アルフヘイムと呼ばれる土地がある♪高貴のエルフと呼ばれる人々がそこに住んでいる♪しかし低俗のエルフはトレントの森に住み、外見は彼らとそんなに変わらない♪
※ルイスの一人称が『ワタシ』から『ボク』に変えました。
※最初は、現在から三年前まで時間を戻します。
乾ききった岩壁に重厚で巨大な土人形が、後ろ半身埋まった状態で大量に等間隔に並んである奇怪な土地・・・・・・一枚岩谷。ヤマネが王都からタロッタービルァ町に往来した時に利用した道である【第21話参照】
実はそこには、太古の昔からカンガルータイプの獣人達が繁栄している村があった。
現在から約十六年前、人間側の代表である近衛騎士団団長ブレイゾンとカンガルータイプの獣人族族長がお互い侵略行為をしないよう同盟を結ぶ。重要文化財であるゴーレムを守護するために連携を取る選択をしたのだ。
そして約三年前、その重い決まりが破られた。
「こんなことが・・・・・・」
赤い羽根の冠をかぶった老人の視界には、同胞であるカンガルーの獣人の無残な死体が無数に転がっている。彼は、この惨状を作り上げた部隊の一人に怒りをぶつけた。
「なぜだっ!? 貴様と我らには、不可侵条約が結ばれたはずじゃ! 我らに何か落ち度でもあったのか!? 王都の騎士は、平気で嘘をつく奴らなのか!!」
西洋甲冑で身を固めた騎士が冷淡に答える。発せられた声質からしてその者は、少女のようだ。
「条約を先に破ろうとしたのは、君達なのでは? 昨日君達袋鼠族が土人形を復活させて都に攻めるという報せが届いた。だから自分達が討伐に来たんだよ」
「そんな根も葉もない噂に踊らされたのか!? 情報源は? 信憑性の薄い話を聞いただけでこんな・・・・・・こんな大量虐殺をするなんて・・・・・・貴様らと手を組んだこと事体間違いだったんじゃ・・・・・・っ」
(せめて・・・・・・チャールズだけでも生きていてくれ・・・・・・!)
「情報源ねえ・・・・・・。
この件を報告した・・・・・・いや内通者の正体を伝えようかな?
まあ言っただけじゃ信じきれないと思うんだけど、ああもう兜着けたまま喋りづらいんだけど!!」
兜を頭部から外した少女の顔が露になる。艶やかな長い銀髪が、乾いた風に揺られた。
※次からは、時間軸を戻して視点をヤマネ達に変えます。
チャールズは、気持ちよさそうに仰向けで眠っていた。
複雑そうな表情で彼を見下ろすヤマネ。
「如何いたします? 彼の処遇を・・・・・・。
奴隷オークションに売り飛ばして新たな奴隷を購入するのでしたなら、面倒な手続きはこちらで手配しますが。
それとも殺処分という方向で決めるのでしたなら、やはり私がやっておきましょうか?」
「物騒だな、前に同じ釜の飯を食った仲じゃねえのかよ? 決めてる」
冷淡な口調で淡々と語るウィッチブラックに、奴隷の主であるヤマネは髪を掻きながらため息交じりに答える。
「連れていくぞ。こんな悪ガキ他人に預けるのも忍びねえし、殺すなんて以ての外だ!!
幼気な奴をむざむざ目の前で死なせれるか!!」
「♪ですが~契約書を破られたなら強制的に~命令できないんでしょう~?
