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獣人もエルフもミツバチの巣の中で何もしないごくつぶしのミツバチに似た働かざる者を憎んでいる♪

 タペストリーの特徴:赤髪のハーフエルフ 耳は少しだけ尖っている 服装は赤いローブの上に分厚いカラフルなマントを羽織っている 筋肉質 身長はルイスより高め

 『パパママ、本当にボク、戦士にならなくて良かったの?

 みんなに黙って荷物を運んでエルフの村に行くって・・・・・・』

 真夜中の出来事、一枚岩谷の底にて、チャールズと彼の両親が夜逃げしていた。

 父母の方は、各々大量の荷物を積んだ荷車をいている。


 もちろん彼の父母も、種族は袋鼠カンガルー族だ。


 『チャールズ。君は、族長様クソジジイの言いなりになって戦士になりたいのかい?

 違うだろ? いつか地主になるって熱弁したじゃないか! 君の夢は、そう簡単に諦められるものなのかい・・・・・・?』

 優しく諭す彼の父に、チャールズは首を横に振る。

 『諦められないよ! 地主になって楽に金儲けして美人で巨乳のお姉さん達と毎日イチャイチャしたいよ!

 でも・・・・・・ボクのわがままの為にパパママまで引っ越すのも嫌だよ。

 ボクにとって、大切なのは、パパママだけだからね』


 しょげて頭を下げているチャールズに、母の方もにっこり笑って穏やかに語る。

 『私も、そして父さんも坊やと同じよ? 家族の幸せが自分の幸せなの。

 だからこそ、坊やが我慢することはママも反対だわ。その事に比べたら、引っ越しくらいどうってことなくってよ』


 『パパ・・・・・・ママ・・・・・・っ!!』


 『そこまでだ・・・・・』


 自分の両親からの励ましに、感動して涙を流すチャールズ。

 そんな彼らの前に立ち塞ぐのは・・・・・・。


 『クソジ、族長様!? なぜここに!!』

 松明を掲げている部下二人を引き連れた赤い羽根の冠をかぶっている老人だ。

 いつの間にか、チャールズ達の背後と左右の谷の上にも大勢の戦士達が現れ弓を構えている。


 『囲まれた・・・・・・!』

 

 『やってくれたなお主ら・・・・・・その子をどなたと心得る・・・・・・。

 先祖代々語り継がれた存在とされる伝説の魔力を具える天賦の戦士じゃ!

 貴様らの一存で勝手に我が村から連れ出して良い存在では断じて無い!!

 今、大人しくその子と荷物を渡すなら、命までは奪いやせぬ・・・・・・』

 

 『ボク・・・・・・大人しく』

 観念して族長の元まで歩み寄ろうとするチャールズを庇うよう、彼の父が前に出る。


 『それが貴様らの答えか・・・・・・?』


 『チャールズの道は、彼自身が決める!! 肩書でしか威張れないクソジジイの操り人形じゃないんだっ!! 

 かかって来い老害!!』


 迫真の表情で怒りをぶちまけた彼の父に、数多の矢が殺到する。




 ※次からは、時間を現在まで戻して視点をヤマネの方に変えます。


 「サインして下さいっすよ~」

 

 「な、何だい君は!!」


 前に出て、左手を背中に回し、右手に色紙を掴んでタペストリーに押し付けるヤマネ。

 そんな様子に呆れるルイスだが、彼は彼女の左手が前後に虚空を軽く掻いている仕草に気付いたのだ。

 そう、それは『嫌な相手は、私が相手するから、貴方は宿屋に入って避難してくれ』というハンドサイン。

 フッ とほほ笑むルイスは、ヤマネの無言の言葉に甘えるよう後方へと向かおうとした時・・・・・・。


 「何が 別に仲間の家族が侮辱される程度で ?

 本気で言ってるのお兄さん・・・・・・?」


 「チャールズ・・・・・・?」


 幼げが残るチャールズから、僅かだが怒りが滲み出ていることに、エルフ二人とそして前から連れ添っているヤマネまで戸惑ってしまった。

 まさか、性根が腐っている彼は、他人が侮辱されることに怒っているとでも言うのか?


