逆毒と梟(アウル)について
最近改稿した時期は、2021年11月5日です。
※この話のタイトルとトガルポル国の特殊騎士の名称を変更いたします。
(ガッツポーズしてる場合じゃねぇじゃん・・・・・・解毒剤を・・・・・・)
満身創痍でふらふらのヤマネは、爆撃によって気絶しているハクビの元へと、這いずるよう近寄る。
しかし、先程の自爆魔術で、魔力はもちろん体力もほとんど残っていない。
というより、『自爆』という魔術は、自分の体力のほとんどを魔力へと変換し、残ってる魔力と混合して凝縮し、一気に体全体から放出する術なので、反動を受けて瀕死になるのは、当たり前である。
今のヤマネには、魔力が全て失っているので、身体強化と索敵の魔術が、自然に解除されていた。
(だめだ・・・・・・意識が、朦朧と。畜生・・・・・・俺が死んだら、前と今のおやじとおふくろが死ぬんだぞ! 諦めるか・・・・・・誰か、誰か助け・・・・・・て)
「あらあらあそこに転がってるのは、魔王軍隊員を名乗ってるハクビじゃないの?
そしてぼろぼろになって倒れている君が、彼を倒したのかな~?
さっきの派手な爆発のおかげで、君らを発見できたの」
失神寸前のヤマネを元に、声を掛けて駆け寄る少女が一人。
(何? 誰・・・・・・)
「もう安心していいのよ。今手当を・・・・・・と、言いたいところだけど・・・・・・。
君は今、『逆毒』に蝕まれているかもしれないから、迂闊に薬品使えない。
すぐに、健康状態を確認するよ。『コンディションステータスオープン』」
ヤマネの首筋に右手で触れながら、少女は、左掌先の虚空から文字と数字の羅列が記載されている四角い半透明の板を生成する。
それは、魔力で出来た三次元映像だ。
少女が、ステータスと呼んだ映像を、食い入るよう読む。
「ふむふむ・・・・・・もう自然に分解されたか、最初っから受けてなかったか、逆毒と普通の毒、どちらも君の血中には無いみたい。
火傷や切り傷など全身にあるけど、命に別状は無いみたい。良かった。
・・・・・・は? 金属アレルギー? それも極度の・・・・・・よく、弓矢と刀使い相手に勝てたね!? すごい事だよ!!
下手したらアナフィラキシーショックで死んでたかもしれないのに」
どうやらその四角の映像は、今のヤマネの健康状態の情報を記載されているみたいだ。
左手の拳を握る動作をし、映像を消した少女は、布のカバンから、包帯を取り出す。
「はぁ、回復魔術使えたら便利だろうな・・・・・・」
愚痴をぼやきながら少女は、ヤマネの患部に、消毒液をかけた清潔な布で拭う。
「はい、ちょっと沁みるよ~」
次に、包帯で巻いて手当てした。
消費したこの包帯は、即効性でもあるのか、短時間でヤマネの意識が鮮明化し、体の疲労が取れる。彼女は、少女を見上げて、感謝を述べた。
「た・・・・・・助かった・・・・・・ありがとう」
「今は無理をしないで休んで~」
(誰だろう? 旅人か・・・・・・何だこいつの恰好、まんまアメリカインディアンのコスプレじゃねぇか・・・・・・)
少女の特徴。髪型は、色は銀で、襟足をツインテールにし、他の部分の毛は全て細い三つ編みに編んでいる。
肌は褐色で、頬には二字型の白いペイントがあった。体格はヤマネより少し低い。
瞳は金眼で、幼げが残る顔立ち。
羽飾り付きのカラフルなバンダナをかぶり、配色がごちゃごちゃしている鹿の毛皮のポンチョを着ていた。
耳には、ドリームキャッチャーのピアスを着けている。腕輪や首輪や琥珀の飾りなどの装飾品が、全身に装着している。
そして、少女のポンチョの胸元には、梟のマークの紋章が刺繍されていた。
彼女の得物は、木製のブーメラン。
ヤマネが、か細い声で尋ねる。
「あんた・・・・・・名前は? 冒険者なのか?