また傍に置けば~裏切る可能性は、とっても高い~♪」
「それならご安心を・・・・・・」
不安要素を出すルイスに対し、ウイッチブラックはエプロンのポケットから一枚の羊皮紙を取り出した。それに書かれた内容を目にした二人は、驚愕する。
「ど、ど、奴隷契約書!? 千切れてない・・・・・・確かアイツが破り捨てたのに、なんでまだ現存してんだよ!! もしかして二枚用意してあった・・・・・・いやサインは、あたし一回しか書いてねえぞ? でもこれに記されているものは、確かにあたしの筆跡で間違いねえ・・・・・一体どうなってんだ?」
慌てふためくヤマネとは、対照的に冷静に説明する彼女。
「端的に言えば、先程チャールズが破棄したものは、ダミーでございます。
これがれっきとした本物」
「だ、だが確かに俺、じゃねえあたしは自分がサインしたものを確かにバックに入れておいたはず・・・・・それなのになぜあんたが持ってるんだ?」
「実は、ヤマネ様が例の契約書をお持ち帰りされた時に、不躾ながら勝手にテレポート魔術でそれとダミーを交換させて頂きました・・・・・・。
無断でこのようなことをして申し訳ございません・・・・・・ですが言い訳になりますけど、ヤマネ様は、冒険者でございますよね? 冒険者なら危険な地帯に行くことも・・・・・・。
魔物や賊がうろつく都の外か伯爵様の館。どちらがより契約書を保管するのに適しているか、聡明なヤマネ様ならご理解いただけますよね?」
首を軽く傾げて満面の笑みを見せるウィッチブラックに、口をぱくぱくさせるヤマネであった。
ウィッチブラックは、未だ眠っているチャールズに奴隷の証である首輪をはめた。
「さて再びこのような蛮行を彼にさせないためにも、ルールを言い渡さないといけません。それもガチガチに縛るくらいには。
眠っている間でもしっかり適用されます。
もちろん言いつけられたルールには、首輪をつけている限りですが半永久的に有効です。
まずは手始めに『首輪に触れない事』『主である自分と自分の味方に危害を加えない事』『主を差し置いて逃げない事』・・・・・・さあ、リピートアフターミー」
彼女の言った項目をヤマネは、そのままオウム返しする。
(相手に無理やり条件を押し付けるのなんか見覚えあんな・・・・・・思い出した。タロットだ。
あいつが祟りをあたしに押し付けるのと似ているな。複雑。
そういえば)
「ウィッチブラックさん。前に『もしあたしが危険な目に遭ったら、余計な事せず迷わず一人で逃げてくれ』ってコイツに言ったんだけど、その場合どうなるんすか?」
「上書きされてその命令が無効化されますね。ふむ・・・・・・では『緊急事態以外では、主から離れてはいけない。そして緊急事態が解除されたら主の元に向かう』ととりあえず命令致しましょう。
それとヤマネ様。差し出がましい進言なのですがこのようなことを二度と起こさないためにも、定期的にチャールズには悪だくみしてないか質問することをお勧めいたします。主の前では嘘はつけないようになっていますからね」
あーはいはいわかったわかった と疲れ気味に返事するヤマネを余所に、チャールズの目が覚める。
「あれ・・・・・・? ここは・・・・・・」
目をこすりながら起き上がった彼は、見上げた。ヤマネとウイッチブラックと目が合った。
「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」
面白いように顔を青ざめるチャールズ。現在自分の首回りに金属の感触があることで今の状況を察した。
「あ、おい逃げようとすんな!!」
一目散にこの場から弾ける様に離れようとするも、ヤマネの言葉で彼の動きが封じられる。
「何で!? ちゃんと奴隷契約書千切ったのに!!
もしや・・・・・・ウィッチブラック!! お前偽ものを渡したのか!!」
頷く彼女に、とうとう号泣しながら錯乱するチャールズ。
「嫌だ嫌だ死にたくない!! 許してくださいごめんなさいごめんなさい!! 殺さないで!! これからは、いい子になるから!! ・・・・・・そうだ! ボクは、長老を殺した奴に復讐しなきゃいけないんだ!! だからこんな所で死ぬわけには、いかないんだ!! だからお願い見逃して・・・・・・」
それに対し、ヤマネは落ち着いた口調で 許すから落ち着け と言う。
「・・・・・・へ? 許してくれるの? なんで・・・・・・」
「短い付き合いだけど知っているだろ? あたしが甘いってこと。保身第一の命乞いでも効き目充分。
だが!! 裏切った分ちゃんと身を粉にして働けよ? 分かったな・・・・・・!!」
鋭い目つきで強い口調で告げるヤマネ。その後誰にも聞こえないような音量で照れるよう呟いた。
(それに・・・・・・恋愛は、惚れた方が負けって言うしな。可愛い悪ガキといっしょに居んのも悪くねぇ)
「ヤマネお姉さん・・・・・・」
潤んだ瞳をしている彼は、彼女の優しさに感激するよう軽く震える・・・・・・と思えたが。
「いや冒険者嫌なんだけど・・・・・・」
チャールズ以外の起きている三人は、 は? と呆気にとられる。
「なんでボクが危険で不便で疲れるような仕事をしなきゃいけないの?
あ~あ。伯爵の館に居たころは、良かったな~。毎日豪華な料理を朝昼晩(おやつ有り)食べれて、ふかふかの羊毛のベットで熟睡出来て、仕事をさぼっても許してくれるし。
それが、お姉さんのとこじゃご飯はまずいしベットなんて均した藁の束にシーツを被せただけ。あれちくちくすんだよね。そして激務・・・・・・いまさら中流以下の階級の生活なんてボクには、耐えきれない・・・・・・」
彼の愚痴に対し、 この期に及んで慈悲をかけられたのに駄々をこねるんですか~♪! と言いたそうにオカリナを雑に演奏し、怒りを表すルイス。今回の件では、部外者なのに。
ただ、次にヤマネが発する言葉は、分不相応の発言をしたはずのチャールズですら戸惑うものだった。
「分かる・・・・・・分かるぞ! あたしもこの国は、大好きだけどあんたみたいな不満も結構ある。
軟水飲みたいのに周りに湧いているの硬水ばっかだし、前は水を手に入れるには蛇口捻れば良かったけど今は井戸で疲れる思いして汲まなきゃいけないし、同じく藁のベットはちくちくして痒いし、大体のパンも歯が折れるかってくらい硬ぇし、馬車乗ると尻が痛くなるし・・・・・・転生転移もののファンタジー小説読んでた時は、ただただ異世界は、素晴らしいとこなんだと感動したけど蓋を開ければかなり不便!!
