「第三十九話」流星
前回の投稿から2週間以上経ってるってマジ??????
「助ける、だと?」
気を失ったティルをしっかりと抱きかかえながら、俺は目の前の敵をしっかりと見据える。
「お前なんかが、姉ちゃんを? ふざけるな……なんで触ってるんだ、なんでそんなに気を許してるんだ? お前なんかが、その人を理解するな……!」
奴の立っている氷塊を中心に、どんどん氷結が侵攻していく……それは風を伴い、激情に突き動かされている本人でさえも凍えさせるほどの威力を誇っていた。──氷の波動が、来る。
「返せぇぇえええっ!」
大きく上へ飛び上がり、波動を避ける。先程まで自分が立っていた氷塊から巨大な氷柱が何本も上がり、俺を串刺しにしようと迫りくる。圧倒的大質量に加え、相当なスピード……避けるのは、無理だ。
「──ッ!」
右掌に力を込める。そこから出てきたのは強靭な粘着質の糸。
身をよじって避けた氷柱に糸を絡ませ、そのまま強引に手繰り寄せる。片腕でティルを抱えながら、両足で氷柱を踏みしめる。表面に亀裂が入るとほぼ同時に、次の氷塊による質量攻撃が来る。糸を千切り、再び別の場所に糸を飛ばす。
一瞬一瞬が紙一重だった。頬を掠め取り、ふくらはぎを浅く抉り……少しでも体の位置がずれていれば、それは俺の四肢や臓腑を抉り吹き飛ばしていたことだろう。もしもこんな攻撃がティルに当たったらと思うと、思わず蹲りたくなる。
時に鋭く、時に鈍く。素早く、遅い。緩急のある弾幕のような攻撃の中、俺はある決断を下す。どの道ティルを抱えたまま戦うのは、あまりにもリスクが大きすぎる。──見据える。今も凍てつく、船の上を。
正確には、空から襲いかかってくる鳥のような魔物を、片っ端から叩き伏せるジグドを。
「──おっさん!」
「んぁ? ……はぁ!?」
船に付着させた糸を全力で手繰り寄せたからか、船が思いっきりぐらりと揺れる。ジグドは少しだけ体勢を崩すが、すぐに立て直してくれた。俺は安心して突っ込んでいき、抱えていたティルに目をやった。
(ごめん、ティル!)
「──頼むっ!」
放り投げたその時には、既にジグドは頷いてくれていた。片手でティルをしっかりと受け止め、その隙を狙おうとして突っ込んでくる魔物を殴り飛ばす。
「船は儂に任せろ! お前はあの小僧をぶん殴ってやれ!」
頷き、俺は空中に糸を飛ばす。何もないように思える虚空……そこを飛び交う一匹の魔物に付着させる。そのまま手繰り寄せ、無理やり背中に乗り込む。
『──!!!!』
縦横無尽に飛び回る。俺を振り落とそうと必死に抵抗する……しかし俺はそんなことを許さない。噛みつきを掻い潜り、長い首に腕を回してヘッドロックを仕掛ける。死なない程度に息の根を止めながら、俺は来た道を戻るかのように空を駆ける。──見据えるのは、凍った海の上にいるあいつだ。
「どぉぉおあらァァァァああああああああああっっっ!!!!」
着氷の瞬間、飛び上がる。乗り手を失った魔物は、そのまま流星の如く奴の方へと突っ込んでいった。




