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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

題名のあるシリーズ

題名「見えない翼をつかまえるはなし」

作者: 中村翔

 翼。


 羽ばたくもの。


 空をまじかに感じつつ見上げるその両手に星を掲げながら。


 2222年6月4日


「あの大空に、翼を広げ飛んでゆきたいな。」


 大空には曇天。降るのは赤い雪。


 私の影に翼は映らない。


 バサバサバサ!


 どうやらこの雪は人間以外には無害らしい。


 バサバサ。


 ひとりのご老体の腕に伝書鳩が止まる。


「白の一号、戻ったか。どれ。」


『こちら。北海道。異常ありません。

 話は変わりますが、大佐はお元気でしょうか?

 できればこの伝達の返信に大佐の

  写真を付けていただけないでしょうか?

 御健勝かと思いますがどうか

  大佐によろしくお伝えください。

 かしこ。』


「ふむ。大佐か。」


 ちりんちりん。ご老体が鈴を鳴らす。


 わん!


「大佐。ハイチーズ。」


 ばうっ!


 ウィーン。ポラロイドカメラから写真が出てくる。


 くるっるぅー。


「白の一号。エサはいつものところだ。」


 ばさばさ!


「さて、昼食にするかの。」


 ご老体がゆっくり食堂へと移動する。


 この基地にはご老体しか人間はいない。


 しかし、寂しくはない。なにせ、動物は五万と(沢山という意味)いる。


 大佐(犬)にエサを与え、自分の分のスープを用意する。


 さっき撮った写真を眺める。


「ふっふっ。なかなかよく撮れておる。あとで緑の五号に届けさせるか。」


 そういうと写真を懐へとしまった。


「ばうっ!」


 大佐が空のお皿を行儀よく持ってきてひと吠えした。


「ほう。はやいのう。若さにはやはり勝てんわ。」


 お皿を下げると大佐はちらほらと雪が降る中を駆け回っていった。


 ご老体はペンをとると手紙をしたためていった。


『拝啓。北海道基地殿。

 コチラも異常はありません。

 大佐含め隊員全員欠員はなし。

 ところで例の終らない秋を

 終わらせる作戦は順調でしょうか?

 追伸:大佐の写真を同封します。

 かしこ。』


「ふむ。こんなものか。しかし猛毒の雪とは・・・いやはや、長生きはするもんじゃないのう。」


 終らない秋。雪の降り続ける現象の総称。


 一説によると秋という名の人間以外を滅ぼすための生物兵器だという。


 しかし、秋・・・妻はこの雪に感染して逝ってしまった。


 そのためご老体は秋は関係ないと苦言を訂したが、受け入れられなかった。


 びゅぉ――――・・・。


 外の天気が変わってきたらしい。


「ちりんちりん。」


 ベルを鳴らして大佐を中にいれようとする。


「ばう!ばうばう!」


「大佐?何をしておるんだ?」


 雨具にゴーグル軍手を付けて大佐に近寄る。


「人間・・・?大丈夫か!?しっかりしろ!」


「たいさ・・・。」


 意識はあるようだ。迅速に部屋へと運び暖を取らせた。


「う・・・ん。」


「意識が戻ったか。おぬしはどこの誰なんじゃ?」


「わたし・・・わたしは・・・うっ・・・!」


 急に苦しみだしたので毛布を掛けて寝かせた。


「大丈夫か?記憶喪失というやつか。いまは眠るといい。」


「はぁはぁ。記憶喪失・・・」


 後日、覚えてることはないのかと聞いた。


「ありません・・・。わたしは、そうだ!12才です!年齢!12才!」


「12才か・・・。小学生といったところか。」


「小学生ではありませんです。一応中学一年生です。」


 この近くに中学校はない。どこから来たのだろう?


「「ぐぅ~~~・・・。」」


「はっはっ!腹が減っては戦はできぬ。大したものは用意できんが食事を用意しよう。」


 ちりんちりん。


「ばう!」


「わあ。犬さんですね。かわいい・・・。」


「大佐と飯を食う。それがこの前線基地(戦争をしてるわけではない)の唯一の楽しみだからな。」


 そういえば、この少女の格好。セーラー服ではないか?


