ここにユミル山脈編終わり武闘大会編始まる♪
ルイス「あれ~? ウォールナッツ君~♪ どこに出掛けるの~?」
ウォールナッツ「約束してあんだよ。ボンバーバンボーと手合わせすんの。北西辺りで」
ルイス「へ~♪」
ウォールナッツ「北西と言えば・・・・・・新入りのヤマネがパーキング町に行くって息巻いてタワラに挨拶してたぞ。・・・・・・良いのか? このまま何もせずに楽器を鳴らして」
ルイス「・・・・・・・・・・・・わかったよ~♪。殴られに行く~♪」
ヤマネは、ベット(均した藁にシーツをかぶせた)にて、かけ布団の中でモンモンとしていた。
(この展開は、あれだ・・・・・・! 性欲溢れたショタが、寝ている年上のお姉さんに忍び寄って獣のごとく襲い掛かるヤツだ。
あの子は、かわいいし、めっちゃ珍しくあたしが抱いてもいいかな? と思えてしまう程のタイプだ・・・・・・! チャールズが誘ってきたら、あたしは大人の対応をできるだろうか?
というか、実はあたしがショタ派だなんて知りたくも無かった・・・・・・)
余計な妄想に脳裏を埋め尽くされている今の彼女は、おとなしく眠れないでいる。
横になっているヤマネの隣から、ジャラジャラとした金属音が鳴っている。
(チャールズか・・・・・・? もしかして金貨の袋を持ったまま寝ている。こんなうるさかったら起きるかもしれねーが、寝ている時に余計なことしても悪いしな。
いっとくがあたしは、ぜってい襲わねー。なんだかんだで前世の野郎の嗜好の記憶も残っているから、未だに男に恋愛対象として見れねー・・・・・・しかし顔つきも体つきも女の子みたいだし。あーもしかしたらヤマネとしての初恋かもしれねーな。ハァッこれじゃあギルドマスターを笑えね~や)
朝日が昇るころには、目元に濃いくまが残っている彼女でした。
なぜかチャールズの方も目尻にクマが出来ているのだが。
「さあ、五日後の武闘大会に向けて修行だ!」
少しボロくなった迷彩柄のバッグを担ぎ、窓越しに天に拳を突き出し自らを奮い立てる主人公。
「その前に、リチャード君の着替えを買わないとな・・・・・・伯爵かブラックメイドさんがこの子の余分の服も持たせりゃ良かったのに・・・・・・」
先に結果を伝えるが、今回ヤマネは無事修行らしい修行を成し遂げることができなかった。
彼の着替え用の服を買うため、苦労しわが特徴的な五十代男性の仕立て屋【19話参照】に向かえば。
「困った、困った・・・・・・」
「どうしたんすか。仕立て屋のおっちゃん」
「おお、タワラさんの知り合いかね。実は西南にいる弟子がお得意様に粗相をしてしまったという知らせが今朝届いたのだ。
ワシがそいつの尻拭いをしなきゃならなくなったのだが、閉店しようにも今日の昼辺り外来人の客に注文品を渡す予定があるから留守にできないんだ。
なんとかならんかな~」
「それなら、あたしが店番しましょうか?」
無責任な安請け合いを自らかって出るヤマネに、自分の顔を叩いてしかめっ面をするリチャード。
「おおっそうか!! それは助かる! じゃあ『セコンド』と名乗っている客が来たら棚の右側にあるサリー服を渡してくれ。勘定は苦手じゃないよな? 新たな注文が来たらカウンター上にある羊皮紙に客の言うとおりに記せばいいから。
サリー服の客の注文を達成できたら、同じくカウンター上の端に置いてあるクローズの札を出入口扉の表に掛けて退勤してくれ。お礼として五品までなら商品を勝手に持ち去っていいぞ! 高級品はかんべんな?
それじゃっ!!」
そう早口でまくし立てた仕立て屋は、チャールズが異議を申し立てる前より早く店から出た。
「・・・・・・・・・・・・修行どうしよう。早くその客来ないかな?」
今更になって後悔しだす彼女に、呆れて見上げる彼。
ちなみにその客が来たタイミングは、夕方辺りの頃だ。
暇でしょうがないヤマネが、体の柔軟性を高めるため床の上でヨガのポーズを取っている今。
「・・・・・・・・・・・・(ゴニョゴニョ)」
扉が緩やかに開いた。サリーを身に纏った小麦肌の少女が、片手を揚げてブリッジしている状態の彼女と目が合う。
「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」
「あの、遅くなって申し訳ありませ・・・・・・」
「いらっしゃいませぇええええええっ!!」
顔が真っ赤に染まったヤマネは、急いで姿勢を直して立ち上がり、注文の品を押し付けるよう渡した。
結局店を閉めれたのは、陽が完全に落ちた時間。
店主の言葉に甘え、チャールズのサイズに合うシャツとスカート(カンガルーの尻尾を有しているためズボンを履くためには穴を開けないといけない)と肌着とパンツと男性用ワンピースを頂くヤマネ。
「今度こそ! 次は魔術の勉強だ!!」
次の日。冒険者ギルドの二階にてギルド長室隣である資料室に向かうヤマネら。
「あら、ヤマネさんこんにちは。資料室をご利用ですか? すみません今掃除兼整理整頓中でして・・・・・・」
シャルルがはたきを摘まんだまま、机の上に埃被った本を積み上げている。
「シャルルさん大変そうっすね! あたしも手伝うっすよ!
