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高原地出身のケンタウロス

 最近改稿した時期は、2021年8月16日です。

 「何者かねあの小娘・・・・・・鉄火グレネードシープ共が、主である私の制御を振り切って、奴を執拗に追うとは・・・・・。

 恐らく奴は、羊共を自分に引き付けるよう何かしたな?

 これでは、せっかくの標的である村の襲撃が、ぐだついてしまうではないか」 

 シラカバ山の中腹にて、ヤマネの故郷である村を一望できる高所で、一人の中年男性が、驚異的な視力で遠方である白樺の木の陰に潜むヤマネを眺めながら、独り言を長々と呟く。


 彼の名は ハクビ ・・・・・・特徴としては、髪と顎に生えてある無精ひげは黒で、眉毛だけ白色。恰幅が良い。アジアンテイストの鎧と兜を装着して、左手には弓、右手親指には指輪、腰には三日月刀、背中には矢筒を装備してある。

 そして何よりの特徴として、上半身は人そのものだが、下半身は小柄な馬の体で構成されていたのだ。

 そう、ギリシャ神話で登場するケンタウロスそのものである。


 弓を構え、矢を弦に引っ掛け力強く引き、射る準備を整えたハクビは不敵に笑い、見下ろす先に向かって言葉を放つ。

 「小娘よ。私が無事幹部まで昇進するため、貴様はここで羊の餌にでもなれ」



 ※次からは、ヤマネの方へと視点を戻します。

 『目に見えぬもの 耳で聞こえぬもの 鼻で嗅げぬもの 肌と舌では感じ取れぬもの

 六感の理を知る我の前では 脅威ではない 

 対象は人・亜人・獣 我が鋭敏なる心眼にて 陰に潜む怨敵よ 露になれ』

 「索敵魔術『第六感シックスセンス』」

 キビタキ直伝の索敵魔術を発動するヤマネ。

 彼女のこの魔術は、自分の周囲にいる生物の気配を、五感以外の感覚で捕捉するものだが、今の彼女の実力では、範囲の最大距離はせいぜい彼女が有する視力の倍程しかない。


 「毒を受けてしまった・・・・・・どうする? 

 魔力がじり貧な中、ただでさえ身体強化と索敵魔術を現在進行で維持して発動している上、回復にまで割いたら、本当に枯渇してしまう・・・・・・っ!

 そうなりゃ、完全に詰みだっ!!

 っていうか、あたしのちゃっちな回復魔術で、解毒できる保証もないがな!!」


 ハクビが再び攻撃する。

 ヤマネの側にある木の幹に、射出された矢が一本深く突き刺さる。

 「なぜ俺・・・・・・あたしを狙うか分からねぇが、上等だ。返り討ちにしてやる・・・・・・!!」


 担架をきったヤマネに、傍から羊の鳴き声が届く。

 チッ! と舌打ちした彼女は、すぐに立ち上がり、見通しの悪い雑木林の奥に向かって進む。

 少しでもスナイパーみたいな狙撃手からの攻撃を防ぐためだ。


 (あたしを狙った矢・・・・・・高所からじゃないとできない攻撃だ。このまま山を登れば、バカ野郎を発見できるかもしれねえ。・・・・・・が、狙撃手スナイパーって奴は、一回射撃した後、即移動する傾向にある。アニメで見た内容だがな。

 ってか、すげぇ腕前だ・・・・・・もし敵じゃなかったら弓矢の扱いを教えて欲しい所だぞ!!)

 走りながら長考しているヤマネを前に、複数の鉄火羊が横に並ぶよう立ち塞がる。

 間髪入れずに羊達の毛が、震え出した。


 それに対し、太い木の幹を遮蔽物にするよう隠れるヤマネ。

 (くそっ! 逃げ場を無くすよう俺を囲んで進んでいるな、こいつらはっ! ・・・・・・せっかくの索敵魔術が意味ねぇじゃねえかっ!!)


 そいつらの羊毛が爆発した。轟音が広範囲に鳴り響き、周辺の木々が容易くへし折れて炭になり、クレーターが並ぶよう出来、白煙が立ち昇る。

 まきびしみたいな鉄片が、辺り一面に深々と突き刺さっていた。

 ちなみになぜ羊共が、標的であるヤマネの至近距離で爆発しないのかというと、もしそれをしてしまうと、獲物でもあるヤマネが炭化し、食えなくなる恐れがあるからだ。


 爆破した羊達からお互いの距離が離れていて、その上太い木を盾にしたにも拘らず、爆風を受けた彼女は、地に何度も転がってしまう。


 爆破された羊はというと、羊毛はほとんど吹き飛んで残りも軽く焦げているが、本体自体は、傷らしい傷など無くピンピンしている。


 (俺の鞭攻撃は普通に通って、爆破は無効? 恐らく、奴らが纏う羊毛は、表面部は爆発し、基層は熱と爆風を一回くらい遮断する効果を持っているな)

