「第三十六話」久しぶり
久しぶり、と。
そう言われて初めて、これが十年ともう少しぶりの再会だということを再認識する。
私も、クロも変わった。少なくとも私は描いていた将来に手を伸ばすことはできなかったし、彼自身もきっとそうだろう。だってあの子はこんな顔をしたりしない……もっと暖かくて、静かな笑みを浮かべる子だった。
なのに、変わってしまった。
いいや、私が変えてしまったのだ。
あの時の選択が、この子を変えてしまった。それは私の責任であり、償うべき罪だ。
だけど、いいやだからこそ。
「何を、してるの」
私は、怒らねばならない。
私の選択によって道を選び間違えた、彼の蛮行を。
「今のあなたの攻撃で、沢山の人が傷ついた。それを分かっているの……?」
そう、これは殺しのために振るう剣ではない。
贖罪であり、謝罪であり。何よりこれ以上、無関係の人々の命が理不尽に奪われることがないように……私は、剣を振るわなければならない。そうだ、これはただの殺しではない。だから、私は、斬らなきゃ──。
「十年ぶりの再会だって言うのに、ホント変わんないよな」
「っ……!」
私としたことが、目の前の敵から目を逸らしてしまっていた。──敵。ああ、そうか。今のあの子は私が殺すべき敵なんだ。反射的に脳内に浮かんだ言葉に、私は落胆した。分かってはいたけど、それでもいざ理解して直面すると辛かった。
そんな私に、愚弟であるクロは薄く笑いながら言う。
「悪いことをしたら怒る、ダメなものはダメ……悪は正す、それが姉ちゃんだもんな」
「自分が何をしたのか、分かっているの……? 私はあなたを許さない、だから──」
「だから、俺と一緒に来てくれなかったんだな」
言葉が詰まる。首を絞められたような錯覚を覚え、更に剣先が鈍る。
正論が。
過去の罪が。
私が切り捨てた誰かが、私を確実に断罪しようとしていた。
ああ、分かってる。あれは仕方のない選択だったことも、他にどうしようもなかったことも……だが、それは誰かを踏みにじる理由にはならない。私は自分が掲げる玩具のような正義を盾にして、彼を……弟にこんなことをさせてしまった。
もう、無理だ。
私には、自分の弟を斬り殺すことなんてできやしない。──そう思考したときには、すでに私の手の中に剣は無く、悲しい音を立てて氷の上に落ちてしまっていた。