みんなでやればすぐに終わるはず」
また自分から面倒事に突っ込んでいる と言いたげそうにため息を深くつくチャールズ。
彼の予想通り、また丸一日を他人の為に潰した彼女。
「ヤマネさん次は、ギルド長室の清掃を!」
「次はカウンター席に置いてあるインク瓶にインクを注ぎ足してください! 業務用インク瓶は物置にありますから」
「申し訳ありませんけど、排泄物回収業者がお越しになりましたのでトイレの便器【青銅製の桶】を渡してください」
資料室の掃除・整頓が終わった途端に、シャルルはヤマネのお人好しにつけ込むよう雑用を次々に押し付けた。
「ありがとうございますヤマネさん! おかげで助かりました。これ少ないですけどどうぞ!」
銀貨をチャールズに渡すシャルル。彼は主君の意見を耳にする前にポケットマネーに収める。
陽が完全に沈み、夜が更ける時。
「ハハハ・・・・・・やっと終わった。チャールズ君ご苦労様。食事スペースで先に晩飯喰っといてくれ。あたしは、資料室で魔術の勉強を・・・・・・」
「あ、ヤマネさん。あと少しでギルドの閉館時間になりますよ?」
仕事を手伝ってくれた相手に無慈悲に告げるシャルル。
「何で!? 俺がギルドに初めて来たときは、遅い時間まで開いてたのに!!」
「王都に魔物が襲来したという緊急事態が起きましたから、利用時間が伸びたんです。
敵襲がおきている時に戦士である冒険者方々の集会場所が閉じてしまえば情報伝達に支障が出ますからね」
結局魔術の本を数ページしか読めなかったヤマネ。
そしてとうとう、武闘大会開催日から残り三日。
王都から武闘大会開催場所であるパーキング町まで徒歩で行くのに丸二日かかり、登録手続きなどの手間も考慮すれば、もう今日旅立たないといけなくなる。
迷彩柄のバッグを抱えて王都城壁の北門から出るヤマネら。
「まあ常日頃から鍛えているし、大丈夫か」
「ヤマネ姉さん。ヤマネ姉さんって、魔物に狙われやすい体質なんでしょ?
ボク、ここらへんの場所詳しいから魔物がうろついてない近道知っているよ?」
少し寡黙気味であるチャールズが提案する。そのことにヤマネはわずかながら驚いた。
「本当か!? 助かるぜよろしく頼む」
「こっちだよ。行こう」
彼は、均された大通りから大きく左に逸れた茂みを指差す。
日中でも生い茂る木々の影で暗く、地面が凹凸していて転びやすい獣道。
とくに反論することなくヤマネは、チャールズについて行く。
その道に入る時、彼女は釘を刺すよう呟いた。
告げる相手の顔を見ず、真剣な顔で芯の通ったような声で。
「もしあたしが危険な目に遭ったら、余計な事せず迷わず一人で逃げてくれ。
途中でまともそうな人と会ったら、その場合は助けを呼んでくれると助かる」
呟かれた彼は、ウサギみたいな耳を立てて無言で返す。
確かにチャールズの言った通り、魔物とは会敵しなかった。
茂みのゾーンから抜けたヤマネ達は、見晴らしの良い草原までたどり着く。
そこの草むらには、紫のハーブが点在するよう生えてある。
「一枚岩谷と映星湖がここから右側に見渡せれるから、今の現在地は、ここら辺か?