 「家族を侮辱されることが、無条件で許されるような事だと思っているの?

 それは違うよ。問答無用で殺されても文句は言えない位の大罪だ。

 血も繋がってないただの友人や仲間、見ず知らずの赤の他人・・・・・・そして」

 一瞬だけヤマネの顔を流し見する彼。

 「果ては、自分に危害を加えたはずの敵にすら信頼や親愛を示すことなんて、ボクにはわからない。

 でも! なんで平気な顔で相手の親をバカにすることができるなんてもっとボクには理解できない!!」


 長いチャールズの吐露に、タペストリーは肩を竦めて面倒そうに返答する。

 「何をそんなムキになっているんだい! 首輪、見た所君はルイス・・・・・・違うかルイスは奴隷を従わせるような奴じゃない・・・・・・余所者の奴隷だね?!

 自分の立場を弁えて発言してくれたまえ! 君みたいな人が高貴なエルフの血を持つボクに」


 「喧嘩は駄目ですよ! タペストリー様!!」

 明らかに不機嫌になったタペストリーに、彼の背後から誰かが叱りつける。


 「・・・・・・マルセイユさんか!」

 背後に振り返ったタペストリーの視線先には、水晶を抱えている艶やかな黒髪をなびかせている美麗なエルフの女性がいた。外見的には、二十代いくかいかないかだが、もちろんエルフなのでヤマネと比べたら遥かに彼女より実年齢が年上のはず。

 淵に金色のヘブライ文字の羅列の刺繍が施された青いケープと法衣を身に包んでいる淑女は、正義感を滲み出すよう言い放つ。

 「ウサギみたいな耳を持つ少年のおっしゃる通りです。タペストリー様、別の場所から参られた方々やルイス様に喧嘩を売るような行為は、お止めなさい! と何度も口を酸っぱく申しているはずですのに・・・・・・」

 

 丁寧な口調で怒られたタペストリーは、そっぽを向いた後、 ごめん! と呟き、そそくさと傍にある梯子で地表まで降りて逃げる。

 ただ、謝っている時の彼は、悲しそうな表情と同時に頬を赤らめていた。


 「アルフヘイムの代表として謝罪させて頂きます。申し訳ございませんね。彼はどうも他種族に関しては排他的で・・・・・・どうか許してあげてくれませんでしょうか」

 

 「大丈夫っすよ。でもサイン欲しかったな~。

 ところであんたは?」

 髪を軽く掻いているヤマネの不躾な言葉に、ルイスが嗜める。相変わらず妙な曲調付きで。

 「失礼ですよ~♪ヤマネさん。彼女は~この村を代表する占術家~ここの村長の娘であり~タロッッターチェア神殿の巫女様と肩を並べる国お抱えの~予言者なのです~♪」


 「良いのですよルイス様。むやみに敬られたりするのは、こんな自分は、苦手なのです。

 確かに自己紹介は、まだでしたね。

 こんな私の名は、マルセイユ ダージリン 。ルイス様のおっしゃった通り占い師で、この村の方々を占術で導くのがこんな自分の仕事です。自慢ですけどたまに国の御偉い様方からも依頼が来ます」


 「あたしは、ヤマネ フルボルト、です。横にいんのは、チャールズであたしの連れだ、でございます。

 さっきは、平民のくせに失礼な喋り方して悪かったです。

 ところで偉大な占い師さん・・・・・・サインもらえま」

 ルイスが荒くオカリナを吹いて妨害する。


 「あははは、愉快な方ですね。タペストリー様の代わりのお詫び・・・・・・というわけでは、無いのですが、何か占いたいことがありましたら、是非こんな自分の元へお越しくださいね。