同じ苦悩を持つ仲間ができてうれしいぜ!!」
(まあでも実家に置いてあるベットの種類は、藁じゃなくて羊毛製でフカフカだけど)
「勝手に共感しないでよ。変な人間。全くこんなことならずっとあの豚の伯爵のtギャアっ!?」
絞められている鶏の鳴き声みたいな音を発するチャールズ。
何故そんな声を出したかと言うと鬼の形相をしたウィッチブラックから潰す勢いで頭部を握りしめられているからだ。
「数々のヤマネ様に対する不躾な言動もさることながら・・・・・・貴方先程・・・・・・エムヒズム様をまさか侮辱しませんでしたか?
それでしたなら、貴方の主には、申し訳ありませんけどここで殺処分して蛆の餌にして差し上げましょう・・・・・・」
殺気をこれでもかとまき散らす彼女に、ヤマネとルイスが慌ててなだめる。
「まあまあ子供の言っていることですし!! ねえ許してやりましょうとウィッチブラック姐さん」
「そうですよ~♪ ここで彼を殺したならば~♪ その伯爵様にも~迷惑がかかるのでは~♪ ボクは部外者だからよくわかりませんが~♪」
思うぞん握った後、気が済んだのか彼から手を離すウィッチブラック。
「まあそうですね。ここは、大人の対応を致しましょう・・・・・・ですが、次は無いですからね?」
ただし語っている最後に見せた黒い笑顔に、三人がドン引きする。
(そういや、ラティスが伯爵に暴言を吐きまくったことあったな・・・・・・危な~下手にウィッチブラックさんに聞かれたらえらいことになってたかも)
一回深くお辞儀をする彼女。
「まことに勝手ながら我が主の元へ帰らせて頂きます。私事ですが伯爵宅の業務が多く滞っていますので。
何か御用件やご質問が無ければ、そのまま失礼致しますが?」
「いや無いっすよ。今回めっちゃ助かった! これ以上引き留めたら悪いし。
ありがとう・・・・・・伯爵によろしく言っといてくれ」
ボソッ(まあでも厄介者押し付けた事について、まだ腹の虫が治まってねえけど)
「はいもちろんでございます。では・・・・・・」
ウィッチブラックは、頭を下げたまま、一瞬でこの場から消え去った。
自分の境遇を嘆いて俯いているチャールズを横目にヤマネは、ルイスにも感謝を述べる。
「ルイスもありがとう。あんたの演奏が無ければ、チャールズだけでなくあたしもウィッチブラックも危なかったかも。何時かこのお礼を・・・・・・」
「いえいえ~♪ボクが積極的にヤマネさんに~♪手助けしたのは~・・・・・・♪詫びたかったからさ。
この程度~手伝っただけで~償えるとは~思ってないけどね~♪」
彼の申し訳なさそうな顔を前に、彼女の方がいたたまれなく・・・・・・。
「いや、普通に喋れねえのかよ!? なんか曲調にのるよう謝られてもこっちは、おちょくられているとしか思えねえじゃねえか!」
軽く怒られたルイスは、そっぽを向いて沈黙を貫く。
(何か訳でもあんのか・・・・・・?)
「・・・・・・君が~嫌でなければ~このボクを今回の旅に~お供してくれないかな~♪」
すぐに頷く彼女。
「もちろんだ! あんたがいてくれれば、百人力。そうだ、是非パーキング町の武闘大会であたしの活躍を観客席から見届けてくれ!
さてこれからタロッタービルァ町に向かうか」
「せっかくですけど~♪よろしかったら、ボクの故郷に~来ますかぁ~?
