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空洞の木からは精霊が好む音楽が鳴り響く♪

 ※かぶら矢・・・中身がくりぬかれた桐やほのおきに漆で塗り固めた武具に矢先を取り付けたモノ。鏃有り。 流鏑馬やぶさめなどの祭事に使用される。

 ※蟇目ひきめ矢・・・鏑に数か所穴を開けたモノ。それの穴に空気が流れると笛みたいな音が出る。鏃をつけていない。

 ※神頭・・・中身がくり抜かれていない。鏑とは似て非なるもの。矢頭という別名がある。

 ※ディジュリドゥ・・・オーストラリア大陸の先住民に伝わる金管楽器。

 (やった! やっと逃げ出せた・・・・・・!)

 跳ねるよう獣道を駆け抜けるのは、ヤマネの元奴隷であるチャールズだ。

 (だが獣人であるボクは、都には入れないだろうし、物資とかの取引は裏社会の相手しかいないだろうな・・・・・・一枚山谷辺りを拠点にしよう・・・・・・ん!?)


 「かわいいかわいいお坊ちゃま。そんなに急いで如何いたしました」

 彼の通る先には、立ち塞がるように刀を持った長髪の男がいた。


 『NWのデビルフィッシュ』の副団長 ジムナーカスである。

 

 驚いて立ち止まるチャールズに、ジムナーカスは おやおや、怖がらせるつもりはありませんのに・・・・・・ と申し訳なさそうに呟く。


 震え始めた彼は、勇気を振り絞って凶器を持つ相手に話しかける。

 「と、取引しませんか? 獣人相手でも商売してくれる相手を探してたんです。ボ、ボクは今金貨を沢山持っています! 悪い話ではないでしょう・・・・・・?」


 その話を聞き、顎に手を添え長考するそぶりを見せるジムナーカス。

 「なかなか魅力的な提案ですね? ですが金貨なら、お坊ちゃまを死体に変えてから、ゆっくり拾った方が手早いと思いませんか・・・・・・・?」

 刀を見せつける様に構えて物騒な発言をする彼に、冷や汗を滝のように流しながら後退りをするチャールズ。


 「ま、待って!! ボクが今持っている量より多くある金貨の在りかを知っている・・・・・・!!

 だからボクを殺せば、その在りかは、わからなくなるよ!! だから!!」


 「うちのとこでは、接触感知術者サイコメトリーがいらっしゃいます」


 「・・・・・・・・・・・・」


 「もう達者な口は回りませんか? ではさようなら、クソガキ」

 ゆっくりと着実にチャールズに歩み寄るジムナーカスは、得物である刀を振り上げる。


 その時。

 

