かった。まぁ俺は見たことが無いのだが。
『────!! ──!!!!!!!!』
疲弊していくオーガ。対してヴィーザルは落ち着いていた。後ろへ避け、後ろへ転がり……そして切り込む。──だが、それを繰り返していくうちに、やがて場外へと迫っていく。
「……ッ!」
本人もそれに気づいたのか、無理にその場で踏みとどまる。
その瞬間、完璧だった間合いは全て崩された。
『───!!!』
「しまっ……うぁぁぁああっ!」
横薙ぎの一撃が、ヴィーザルに直撃する。ギリギリ防御が間に合ったものの、それでも彼女は蠢くだけで立ち上がろうとしなかった。──そんな彼女を、容赦なくオーガが掴む。
「がっ……あっ、ごほぁっ……」
大顎を開ける。本能の赴くままに、敗者を喰らおうとしている。藻掻き、暴れ、散々抵抗してから彼は気づくのだ、自分がもう終わりだということ……誰も助けてくれないということに。──向けられる、半ば諦めたような目。
「……クソっ、タレッ!」
怒りに混じった食欲が、俺の右手首に集約する。走り出す頃には大ぶりの刃が形成され、そのまま俺は結界の中に飛び込んでいく。──無論、オーガはそんな俺を殺そうとしてきた。
「──ヌゥっ!」
身を捻り、空中での回避。同時に見様見真似の反撃。大ぶりの刃をオーガの豪腕に突き刺し、そのまま全体重をかけて引き裂いていく。ズブズブと入っていく刃はやがてオーガの首へと差し掛かり、丁度見つめ合うような位置に俺はいた。
「じゃあな、バケモン!」
断末魔を上げることさえ許さず、俺は空中でぐるりと一回転。錐揉み状に回転しながら、首に刃が吸い込まれていく……ずどん。そんな感触が伝わる頃には、俺と、オーガの首が同時に地面に落ちていた。
結界内に血の雨が降る。両断された首から、鮮血が吹き荒れる。思わず舐めると甘く、しょっぱく……そう思ったところで、俺は慌てて吐き出した。──結界の外から、無数の視線が突き刺さる。
「……えっと」
取り敢えず、確認しなければならない。
「俺、不合格すか?」
唖然とするような、眉を引きつらせながらこちらを見る試験監督。
なぜだか分からないが、その表情は笑っているようにも見えた。
「……面白ぇな、お前」