今なら~『アルフヘイム』へご招待~♪そこに他種族が行くには、エルフの同行人が必要~♪
貴重な体験が~できると思いますがどうですか~♪」
その提案に、チャールズが軽く引くほど勢いよくヤマネは、食らいついた。
「行きたい行きたい!! エルフの里なんだろ? めっちゃ行きたい!! 是非是非!!」
「喜んでくれてうれしいよ~♪それじゃあ参りましょうか~♪北天天文台から見て南にあるんだ~。
急けば~日が暮れる前に着くよ~♪」
今日泊る宿に向けてすぐに出発するヤマネ一行。
その後・・・・・・。
「あれ? 俺寝てた?」
「なんでこんな昼間から・・・・・・獣人のガキは、どこ行った!?」
無事ウォールナッツとボンバーバンボーが目覚めた。
今日の日暮れごろ・・・・・・ヤマネ達は、『アルフヘイム』領の敷地傍まで着いた。
タロットからの祟りのせいでヤマネめがけて頻繁に魔物が押し寄せてくるが、その度にルイスが全体を眠らせたので事なきを得ている。
「何か透明のバリアで通れないよ」
腕を伸ばそうとするチャールズだが、手の平先にある目に見えない大気の壁が遮って邪魔してくるのだ。
透明の囲いの直下には、文字が刻まれている石ころが半分土に埋まった形で等間隔に並べられてある。
つまりは、その環状列石こそが、『アルフヘイン』の境目の証。
「アルファベットに似て非なる文字・・・・・・ルーンか。この並びは、結界を張るものだな」
「その通り~♪ 待ってね今から入れるようにするから~♪」
高音の曲をオカリナで奏でるルイス。演奏が終わるころには、腕を伸ばして前のめりになってるチャールズが、石ころの境の向こう側めがけて躓くよう入った。
「わっわ!」
「大丈夫かチャールズ。成程、城壁の代わりに魔力の結界で防衛してるんだな。
それなら、あたしの匂いに釣られた魔物やスケベ共もここまで侵入できない。ありがてえこった」
そう、『アルフヘイム』の領に行くには、その地の出身者であるエルフの許可が必要なのである。
キャベツや小麦などの畑沿いの道を進むヤマネら。領の東側に位置する柵の中には、羊やヤギが飼われている。
「アルフヘイムでは~♪ 養蜂産業が~盛んなの~だからなるべく南側には行かないで~ミツバチがたくさんいるからね~♪」
地球基準で二十分後、彼らは、一つの村にたどり着いた。
「うわ~すげえっ!! 神秘的!!」
「すごいよ!!」
「ふっふ~ん!♪ 僕の故郷を~気に入ってくれたかな~♪」
思わず息をのんで見上げるヤマネら。
この村では、ほとんどの家屋は、生きてる大木の幹を支柱にするよう樹上に造られてる。いわゆるツリーハウス。
村中に生えてある大木と大木の間には、吊り橋が張り巡らすよう高所に架けられている。
大木の中には、幹に窓が取り付けられているタイプも存在。中が樹洞になっている。
この村の中央奥には、領の中で一番巨大な樹が生えてあり、それの上には高層広大の屋敷が構えられてある。
木々の根っこには、淡い光を発するキノコが点在するよう生えており、夜になると幻想的な光景を創り出していた。
ここに井戸は無く、代わりに中央に透き通るような清い水が湧いている。
エルフ領らしくここに住んでいる人達の九割の種族は、エルフに関するものだ。※(ダークエルフやハーフエルフも含まれている)
「この村の宿まで案内するよ~♪屋根に野葡萄の蔦が絡んである家さ♪落ちないよう気を付けて~♪」
ヤマネらは、大木の幹に沿って段差が組み込まれている簡素な螺旋階段を上り、樹上のウッドデッキを歩き、宿前までたどり着いた。
「ふうやっと着いた・・・・・・なんだかんだで疲れたぜ」
「チェックインは~ボクに任せてよ~♪」
「やあ! 久しぶりだねルイス! そこのよそ者二人は、君の仲間かい!」
「・・・・・・タペストリー君ですか~♪」
ヤマネの背後から一人の男が現れた。緋色の髪を持つ彼の耳は、ルイスを始めとする他のエルフと比べて丸みを帯びている。人間の血を半分具えたハーフエルフだ。
タペストリーと呼ばれた男は、挑発的な態度と声色を隠さずルイスと会話する。
「ところで君のお母さんは元気かい! 辺境であるトレントの森の集落に住んでいるから変な病気にかかってないか心配でさ! まあローエルフなんて全員性病持っているような存在だし!」
折れそうか心配になる程歯を強く食いしばり、持っているオカリナを激しく握って湧き上がる激情に耐え忍ぶルイス。
穏やかな気質を持つ彼がここまで激昂するのは、本当に珍しい。
「おい・・・・・・」
ヤマネも切羽詰まった表情で灰色の雰囲気を纏わせながら、タペストリーに詰め寄る。
「おや! 君には関係ない話さ! 別に仲間の家族が侮辱される程度でそんな本気で・・・・・・!」
「あんたハーフエルフだろ!! 初めて見たぜ!! サインください!!」
「はい?」




