「第二十七話」人殺しの道具
(ティル視点です)
「先日、極秘裏に派遣した調査部隊から報告が届いた」
「調査部隊……?」
早速不穏な単語が出てきた。しかも、極秘ときた。
本来、騎士団は王国の自衛のために存在する武装組織だ。街の外、しかも百戦錬磨の王都の騎士たちが揃いも揃って調査に行く……この場合、国王への報告と承認が必須なはずなのだが、そんな噂は一切聞いていない。
「国王に黙ってまで、何を調べたんですか?」
「ヴァルハラ教のアジトだ」
あまりにも、あまりにも当然のようにフィンさんは言い放った。反射的に椅子から飛び上がり、私は廊下側の壁に耳を当てる。足音も気配もない、しかし誰かに聞かれたかもしれない……そんな未知の恐怖が、腰に下げた剣を握りたいという気持ちに変わった。
「安心しろ、少なくとも王都の騎士たちはこのことを知っている」
「ですが……」
「仮に奴らに聞かれていたとしても、彼らが二秒で粛清する」
落ち着いていた。
平静であった。
寧ろ、気持ち悪いぐらいに。
「……理由を教えてくれませんか? どうして急に、奴らのことなんか」
「決着を付ける時が来た、ということだ」
フィンさんはそう言って、椅子から立ち上がる。そのまま窓の外、そこに広がる王都の町並みを見ている。それが何故か怖くて、恐ろしくて、つい口走ってしまった。
「でっ、でも……大規模な遠征は国王の許可が無いと……」
「それについては、国王にも報告済みだ。為すべき事を、必ず為せとのことだ」
「そんな、簡単に? 相手から宣戦布告があったわけでも……」
言いかけて、私は気づく。
いいや正確には、最悪が頭をよぎった。
「大義名分はある」
フィンさんはそんな私の心を読んだかのように、言い放つ。
「正確には、送られてきた」
その表情は平静であった。至って冷静であった。
それはまるで、感情の無い人形のように。
「──まさか」
「ああ」
こちらに背を向けたまま、団長は淡々と結果を告げた。
「派遣した聖騎士百五十騎の首が、商人に紛れたヴァルハラ教徒によって運び込まれた」
全滅。
王都の騎士が、聖騎士の中でも精鋭揃いの集団が、全滅。
「三日後、我々騎士団は総力を以て奴らのアジトへ向かう」
困惑し続ける私に、団長は振り返ってくる。
「お前にも、戦って欲しいんだ」
……ああ、やっぱり。
この人は、私のことを人殺しの道具としか思っていなかったんだ。