ちなみに俺は、ヤマネ フルボルト」
「自分は、コヨーテ クリントリン。王国直属の特殊騎士『梟』に所属しているよ~」
素っ頓狂な声を上げるヤマネ。
「騎士!? 騎士って、どいつもこいつも甲冑と鎖帷子で身を固め、槍と剣と弓矢しか装備する武器の選択肢が無いあの騎士かっ!?
冗談だろ!? だってあんたは、360度どこから見てもアメリカインディアンにしか見えないぞ!? それとも、休日だからコスプレして外を歩いているのか?」
「とんだ偏見!! ってか、アメリカインディアンって、何!? まあ確かに、この国に所属している騎士の大半が、君の想像通りなんだけどね~」
「大半?」
コヨーテが、長々と説明する。
「国に所属する騎士達も、全員が全員、乗馬や剣技や弓矢の才能があるわけでもないよ。当たり前だけど。
金属の鎧をがちがちに身に着けるより、身軽になった方が全力を発揮しやすいスピードタイプや、魔術や体術で戦うのが得意な兵隊もいる。
そんな彼らを活躍させるため、国は、装備する武器や戦闘服や戦闘スタイルが自由に選択できる国防兼治安維持兼暗殺部隊を結成した。それが、自分の所属している特殊騎士『梟』なの」
「おい、今さらっと、暗殺なんて物騒な単語言ったか?」
『梟』の情報は、実は何年か前クレティマンから教えられたことをヤマネは、コヨーテの長話を聞きながら、思い出していた。
「ふ~んまぁいい。説明助かる。ところで話題変えるが、だいぶ前にあんたが言ってた『逆毒』って、何なんだ?」
遠くで倒れているハクビの矢筒を、コヨーテは、掴んでいるブーメランで示しながら、再び説明を開始した。
「『逆毒』というのは特殊な毒で、吸収した者に軽い吐き気と眩暈と体の震えの症状を起こさせるんだ。ちなみに極限まで衰弱するのは別として、短時間で被毒者の血中にて自然に分解され無害になる」
野原で矢を受けた後の自分の状態と一致してんじゃねぇか、と内心呟くヤマネは、疑問を口にする。
「何だよ、それなら猛毒を扱った方が、絶対良いだろ。全然脅威じゃねぇじゃんかそれ」
コヨーテが、真摯な顔してブーメランを横に軽く振る動作をし、否定する。
「あくまでも吸収した者が、治癒魔術や薬品を始めとしたあらゆる解毒行為を一切受けてない場合のみの話・・・・・・実は『逆毒』が有するもう一つの特徴こそが、真骨頂。一番恐ろしいものなの。
それは、『解毒をはじめとする治療行為を受けた被毒者に、アナフィラキシーショック反応を起こす。それも使う治癒魔術や回復アイテムの質が高ければ高い程、凶悪なものへと変貌する』」
ヤマネが、ハクビから受けた矢の攻撃を思い出し、少しの間考え、戦慄する。
(もしも、『あの時』治療の魔術を発動したら、俺は、助からなかったのか? ・・・・・・危っなっ!!)※七話前半辺り。
「魔王軍所属を自称するハクビは、逆毒と猛毒をそれぞれの鏃に塗った矢を使い分ける戦法を取るの。
もし、二種類の毒を受けた場合、血中にある毒を直接取り除かない限り、受けた生物は、確実に死ぬでしょうね」
※逆毒と猛毒を直接混合させれば、悪質な毒液になりますが、外気に晒された場合は、即酸化して無害なものへと変化します。
説明し終えたコヨーテの首筋めがけて、側から飛んできた毒矢に対し、彼女はブーメランで小突いて易々(やす)と叩き落とす。
射出元を向いたヤマネは、恐怖で震えた。
「あんな爆発をもろに喰らって・・・・・・まだ動けんのかよ!?」
そう、彼女の視線先には、倒れていたはずのハクビがいた。彼は、満身創痍で軽く震えてはいるが、立って弓を構えているのだ。
「な・・・・・・舐めた真似をしてくれたな小娘がぁああああああああっ!!