確かに近道だな。だいぶ早いペースだ。チャールズ君のおかげだよありがとう」
迷彩柄のバックを開け、地図を取り出すヤマネ。
地図を凝視して集中しているヤマネがふと視界端にいるチャールズに目を配る。
なぜか彼は、地に伏せていた。
「チャールズ君、何を・・・・・・」
彼の見ている先である真横に顔を向ける彼女。
眼前。
「何これ・・・・・・?」
何度も死地を乗り越えることにより危機察知能力が長けているはずの彼女らしくない現状。
目と鼻の先に一本の矢がこちら目掛けて猛スピードで接近している。
ヤマネは、盛大に吹き飛ばされた。雑草の上に転がり木の根元に激突。
バッグと地図が落ちる。
掠るどころかもろに受けた彼女だが、切り傷は受けていない。命中された額は軽く腫れているが
それもそのはずその矢の鏃には、紡錘型の桐【中身がくりぬかれている】が取り付けられているからだ。これでは、鋭利な鏃で敵を切り裂けることができないではないか。
(飛来する矢は風切り音がするはずなのに、これだけは何の音も聞こえなかった!? 消音ってやつか!!)
ただ射られたその矢には、もう一つあるものが取り付けられていた。正しく言うなら結われていた。棒部分に紙が。
それを目にしたヤマネはすぐに勢いよく立ち上がり、チャールズの元に慌てて駆け寄る。
「まずい・・・・・・逃げろチャールズ!!」
転がるその矢から唐突に冷気が放出され広範囲を氷結させた。木々や草むら、大気が巨大な氷で包まれる。
間一髪のところで、回避した彼女・・・・・・しかしそれで彼女にとっての脅威は止まらなかった。
「ぐがっ!? ・・・・・・ゲホゲホッ!!」
複数の金貨が、ヤマネの口腔めがけて放り投げられた。まるで神社の賽銭箱に向かって参拝者が小銭を入れる様に。
即座に彼女は、入れられた輝く異物を吐き出した。
「ゴホゲホゲホッ!! 何を・・・・・・・・・・・・しているチャールズっ!!」
「何って・・・・・・?
ご主人様の大好きなお金を渡しているだけですよヤマネ姉さん!!」
先程硬貨を投げつけたのは、そう彼女の奴隷であるチャールズだ。
ウィッチブラックから『首輪には、それを装着された者が、その所有者からの命令を強制的に従事させる効果が付随されています。要は、それさえ取り付けた状態なら、チャールズはヤマネ様に逆らうことも逃げることもできないということですね・・・・・・』という言葉を思い出したヤマネは、怒鳴るように命令をしようとする。
「うごk・・・・・・ゲホゲホッ!!」
しかし失敗した。喉や舌にひどく炎症を起こしたせいでうまくしゃべれない。
「金属アレルギーかかってるんでしょ? 無理しないでよヤマネお姉さん」
慣れたような手つきでバッグをまさぐる彼は、そこから首輪の鍵と奴隷契約書を掴み、慌てて大岩の影に隠れる。
鍵で外された首輪と破られた契約書が捨てられる。
高い笑い声が、草原一辺に広がった。
「やった・・・・・・ずっとこのようなチャンスを狙ってたんだ! ずっとずっと・・・・・・もうボクは、自由だ!!
バカな冒険者!! 普通こんな人気のない獣道勧められて、ほいほいついて来ないでよ戦士なんでしょ?
確かにここは、魔物が嫌うようなハーブが自生してるけどね・・・・・・だからこそ人間にとって安全で、だからこそ賊の狩り場にされやすいんだよ!!
あ、言っとくけど別に盗賊と共謀してるわけじゃないよ?
本当にタマタマさ。ただただ運が無かっただけなんだよねお姉ちゃん!
まあでも許してくれるよね?
だって『もしあたしが危険な目に遭ったら、余計な事せず迷わず一人で逃げてくれ』って言ったのは、お姉ちゃん自身だもん!!」
そう長くまくし立てたチャールズは、遮蔽物が多い林の奥めがけて走り去る。
その走行速度の速さたるや。さすがカンガルータイプの獣人だ。
「こ、この野郎・・・・・・」
アレルギー症状に悩まされながらも奴を追いかけようとするヤマネだったが。
二発目に射抜かれた矢がこちらに迫り来る。
なぜかそれの鏃【数か所に穴が開けられた紡錘型の桐】から、鼓膜が破れそうな轟音がまき散らされていた。掠るだけでも体に重い衝撃が駆け巡るだろう。
(まずい・・・・・・避けきれない・・・・・・!!)
轟音により数多の木の枝が弾き落とされ、着弾された太い大木の幹が粉々に砕かれた。
しかしそこには、少女の死体は無い。
「大丈夫でしょうか? ヤマネ様。
申し訳ございません。奴隷の贈呈に不躾で低俗な方を選んだ私に落ち度があります」
「ウィッチブラックさん!?」
猫耳猫尻尾を有するメイドが、ヤマネをお姫様だっこして回避したのだ。
「なぜここに!? ゲホッゲホッ」
「ああなんと苦しそうに・・・・・・これをお召し上がりください。アレルギー症状を緩和させる効果を有する温泉水でございます」
弓矢からの安全圏である林の奥に飛び跳ねるよう逃げたウィッチブラックは、彼女を優しく降ろし、透明な水が入ったガラス瓶を渡した。
それを飲んだヤマネは、短時間で炎症が治まる。
「すっげえ効き目。これあたしが前に渡した温泉と同じものだろ?
