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神喰いのフェンリル  作者: キリン
【第一章】前編 魔物喰らいの少年
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「第三話」試験開始

「試験の内容はシンプルだ。これから出てくる魔物を倒したやつが合格……倒せなかったり死んだら不合格だ」


 だよな、と。俺は心の中で納得する。

 さっきから魔物臭くて敵わない……もしかしたら、と思っていたら大当たり。できれば連続で命の奪い合いはしたくなかったのだが、まぁこればかりはしょうがない。


「魔物は結界の中に入っているため、こっち側に来ることは絶対にない。一人ずつ中に入ってやり合ってもらうわけだが、魔物を倒さないまま結界から出たりするのは即失格だ。──んじゃ、ご対面と行こうか」


 そう言うと、試験監督の背後に青い円が描かれる。それは立体的に広がっていき、半球のような形を作っていった。──同時に、鼻の奥を刺す嫌な匂いも雪崩込んで来る。突然開いた床から現れたのは、緑色の肌と二本の角を持った異形だった。


「こいつは騎士団が捕獲したオーガだ。まぁ安心しろ、薬やらなんやらで弱体化させているため通常よりは弱い……お前らに倒せない相手ってわけじゃあ──」

「質問があります!」


 話を遮るように、人混みの中から手が上がる。そこにいたのは、赤い短髪の女性だった。


「……名乗れ」

「ヴィーザルと申します」

「ヴィーザル、質問とは何だ?」

「魔物が一匹しかいませんが、現時点での入団希望者は十人以上います。これでは、順番によっては不公平が生じてしまいます」

「ああ、それについては──」


 試験監督が言いかけたところで、彼女の横を誰かが横切った。大きな剣を背負った、これまた屈強な肉体を持つ大男だった。


「んなもん決まってんだろ……早いモン勝ちだ! あいつをぶっ殺せば合格なんだろ!?」

「……ああ、一番手をやってくれるのか?」

「ああ、悪いな腰抜け共! 恨むなら、この俺と同じ日に受けようとしたことを恨んでくれや!」


 自信満々のまま、男は魔物が待つ結界に入っていく。それを不満そうな顔で、ヴィーザルは睨みつけていた。試験監督も何も言わない……まぁなんとも、命をなんだと思っているのだろうか?


「ヴィーザル、だっけ?」

「……? 君は?」

「俺、エルマ。ヴィーザル、お前が心配してることだけどさ……多分、大丈夫だと思うぜ? あのおっさんには申し訳ねぇけど」

「何を、言って──」


 言いかけた、刹那。


「ぎゃぁぁぁあああああああああああああああああああ!!!!!!!!」


 全員の視線が、結界内に向けられる。そこにはなんとも目を背けたくなるような現実があった……オーガとやらに生きたまま貪られる、先程の男。大剣は叩き折られ、周囲には鮮血をぶちまけている。苦しげに顔をひきつらせた挙げ句、男は糸が切れたかのように力を無くした。


「まぁ、こんな感じで一筋縄じゃあいかねぇんだが……おいおいどうした? 誰も来ねぇのか?」


 無理もない。あんなものを目の前で見せつけられれば、誰だって戦意を失う。狩猟で死体を見慣れている俺だって、家族を目の前で殺された時は頭がおかしくなりそうだった。


「だったら、全員不合格だ」

「……僕が行きます」


 隣から、金属が擦れる音が聞こえる。鞘から剣を抜き放ち、ヴィーザルが前へと進んでいく。その足も手も震えてはいるが、大丈夫だろうか?


(……ってか、これであいつが魔物倒しちゃったら俺合格できねぇじゃん!?)


 思わず声が出そうになるが、もう遅い。ヴィーザルは結界の前に立ち、深呼吸を始めてしまっている……あの覚悟を自分の都合で断つことは、俺にはできなかった。


「……うぉぉお!」


 荒々しい雄叫びとともに、ヴィーザルが結界の中に突っ込んでいく。それを迎え入れるかのように、オーガは古い獲物から新しい獲物に雄叫びを発した。





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