主人公ヤマネの成長記録 早送り
最近改稿した時期は、2021年9月1日です。
この物語の主人公 ヤマネ フルボルト は、地球とは別の世界にある、自然豊かな海洋国が特徴的なトガルポル国の南西部に位置する農村に誕生した。
●0歳~3歳
ヤマネの母「元気な女の子ね」
ヤマネは、三歳になるまでは、前世の浅間の記憶があまりにも朧げでほぼ思い出せないでいる。
彼女の父と母は、宿屋を営んでいる。両親共々、自分の愛娘におもいっきり愛情を注いでいた。
ちなみに父の名は、キビタキ。母の名は、ボア。
三歳になるころには、物心がつく・・・・・・しかし、冥界でのタロットとの会話は、時々ふと脳裏に浮かんでくるのだが、彼女はまだ幼いので、この記憶がどのように重大な事か、まだ分かっていない。
●4歳~5歳
キビタキ「なんかヤマネだけ、よく蚊に刺されやすいな」
ボア「蚊なんて生易しいと思うわよ。最近不審な男達が、ヤマネをいやらしい目で見て近づいてくるの・・・・・・きっと、ロリコンよ。恐ろしい・・・・・・」
「蚊だって、甘く見られないぞ・・・・・・厄介な病原菌を持っているかもしれない。
うつされたら大変だ」
●6歳~9歳
「うぅっ・・・・・・ぐすっ・・・・・・」
オーバーオールを着ている長髪の幼女・・・・・・ヤマネは、廃屋の陰で一人座り込んで泣いていた。
「どうしたの? ヤマネちゃん」
そこに、ヤマネの実家のお隣さんである12歳の少女が尋ねて来て、彼女の隣に体育座りをする。
「怖い犬に追いかけられて、いつものいじめっ子から膝十字固めとかいうのされたの。俺・・・・・・」
「いつものことね・・・・・・可哀そうに・・・・・・。
それと、ヤマネちゃん。女の子が自分の事いう時、俺より私ってほうが、かわいいんじゃない?」
「自分の事、俺って言った方が、落ち着く・・・・・・」
「そう・・・・・・それにしたっていじめっ子のヤママユ君は酷すぎよね!?
あの子、子分を引き連れて、いつもいつも年下をいじめて・・・・・・困ったら、すぐに私を頼ってね?」
「うん・・・・・・ありがとうアテナイお姉ちゃん。
ねえ、どうしたら俺、いやあたしはいじめられないようになるのかな・・・・・・」
「う~ん・・・・・・魔術を習得したり、鍛えたりするのが、確実なんだろうけど。
とりあえず、タロット様に自分がいじめられませんようにって、お願いしようよ。聖堂に行こう」
人間の魂を導くとされる女神 タロットは、この村はもちろんトガルポル国民から篤く信仰されている神の内の一柱だ。
「タロット・・・・・・」
ヤマネはその単語に聞き覚えがあった。もちろんヤマネは、今まで生まれてこの方、彼女の名を他人から聞いたことが無い訳ではない。ただ、現在のヤマネの成長した精神と積み上げられたこの世界の知識が、冥界時の憎悪の記憶とうまく結びつくことに成功した。
何が起きたのか。
何を為すべきなのか・・・・・・。
「タロットぉぉおぉおおおおおおおおおおぉおおおおおおおおおっ!?
そうか! あいつかっ!? あいつめ・・・・・・」
勢いよく立ち上がるヤマネ。
その行動に対し、アテナイは、動揺する。
「ど、どうしたのヤマネちゃん・・・・・・?」
「くそっ! 今までガキだったせいか、冥界や前世の記憶が夢だと勘違いしてたぜ!
こんなことしてる暇はねぇっ!
アテナイ姉さん。ちょっと俺・・・・・・いや、あたし行かなきゃ・・・・・・じゃっ!」
「ちょっ・・・・・・どこ行くの!? ヤマネちゃん!!」
この日から、ヤマネの生活態度は、ガラリと変わった。
毎日どんなに疲れていようとも、トレーニングと勉強を貪るようにがむしゃらに励んだ。
ある時は、ヤマネの近所に住む魔術師の老人の家に入り浸り。
「あの・・・・・・フルボルト家のお嬢さんよ・・・・・・毎日わしの家にお邪魔して魔導書とか読み漁るのは、ちと困るんじゃがのう・・・・・・」
「手段を選ぶ余裕なんてないっすよ、済まないなじーさん。ところでこの『イルカの脳』って本借りて良い?」
「遠慮とかいうものを知らんのだね君は・・・・・・ああ、いいよ」
ある時は、魔導書を床に置き、それを読みながら我流の腕立て伏せで鍛える。
「あのぉ・・・・・・ヤマネ。この本借りてるものだよね?」
「後で拭くから大丈夫・・・・・ふぅ。やっぱり正しいやり方でやらないと、効率悪いのか?
