何か思ってたんと違う
ひょっとして剣と魔法の世界ならこんな事になっててもおかしく無いのでは?という思いつき。
トラックに轢かれた。
神様的なのに遭った。
転生特典を貰った。
以上が新たにこの剣と魔法のファンタジー世界に生まれたこの俺に起こった出来事である。
そしておぎゃあと生まれたこの剣と魔法のファンタジー世界、山ばっかりのど田舎村で狩りや畑仕事をしつつも合間を見ては魔法を練習したり、自警団のおっちゃん達に戦闘を教わったりいつかは村を出る為に準備をしつつその時はやって来た。
見送りの声を背に15年、育った村を背に山を三つ越えこの辺りでは一番大きな町へと到着。
空はまるで自身のこれからを祝福するかのような雲ひとつない真っ青な快晴。
ちゃんと下調べはしてきた、この町には王都に本部を置く魔術師ギルドや鍛治ギルド、商業ギルドの支部があり俺が目指すのは魔獣退治や迷宮の探索などを生業とする冒険者、その総括を行う冒険者ギルドであったが
「新規のご登録ですね?ではまずこちらにお名前と生年月日あ、王国暦でお願いします。それからご出身の場所をご記入下さい」
「は、はぁ・・・」
ジトっとした目で猫っぽい動物の耳が生えた可愛い受付の女性の言葉に何か思ってたのと違うと思いながらも目の前に出された用紙にペンで書き込んでいき再び受付に返す。
というか普通だったら酔った冒険者に絡まれてそれを一蹴する事でギルドマスターとか出てきて一目置かれるとかのパターンじゃ無いのか?と思いつつも大人しく待つ。
「ドイナーカ村・・・あぁ、確かウッソー大森源近くの開拓村でしたか。
では軽くご説明させていただきます、まず冒険者は主に魔獣退治や迷宮の探索を生業としています。
それにあたって戦闘が発生しますがご理解頂いてますか?」
「あ、はい」
「それにより武器や防具も必要となりますがそちらはお隣のカウンターで伺います、ご購入にあたっては所持許可証が必要となりますのでご了承ください」
聞き覚えのない言葉に少し固まる。
「所持許可証・・・?」
「え?所持許可証ですが・・・あ、ご安心ください当ギルドでは第五級所持許可証からでもご購入は可能です」
「だいごきゅう・・・?」
「武器の所持には許可証が必要となりますが・・・まさかお持ちで無い?」
「・・・お持ちで無いです」
「失礼ですがドイナーカ村からここまでに護身用の武器はお持ちでは無いのですか?あの場所からここまでだとかなりの距離がありますし決して安全とは言えませんが・・・」
「あ、それだったらこれが・・・」
何か思ってたのと違う説明に戸惑いつつも戦闘を教えてくれた自警団のおっちゃんから餞別にもらったクラブ(棍棒・殴打用の武器)を腰の後ろから外してカウンターに出す。
「クラブですか、まぁ確かにこれなら許可証は必要ありませんね」
クラブは戦闘を教わるにあたって自警団のおっちゃんに剣を使いたいと言ったら"お前にゃまだ早いわバカたれ、まずはこいつを使いこなせてからにせんか"と勧められた武器でありそれ以降ずっと棍棒を使った戦闘がメインになっていた。
「あ、あの許可証とかは持ってないけど剣とか使ってみたいなーって・・・」
「剣ですか・・・一般的に使われる剣であれば刃渡り50サンチほどとなりますので第四級の所持許可証が必要となります」
「その、所持許可証ってどうやったらとれますか?」
「そうですね、まず武器を扱うにあたって武器取扱資格者証と戦闘技能講習修了証明書、そちらを揃えて執政府庁舎に行ってそれらを提出、面談の上で発行となります。
それにわざわざ剣を使わずともこのクラブ、魔獣骨とジョーブヒノキで作られた合成棍棒なのでしばらくはこちらでも十分かと」
思ってたのと違うかなりのシビアさに思わず脱力しそうになるが
「あ、魔術!魔術なら使えますよ!!」
「魔術ですか、等級と属性はどちらになりますか?」
