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神喰いのフェンリル  作者: キリン
【第一章】後半 幻惑の森
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「第二十八話」くだらない理由

「──ってことがあって」

「なるほどなぁ……」


 ああ、言ってしまった。

 言うつもりなんて無かったのに、私一人の問題だったのに。


「私、どうしたらいいかな」


 だが、こうなってしまえばもう戻れない。

 開けた蓋は再び戻すことはできず、感情は激流となって流れ出ていくだけなのだから。


「私は聖騎士で、沢山の人を守らなきゃいけなくて……でも、そのために人を殺しに行こうとしてる。しかも私、それを仕方のないことだって……やらなきゃいけないんだって、思っちゃってる」


 救うために戦えとか、そんなことを言える立場ではなかった。善にしろ悪にしろ、私は少なからず命を奪ってきた。それは変えられない事実で、きっとこれからも膨らんでいくことなのだから。


「……俺は」


 少しだけ間を置いて、エルマが口を開いた。


「俺は、行ったほうがいいと思う」


 やっぱりそうだ、そうするしか無いんだ。

 何を今更、綺麗でいようとしていたのだろう……そうだ、私はもうとっくに人殺しだ。血に濡れた手を血で洗い流すことしか、私には残されていない。──そう、思っていた。


「でもそれは殺すために行くんじゃない。救うために、助けるために行くんだ」


 いつしか彼に投げた言葉を、そっくりそのまま返される。

 本当に自分の口から出た言葉なのかと疑うほど、子供じみた綺麗事だった。


「だってそれが、ティルだろ?」


 そんな綺麗事を、夢に描くことも諦めるような話に、彼は本気で手を伸ばそうとしている。

 こんな私の言葉を真に受けて、信じて……ああ、そうだ。


「……」


 少なくともこの人を救ったのは、紛れもなく私の言葉だったんだ。

 できるわけ無い、と。捨て去った理想の偶像が、きちんと彼を救ってくれたんだ。


「……そうだね」


 なら、せめて示さなければならない。

 殺すためではなく、救うために戦えるということを。


「うん、決めた。私行く!」


 くだらない理由だと自分でも思う。それでも、私にとっては十分すぎる理由だった。


「ありがとう。エルマのお陰で私、自分がどうしたいのかを思い出せた!」

「うっし! じゃあ行くか!」

「うん! ……うん?」


 思考の硬直。

 なんか、変だ。


「えっ、どういうこと?」

「あ? んなもん、決まってんだろ」


 嫌な予感がする。私がそう思う頃には、エルマの口角はぐいっと上がっていた。


「俺も、連れて行ってくれるんだろ?」


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