 「おいおいガキ一人相手に大人げねぇ雑魚がいるぞ。

 武闘大会の肩慣らしにいっちょ成敗してやるか」


 「正義の冒険者としては、見過ごせねぇな。たしかそいつは、ヤマネの連れだったか」


 彼の死角から二人の男性の話声が発される。

 次に冷や汗を滝のように流す番は、圧倒的な優位に立ってたはずのジムナーカスだ。


 錆ついた機械みたいにゆっくりと声の元を向く彼は、息を呑む。

 視線先には、左側だけ曲線の剃りこみをいれているボサボサの長髪の若者と黒のアフロの青年がこちらに向かって来ているではないか。

 奴は、二人について直接会ったわけではないが知っていた。


 「ウォールナッツとボンバーバンボー・・・・・・?」


 「おおっ! 俺のこと知ってるってか? いやあ有名人になったあ俺達も」


 「せっかくだし騎士に突き出す前に俺のサインを渡そうかな」


 態度が軽薄な二人を前に、膝が震えているジムナーカスは、視界端で忍び足で逃げようとするチャールズを捉えた。


 「うわっ! 助け・・・・・・」

 急いで左手で彼の胸倉を掴み、彼の首筋に刀を添えるジムナーカス。

 「このガキがどうなってもいいのかっ・・・・・・!! 傷つけたくなかったら、こっちに来るな攻撃すんな!!」


 ボンバーバンボーが口笛を吹いて感心する。

 「おおっ! 小物な悪役らしいムーブだな。死にかけたふりして奇襲した奴となら戦ったことあるけど、この場合は、初めてだな」


 「何のんきな事言ってやがる!! いますぐこのガキを血まみれにしてやろうか・・・・・・!!」


 「どうやって・・・・・・?」

 そうニヤニヤしながら尋ねるウォールナッツにイラつき吐きすてるジムナーカス。

 「何舐めた口ほざいてんだ!! この鋭い刀が見えな・・・・・・?」

 ふと自分の今掴んでいる得物が、やけに軽いと感じた彼は、手元を見下ろし・・・・・・そして絶句した。


 「ああ、教えてもらいたいな。刃が無くなった武器でどうやって血まみれにするのか」


 ウォールナッツの言うとおり、今ジムナーカスの刀には、刀身が根元からぽっきり切断されていた。

 その刃が足元に落ちている。

 

 「ど・・・・・・どうやって・・・・・・? この妖刀は、あらゆる魔術を切り落とし呪いを跳ね除けるもののはずなのに!!」


 奴から距離が離れているはずのウォールナッツは あんたが悠長にまばたきをしている間に、近くまで寄ってこの剣で斬り落として元の位置まで戻っただけ。もしかして見えなかった? と嘲る様に妖刀『送塩』を見せつけながら正直に答えた。


 (そ、その気になればいつでも私を殺せると言いたいのか!?)

 自信の愛刀を壊され敵が急接近したことにすら気づけなかったジムナーカスは、口から泡が出そうになるのをこらえて虚勢を張る。


 「ぶ、武器が無くても魔術が使えますよね!! 少しでも近づけばこのガキを黒焦げにしてやりますからね!!」

 自分の長い前髪から青く迸る静電気を発しては威嚇する。


 「雷属性か・・・・・・奇遇だな・・・・・・」

 不敵に笑うボンバーバンボー。


 突如、自分の視界一面が淡い青色に支配されたジムナーカス。体が激しく痺れる感覚に陥っている。

 (な、雷に耐性を持った私ですら圧倒されるというのか・・・・・・!?)

 ただ雷の魔術に詳しい奴は、妙なことに気付いた。

 (そうだ今ワタクシに胸ぐらを掴まれているガキも感電しているのではないですか?)

 その勘は外れ、青白く光っている今のチャールズは、戸惑ってはいるもののダメージを受けている様子は見えない。

 気絶しそうになるジムナーカスだが、そこは雷属性の魔術師。その道のトップの扱う魔術を考察したくなったのだ。

 (おそらくボンバーバンボ→地面→ワタクシの順で電気が通っているだろう。

 そうか自然の物でない魔術の雷は、痺れさせるものとさせないものに術者が分別できる特性を有していたはずですね)

 扱う魔術の威力・範囲が他と比べて常軌を逸しているボンバーバンボー・・・・・・だが、彼にとって一番特記すべき項目なのは、攻撃魔術の精密性さ。

 魔術を手足以上に自由に操るとされるその緻密性たるや、他の技巧派と比肩しても彼がトップなのは明白である。


 (こんな繊細な魔力操作・・・・・・ワタクシでは絶対真似できません・・・・・・)



 奴は、朦朧としながらもあることを思い出していた。

 タワラから自分の事を『昼行燈と舐めプ糞野郎の完全下位互換』と評価したとの事。



 (ああ・・・・・・本当の事だったんですね・・・・・・)

 そうして彼は、焦げて倒れたのだ。





 ※次からは、黒いハーブが点在する原っぱを一望できる丘へと視点を変えます。


 茂った大木の枝上にのっているフードをかぶった賊が、弓を構えていた。

 険しい顔つきをした男には、未だ左額に凍傷痕が・・・・・・冥界にて出会ったタロットなら、その痛々しい痕など完治させるなんて訳無いだろう・・・・・しかしその治癒行為を奴は、拒否。