「もちろん全属性です!中級までなら使えますよ!!」
例え憧れてたいた剣がダメでも俺には小さい頃から練習してきた魔術がある!!そう思って自信満々に言った言葉に返ってきたのは
「中級ですか・・・下級だけなら"丙種魔術取扱許可証"だけでいいですが中級で全属性となると"乙種第一類"から"乙種第六類"の取扱許可証が必要となりますね、若しくは全属性上級まで使用できる"甲種魔術取扱許可証"が必要となります」
と、思ったよりかなりシビアな答えであった。
「えー・・・と、すいませんその参考までにその魔術取扱許可証ってどうやって手に入れば・・・」
「丙種と乙種に関しては特に資格や実務経験は必要ありませんので執政府にて試験を受けてもらった上で講習を受けてもらう事で取得できます、こちらは年に4回から6回ほど実施されてまして前回はイムチサの月に行われたので今度行われるのはソルシヨンの月になりますね」
「なんか・・・思ってたのと違うんですが・・・」
「あと複合魔法に関してはまた別種として"一部特殊魔術取扱資格証"が必要となります」
「・・・えー、ちなみにそれを持ってないで魔術使ったりしたらどうなります?」
「勿論法で規制されているのはご存知でしょうが・・・許可証が無い戦闘における魔法の行使は違法魔術行使が適用されますので身柄を拘束させて頂きます」
「・・・一旦置いておきますが冒険者になるのに必要なのは何の免許がいりますか?」
あまりの課題の大きさに挫けそうになるも当初の目的である"冒険者になる"という目的の為に心を奮い立たせる。
「特には必要ありませんが・・・まずは登録の後に"十等級冒険者"として資格者証を発行させていただきます、いわば仮免許みたいなものなのでこの町での身分の証明くらいにしか使えませんのでご了承下さい」
「え?依頼とかは受けれないんですか?」
「はい、本日登録したとして明日またここで冒険者について初回講習を受けて頂き"冒険者講習修了書"を発行致します。
そちらを執政府にお持ちいただいて申請と軽い面談を行なって頂きその後"申請許可証"が発行されますのでそちらと"冒険者講習終了証"をこちらの窓口に提出、手数料を頂いた後に晴れて"九等級冒険者"として依頼等を受けていただく事が可能です」
「手数料・・・いるんですね・・・」
「まぁ慈善事業ではありませんし許可証もタダではありませんので。
因みに銅貨10枚になります」
「・・・とりあえず登録をお願いします」
あまりにも複雑なそのシステムは思わず泣きそうになりながらもそう言ってしばらくした後に受付の女性から渡されたのは分厚い皮に焼き印が押された手のひらサイズのタグ
「ではこちらが十等級冒険者としての資格証になりますので見える位置につけておいてください。
それと明日のお昼過ぎ、2回鐘の時ぐらいに講習を行いますのでその時はまた受付に講習を受けに来た旨を伝えてください」
「はぁ・・・」
「それではまたのお越しをお待ちしております」
深々と頭を下げる受付の猫耳嬢の姿を背にもらったばかりのタグを手に外に出る。
分厚いゴムのような感触のタグを手に空を見上げれば雲ひとつない真っ青な空に燦々と輝く太陽。
剣と魔法の世界に生まれ落ち、密かに憧れていた剣も転生特典としてもらった全属性の魔法もどちらも資格が必要な上にファンタジー世界でよくある冒険者でさえも思ってたよりハードルが高かった。
「何か思ってたんと違う・・・」
そう呟きながらも今晩の宿と宿代を何とかすべくその場からとぼとぼと歩き出すのであった。
この主人公は取れた免許によって出せる戦闘力が限られる系主人公。
本気を出したら法令違反で逮捕される(情状酌量の余地ありと判断されればセーフ)
なお各職業に関しても必要な免許や許可証等々必要な上試験及び申請の上で希望の職業許可証が発行される模様。