「第二十八話」くだらない理由
「──ってことがあって」
「なるほどなぁ……」
ああ、言ってしまった。
言うつもりなんて無かったのに、私一人の問題だったのに。
「私、どうしたらいいかな」
だが、こうなってしまえばもう戻れない。
開けた蓋は再び戻すことはできず、感情は激流となって流れ出ていくだけなのだから。
「私は聖騎士で、沢山の人を守らなきゃいけなくて……でも、そのために人を殺しに行こうとしてる。しかも私、それを仕方のないことだって……やらなきゃいけないんだって、思っちゃってる」
救うために戦えとか、そんなことを言える立場ではなかった。善にしろ悪にしろ、私は少なからず命を奪ってきた。それは変えられない事実で、きっとこれからも膨らんでいくことなのだから。
「……俺は」
少しだけ間を置いて、エルマが口を開いた。
「俺は、行ったほうがいいと思う」
やっぱりそうだ、そうするしか無いんだ。
何を今更、綺麗でいようとしていたのだろう……そうだ、私はもうとっくに人殺しだ。血に濡れた手を血で洗い流すことしか、私には残されていない。──そう、思っていた。
「でもそれは殺すために行くんじゃない。救うために、助けるために行くんだ」
いつしか彼に投げた言葉を、そっくりそのまま返される。
本当に自分の口から出た言葉なのかと疑うほど、子供じみた綺麗事だった。
「だってそれが、ティルだろ?」
そんな綺麗事を、夢に描くことも諦めるような話に、彼は本気で手を伸ばそうとしている。
こんな私の言葉を真に受けて、信じて……ああ、そうだ。
「……」
少なくともこの人を救ったのは、紛れもなく私の言葉だったんだ。
できるわけ無い、と。捨て去った理想の偶像が、きちんと彼を救ってくれたんだ。
「……そうだね」
なら、せめて示さなければならない。
殺すためではなく、救うために戦えるということを。
「うん、決めた。私行く!」
くだらない理由だと自分でも思う。それでも、私にとっては十分すぎる理由だった。
「ありがとう。エルマのお陰で私、自分がどうしたいのかを思い出せた!」
「うっし! じゃあ行くか!」
「うん! ……うん?」
思考の硬直。
なんか、変だ。
「えっ、どういうこと?」
「あ? んなもん、決まってんだろ」
嫌な予感がする。私がそう思う頃には、エルマの口角はぐいっと上がっていた。
「俺も、連れて行ってくれるんだろ?」