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魔刀『鋼八手の団扇』VS聖鈴(ホーリーグングル)

 荒らされたフィールドは、戦いと戦いの合間にて、審判であるウラヌンタイスの土属性魔術によって、元通りになるよう整地されます。

 

 『さあ長らくお待たせしました。たった今、ライフラインさんが結界の補修及び強化を終えたそうです。

 サルタヒメ選手とナンディン選手。どうぞ位置に着いて下さい・・・・・・』

 フィールドにて二人の女性が移動し、中央で立ち止まり距離を取る形で向かい合った。


 自信満々に胸を張る山伏姿をしたサルタヒメとおどおどして俯いているサリーを身に着けたナンディンが、傍から見てわかりやすい対比になっている。


 『第二回戦・・・・・・始め!!』


 速攻で大太刀を抜刀し、ナンディンの首を狙うサルタヒメ。

 彼女の移動スピードは、突出したものだが、ナンディンが対処できない速度でもない。

 とりあえずナンディンは、防御魔術を発動させるため両足に取り付けた鈴を鳴らして舞おうとした。


 「がんばれ派手な服来た嬢ちゃん!!」


 「ミステリアスで素敵だぞぉお!!」

 

 「この大会が終わったら、自分とお茶でもどうかな?」


 ナンディンの美しい姿に称賛の野次を飛ばす野郎共・・・・・・だが、その応援が彼女の緊張を急激まで高めることになる事を傍からは、知る由も無い。

 恥ずかしがりの彼女は、応援によって頭が真っ白になり・・・・・・。


 「キャッ!」


 足がもつれて倒れてしまったのだ。ただ怪我の功名か、それによりサルタヒメからの凶刃を結果的にだが避けることができた。


 「・・・・・・ええ・・・・・・」

 初っ端から自分のドジによってピンチに陥っているナンディンに、彼女は困惑し、呆れ果て・・・・・・。


 「まあ戦の達人である優秀なわしの前では、立つだけで臆して転ぶのも分からなくは、無いがな!!」

 なぜか胸を張って攻撃の手を止めていた。


 その隙を目にしたナンディンは、急いで立ち上がり、相手から距離を取って、顔を真っ赤にしながら自分の服についている土埃を叩いて掃う。


 「さて、魔術を使わずとも貴様に勝てると自負するが、せっかくだ。

 誇り高き鞍馬族の隠された力を披露して差し上げようか・・・・・・!!」

 一旦大太刀を納刀し、低姿勢を取り、抜刀の構えを取り始めるサルタヒメ。


 対して、手首や表情をゆっくり動かして魔術を発動しようとするナンディン。


(サリー服の相手は、詠唱や魔方陣の代わりに舞いで、自身の魔術の精度を底上げするタイプなのか?)

 

 先に仕掛けるのが間に合ったのは、前者。

 ナンディンの背後から突風が吹き荒れ、彼女の身体を術者の間合いまで無理矢理運ぼうとする。

 その威力たるや、ストゥムが使用するバグパイプの起こす風よりも強力だ。まさしく大気の砲丸。

 戦士と言えど生身の人間がこれを対処できるのは、少数派だろう。


 「貴様よりわしが強いのが大前提だが・・・・・・実力者とお見受けする。手を抜かず勝利を頂かせてもらおうか・・・・・・!!

 妖剣術『逆風 迎え居合』」


 鞘から再び大太刀が抜かれたタイミングで、ナンディンの方も慌てて魔術を発動させる。舞踊などの下準備無しで。

 膨大な水がサルタヒメの傍で生成されたかと思えば、すぐに彼女を押し流す。

 迎え撃ちを狙う抜刀が失敗した。激流からなんとかもがいて脱したサルタヒメは、四つん這いで息を切らしている。

 すぐに不自然な水が引いて消失する。


 (なんだ・・・・・・この威力はっ・・・・・・!? 見くびっていた!!