 この村中央にそびえ立つ巨樹の上の家に住んでいますから」

 手の平をヤマネの方に差し伸べるマルセイユ。

 ためらわず握手するヤマネ。彼女の手は、とても温かった。


 「・・・・・・・・・・・・ああ、今のところ大丈夫です」

 少しの間沈黙したヤマネは、手を離す。


 「長い旅路でお疲れでしょう。宿屋代は、不肖ながらこんな私が立て替えさせていただきますね」


 「え、あ、ああそんな申し訳・・・・・・え~とせっかくですからマルセイユさんのご厚意に甘えようっすかね」


 ヤマネ一同は、例の宿屋に入る。チェックインは、マルセイユが全部やってくれた。ちなみに彼女に話しかけられた店主は、かしこまるも尊敬の眼差しのまま対応する。


 「ぜひおくつろぎくださいね。失礼ですがこんな私はこれで・・・・・・」

 そう言ったマルセイユは、踵を返し・・・・・・。

 「きゃっ!」

 躓いた。水晶の方は、落下時に派手な音が鳴ったが一目でわかるようなきずは幸いできてない。

 ルイスは、急いで倒れている彼女を起こし、ヤマネは、慌ててウッドデッキに転がる水晶を拾い上げる。

 チャールズの方は、ボク関係ないもんねと言わんばかりに両手を後頭部に回し、左足裏で右膝をのんきに搔いて欠伸している。


 いろいろわちゃわちゃしたが、地球基準で数分後にヤマネ達は、やっと宿屋で一息つく。

 部屋を主人と分けて欲しいとまくし立てるチャールズだが、余計な出費を他人にさせたくないヤマネが却下。今しぶしぶ顔の彼と同じ部屋でくつろいでいる。

 ルイスの方は、宿屋の近くにある実家に帰っている。

 食事スペースは一階の西側。晩飯のメニューは、蜂蜜で味付けしたラム肉のソテーと蜜の味が強めなグラノーラとハニーヨーグルトと蜂蜜酒。


 睡眠前の会話。

 「羽毛のベットだね、ふっかふか!」


 「チャールズ。気持ちはわかるがベットの上で跳ねるなよ。借りもんだぞ!」


 「あ~はいはいわかったよご主人様。・・・・・・・・・・・・すー」


 「もう寝たのかよ。よっぽど疲れてんのな。・・・・・・ただ寝ている姿 は 、無邪気そうで可愛いんだけどな・・・・・・」


 (そういや、タロッタービルァにいたハインリッヒさんも、この村の出身地なんかっすか?)

 

 翌日。朝食メニューは、蜂蜜たっぷりかけたトーストとカヌレ・ド・ボルドーと蜂蜜入りミルク。


 「何この蜜料理ラッシュ? ボク食べ飽きたんだけど」


 「こんなにおいしいのに、文句ばっか言いやがって!! 店主さ~ん、この宿に蜂の子の料理ありませんか?」


 「すいませんでしたご主人様!! 虫を食べさせるのだけは、勘弁してください!!」 

 

 この村に来てから日を跨いだ時。ヤマネは、一睡だけで体力を全回復したが、チャールズは長時間移動に慣れてないのでまだ疲労が尾を引いている。


 「は~い、丁度塩で味付けした蜂の子完成! サービスだ思う存分食べな!!」

 腰にエプロンを巻いたエルフが、にこやかに額に青筋立てながら焦げ目がついた山積みの【※規制済み】をトレイに載せてこちらに歩み寄ってくる。


 「いやいやいらないって言ったでしょもうこんなしみったれた宿にこれ以上いられるかってご主人様何ボクを羽交い絞めにして嫌ヤダ虫だけは喰いたくない誰か助け・・・・・・」

 身動きが取れない彼の口の至近距離までグロテクスな料理が近づいた時の事。



 「敵襲だぁあああああああああっ!! レッドスパロウビーが大量にこの村にやってくるぞ!!

 戦士達や冒険者らは、東に向かって来てくれ! 他は避難してくれ! 避難場所がわからない行商人は、女子どもについて行け!」

 窓越しに宿の外側から怒鳴り声が届いたのだ。

 衝撃的な叫びに、つい蜂の子を掬ったスプーンを落とす店主。←ウェイターは別に雇っていますけど。

 「ありえねえっ!! マルセイユ様が張った結界があるんだぞ!? なんで魔物ごときが襲撃できんだ!