オヤジ、なんか筋トレに詳しい人知ってる? ハァハァッ」
「まあうちは宿屋だし、筋肉自慢の冒険者も頻繁に来るからな・・・・・・もしそういう客が来たら、紹介してやるよ」
(まぁ自衛の術を持つことは、良いことだ・・・・・・だが・・・・・・)
ありがとう。というヤマネにキビタキはしかめっ面を隠さずに怪しむ。
(最近魔術やサバイバルの勉強や運動に励んでるな・・・・・・もしやヤマネは、冒険者になりたがっているのか・・・・・・? 危険がつきもののあの職業に・・・・・・)
ある時は、魔術の詠唱をしながら、村の囲いの内周を何回もジョギングしたりしていた。
『炎の象徴であるサラマ・・・・・・ゲホッ! 我は命ず・・・・・・ゴホッゲホッ。
燃え盛る矢を放・・・・・・脇腹いてぇ・・・・・方角は・・・・・・ひぃ、きっつ』
「あのフルボルトの娘さん。何やってんだろ。魔術の詠唱なんて全速力で走りながらじゃ無理だろ」
とにかくヤマネは、試せるものを全部試した。
運動は、腕立て伏せ、背筋、腹筋、懸垂、木登り、スクワット、ジョギング、お風呂上がりの柔軟体操、農家の手伝い等。
取り組む勉強は、魔術を始めとして、文学、サバイバル教本、地理、歴史、化学、生物学等。
時には、自分の家に泊まりくる冒険者やこの村に駐屯している騎士に頭を下げて、場合によってはなけなしの小遣いを渡して、ヤマネは教えを乞うこともした。
「お願いします! この通りっ!! 体の鍛え方や受け身を教えてください!」
冒険者「いや、俺様疲れてんだけど・・・・・・まあ基礎の基礎だけなら」
「ありがとうございます!」
***
騎士「何? 武具の扱いを教えて欲しいだと?」
「お願いします!」
「まあ、この村は平和だし、見張りの仕事は堅物の相棒にでも任せるか。私の事は師匠と呼べ!」
「はい、師匠! ところで、あたしは金属アレルギーなんですけど・・・・・・大丈夫ですかね?」
「やっぱりこの話は、無かったことにしていいかな!?」
もちろん彼女は、情報収集も怠らない。
「師匠・・・・・・この国には、魔王と呼ばれる存在がいますよね? 詳しく知りたいです」
「魔王か・・・・・・確かここから北東を進めば、危険区域にたどり着ける。そこに魔王のアジトがあると言われている。
しかし、本当に実在するか不明だ。魔王の情報自体が少ない上信憑性が低い」
「なるほど・・・・・・北東に行けば、魔王のアジトがあるんすね」
「とっ言ってもその区域には、B級クラス以上の冒険者や、伯爵以上の爵位を持つ方から推薦状をもらった者しか入れないんだ」
「師匠とかの騎士隊も、魔王討伐のため危険地帯に出征することがあるんすか?」
「騎士は魔王討伐なんてしないよ。いるかどうかも分からない者を倒すために、国が兵を遣わせるわけがない。そもそも隣国と現在緊張状態が続いているから、そういう余裕なんてないのさ」
「おい相棒! いつまで子どもと遊んでいるんだ!? さぼるのいい加減やめて、見回りするぞ!」
師匠とは別の騎士が、声を掛ける。
「ああわかった。それじゃあヤマネ。鞭の素振りと投石器の練習忘れずにね~」
ちなみにヤマネは、いじめっ子であるヤママユに毎日喧嘩を売り、彼と彼の子分に袋叩きにされるのも日課になっていた。
「おいヤマネっ! 力の差が分かってんだろ! 何でオレ様にいつも喧嘩売ってくるんだよ!?」
「もっと殴れっ! ヤママユ! もっとあたしを殴ってくれっ!!」
(殴られれば打たれ強くなるかも。受け身の練習もできる)
「なんだこいつ、ドマゾかっ・・・・・・!?」
いつもヤマネの幼気な体には、痛々しい掠り傷がついていた。
その度に、父や母に心配され、消毒・治療される。
鍛錬や猛勉強で疲労困憊になったヤマネが、寝込むこともしばしば。
ヤマネの自棄気味の特訓に、キビタキがやめろと言うも、彼女の努力を認めているボアの方は、娘が自分で決めたことだからと彼をいさめる。
