星座が生まれた理由
灯がなくとも、星と月の光が降り注ぐ。その自然の灯は遥か彼方、手の届かないところにある。
「こう星を繋いでいって……」
男は夜空に向かって人差し指を指しながら、星々を繋いでいく。男の指先をじっと見つめるのは隣に座る息子だ。すいすいと動く父の指先は息子がよく見る父のある行動に似ている。
「何に見える?」
「りんご?」
「正解。あれはりんご座」
父は小さく笑う。
「次」
そう言って父はまた星々を繋ぐように指を動かす。
動物や食べ物、乗り物、道具と父は星々を繋ぎ合わせて表現していく。それを息子が答えるという遊びだ。
「次は何にしようか」
考え込む父の横顔を横目に息子は星々を見つめる。
「パパ」
「ん?」
「星座ってどうして生まれたの?」
言ってしまえば星と星を繋いで何かに見立てたもの。なぜ、星と星を結ぶのだろうかと息子の中で疑問が生じた。
「そうだね……。宗教、天文学、占いなど、色々あると思うけど」
父は様々な土地を旅してきた。行く先々で見聞きしたことは多い。当然、星空にまつわる話も教えてもらったことがある。土地によって異なる様々な話を聞くことができた。難しい話も多いが、父としてはあっさりとしたひとつの答えを持っている。
「案外、こうやって星を眺めているときにあれに見えるっていう遊び心で生まれたのかも」
息子は予想外の返答に目を丸くする。
息子は父が世界を旅しているおかげで物知りであることを知っている。その父が何とも簡素な答えを出してきたことに驚く。
でも、と息子は視線を地へ落とす。二人の間に広がる未完成の星空に息子は小さく笑う。
「星空のキャンバスだね」
「素敵な言い回しだ」
星空のキャンバス。何とも贅沢で、それでいて美しい響きだと父は思う。
「絵を描いているときのパパの顔と一緒だったから、キャンバスがぽんって浮かんだんだ」
息子はキャンバスと向き合う父の顔を思い浮かべる。
父は画家。各地を巡り、絵を描くことを生業としている。息子にとって、今は久しぶりに帰ってきた父と一緒に過ごせる貴重な時間なのだ。
「ふふふ、では、もう少し、星空のお絵描きにつきあってくれるかい?」
父の弾んだ声に息子は頷く。
「ねえ、僕も星空のキャンバスに絵を描いていい?」
「ぜひ」
君はどんな絵を描いてくれるのか。
父は息子の小さな指先を目で追う。息子によって星と星が結ばれる間を一筋の星が流れる。
「あ、流れ星!」
息子の無邪気な声に父は笑みをこぼすのだった。