 よりによってスパロウビー・・・・・・南側には蜂園があるっていうのに!! ・・・・・・このままじゃあミツバチは全滅だ!」


 上記の叫び声を耳にした瞬間に、ヤマネは流れるような動作で迷彩柄のバックから牙の剣を取り出し、呪文を唱えながら出入口に最高速度で向かう。

 例え自分の受けた祟りのせいで魔物の群れが来襲したとしても、それによって罪悪感で足を止める弱い彼女は、もういない。


 「ヤマネお姉さん・・・・・・」


 「 『この血は 激流 この筋は 強靭 この肌は 鉄壁 この臓は 優秀 この感は 鋭敏

 程度は微 全身に緩やかに魔力を流し 我は膂力と機動力と防御力と索敵能力を得る』 付加魔術『身体(フィジカル)強化ストレングス

 チャールズ! 店主のおっさんといっしょに避難場所に向かえ!!」


 宿屋から外出したヤマネの瞳にまず映ったのは。

 「・・・・・・思ったよりも多いな・・・・・・」

 成人男性より一回り程大きい蜂が、群れを成して村の上空を飛び回る光景。

 鋭利な顎・ミツバチより体長が長い・・・・・・日本人ならわかるだろう。蜂の中でも凶暴と謳われるスズメバチだ。ただその通常種と違うのは、赤みがかっており遥かに巨大だということ。

 モンスター蜂の翅は、爆音としか言いようのない羽音が飛んでいる間に炸裂する。


 「まあでも一個体のランクはせいぜいE+だろ。外回りから削ってやるぜ!

 『我は淫魔の弟子 誘惑の瞳 甘美な香 淫靡な唇 蠱惑な様

 国を傾ける女狐よ 蜂を誘う蜜みたいな魅力を 我に魔物を寄せるフェロモンを ご教授願う』

 香り魔術『魅惑チャーム』改め『糖蜜ハニー魅惑トラップ』!!」


 何かみょうちきりんな詠唱を唱えたヤマネ。

 術が発動して即刻影響が一目でわかるよう出た。


 「何? 何をしているのかしらあの不遜無礼ザコ。伯爵の影響でエムに目覚めた? 祟りを受けてるのにこれ以上縛りプレイするの? 怒涛に舞い込んでくるピンチでとうとう頭がいかれたか」

 ヤマネが繰り出した新術は、冥界からこの事を傍観していたタロットがまゆをひそめる程奇怪なものだった。


 エルフの村人を空から襲ったり南に向かうモンスター蜂全体が同時にヤマネの方へと向いたかと思えば、一斉に彼女に殺到し出したのだ。

 『糖蜜ハニー魅惑トラップ』・・・・・・異性を近寄らせて落とすため術者自身からフェロモンを大量に醸し出す魔術『魅惑チャーム』を改良したもの。

 その効果は、タロットから受けた祟り『※常に対象者から、食人動物や食人魔物にとって食欲を刺激させるような匂いを発する』を一時的に悪化させるものだ。

 これにより、ヤマネの匂いを捉えた食人魔物であるレッドスパロウビーは、近くにいるエルフやミツバチより積極的に彼女を狙うことになってしまう。

 

 ウッドデッキの柵上に足を載せたヤマネは、力強く跳び、一番近くで飛来する蜂の翅根本を牙の剣で斬り落とす。返す刀で二頭の敵の腹部を一閃で薙ぐ。

 飛ぶ力を失った個体が草むらに墜落して無様に暴れる横に、紫の血で染められた無残な二つの死体が転がる。

 誰も渡ってない吊り橋の上まで着地するヤマネ。橋が激しく揺れる。地表にいる三頭の蜂が、急上昇して狙ってくる。

 次に彼女は、吊り橋の片端まで走り、それの縄を躊躇なく切り落とす。

 当たり前だが引っ張って支える力を失った吊り橋は、倒れるよう垂れ下がってしまう。

 崩れる吊り橋の床板を左手で掴むヤマネは、振り子の要領よろしく、倒れる橋の勢いに乗って三頭の蜂を軽快に次々に斬り捨てた。切られた橋の端が地面に擦れる。

 その後巨樹の幹に取り付けられた窓めがけて、自分の身体を丸めた状態で躊躇いなく突撃する彼女。窓が破れ、ガラスの破片が散らばる。

 別の蜂がヤマネの入った窓に顔を突っ込むも、全身が入り込めずつっかえてもがくしかできない。窓枠には破られた鋭利なガラスが残っているので、痛々しいっ事にそいつの首元はズタズタに切り裂かれている。