●10歳~16歳前。
この頃のヤマネは、運動するのに長髪が邪魔になるので、ポニーテールへと髪型へと変える。
春の事、ヤマネと親しかったアテナイが、国の騎兵隊に志願するため王都へと旅立った。
(アテナイ姉さん・・・・・・あんたが励ましてくれたおかげであたしは、ここまで頑張れました・・・・・・どうか無事にあんたの夢である騎士になってください)
「よし、あたしもうかうかしてられないな。バック転とジャンプ側転の練習がんばっかっ!」
※ヤマネが回転の練習をしている時は、マット代わりに周囲に藁を敷いています。
アテナイが、村から去ってから一年のこと。
「親分・・・・・そんな、嘘でしょ。あいつ素手だけで」
「う・・・・・・ぐっ・・・・・・まさか、ヤマネなんかに・・・・・・」
「やった・・・・・・とうとう・・・・・・ヤママユ共に勝った・・・・・・勝ったぞぉおぉおおおおおおおおおっ!!」
ヤママユと彼の子分全員が、野原にて、積み上げられるよう倒れている。
そう、ヤマネが初めて彼らに喧嘩で勝利したのだ。
ヤマネが、ヤママユ達を倒してから半年後・・・・・・。
いつものように、ヤマネがジョギングしながら魔術の詠唱をしている時、不意に・・・・・・・。
『火の象徴であるサラマンダーよ 我は命ずる 燃え盛る矢を放て!
方位は緑月の元 数は少数 精霊の猛威を 我が前に示せ!
火属性魔術『炎矢』っ!!』
彼女の側の虚空に、矢の形をした炎が5本程出現し、目前の藁葺き家目掛けて射出された。
「え・・・・・・ちょっ・・・・・・嘘!?」
そう、実は今回こそが、ヤマネにとって、生まれて初めて魔術の発動が成功した事例なのだ。
燃え盛る魔力の炎に射られたその家は、短時間でメラメラ火の手が回り始める。
『水の象徴であるウィンディーネよ我は命ずるあらゆるものを押し流せ方位は緑月の元威力は絶大精霊の猛威を我が前に示せ!! 水属性魔術『水流』』
早口で火を消すための魔術の詠唱をするも、失敗する。
ヤマネは、自分のせいで火事を起こしたことで錯乱してしまっていた。
「『水流』『水流』『水流』『水流』っ!! ああくそっ!! 誰か助けてくれぇえええっ!!」
まあ、燃やされた家は、今は誰も住んでいない廃屋なので、怪我人なんて出なかったし、すぐに魔術師の老人が詠唱無しの高度の水魔術を発動したことによって鎮火させたので、延焼することなく無事に収めたのだが。
「炎の魔術の練習する時は、水場でやるのが、基本じゃろこのたわけがっ!!」
「すいませんっ!すいませんっ! 助かりました! ありがとございまっすっ!」
この日を境にヤマネは、炎の魔術を練習する時、顔を水に付けずに泉を平泳ぎで進みながら、詠唱することにした。
師匠「泳ぎながら魔術の詠唱する人初めて見た」
ヤマネは、16歳の誕生日を迎える直前には、九割九分の確率で的確に魔術を発動させることができるようになっていた。
●16歳
朝日の光が、木窓の隙間から零れる。
今日は、ヤマネの16歳の誕生日だ。
昔は、泣き虫で虚弱体質で幼かった彼女は今、胸以外が立派に成長し、全身の筋肉が引き締まり、精悍な顔つきへと変貌していた。
「・・・・・・祟りが本格的に活性化するな。
行くか! 冒険に・・・・・・っ!!」
ベットから起き上がった彼女は、昨日から用意していた膨れ上がっているリュックを背負い、置手紙を机上に載せ、自分の身分証明書を摘まみ、両親や他の村人に挨拶も無しに意気揚々と外に出た。
牛の背を超える程異常な大きさを有する鷲が、自分の鋭い趾を見せびらかすようこの村の上空を旋回しながら、鳴いた。
※実は、ヤマネの両親は、ヤマネの鍛錬に協力してくれた魔術師の老人や騎士や冒険者達に密かに菓子折りや高級酒を差し入れして感謝を述べていました。