 昔、氷の精霊から巻き添えを受けた形で冷気を浴びたことの憎悪を忘れないために、あえて残してくれと彼女に頼んだのだ。


 アイスマン カマエ


 『NWのデビルフィッシュ』の一員で、今奴の視線先には、ヤマネの迷彩柄のバッグが転がってあった。

 それを持ち主にとっての撒き餌として見張っている。

 『武具や日用品が詰め込まれている荷を城壁外で捨てる選択なんて相手にはないはずだ。

 戻ってきたところでこの新兵器を試してやる・・・・・・!!』


 今、奴の摘まんでいる矢の先には、やじりはなく代わりに円錐型の乾燥海藻を取り付けている。

 神頭じんとうと呼ばれるものだ。形はかぶらと似てはいるが中身はくり抜かれてない代物。

 そしてその武具は、実は魔道具なのだ。


 『来た!! 【神頭:豪乱昆】』

 バックの持ち主が、遮蔽物の少ない草原に来たことを捉えたアイスマンは、羽部分ごと弦を強く引き、そして容赦なく射た。


 その矢は、音速を遥かに超えた速度で飛来し、標的めがけて的確に迫る。

 もはやDランクの実力を持つ彼女では、回避することが困難だろう。

 

 『・・・・・・・・・・・・空間移動テレポートか幻術か?

 タロット様からの情報では、彼女は空間系や幻術系は使えなかったはず。

 つまり黒猫の獣人の手助けという線であっているだろう』


 たった今いたはずのヤマネが、立体映像みたいに一瞬にして消えた。

 飛ばされたその矢は、虚しく透かされる。

 標的を失ったそれは、射線上にある全ての樹木の幹や岩を木っ端みじんに射砕いた。着弾した箇所には、狭いクレーターができている。

 その破壊規模が生半可なものではないと、一目でわかるだろう。

 奴の扱う神頭の材質は、特殊な海藻で、大気中に存在する魔力を吸収することにより、硬度が格段に上がり、多大なパワーを発揮する。


 攻撃は失敗した。アイスマンは、敵に狙われる前に急いでこの場から離れる。態勢を立て直す気だ。

 ちなみに彼の移動速度は、音は超えてないものの鍛えているのか、全速力のヤマネとほぼ同速。


 蔦が伸びっぱなしの場所まで移動した奴は、立ち止まっては茂みに潜み、背負っている矢筒から一本の矢を取り出す。

 それの矢先には、四か所穴を開けた紡錘ぼうすい型の桐だ。

 同時に、またヤマネが奴の視界に入る。


 『懲りずに来たか。大方強力な仲間がバックにいるため、大胆な行動を取れるのだな。

 挑発的な・・・・・・』

 アイスマンは、狙いを定めて放った。

 『次は、【蟇目ひきめ:貫轟だ】』

 

 間髪入れず、次の矢を取り出すアイスマンは、ヤマネ・・・・・・の方ではなく彼女の後ろに位置する林へと標準を合わせる。その地点からは、遮蔽物である木々が密集しているためか、人の影すら捉えることができない。

 しかしアイスマンは、確信していた。ヤマネを援護するための最適解の位置に、彼女の仲間がいるということに、戦闘経験豊富な奴は、理解していたのだ。

 今、彼の手に握りしめられている矢には、消音の効果を有している。

 それだけではない・・・・・・この矢の棒には、埋め尽くすよう大量な矢文が括りつけられている。

 全てが爆発魔術の魔方陣が施されていた。

 被弾してしまえば最期、ピターヤがコモドに放った攻撃と同程度の爆炎が、広範囲に炸裂する。


 『あくまでヤマネは、餌。今の本当の狙いは、貴様だ狡猾な猫』

 今まさに引き攣った弓の弦を緩ませようとした瞬間、先程飛ばした蟇目タイプの矢から、騒音ではない大音量の音がわずかな間だけ鳴るのをアイスマンは、耳にしたのだ。


 『なんだ・・・・・・この音は・・・・・・オルゴール?』

 矢を放つのを切り上げて慌てて音の元へと向くと、草むらに転がる紡錘ぼうすい型の桐が確認できる。ヤマネの姿は、見えない。


 本来【蟇目ひきめ:貫轟】の用途は、標的に殺傷能力を有する程の音波攻撃を浴びさせるものだ。

 穏やかな音楽は、鳴らない設計にしている。


 (まさか、俺の魔道具が乗っ取られた? 【蟇目】特有の鋭い音を発する特性をを利用して遠隔から音楽を流したとでもいうのか!?)

