第二章 出席のための出発
[鳴滝。用意はできましたか?]
「あ。お嬢様。」
[そろそろ行きますよ。]
「お、お待ち下さい。あ、あの。お嬢様お召し物は?」
[そんなの政専列の車内で着替えればよろしいでしょう?]
遥夢が言う政専列というのは、政府専用列車のこと。なのだが、実際には主師専用列車である。
「おーい、そろそろいこかー。」
これは真朱彌。
今回のパーティーはあまたある世界から選ばれた者が集まる、いわば、遥夢が一番毛嫌いする形のパーティーなのだが、ブガルという、遥夢たちとも親交の深い王家の主催なので無下にできないのが遥夢の苦悩するところだ。
藍蒼外環線蒼天宮駅
「おい。環状線何個あんだよ。」
「え?あ~。あんねえ。確か5種類。外環線でしょ。内環線もあるし東部環状線でしょ。学術区学生線もあるし参詣線もある。外環線はその名の通り、藍蒼の最外28区を環状運転してる路線だし。内環線は、藍蒼中央を起点として、内部12区を環状運転してる。東部環状線は、高層ビルが建ち並ぶ東部24区を環状運 転してる。学術区学生線は、学術区で学生を輸送するための路線。参詣線は信仰特区で各施設への参詣客を運ぶ路線だな。」
『玉京線等界外線は412より583番ブロックへ。スオウ線は584より623番ブロックへ入線します。』
「あいっかわらず、人多いよなぁ。これで駐車場ががらがらなんだろ?」
「各大通りは半ばホコテンだからね。」
正規がぼやく。まあ、うんざりするほどに人が居るのだから、仕方がない。ちなみに時間は14時。
一応無秩序に見えて、秩序がある。
『列車をお待ちの客様にご案内足します。第483番ブロック3628番線に政府専用列車が到着します。これに伴い、警備上の観点より同ブロック第1813号ホームを封鎖させていただきます。』
これはまだ軽い方だ。
ひどいときにはブロックごと閉鎖するのがLTRの常套手段だ。
「相変わらずな強引さだねぇ。良いねぇ。この強引さは良いよ。」
神子の良いと思うポイントはよくわからない。
「信号待ちかな。ポイント開通に手間取るかな。」
「出線ポイントは開通予約が終わってるよ。問題は入線ポイントだね。」
「なんで入線なんよ。」
「別の専用列車の連結のためだよ。軍が貸し出したらしいんだけど、時空変換に必要な装備がないからね。これに連結だってさ。」
時空変換システム
それは、蒼藍王国において世界に先駆けて実用化され、未だに技術開示がなされていない、異界間航行用異次元進行システムの総称である。
「あーあ。それってぜっったい意味ねえじゃん。」
[確かに現行軍が保有するすべての装備、装置には対時空変換対応工事が施されていますからね。]
遥夢の言葉が終わるか否か。そんなタイミングで非常に弱い。そう人間程度では関知できないであろう衝撃が列車を駆ける。
車内のデッキにつながるドアの上にある、電光掲示板の両端の表示が赤から緑に変わる。
『入線終了 対象接続を確認 進路開通につき発車します。』
そんな表示の後、窓の外の景色がゆっくりと動き出す。
政府専用列車は、SVL本線高速線を走行する一等編成より少し上の仕様で設計され、編成も一等編成と同じく45m級1000両編成である。
つまりおよそ45kmと言いたいところだが、実際には46kmを少し超えるくらいである。このため、神宮総合駅をはじめとした王国の主要駅はだいたいが、50kmのホームを持つ。だって、過走帯が要るでしょ。
ホームが終わると、すぐに窓の外は真っ白になる。亜空間における、強制転線である。
転線完了の文字とともに数字はそのままで、単位がKからMへそしてそこから、Pcへ。どんどん代わっていく。しかし、窓の外は相変わらずの真っ白である
『時空管制関係官庁管轄切り替え 蒼藍王国時空管制省→蒼玉宗国時空省』
窓の外が、白一色ではなく徐々に街の様子が見えてきた。総都玉京 全界最高の科学水準を誇る最高の街その駅を通過して、列車は山の中に入る。
玉京山脈と総称される峰峰は遥夢たちもあまり立ち入らない秘境であるが、あまり危険ではないようだ。
20分ぐらいで列車は山を抜けて、平野に降り立つ。
地平線にうっすらと町並みが見える。ここはブガル皇国。医療技術が非常に発達している国であり、現在の皇王も現役の医師だ。
ゆっくりと、街が近づいてくる。
どうやら城壁に囲まれているようだ。
その城壁の中へ列車は滑り込む中世ヨーロッパの町並みに見えてどこか近代的である。そんなブガル首都を抜け城門をくぐった。
招待状は要りません。どうぞお楽しみ下さい。