たかが劣ったトガルポル国人の分際でぇえええっ!!
あと、もう少し・・・・・・あともう少しで幹部昇進も夢じゃなかったのにっ!!
許さん。許さんぞっ!! 我らが偉大な王のため、この国の民を私が、一匹残らず殲滅するっ!!」
絶叫するようまくし立てるハクビは、弓を捨て、先端が折れた三日月刀を構えながら、馬の足でヤマネ達めがけて迫る。
今の彼は、もう意識も混濁しており、怒りと意地だけで動いているのだ。
焦っているヤマネに反し、コヨーテは、落ち着いた様子でハクビの走り方を眺めながら尋ねる。
「君の足の動かし方・・・・・・まるで、産まれたての小鹿みたいだね。
ねぇ? 明らかに壮年のケンタウロス君・・・・・・一つだけ質問良いかな?」
彼女の言うとおり、彼の移動は、どこかぎこちない。全然走り慣れてないのが、傍から見てもまるわかりである。
「黙れっ!!」
冷ややかに微笑するコヨーテ。
「君・・・・・・本当に、ケンタウロス?」
「黙れぇええええええええええええええええええええええええええっ!!」
激高し、質問を突っぱね返すハクビに対し、コヨーテは、ブーメランを力も入れずにただ水平に投げた。
何の殺傷能力も無さそうなその木製の武器は、それだけで大爆発を耐えたはずの彼の首をあっさりと斬り落とし、その勢いを維持・・・・・・いや、加速して弾道先にある何十本の太い木々を切り倒し、数々の強固な岩を粉微塵にし、残党である八頭の鉄火羊を巻き添えにするよう瞬殺した。
まさしく災害。その攻撃は、竜巻や大嵐と見紛う程絶大な威力と範囲・・・・・・そしてヤマネが目で捉えきれない程の速度を有していた。
限界飛距離の最奥まで飛んだブーメランは、ユーターンするよう曲がる。
絶句しているヤマネをよそに、コヨーテは戻ってきたブーメランを片手で難なくキャッチ。
ハクビの体と頭が、鮮血と共に地に落ちる。
本来ヤマネは、人間の切断面を今まで見たことが無く、血には慣れていたが、酷いグロの光景に耐性が無いので気分が悪くなるはずだが、コヨーテが繰り出した規格外な破壊を目の前に、そのことすらもすっ飛んで呆然としている。
「さて、やること多いな。まずは、君を近くの村まで運ぶか。その後、ハクビの頭部を回収して、王都にいる接触感知術師班に奴の記憶を読み取らせて・・・・・・はっ?」
独り言を呟いているコヨーテが、驚嘆した。
死体になったハクビの頭部と体が、煙のように一瞬で消えたからだ。
「頸を落としたのに死んでなかったの!? それとも敵側に情報が漏れないよう、死亡した際に自分の死体を自動で消失させる術式を事前に施したの?」
慌てるコヨーテの声を耳にしたヤマネは、呆然状態が解かれ、ハクビが自陣までリスポーンしたことを察した。
(やばい・・・・・・俺の味方であるコヨーテが、ハクビの奴を倒したことによって、『敵対者を殺害した場合、タロットの任意のタイミングで、殺害された敵対者が完治された状態でその者にとっての自陣にて蘇生させる。蘇生された者は、半永久的に筋力・魔力・精神力が格段に飛躍する』という俺の祟りが発動してしまった・・・・・・!?
これって、俺のせいでもあるよな・・・・・・)
先程からコヨーテが、自分の事を暗殺部隊に入っていると聞いたヤマネは、そのことで恐怖で震えていた。
(おい。魔王軍らしい奴が無事こっから脱出できた原因の一端が俺だってばれたら、やばいのでは・・・・・・?)
※トガルポルの大半の騎士は少数派ですが、剣や槍や弓矢だけでなくメイスやスリングやアックスやボウガンも使用します。