「第四十話」獣
乗り捨てた魔物は、凄まじい威力を以て突っ込んでいった。抉れた氷塊の粉塵や欠片、海水までもが派手に巻き上げられ、濃霧の如く視界を狭めた。
(……)
片膝を地面に突いた姿勢から、俺はゆっくりと立ち上がる。──直後、視界を遮っていた濃霧を突き破り、鋭い氷柱が無数に押し寄せてきた。
「やっぱ、そう簡単にはいかねぇよな……!」
初撃を避ける。地面が抉れ、足場がものの一瞬で劣悪な状態になる。
地上戦は駄目だ。俺は糸を氷塊に巻き付け、力づくで手繰り寄せる。瞬時の判断が命を拾ったのか、先程自分が立っていた足場に氷柱が一気に突き刺さる。串刺しとかそういうレベルの攻撃ではなく、単純な圧死を狙った攻撃だった。
一撃でも当たれば、ひき肉になることは明確。
だが、分かっていたとしても。それを避け続けることが難しいのは、馬鹿な俺でもよく分かる。ましてやその隙を掻い潜り、あいつに一撃を見舞わせることなんて……そんなの、どう考えても無理だ。
(クソっ、このままじゃ……!)
糸を手繰り寄せる、斬る、そしてまた放って手繰り寄せる。
この方法ではあまりにも遅すぎるし、隙がありすぎる。何か無いのか? 獣みたいに身軽で、この氷塊の山を潜り抜けて……あの野郎に一発ぶち込む方法は。
──獣。
(──あ)
その単語に、閃く。押し寄せる氷塊を睨みつけながら、俺は一発逆転の賭けに出ることにした。右腕だけではなく、左腕にも熱を流す。──集中しろ。一点集中ではなく、体の隅々にまで分散させるんだ!
(間に合え、間に合え……!)
迫る氷塊。
四方八方から押し寄せる氷の柱。
そのうちの一本の表面に、俺は拳を叩き込んだ。──正確には、結晶で覆われた五本の指を。
「っしゃぁ!」
拳を引っこ抜き、そのまま俺は氷柱の上を走る。凍った海面から生えてきたそれは、いずれもあいつの間合いから出てきている……つまり、この氷柱を辿っていけば、あいつの懐に潜り込める!
「チィッ!」
分かりやすく苦い顔をした真っ黒野郎。追加で数本の氷柱が海より生え、そのまま俺へと襲いかかる。前方に三本、右側に二本。加えて逃げ道を塞ぐかのように出てきた分厚い氷壁の猛攻。──だが、関係ない。
「しゃらくせぇ!!!」
向かってくる氷柱に、絶妙なタイミングで飛び乗る。そのまま俺を阻むように形成されている氷壁に指をめり込ませ、壁を蹴って跳ぶ。
縦横無尽に駆け回るその様は、まさに獣。
迎撃よりも回避を、とにかく間合いに入り込むための接近を! 氷を飛び越え、しがみつき、時には真正面から殴り砕く。
(いける、このまま……ぶん殴るッ!)
週一更新が限界、ゆるせ