そうだブラックさん、なぜここに・・・・・・?」
「実は、あらかじめチャールズの首輪に魔法をかけたのでございます。
『首輪が外れたら私が自動でそこの元に空間移動される』と言う効果の。
元から彼は、人格面に難がありましたので、こういう事態が起きると予測して保険をかけました」
「・・・・・・・・・・・・つまりろくでもない奴ってことか? よりによって問題児を押し付けやがって。報酬と言いながら厄介払いしたかっただけだろっ! たっく、とんだ迷惑だぜ」
「申し訳ございません。返す言葉もございません」
深々と頭を下げ続けるメイドに、怒り心頭のヤマネの怒気が抜ける。
そんな彼女らの立っている地面に深い縦穴が生じた。
次に彼女の周囲にある大木の幹がひとりでに切断されて二人めがけて圧し掛かろうとする。
しかしヤマネは急いで落とし穴から這い出てスライディングで難を逃れ、ウィッチブラックは身軽にジャンプして華麗に回避。
(この木のへし折れ方は・・・・・・まさか!!)
「久しぶりだな小娘。いやそんなに日は開いてないか・・・・・・」
「フフフフ? タロット様のおかげでパワーアップしてるよ~。リベンジ戦だ~」
ヤマネらの視線先にある大木の影から、斧を構えている低身長のおじさんと血色の悪い乗馬している若者が現れる。
「NWのデビルフィッシュかっ!?」
(ということは、やっぱりさっきの弓矢を射た奴も・・・・・・)
「見るがいい小娘。今の吾輩は、木々を斬り倒すだけの木こりでは非ず!!」
低身長のおじさん・・・・・・ヘルメイスの得物である斧の金属部分が一旦溶けたかと思えば自然にスコップへと形が変わって固まる。
「なるほど・・・・・・自分から見て遠隔にある地面を掘り起こす能力を新たに得たということだな?
ブラックさん・・・・・・戦闘は得意ですか?」
「まあ人並に嗜みますが・・・・・・しかしわざわざ私達が戦う必要は、ございませんよ?」
何を・・・・・・ と返答するヤマネの耳に、上品で穏やかな音が届いた。
「フ、フフ? な、なんですかこの音は~・・・・・・オルゴール?」
辺り一片に例の音楽が鳴り響き、そして・・・・・。
「ぐうっ・・・・・・」 「むにゃ・・・・・・」
ヘルメイスとロデオ、そして奴に乗られている筋骨隆々の馬が崩れるよう寝た。
奴らの背後から歩み寄る影が一つ。
彼は今、オカリナを演奏していた。
なぜオカリナからオルゴール調の音楽が響くことができるのかと言うと、まあ科学を逸脱している魔術を発動してるからだとしか言いようがない。
「やはりルイスさんでしたか・・・・・・」
吟遊詩人の恰好をしている顔立ちの整った青年エルフ。
「ええ、その通りです~♪。お怪我は、ございませんかマドモアゼル~♪
睡魔の魔術~ボクは、指向性を持たせることに~最近成功したのさ~♪」
ちなみにウィッチブラックは、冒険者ギルドの聞き込みの時に、彼と知り合っている。
「今回ばかりは、助かったぜ。ルイス、ありがとう・・・・・・」
ヤマネの素直な感謝に、ルイスは頭を下げる。
「感謝~される謂れは~ありません~♪ 詫び~させて頂きます~勝手に睡魔の~魔術を~かけて~申し訳ございませんでした~♪」
「いいよ、そんなこと・・・・・・あたしは気にしてないからさ」
照れ隠すように鼻頭を掻いているヤマネは、あることを思い出す。
「あ、そうだ!! チャールズを追わねえと!!」
「そうですね。お金やギルドカードを今持っているのも彼ですし、曲がりなりにも立場を弁えず、主君に対して狼藉を働いた奴隷には、それ相応の罰を・・・・・・」
「ちげえよ」
ウィッチブラックの話を重たい声で遮るヤマネ。
「あろうことか盗賊の前で金貨をあいつは見せつけたんだ。
つまり今のあいつらは、あたしよりお金を持っているあいつを狙うだろう。
チャールズが危ない! 助けねえとっ!!」