 視界が揺らぎ、抗いがたい睡魔がアイスマンに襲い掛かった。

 (そうか。頑なに何度もヤマネが自分の身を晒すような無茶な行為を繰り返したのは、俺に蟇目を撃たせるためか。

 そうか・・・・・・撒き餌をしたのは、俺だけじゃない。ヤマネという餌にまんまと引っ掛かったのは、俺だったんだ・・・・・・そうか・・・・・・)




 ※ ※ ※




 「とっくに、俺は、夢の中にいたってことだな・・・・・・むにゃむにゃ・・・・・・」

 茂みの上に転がるようアイスマンが爆睡していた。

 今の奴は、たった今起きてた事の夢を見ている。



 ※その頃、ヤマネ達は見晴らしの良い草原にいる。

 もちろん彼女は、荷物を回収済み。


 「その魔術、指向性持たせたって言ってなかったか・・・・・・?」

 ヤマネが眠そうにルイスに文句を言う。今彼女は、自分の中指の爪の生え際につまようじを刺している。眠気覚ましのツボを圧しているのだ。


 「仕方ないのだよ~♪ 自分の楽器ならいざ知らず~相手の魔道具を精密に操るなんて無理なのさ~♪

 いや~遠くにある楽器を~操る魔術修得して良かったよ~♪」


 同じく眠気覚ましのツボ(ヤマネから教えてもらった)を突いているウィッチブラックが質問する。

 「一発目に放たれましたえ~と蟇目ひきめ? から例の音楽を鳴らせなかったのですか?」


 「蟇目は、くり抜かれた空洞に空気が流れる時に鋭い音が鳴るもの~♪ 地に転がっているそれは~ボクの力でも音楽を鳴らすのは無理~♪ だからこそ山賊さんに~新たなそれを~飛ばせる時しか~狙えなかったわけさ~」


 (あれが音が鳴ったの一瞬だろ。それだけで爆睡させるの恐ろしすぎだぜ・・・・・・)

 「ここにつっ立っても攻撃が一向に来ねえ。スナイパーは、撃破したってことだな。

 よし、すぐにチャールズを助けに行くぞ!」



 ちなみに今爆睡しているロデオやヘルメイスは、ウィッチブラックがロデオの得物である鎖でがちがちに縛っています。



 ヤマネ達がチャールズが逃げた方角に全速力で駆けること数分(ウィッチブラックはテレポート移動)。

 地に倒れて熟睡している彼とボンバーバンボーとウォールナッツまでたどり着いた。

 その横には、焦げて黒煙を吐いているジムナーカスの姿も。


 「いや~まさかここまで『スリープオルゴール』の術式範囲が届くとはね~♪

 まあ♪ 賊さんが扱った蟇目を利用したおかげだけど♪

 流石に自前のオカリナじゃあ〜こんな広範囲に音楽を届けれないよう〜」


 「・・・・・・お前、ギルドに帰ったら試しにステータス測定器計ってみな?

 絶対Dランクじゃ済まねえから。余裕でAやS届いているって」


 そんな会話を余所にチャールズも夢を見ていた。

 赤い岩壁が見渡す限り広がる谷・・・・・・そこは、彼の故郷であった。

 岩壁を掘ってできた空洞にて、派手な絨毯上でくつろいでいる老人の男が、向かいで座っている男の子チャールズと会話している。

 もちろんこの老人もカンガルータイプの獣人だ。

 「さてチャールズも10の齢を超えた。貴様は、戦士のせがれ。

 そろそろ戦闘の修行を受けさせたいが・・・・・・どうだ?」


 「はい、族長様!! 大丈夫です!!」


 現在は、ともかく今の彼の瞳からは、悪だくみや嘲笑などの穢れた思考が感じられない程澄んでいる。


 そんな会話をしている二人に、良く響く低い音が鳴り響いた。船の汽笛やトロンボーンに似ているものだ。

 

 「誰かがディジュリドゥを鳴らしているのか・・・・・・? この音の並びは・・・・・・敵襲か!?」

  族長と呼ばれた老人は、勢いよく立ち上がり、得物であるブーメランを持ち、急いで音の鳴った方へと向かう。


 「ボクも行きますよ族長様!」


 「駄目じゃあっ!! 貴様はこの部屋の隠し通路に身を潜めておけ!!」


 族長や、チャールズとは別の者が叫んだ。

 「王都から騎士団『アウル』が攻めてきた!?

 王様と族長様の不可侵条例はどうなったんだっ!!」

 

 ※もちろん現存する鏑矢・蟇目矢・神頭には、アイスマンが使ってた魔道具の能力【消音や轟音や硬質化破壊力増強】は具えていません。

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