 まずいぞ、恐らく舞踊や詠唱など終えた魔術は、先程の猛攻とは比にならない位危険な物になるだろう!! 絶対にあ奴に踊りの隙を見せてはいけない・・・・・・っ!!)

 急いで立ち上がる彼女。さらにこちらから距離を取ろうとするナンディンを捉えた。


 立ち止まっては、再びダンスを始める彼女。前とは違い情熱的なターンを繰り返す激しいものへと繰り出す。


 「ゲホゲホッ、しまった・・・・・・!!」


 「ゴニョゴニョ(『カタ アグニ』)・・・・・・!!」

 術者の前方を起点に、迸る超高熱の火炎が地面から勢いよく噴出したかと思えば、フィールドのほとんどを瞬時に埋め尽くすよう延焼する。このままでは、二秒後にサルタヒメの火だるまができあがるだろう。


 「妖歩法『帆風ほかぜ』!!」

 術名をサルタヒメが唱えた後、強い風が生じ、サポートするよう彼女の背を押す。

 いわゆる自分の機動力を底上げするための魔術だ。

 まず彼女は、ナンディンに背を向けて走る。


 「すげえ!! あの美少女、忍者みたいだぜ!?」

 驚嘆の声を上げた一人の観客。今サルタヒメは、ほぼ垂直であるフィールド端の壁を足場にして問題なく駆け抜けている。

 そしてある人達がいる所までたどり着いたのだ。


 『おや、サルタヒメ選手・・・・・・なぜ、私とライフラインの元に・・・・・・まさか!!』

 武闘大会出場者には、暗黙と言うか当然のルールがあった。

 それは、『審判係を始めとする闘技場のスタッフを攻撃してはならない』ものがある。彼女は、ナンディンの事は詳しく知らないが、まさか審判達を自分の魔術に巻き込むことは無いだろうと予測を立てる。


 「ふぅ、何とか避けきれた・・・・・・」

 その予測は、当たっていた。ナンディンが繰り出した火の手は、彼らには届いていない。

 『いやずっと私達の傍に立っても決着つかないぞ!? ほらさっさと行って下さい。

 それとも・・・・・・まさか審判であるこの私を人質に!?』


 呆れのため息をつくサルタヒメ。

 「そんな訳無かろう。一時的な避難だ。すぐに離れるよ

 妖術『霜風』」

 広範囲を埋め尽くす灼熱の大地に、氷点下の強風が上空から吹き荒れる。

 凍結により、短時間で全域では無いがかなりの範囲を消火した。

 ※氷属性の魔術と思しき『霜風』ですが、実は、吹かれたものの熱を瞬時に奪い去る効果を持つ風属性の魔術です。


 フィールドの鎮火を確認したサルタヒメは、『帆風』の出力を最大限までアップしてナンディンの元まで急接近する。同時に相手の背中に大気の砲丸を激しく衝突させようとと仕掛ける。

 今の彼女は、動体視力の高いヤマネでさえも目にも止まらない速度で移動している。


 「妖術『刃風はじん 居合鼬いあいいたち』」

 鮮やかな抜刀の素振りを繰り出すサルタヒメ。外に晒された大太刀の刃から鋭い真空の刃が射出された。

 驚くことなかれ、その速度は音速すら上回る。


 前方には風の刃、後方には大気の砲丸。目に見えない脅威の挟み撃ちに、ナンディンは逃げ場がないと思われていた。


 しかし彼女は、すんでのところで空中側転で華麗に回避し、すぐさま舞踊を始める。

 今回のは、胴体上部を動かさずに片膝を曲げてゆっくり足運びで表現するものだ。

 「『ゴニョゴニョ(カタ ウ゛ィシュヌ)』・・・・・・!!」


 「ふん! これを避けるとは・・・・・・な!?」

 驚き即座に周囲を見渡すサルタヒメ。彼女の周囲には、魔力で構成された武具が、宙に浮く形で大量に並べられている。

 チャクラム・法螺貝のこん棒・錫杖・ジャマダハル(短剣)・ウルミ(鞭みたいな剣)・弓矢・矛・新月刀・・・・・・。


 (こんな多種多様で膨大の量の武具を瞬時に具現したとでも言うのか!?)


