表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神喰いのフェンリル  作者: キリン
【第一章】前編 魔物喰らいの少年
13/42

「第十一話」人殺しの死神

 よりどりみどりだな、と。俺は必死に喚き続ける食材を見ながら、どう料理してやろうかと楽しく思考を巡らせていた。しがみついている手を踏みつけるだけでは足りない……もっとこう、しっかりと味わいつくさなければ。


「たすけてくれ……」


 と、食材が喋る。青白くなっていく顔で、顔中を涙と鼻水でべちょべちょにしながら。


「死にたくない……!」


 そこに、以前の信仰はない。

 こいつは前に言った。死ぬことは怖くないと、名誉なことだと。自分がしたことは正当であって悪ではない、と。──皮肉。スパイスを、振るう。


「おいおい、死ぬのが怖いのか? 生き物は死んだら楽園に行くんじゃなかったのか?」

「い、いやだ……死にたくない、死にたくなぁい!」


 男は震えながら、必死に崖を掴んでいる。徐々にズレていく手の位置を、俺は薄い笑いで見つめている……まだだ、まだ。まだ味わえる。


「ああ、神よ! どうか……どうか私をお助けください!」


 男は間際で祈った。いるはずもない虚空へ、虚無へ……ああ、なんて可哀想な人なんだろう。だから俺はせめて、せめてこいつが望むものを与えてやろうと、代わりに答えた。


「神サマならいるぜ、ここにな」

「き、貴様……貴様のような悪魔が、神であるわけが……ひぃっ」


 手を優しく踏みつけると、びっくりするぐらい簡単に黙った。首をゆっくりと横に振るその表情は、見ていてとても気分が良かった。


「いいや? 俺は神だ。お前の、お前だけの神サマ──」

「や、やめてぁぁぁああぁあぁぁぁぁ……」


 少し力を込めるだけで、手は崖を離れた。徐々に小さくなっていく断末魔と、落ちていく男の姿を真上から見下ろしながら、俺は小さく、しかししっかりと答えた。


「死神だ」


 そのまま、男は染みになった。少し蠢いた後、自分の血溜まりの中で沈み……そのまま、動かなくなった。恐らく彼は楽園とやらに逝ったのだろう、彼が信じる極楽浄土とやらに。──どうでもいい、それよりも。


「カイ! 母さん! やったよ俺、仇取ったよ!」


 ああ、嬉しい。

 ようやく、果たせた。


「あいつが二人にやったことの、百倍辛い死に方をさせてやった! 誰も助けに来なかった、神も楽園もありゃしねぇ! くそったれ、くそったれ……」


 命だけでは足りない。その主義主張、信じる全てを踏みにじり、裏切り……そもそもの性への執着をも危うくさせたところで、決定された「死」を突きつける。地面に叩きつけられる数秒程度は、さぞかし頭の中がメチャクチャだったことだろう。


「ザマァみろ!!!!!!!!!!!!!」


 クソ野郎への別れの言葉を、咆哮のごとく放つ。安寧などクソ喰らえ、赦しなんて一生与えられるな。お前にとっての楽園は、お前自身を断罪し続ける豪華の中でしか無いんだ。


「はぁ、はぁ」


 荒い息を吐きながら、俺は笑った。やってやった、仇を討ってやった。これで俺は、俺は……ああ、そんな。これじゃあ、まるで……まるで……!


「これじゃあ、ただの人殺しじゃねぇか……!」


 間違っていたとは、思わない。今更思えない。

 それでも人を殺したという事実は、俺の胸に重くのしかかった。──脳裏に浮かぶ、少女の朗らかな笑顔。


「……ティル」


 そう呟いて、俺は来た道を戻った。

 死ぬために、終わらせてもらうために……あの約束を、果たしてもらうために。





よろしければブクマや評価、お待ちしています!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