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神喰いのフェンリル  作者: キリン
【第一章】後半 幻惑の森
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「第二十話」狩るべき獲物

 進む、進む、進み続ける。

 二股の木、苔の生えた大岩、落ち葉がちらほらと散乱する道。


「……」

「……」


 走る、走る、駆け抜ける。

 二股の木、苔の生えた大岩、落ち葉がちらほらと散乱する道。


「……」

「……あの、エルマさん?」


 来た道を戻る、様々な方向へ走る、やたらめったらに走り続ける。

 二股の木、苔の生えた大岩、落ち葉がちらほらと散乱する道。


 その全てが、何一つ変わらないまま俺の五感を苛んでいる。


「……クソッ!」


 肩で息をするほど、俺は走ったり歩いたり色々やった。だが変わらない、先程と全く景色も匂いも時間も何もかもが変わらない! 一人で歩いていた時と同じ、何も変わっていない!


「畜生め、出口どころか手がかりもクソもありゃしねぇ!」


 ヴィーザルは周囲を見渡したり、地面を触ったりしてみる。なにかの痕跡を探しているのだろうか? しかしその顔は芳しく無く、非常に苦い顔をしていた。それはそれはまるで、腹痛に悩むような表情だった。


「しかも魔物の気配すらありませんし……仮にこれが魔物の仕業だとしても、倒すべき本体が見えないんじゃ……」

「探すぞ」

「えっ?」


 俺はそう告げて、再び走り出す。

 腹も減ってきた。溢れ出す涎を止める術も、止めるつもりもない。


 このままでは埒が明かない。最悪、空腹になって食欲が湧いてくる……そうなれば俺は、ヴィーザルを喰い殺してしまうかもしれない。それは駄目だ、絶対駄目だ。

 それから死ぬのも駄目だ。俺は死ぬ訳にはいかない、ティルとそう約束したから。



「待っ……待ってくださいよ! 僕、もう足がヘトへ──」

「うるせぇ! 黙ってさっさと……あ?」


 振り返ると、そこにいたはずのヴィーザルの姿が無かった。上にも下にも、右にも左にも前にも後ろにもいない……まぁ、もともと方向なんてあてにならないが。

 そんなことより、探さねばならない。彼女に死なれてしまっては目覚めが非常に悪い。


「あいつ、どこに──ん?」


 匂う。

 鼻腔をくすぐる、美味そうな香り。


「……ははっ」


 甘い。

 しょっぱい。

 苦い。

 味わい深い。


「はははっ、ははははははっはっはっはっはっハァ────ァッ!!!!!」


 その全てが、総じて美味い。


「美味そうな匂いだ」


 俺は食欲に身を任せ、走り出す。

 狩るべき獲物が、すぐそこにいるような気がしたから。





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