 「ゴニョゴニョ(本気で行きますよ)・・・・・・!!」

 同時に宙を舞う大量の武具が、対戦相手に容赦なく殺到する。

 どれも鋼鉄すら破壊・切断する程の威力を秘めているのた。


 「妖剣術『大黒風』!!」

 ターンするようおもいっきり虚空を薙ぐ動作をするサルタヒメ。

 彼女の立っている場所を中心にするよう、大量の砂塵を巻き上げる激しい竜巻を発生させる。

 相殺されたとまでは言わないが、確実に射出の勢いを削がれるナンディンの大量の武具。

 

 こちらに接近した法螺貝のこん棒を強引に奪取したサルタヒメは、自前の大太刀と共に次々と相手の操る武具を叩き落として無力化する。


 これで攻撃の手が止まるナンディンではない・・・・・・舞踊を続行している。

 それが条件といわんばかりに虚空に矢継ぎ早に武具が生成されては発射される。

 もしサルタヒメが『帆風』の魔術を解いていたら、絶対に対処できなかったであろう。

 それでも・・・・・・。


 (くっ・・・・・・! このままでは、ジリ貧だ・・・・・・やはり本体を叩かねば・・・・・・!!)

 数多の凶器をかい潜りながら、全速力で相手の方へと向かうサルタヒメ。


 それに気づいたナンディンは、舞踊の身振りを変える。

 「『ゴニョゴニョ(カタ ナーガ)』」

 サルタヒメが間合いに詰める前に、猛毒の濃い霧が、発生し、ナンディンの前に漂う。

 急停止した彼女は、術名を唱えた。

 「妖術『嶺渡ねわたし』!!」


 ナンディンの頭上から暴風が吹き荒れる。毒霧が散らされてしまったのだ。

 不意に相手からの風攻撃を受けたことで、彼女の舞踊を妨害されてしまったことにより、飛び交う武具が存在を保てず煙のように消失した。

 もちろんサルタヒメの左手にある法螺貝のこん棒も消え失せる。


 (流石に強いですね・・・・・・とっておきの魔術を発動させたいですが、無理ですね。

 無理です無理です!! だって発動条件があんな・・・・・・あんなはしたないものなんて。

 間違っても公衆の面前に披露したら・・・・・・恥ずかしくて死んでしまいます!!)

 距離を取りながら長考するナンディン。

 そんな彼女の耳に・・・・・・。


 「がんばれぇがんばれぇ。サリー姿のお姉さん!!」


 「おや~♪ ヤマネさ~ん♪ なぜかナンディン選手~の肩を~持つんですか~♪?」


 「ああ、ご主人様は、この前あの微乳ねーちゃんと一回会ったことがあるんだ。その時のポーズといったら・・・・・・!!」


 「おいばらすなよチャールズ!!」


 微かにだがヤマネ・チャールズ・ルイスの会話が届いた・・・・・・その内の二人の声は、彼女にとって聞き覚えのある者だった。


 (・・・・・・そうだ。あの時、見知らぬ仕立て屋の方があんな恥ずかしい姿勢を見られても堂々としていた・・・・・・私も、胸を張って堂々と生きたい!!)


 「この技は、わしら鞍馬族が伝わる奥義だ、直に拝見できることを光栄に思うがいい・・・・・・!!