 考察しているヤマネの右頭上目掛けて、矢が高速で飛来してくるが、彼女は屈んでぎりぎり回避。

 さっきの爆破によって、木々の枝が取り除かれ、見晴らしがよくなり、よりヤマネは、ハクビに発見されやすくなってしまった。


 避けられて地に刺さった矢【羽の模様が紫と白の縞】を拾ったヤマネは、鞭の振り回しで、禿げになった羊達を怯ませ、合間を大胆に通り抜ける。

 爆破できない鉄火羊など、脅威ではないのだ。


 長時間全速力で走ったヤマネの足は、限界を迎えていた。もはや感覚が、鈍り始めていたのだ。

 それに反し、だいぶ前に毒を注入されているにも関わらず、悪化する様子が彼女には無い。


 山道を登りながら活路を見出すため、有用な記憶を思い出そうとするヤマネ。

 (昔、酒飲みのおふくろとこの山を散歩したことがあったなぁ。

 もしかしたら、賊はうちの村を狙っているのかも・・・・・・つまりは、村が良く見下ろせる位置にいた方が有利だ・・・・・・そして、その場所は、俺が良く知っている!!

 毒を扱う奴だ。解毒用の薬を持ってるかもしれない。倒して頂く!!)


 目的地ができたヤマネを前に、羊毛を携えた羊達が立ち塞がる。

 そのことについて、索敵魔術を発動しているヤマネにとっては、予測できたものだ。

 遠回りする余裕があれば、羊が集まってない道を選んだであろう。しかし、今のヤマネは、体力の方が限界で、おまけに毒状態だ。長期戦は避けたい。

 だからこそ彼女は、対策がとれる相手には、真っ向から挑む。


 早口で呪文を唱えたヤマネは、羊に向かって魔術を放つ。

 「水属性魔術『ウォーターフロー』っ!!」


 膨大な水を体全体に浴びせられた羊達は、いくら毛を震わせようとも、爆発することができなくなってしまった。

 ※ただの水の魔術は、発動時に必要な魔力のコストは、炎や土に比べてかなり低い特徴がある。

 

 成人男性の腰程の背丈を持つ羊の頭部を足場にするようヤマネは足蹴にし、飛び越え、スルーする。


 「狙撃手スナイパーに見つからないよう、見通しの悪い裏道を通るか」




 ※次から、ヤマネからハクビの方へと視点を替えます。

 「小娘め・・・・・・恐らく私のいる位置を、察知したな?

 標的を見失ってしまった。別の場所に移動しよう。頂上へ向かうのも良いのかもしれない。

 全く手こずらせおって・・・・・・」

 ハクビが弓を構えるのを止め、馬の四本脚でぎこちなく歩き、坂をくだる。


 移動中の彼の背を狙うよう、茂みの奥からバチバチっと音を立ててる紫電が襲い掛かる。

 「バレバレだ。愚か者」

 三日月刀を鞘から抜いたハクビは、後ろを振り返り、そのままの勢いで切れないはずの魔術の雷を一刀両断する。


 「何だ・・・・・・あたしの使ってるナイフと同じ能力持っているのか、それ。

 話変えるが、解毒剤よこせ。持ってんだろ?」


 実は、ハクビの刀の刀身に、ヤマネのナイフの柄にある記号と同じものが直に彫られていた。

 火や水等の本来切れない物が切れることができる効果。

 駆け出しの魔術師にできることが、玄人にできない道理が無い。


 ヤマネとハクビが相対する。

 土地勘があったからこそ、彼女は敵の位置を捕捉することができたのだ。

 ちなみに彼女は、戦闘時には邪魔になるので、リュックを草むらに前もって置いてきている。

 

 「奇襲を失敗したな小娘。

 私の計画の妨害をした代償を払ってもらうぞっ!!」

 憤りを表すハクビは、刀を水平に構える。


 鞭の先端にナイフを括りつけているヤマネの背後から、羊の鳴き声が何重にも重なるよう響く。


 「ちっ! 数の利は、てめぇにあるようだな」


 「鉄火グレネードシープよ。あ奴を取り押さえよ」


 後ろに迫りくる羊共に捕まらないよう、一気に敵の懐目掛けて高速で突進し、ナイフ付き鞭を右斜めに振り下ろすヤマネ。

 毒に蝕まれている彼女にとって、長期戦になる事は避けたい。

 つまり、すぐに決着を着ける気だ。


 力強く振られたヤマネの鞭の一撃は、音速を優に超えていた。

 鞭の先端にある鋭い刃が、ハクビの喉元に勢いよく迫る。

 そんな俊敏な鞭を。

 「舐められたものだな」

 ハクビは完全に見切っており、横薙ぎで的確に切り落とした。

 ナイフが、草むらに音無く落ちる。


 「なっ!?」


 「鍛え抜かれた鋼が、ただの革に負けるとでも?