 

 「大は小をかねるって、言うけど今回はそのでかさが仇になったな!!」

 窓に頭がはまった蜂の背中目掛けてヤマネは、剣を振り落として貫いた。

 実は彼女は、樹洞内の階段を上り、別の上層の窓から飛び降りて奇襲したのだ。

 刃を抜き、死骸の上から跳び下りるヤマネ。


 「いつもの小さいなりで、大群で攻めてくる方が何倍も厄介だったぜ?」

 剣先にある血を掃って落とす。

 瞬間、彼女の死角に激しい破壊音と共に純白な閃光が一瞬だけ炸裂した。


 「な、何だ何だ何だ!?」


 「ヤマネさ~ん♪ 大丈夫でしたか~♪?」

 戸惑うヤマネの背後からルイスがオカリナを持ちながら駆け寄って来た。

 そう、発された閃光と同じ方向から来たのだ。


 「お、お前の方が大丈夫か? なんか後ろから眩い光が・・・・・・」


 「え♪? ああはい~♪ 巨大な~雀蜂が~こちらに接近したので~倒しました~♪」

 相変わらず抑揚のついた語りをする彼だが、一瞬だけ悲哀に満ちた呟きを放った。

 「まあ仕方なかったとはいえ実家に寝かせたフルートを犠牲にしちゃいました・・・・・・♪」

 「フルート? 犠牲? 良くわからんが睡魔の魔術でこいつら一網打尽にできねぇのか?」

 (ってか、虫に音の魔術なんて効くかわかりゃしねぇえが)

 ルイスと顔を合わせて話しながら、ヤマネは後ろに忍び寄る蜂の頭部を目視せずに逆手に切り替え突き刺す。

 

 「試してみたけど~無理でした~♪ 恐らく~蜂さんの~鳴らす羽音には~あらゆる音魔術を~阻害する~効果があるんじゃないかな~♪?

 代わりと言っては~何ですが~♪ これくらいのことは~できるはず~♪」

 オカリナを吹く彼。少し演奏を聞いただけでヤマネの身体の奥からエネルギーが溢れ出したのだ。


 「他人を身体強化させる音楽か! 助かるぜありがとうっす」

 感謝を述べるヤマネに、ルイスはオカリナを吹くのを止めず首肯で返す。


 (今のあたしなら、なんでもできそうな気がする!)

 勢いよく大地を蹴るヤマネは、剣を順手に変え直し、前よりも軽快な動きでモンスター蜂の針攻撃をかわし、敵の懐に接近して重い一撃を食らわせる。


 『水の象徴であるウィンディーネよ 我は命ずる あらゆるものを押し流せ 方位は赤霧座の元 威力は通常 量は膨大 精霊の猛威を我が前に示せ!! 水属性魔術『水流ウォーターフロー』』

 東側から来襲する刺客達に、彼女は、魔力で生み出された大量の水を浴びせる。

 ずぶ濡れになった蜂共は、翅が濡れた事で飛来することが困難になり降下し、水滴が付いている触覚を前脚で毛繕い? する。

 もちろんそんな隙見逃さずどんどん掻っ捌くヤマネ。


 「おらおらどんどん来やがれっ!!」

 大木の幹に螺旋状に生えてあるキノコの笠の段差を軽やかに跳ねて上りながら、木の枝に止まっている敵を串刺しにするヤマネ。

 二重に魔術で身体強化を施されたからなのか、今の彼女は、万能感に包まれていた。

 調子に乗っている彼女、樹の幹に取り付けられた窓側で駆けあがっている時。

 「あ、え、おい!?」

 茂った木の葉に潜んでいた小柄なレッドスパロウビーが、突如飛び出し獲物に向かって噛みつこうとする。

 視界にいきなり現れた伏兵に、つい対処できなかった。

 (や、やばい油断していた・・・・・・)

