「第十三話」『刹那剣』
「いやはや、驚いた」
吹き飛ばされたスクルドとやらが、森の奥から出てくる。先程切り刻まれたはずの身体はちこそ付着してはいるものの、痛がる様子や傷があるようには見えなかった。
血に濡れた白装束を眺めながら、スクルドは笑った。
「まさか君が騎士団とつるんでいたとは、ね。視えていたとはいえ、やはり信じられんなぁ……魔物が魔物を殺し回っているというのは」
「っ……俺は人間だ、お前らみたいなバケモノと同じにすんじゃねぇ!」
「ほう、バケモノか。そうだな、君から見れば私達は──」
言いかけたところで、スクルドの口の両端が一閃される。血を垂れ流した直後、彼女は俺を……いいや、正確には剣を振るってきたティルを睨みつけていた。
「悪いけど」
「──ッ」
スクルドが構えようとしたタイミングで、ティルは既に懐に潜り込んでいた。
「ッ!?」
「あなたのお喋りに付き合うつもりはないから」
振るわれる剣、それを弾くナイフ。しかし弾かれると同時に二閃、三閃と斬撃を見舞われている。速すぎて、反撃をする前に何度も斬られているのがなんとなく見えた。
「強い……!」
だが見えるだけだ、俺はあの速度で動けない。仮に暴走覚悟で魔物の力を最大開放したところで、ものの一瞬で切り刻まれておしまいだということが分かる。
再生も追いつかないレベルのスピードで、スクルドは刻まれていた。
「見事な、剣捌きだ。視えているのに、身体が、追いつかないのは……何年ぶりだろうか」
即座に再生、それを上回る斬撃。それらを繰り返しながらも、スクルドは喋る。痛みを感じていないのだろうか? どこか笑っているようにも見えた。──金属音。藻掻くように振るったナイフが、ティルを後方に退かせた。
荒い息を吐きながら、スクルドは言う。
「流石は王国最強の聖騎士だな。『刹那剣』の名は伊達ではないようだ」
考えるような仕草。スクルドは再び笑った。
「今日の私はツイてない。盗まれた薬を追っていたら予言の厄災がいるわ、それを片付けようと思ったら最強の聖騎士ときた……今日のところは、帰らせてもらうよ」
「逃がさないッ!」
「ああ、そうそう」
振るわれたティルの剣は、虚空を裂いた。誰もいない空間、つい一瞬前まではスクルドがいたはずのそこには、ただただ虚空が在った。──誰もいないはずの森に、声だけが響く。
──彼は元気にやってるから、安心するといいさ──
「……」
圧勝、一撃も喰らわずに得た勝利。
しかしティルの額は汗で濡れていた。その横顔が、まるで得体の知れない何かを見たような鬼気迫ったものであったことに……俺は違和感を感じざるを得なかった。
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