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神喰いのフェンリル  作者: キリン
【第一章】前編 魔物喰らいの少年
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「第九話」メインディッシュ

「ふ、ふふっ」


 肩が揺れる。


「ふは、ふはっ……ふはははははははははっ!」


 仰け反る。

 そのまま倒れてしまうのではないかと思うほど。


「まさかこんなに早くまた会えるとはなぁ……我が神に、感謝を」


 引き裂かれたような笑みを浮かべながら、アードンは祈った。両手を固く結んで……しかしその目線は天ではなく、しっかりと俺に向けられている。

 握った両手をゆっくりと解き、そのまま俺のことを指差す。


「貴様のことは、よぉ……く覚えている。我が使い魔を楽しそうに喰い殺す貴様の姿は、まさに悪魔と呼ぶのに相応しかった」


 今にも倒れそうな、ふらついた足元。顔色は悪く、あれから碌な生活をしていなかったことが伺える。


「まぁ、最も」


 声色も、表情も変わらない。

 ただただそこには、笑っているだけの怒りがあった。


「あれだけのことをされて、簡単に忘れられるわけがないのだよ」


 そう、怒りだった。

 俺への、怒りだった


「……そっか」


 反省でも、悲しみでも無い。自分自身への怒りですら無い。それは俺に向けられた怒り……『恐怖』という未知の感情を与えてきた、俺への怒りだった。──よかった、と。俺は心底安堵する。


 本当に、ありがとう。

 これで躊躇いなく殺せる。


「ぶっ殺す」

『────!!!!!』


 駆け出すと同時に、髭面の手が動く。

 オーガの咆哮が森中を揺らし、そのまま巨体が突っ込んでくる。


 真上からの振り下ろし。あまりにも遅い一撃を横に避け、隙だらけの脇腹に刃を滑り込ませる……断末魔さえ許さない。肉を抉るように腕を振るうと、ぐちゃりと音を立てて倒れた。


 降り注ぐ血の雨を舌で舐め取り、次の獲物に刃を向ける。


「次はお前だ」


 獲物は笑っていた。正確には、更に怒りを煮やしていた。


「おいおい、せっかくの食い物を粗末にするな。あの時のように貪らないのか?」

「あんなモン、豚にでも食わしとけッ!!」


 地面を蹴り、腕を振るう。ギリギリで避けられた……髭面の頬をかすめた刃には、あいつの汚い血が僅かにこびりついていた。なぁに、すぐに奴の血で染まるさ。


 次で決める、決めてやる。そう決意して、再び跳ぶ。


「そうか、では──」


 目の前、あと一歩。瞬きの間に殺せる距離で、奴は何かを飲み込んだ。


「メインディッシュといこうじゃないか」


 刹那、目の前から獲物が消える。

 直後、胸元を抉るような痛みが走る。


「──じん、ろう……!?」


 振り返ると、そこには狩人がいた。

 二足歩行の獣は、地面に伏す俺を見下ろしながら、笑った。


「──腹減った」


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