 最初見たときは海軍所属かとも思ったが中学生なら制服というやつだろう。


 帽子まで海軍仕様だから勘違いしてしまった。


「しかし、帽子に感謝するんじゃぞ?帽子を被ってなかったら雪の猛毒で即死だからな。」


「雪さんに毒はありませんよ?ほら。」


 少女が窓から手を伸ばす。


『ぴとっ』


 雪が手に落ちる。


「なにをしておるんじゃ。は、早く拭かねば・・・。」


「ぺろっ。うん!冷たくておいしい!」


 なに?冷たくておいしい?赤い雪がか?


「おぬし、赤い雪に耐性があるのか?」


 がしゃあーん!


「赤い雪・・・。」ブルブル。


 なにやら嫌なことを思い出したらしい。


「大丈夫。大丈夫じゃて。」


 少女が震えながら喋りだした。


「わたし、赤い雪の実験体にされてたんです。いっぱい・・・痛いことされて・・・。ねぇねが逃がしてくれて・・・それで・・・。」


「大丈夫。ここにはそんな奴は入れはせん。万が一入ってこようものなら大佐が噛みついてくれよう。」


「・・・はい。」


「さて、晩飯にするか。スープを注いでこよう。」


「じー----。」


「な、なんじゃ?」


「この材料ならグラタンができますですよ?スープよりおいしいです。」


「ふむ。だが料理を作る者はおらんからな。あきらめてくれ。」


「私にお任せください!すぐにおいしいグラタンを作って見せますです!」


 そういうと少女は後ろに髪を束ねて包丁を握った。


「おじいさんは牛乳を振り振りしててください。」


「あ、ああ。」


「まずは鶏肉を一口大に切って・・・炒めてる間に玉ねぎを切ります。」


「ほう。手際がいいのう。」


「鶏肉と玉ねぎに火が通ったらマカロニ、塩コショウ、調味料、牛乳の順で入れて煮込みます。」


「なるほど。かき混ぜなくていいのか?」


「かき混ぜすぎは厳禁です!ヘラで掬うようにかき混ぜるのがコツです!」


「料理を習っていたのか?」


「覚えてません!煮立ってきたら耐熱性の器に入れておじいさんの振り振りしてた牛乳を取り出します!固形になっているので水気を取って細かく刻んで器に載せてオーブンでチンです!できあがり!です!」


 チン!ぐつぐつ!


「さあ、お熱いうちに召し上がってください!」


「はむっ・・・。うまい!ばあさんを思い出すんのう。」


「け、結婚なさってたんですか??」


「うむ。ばあさんがグラタンを作ったことはないがな。」


「あははっ!じゃあおばあさんは無関係ですね!」


「ああ。ばあさんとは無関係だ。だ・が!ばあさんの名前を名乗らせようと思う。」


「へあ!?な、なぜですか??」


「面影があるから。以上!ちなみにばあさんは秋という名じゃ。」


「秋・・・いい名前ですね!いただきです!」


「では秋。そろそろ寝るか。部屋は二階の一番奥の部屋を使うといい。丁度昨日掃除したばかりだからな。」


「わかりましたです!おじいさんおやすみなさい。」


「さて。緑の五号。行っておいで。」


 ばさばさ!


「今日も平和じゃな。」


「今日はチキンカレーを作りますね!」


「ん?まて・・・そんなに鶏肉の貯蔵はあったか・・・?」


「鳥小屋にいっぱい鳥さんいましたよ?確かタグが付いてて白の一号とかなんとか・・・。」


「!!!!!!それは伝書鳩じゃ!今までわしは、わしらは伝書鳩を食べさせられて・・・。」


「あははあはははは!明日も明後日もいっぱい鶏肉ありますよね??あはははは!」


 秋は伝書鳩の翼をつかんで、


 ザンっ!!!!!!!


 秋は沢山の翼を、つかまえた。





 了

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