 哀れ、ヤマネは喰い殺されるのを待つだけの餌になってしまったのか・・・・・・かと思いきや。


 「人間のお嬢さんがんばっているっ。私も負けてらんないね」

 近くにある窓が勢いよく開かれ、そこから現れたダークエルフの女性が虚空に大質量のスライムを生成し、例の蜂の顔面に叩きつける。

 視界いっぱいに広がる粘液に、ヤマネを襲うことが妨害され怯んでしまったモンスター蜂。隙を生んでしまったことで彼女の剣にとどめを刺される。


 「ありがとうございますっす。おかげで命拾いできました・・・・・・あれ? ハインリッヒさん? でも短髪だし別人?」

 

 「え? 妹知っているの!? そっか冒険者だもんね。受付嬢と顔見知りでもおかしくないか」


 「ええ!? もしかしてハインリッヒのお姉さん!?」

 

 「初めまして。妹がいつもお世話になっています! 私の名は、マテル アップル スライム魔術の研究家です」

 ベリーショートの金髪を有し、紫色のローブを着たダークエルフが活気よく挨拶する。


 「いやあまさかお姉さんがいらっしゃったとは、そんな話聞いたことないんすけど。姉妹共々命を助けられちゃったな」


 「助けられた? 神話バカの妹には珍しく積極的に人助けするなんて珍しい! もっと詳しく聞かせてよ」


 「ええ、ディオニュクレスっていうおっさんと闘っている時に・・・・・・って、上っ上っ!」


 恩人の家族に出会って喜ぶヤマネが、周囲お構いなしに談笑しようとするが、彼女らの頭上に旋回する一個体の蜂が、自身の針部から毒液を広範囲にまき散らす。


 マテルが、慌ててスライムで防御しようとするも間に合いそうにないだろう。


 「何緊急時にのんきに世間話の華を咲かせているの!」

 どこから飛んできたのか、広大で分厚い絨毯が散布された毒液を一滴残らず受け取る。

 次にその絨毯は、上空にいる巨大な蜂の全身を包んで潰した。


 前方にいる知り合いに、ヤマネが感謝を述べる。

 「さっきの絨毯、タペストリーの魔術っすか? 助かったっす!! やっぱり後でサインを・・・・・・」

 別の空飛ぶ絨毯に乗っている赤髪のエルフが忌々しそうな顔をして呟く。


 「まあ、もうすぐ片がつきそうだけどね! 周りを見てみなよ余所者!」

 タペストリーの言葉を素直に聞いたヤマネは、辺りを見渡した。 


 「・・・・・・強くね?」

 エルフの魔術師達が、多種多様な高火力の魔術を連発していた。所々激しい火柱や冷気が漂ってる氷塊や建立した土塊が確認できる。そこら中に、横たわるモンスター蜂の死骸が。


 前にハインリッヒが高火力の魔術を連発して言ってたことをヤマネは、思い出していた。

 『私もエルフの一員なんで、この程度の魔術は、使えてもおかしくはないですよ』

 そうなのだ。ここはエルフの里アルフヘイム。誰も彼もが膨大な魔力を有している。戦力の平均値(アベレージ)が他と比べて高いのだ。

 戦闘員の実力なんてランクがAやBまで届いているなんて珍しくないし、非戦闘員ですら高火力の魔術を自衛のために会得している。


 「さすがエルフの里だ・・・・・・ん?」

 圧倒されるモンスター蜂共の様子を見て安心して胸を撫でおろすヤマネは、南側遠方に動く小さな影に気付いた。

 多重にかけられた身体強化魔術のおかげで視力も動体視力も一時的だが、上がっている。

 その影の正体は・・・・・・。

 