 妖剣術『天狗風 天上焼夷』

 一旦大太刀を鞘に収め、抜刀の構えを取るサルタヒメ。今の彼女の周囲には、・・・・・・いやフィールド全体に強い嵐が奔流している。


 「・・・・・・私も全力で行きます!!」

 発されたその言葉に、司会者・神官・観客全員が驚愕した。

 誰の言葉か・・・・・・それはもちろん。


 「貴様ちゃんと喋れるではないか!?」

 ナンディンにつっこむサルタヒメ。


 「先程まで口ごもった会話をして申し訳ございません。ただ、名も知らない方に背中を押されて勇気が出ただけです。実は、本当に倒れたいぐらい恥ずかしい・・・・・・」


 「勝手に倒れても良いのだが・・・・・・?」


 「それは、できかねませんね。私も勝ちたいので・・・・・・」

 倒れるよう上体を勢いよく仰け反るナンディン。次にそのまま両掌を焦げて霜が付いている大地に着けた。そう、今の彼女の体勢は、ブリッチだ。


 (うう、恥ずかしい恥ずかしい・・・・・・!! でも私は、変わるんだ。殻に閉じこもってばっかりの自分に・・・・・・!!)

 「『カタ ガルーダ』!!」

 そう術名を唱えた瞬間、ナンディンの身体から魔力が勢いよくほとばしった。


 (ガルーダ。おそらく迦楼羅かるらに関する術を発動させようとしているな・・・・・・?

 ・・・・・よりにもよって、わしの前でそれを繰り出すのか・・・・・・おもしろい!

 早めに仕掛けねば・・・・・・しかしこの術は、発動するまで時間がかかる!!)


 実は、『天狗風 天上焼夷』よりも『カタ ガルーダ』の方が発動に要する時間が短い。


 このままでは、準決勝に進むのは、ナンディンの方だろう。本来ならば・・・・・・。


 「ナンディン。立派よ~」


 「なあ見てくれ! 今活躍している選手は、わたしの娘なんだ!!」


 ナンディンの術が解除された。

 いきなり対戦相手が力を捨てたことにより、驚いたサルタヒメも意図せず風魔術を中断する。


 「・・・・・・なんだ? 唐突に迸った魔力が消えた・・・・・・?」


 ナンディンの視線先には、観客席で応援しているサリー服を身に着けた婦人とターバンを頭に巻いたおじさんが見えた。


 「な・・・・・・なんでお母様とお父様が・・・・・・?」

 そう言ったナンディンは、ブリッチの体勢を維持したまま、ピクリとも動かず黙り始めた。


 試合中にも関わらず、何の言動も仕掛けない相手に、サルタヒメも何事かと迂闊に手を出せないでいる。


 おそるおそるナンディンの方に歩み寄る審判ウラヌンタイス。

 『ナンディンさ~ん、大丈夫ですか? ・・・・・・・・・・・・え、まじ?

 ・・・・・・・・・・・・勝負あり。ナンディン選手失格。よって勝者、サルタヒメぇええええええええっ!!』



 「「「「ええええぇええええええええええええええええぇええええええええええええっ!!??」」」」


 『待機中のスタッフの方。なぜか気絶しているナンディン選手を医務室へ・・・・・・』

 その言葉を耳にした上記の婦人とおじさんも慌てて医務室へと向かう。


 「ちょっ・・・・・・」

 ウラヌンタイスにつっかかるサルタヒメ。

 対して面倒くさそうに対応する彼。

 「ちょっと待ってくれ!? なんだその・・・・・・えっと・・・・・・微妙な結果は!? 消化不良極まるぞ!!

 今からわしのとっておきの魔術を披露しようとしたのに、何だこれはっ!?

 激しい戦いでたかぶってしまったこの闘志をどこにぶつければいいというのだ!!」


 『いや仕方ないですよ。対戦相手気を失っているし。

 それとも何ですか・・・・・・? まさか闘うこともできない弱った相手に奥義をぶつけたいと・・・・・・?』


 「う・・・・・・!? そう申されると何も言い返せぬな・・・・・・。

 分かった。その鬱憤は、次のタツミ殿との闘いで晴らさせて頂こうか」


 (タツミ・・・・・・? 次のサルタヒメ選手の対戦相手は、ウォールナッツ選手のはずでは・・・・・・?)


 首を傾げる司会に背を向け、長考しながら選手専用席まで歩くサルタヒメ。


 (・・・・・・徹頭徹尾慎ましい小娘であったな。

 わしも少しくらいは、謙虚になっても良いか・・・・・・)

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