 残念だが、ここでお別れだ」

 大幅に踏み込み、返す刀で、呆然としているヤマネの首目掛けておもいっきり彼は、刀を振るう。

 

 そして、結果としてヤマネの首に鋭い刃が届いたのだ。



 「なっ!?」

 ただし斬れてない。触れてもいない。


 なぜなら今、ハクビの刀の刀身は、分厚いスライムで包まれているからだ。

 これでは、鈍器よりも殺傷能力が無いではないか。いくら流動体や化学反応を切り裂ける刀でも、衝撃を吸収し、刀身そのものに絡みつく特性を有する物には、刃が通りにくい。


 不敵に笑うヤマネ。

 「おいおい、刀に魔術の記号を刻んだあんたなら、すぐ気づけんじゃねぇの?

 実はこの鞭の持ち手にも、あらかじめ記号を記しておいたっ!!

 切れない物を切る効果じゃねえ・・・・・・この鞭を壊した得物に、粘着性が高いスライムが自動で生成され纏わせるのをなっ!!

 そして、これあんたの物だろ? お返しするぜ!!」

 次に彼女は、腰の左側のベルトに差しておいた矢【羽模様が、紫と白の縞】を抜き出して掴み、ハクビの首筋目掛けて振り落とす。

 その矢の鏃には、透明な液体が塗られていた。


 実は、ヤマネは迷っていた。

 亜人とはいえ、人に手を掛けることが、どうしても嫌だったのだ。

 冒険者には、憧れていたが、人殺しにはなりたくない。


 もし、タロットの祟りが無ければ、ヤマネはいつまで経っても敵にとどめをさせなかっただろう。

 皮肉にも、『敵対者を殺害した場合、殺害された敵対者が完治された状態でその者にとっての自陣にて蘇生される』という戦闘においてデメリットしかない祟りが、彼女の背中を押した。


 【どうせ殺害しても、相手は無事生き返る】

 その思考をよぎったヤマネのたかが外れる。

 故に、村を脅かすかもしれない敵を、遠慮なく攻撃できるのだ。


 まあ、結果から話すが、今掴んでいる矢が、ハクビ討伐の決定打になることは無い。


 なぜなら毒矢を振るうヤマネの腕めがけて、何の突拍子も無く狼が迫り、噛みついたからだ。


 (痛っ!? 何こいつ? どこから湧いた? このおっさんが使役してるモンスターか?

 興奮してるせいか、あたしの索敵魔術の性能が格段に落ちてたんだな。クソがっ!!)

 ヤマネは、喰らいついてくるこの狼を、ハクビが操っていると思った。

 しかし、それは違う。なぜなら、彼自身がこの状況に戸惑っているからだ。


 (この山に元から生息してる狼かよ!? よりにもよって今!?

 くそっ、これじゃあとどめさせねぇじゃんっ!!

 早くしないと・・・・・・)


 噛まれた腕から、微かな血が零れる。

 天敵であるはずの狼を見かけても、突き進むのを止めずヤマネ目掛けて集まる羊達。


 このままじゃ、せっかくのチャンスが無駄になってしまう。


 不利な状況に、ヤマネは千切れた鞭を捨て、ハクビの首を掴み、何故か自棄気味に笑う。

 『弾けろ 爆ぜろ 火薬ではない奔流してる魔力で

 我自身に再現せよ 威力は絶大』

 

 彼女の呪文を耳にした途端、ハクビは、顔を激しく歪め、錯乱しては命乞いをする。

 「小娘!? 血迷ったか! やめろ! 解毒剤もくれてるからやめてくれっ!!」


 「もう遅いっ!! 魔力放射魔術『セルフエスクプロージョン』っ!!」


 術名をヤマネが口にした瞬間、轟音が山中に鳴り響き、爆風が周囲の土砂を巻き上げ、木々を十数本単位でへし折る。

 そう、彼女自身から爆発が起き、ハクビと羊達と狼を巻き添えにした。


 衝撃をもろに受けたハクビ共は、吹き飛ばされ、地に伏せている。

 ※鉄火グレネードシープは、火気に触れると爆発するが、実はヤマネが繰り出した魔術の爆発は、本質は燃焼ではなく純粋な魔力の凝縮及び放出なので、引火しませんでした。


 自爆したヤマネはというと、同じく焦げてはいるものの、四肢が爆散することも息の根が止まることも無く、意識を保ったまま仰向けで倒れていた。


 ぼろぼろの拳を握り、晴天に向かって突き出すヤマネ。

 「勝った・・・・・・・・・・・・勝ったぞぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」


 

 

   

 ユ〇チューブからの情報ですけど、振るわれる鞭の速度は、意外と簡単に音速を越えるそうです。

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