 「黒髪、水晶玉・・・・・・マルセイユさん!? しかも蜂に追われている!!」


 「え? 本当!? 占い師様避難所にいるんじゃないの? まさか逃げ遅れた!?」


 困惑するマテルを余所に、タペストリーが鬼気迫る表情をして最高速度で向かう。


 あたしも行かなきゃ! と跳び降りようとするヤマネに、マテルは手の平先を向けた。

 次の瞬間、彼女は、全身を薄いスライムに包まれたような感覚に陥る。


 「風属性魔術 『クマバチの翅』・・・・・・自身の周囲に漂う大気の粘度を高める防御技。

 向かってくる凶刃の殺傷能力を格段に下げる効果を持っているのよ」


 「ありがとうマテルさん! 後でその術の詠唱フレーズを教えて下さいっすね!」

 そう感謝を述べたヤマネは勢いよく地表まで跳び降りる。

 『クマバチの翅』は、自身に纏う空気抵抗も高めるせいなのか落下速度が著しく低下。高所から落下したのにも関わらず彼女に深い衝撃が受けなかった。

 魔術で強化された足だ。そう経たずにマルセイユの元へとたどり着く彼女。

 ただ、タペストリーがマルセイユに纏わりつくモンスター蜂を絨毯で蹴散らしているのだが。

 「マルセイユさんに近づくな虫けら」 

 そんな彼は、明らかに殺気を出している。

 気が立っているせいで気づけなかっただろう。残りの蜂が彼の死角から急接近していることに。


 「危ないっ!!」

 タペストリーが呆気にとらわれている最中、ヤマネが身を挺して庇ったのだ。

 衝突する彼女と魔物。だが、毒針の犠牲にならずに済んだ。マテルの『クマバチの翅』のおかげだ。

 (助かったぜハインリッヒの姐さん。ただなんでもかんでも防ぐ事はできないっぽい。詠唱をしている暇は、ねえな。超能力で・・・・・・・・・・・・え!?)

 自分の後頭部のシニヨンに刺してある鍼代わりの爪楊枝を抜き出したヤマネは、自分の首元に刺そうとするも空気の壁に阻まれるようで刺せなくて失敗した。『クマバチの翅』のせいだ。

 

 (チクショウ! 今から魔術を唱えても間に合うか!?)

 慌ててるヤマネを前に、残りの一頭であるレッドスパロウビーは、自身の針からとっておきの毒液をまき散らそうとする。液状のものを防ぐのは、例の魔術では苦手なのだ。

 (やばいやばいくそっ! 早く詠唱を・・・・・・)


 「何しているんですかご主人様」

 さあ攻撃しようとするその蜂の横っ腹を、容赦なく蹴り飛ばす者が一人。

 

 「チャールズ!? お前避難してきたんじゃなかったのか!?」

 だるそうな顔をしているチャールズは、髪を掻きながら答える。

 「お姉さんの言うとおりに避難したんだよ。首輪の効果で逆らえなかったんだし。

 でも一旦避難場所に向かったから命令は遂行された扱いになって解除されたの。だがら今こうしてお姉さんを助け出すことができたんだよ。感謝してよね?」

 呆れるヤマネ。

 「何だよその首輪意外とテキトーなとこあるんじゃないか・・・・・・でも助かったぜ。ありがとう見直したよ」


 褒められたことで傍から見ても分かるよう態度がでかくなった彼は、摘まんでいるスプーンに載せている食べ物を、彼女の口元まで運ぼうとする。

 「蜂の子を無理やり食べさせようとしたご主人様に復讐するまでは、死なれちゃ困るから。

 さあ食べなよ。まさかボクに食べさせようとしたくせに自分は、嫌だとかそんなちびっこみたいなことは、間違っても言わないよね・・・・・・?」

 ただ主人に向かって食べ物をアーンしているだけなので、魔道具の首輪にとっては、前に命令した『主である自分と自分の味方に危害を加えない事』の項目には、引っ掛からない。


 ただヤマネは、躊躇いなくその蜂の子を食べた。

 「モグモグ意外とクリーミーだな。・・・・・・残念だったなチャールズよサバイバルが日常茶飯事の冒険者にとって虫を喰うことは、何でもないことなのだ!」


 ※レッドスパロウビーが全頭退治されてから少し経った後。


 「ありがとうございました・・・・・・ヤマネ様達のおかげで魔物の大群が押し寄せてきても誰も犠牲が出ることなく脅威を跳ね除けました。

 アルフヘイム代表としてこんな私が、感謝を述べさせて頂きます」


 「こんな余所者に頭を下げなくても良いよマルセイユさん!

 まあでも死人が出なかったのは、君のおかげさ! 改変した『魅惑チャーム』で自身を囮にしたから虫けら共は、積極的に非戦闘員を襲わなかったし、何より執拗に一点しか狙って来ない相手程、弾を当てやすい事はいないからね!」


 「お客さん達。今度アルフヘイム来たときは、また家んとこに泊ってくれ。サービスしてやるからな!

 まあこの村の宿屋は、オレんちのとこしかないがな」


 「せっかく妹の近況が知れるのに、もう行っちゃうの? またここに来るときは、妹のハインリッヒと一緒に来てくれよ。秘伝のスライム魔術を教えるからね。マイ弟子」


 村中のエルフ達が、ヤマネとチャールズに感謝を述べていたのだ。

 ちなみにその前にマテルが彼女に『クマバチの翅』の詠唱文と発動時のコツを伝えている。


 「ほら行くよ! 今日までにパーキング町にたどり着かなきゃいけないんだよね?!

 送ってやるよ!」

 タペストリーがヤマネ・チャールズ・ルイスのために大型絨毯を用意している。もちろんこれも飛行能力を有している。


 「名残惜しいっすけど。あたしが武闘大会で優勝した際には、真っ先にここに戻って吉報を知らせてくるっすから。

 では、お達者で~」

 魔法の絨毯に乗った四人は、手を振り歓声が巻き起こるエルフ達に見送られながら急上昇する。

 その魔道具は高性能なのか、ほんの数秒で、彼らの姿が見えなくなるほど離れた。


 「すごい速い! いや~タペストリー・・・・・・サインくれっす」


 「まだ行ってやがるの! どちらかというと自分の方が、君のサインが欲しいんだけどね?! アルフヘイムの英雄ヤマネ殿!!」



 その頃、アルフヘイムでは、宿屋の店主が腕を組んで首を傾げていた。



 「どうして魔物の蜂共は、結界を素通りできたんだ・・・・・・・・・・・・?」

 真夜中の出来事。

 アルフヘイムの領の境である環状列石ストーンサークル近くで、フードを被った何者かが立っていた。

 そこに。二つの影が現れる。ただその影らは、人の形をしてなかった。

 「嬢ちゃんのおかげで蜂ん共がちゃんと侵入できたで。ヤマネのお嬢ちゃんは倒すことができたさかい?」

 一つ目の影・・・・・・人狼のオルトケルベロがフレンドリーに話し掛ける。

 「申し訳ございません。失敗してしまいました。せっかくヤマネ様の毒耐性を下げることができましたのに、貴重な機会を無駄にしてしまって・・・・・・」

 もう一つ目の影がなだめる・・・・・・スマートドラゴンだ。

 「良いのです。あくまで侵入者が結界を素通りできる様子を観察するのが、ワタクシらの真の目的です。

 おかげで結界の魔力の流れを捉えきれました。フフフ・・・・・・王都の二重結界を突破するための良いヒントになった。それにたかがレッドスパロウビーごときで標的を倒せるとは、思っていない。

 にしてもまさか貴方に協力を願えるなんて思ってもいませんでした。

 ねえ。アルフヘイムの結界を管理しているマルセイユさん」

 フードを外すマルセイユ。

 「はい、ヤマネ様を倒すのにエルフの皆様だけでは、足りないと存じています」

 鼻を鳴らすオルトケルベロ。

 「そのエルフの皆様に本日危険に晒したのは、どこの誰やろうなぁ。アルフヘイムの代表さん」

 冷徹に微笑むマルセイユ。

 「偉大なるタロット様の命より優先すべきものは、ございません・・・・・・例え里の皆様を天秤にかけてもね。

 まあヤマネ様に呪いを与えただけでも意味は、あったと前向きに考えましょう。

 ・・・・・・ただ発動条件である握手した際、何やら彼女様は勘付いているようですけどね?」

 前にタロットの祟りを受けた事があるから。

 

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