S・A・B・C・D
最初は、ヤマネ達ではなく新キャラの方へと視点を変えます。
①王都西側住宅街の質素な木骨造住宅にて。
陰鬱で湿気と埃が溜まり、カビ臭く昼でも薄暗い部屋。
そこには、本が隙なく詰め込まれている本棚が図書館みたいに室内いっぱいに設置されている。
貯蔵されている本の内、種類の割合は、魔導書が八割を超えているから驚きだ。残りは、外国語や古文に地図なども収められている。
「剣の手習いを、受けたいな。
パーキング町の『断虚流道場』に入門しようか、タロッタービルァ町の『ハードスパルタ流』の方にしようか・・・・・・それとも外国にいる剣聖ハイアラダニにでも弟子入りするかな」
席に着いて折り紙のガイドブックを読んでいる優男が、ポツリと呟いている。
「それなら、吾輩が教えようぞカンニングマン。今から吾輩を師匠と呼ぶが良い」
それに対し、彼のパーティー仲間である老いたドワーフが。おどける様に答えた。
「君、ごりごりの後衛タイプだろグラナダさん」
カンニングマンと呼ばれた優男が、ふざけているグラナダの頭を真っ白なハリセンで軽くはたいた。
乾いた音が室内に通りよく響く。反して所詮ハリセンなのでグラナダにはあまり効かないでいるのだが。
「だが、カンニングマン。この前攻撃呪文系の魔導書を大量に購入していて、それ故今は、資金が乏しいのではないか。道場に入るには、金がかかる。何かあてがあるのか?」
「ああ、それなら・・・・・・」
カンニングマンは、近くの卓上に載っている羊皮紙を相方に見せる。
その内容は、近々パーキング町で武闘大会が開かれるものだ。
「これに参加する。本選にまで滑り込みさえすれば、けっこうな賞金が手に入るよ。
まあ優勝者や準優勝者の方まで登りつめたほうが、貰える褒賞も桁違いに上がるけどね」
髪色が淡い金髪で髪型が襟足刈り上げ、幼げが残る整った顔立ち、中肉低背で、紺色のローブを身に包みこんでいるのが特徴的な魔術師カンニングマンは、席から立ち、棚に詰められているたくさんの魔導書を見定めている。
〇王都郊外の人気のない草原にて。
うららかな日差しが降り注ぐ中、巻藁(竹を軸に藁をたばねたもの)を刀で次々斬り捨てる剣士が一人。
妙な事に、彼の扱っている業物の刀身の中央が、折られている。これではその刀が十全に活用できないではないか。
しかし、軽薄な笑みを常に浮かべるこの男は、自身の得物を代える事は、今全く考えていない。
ウォールナッツ アラリア
激しい武者震いをしている彼は、まだ見ぬ強者を空想しながら素振りをしていた。
「俺より格上の奴・・・・・・出場しねぇかなあ・・・・・・ボンバーバンボーにフランク、ブレイゾンあたりとか・・・・・・それとも盗賊狩りで最近名を上げているアテナイでも・・・・・・」
〇トガルポル国から見て東側の国にて。
「このペースなら、夜になる前に港町にたどりつける・・・・・・そのあと猪二つ時出発の外航客船に乗れば・・・・・・最速だ・・・・・・!」
黒漆を塗られた布の帽子である頭襟をかぶり、旅用具を詰めてる風呂敷を背負っている結袈裟姿の女性が、器用に一本歯の下駄で松の木が点在するよう生えてある山道を高速で駆けていた。
彼女が走る様は、まるで激烈な突風のよう。
黒髪オールバックのこの少女の名前は、サルタヒメ。
ちなみに彼女の得物は、見事な大太刀。背中に差してある。
「待っててくれ・・・・・・タツミ」
〇シラカバ山の頂上にて。
ヤマネの武術の師であるクレティマンから、何か不穏なことはないかという近況をカスドース村で話し終えたコヨーテは、今王都への帰路についている。
「コヨーテ氏」
銀髪の彼女に話しかける男が一人。
「この声は・・・・・・ミーミル。
久しぶりなの」
ミーミルと呼ばれた男の特徴は、髪型が黒の七三分けで、燕尾服を着て黒光りしている革靴を履いた痩せ型の高身長の若者である。
「ええ、お久しぶり。『ステータスウィンドウ』の調子はどうですかな?
不具合があれば、この手前が調整し直しますが・・・・・・」
自分の右掌先の虚空に、淡く青色に光っている、平面の四角いホログラムを瞬時に映し出す彼女。
それの内に文字や数字が並ぶよう白く記されていた。
「この通り何の問題もなく快適に利用できるよ」
「それは、良かった・・・・・・!」
にんまりと口角を上げる彼。
「ところでこんな辺境な山で何してたの?」
「何もやましい事は、してませんよ『梟』の副騎士長。依頼でシラカバ山の山水を汲みに来ただけのことですよ」
「ああ、人気だものねシラカバの水。ミネラルも豊富だし」
手先に淡く光るホログラムを消すコヨーテ。
「話は、変わるけどオープンステータスの魔術を習得している人って少ないよね?
けっこう簡単に修得できるのに、なんでみんな覚えようとしないんだろ」
肩を竦めるミーミル。
「誰も自分の情報を晒しだしたくないというものです。他人に見られないよう警戒しながらステータスウィンドウを開こうにも敵方から千里眼の術などで覗き見される危険性も消えかねません。
クラッキングされるケースも捨てかねる。
魔術師含めた戦士という生き物は、自分の手の内をどうしても明かしたくないものですから、あえて例の術を敬遠しているかもしれませんね・・・・・・」
悲しそうに話す彼。
実は、ミーミルという男は、『ステータスウィンドウ』のサービスシステムを管理している冒険者なのだ。もちろんコヨーテを筆頭にいろんな人達に上述の魔術を伝授している。有料で。
「便利なのに・・・・・・何かこの術の利便性をどうしたら他の人達に知らしめることができるのだろう」
彼女の呟きに落胆な顔つきからすぐに笑顔に戻るミーミル。
「実は・・・・・・策があります。
近々武闘大会が開かれる。演台の上、観客の皆様方が見てる中で『ステータスウィンドウ』の術をアピールすれば、修得したがる魔術師達がこちらに頼み込むかもしれません・・・・・・」
(うわ~戦う相手とかに迷惑でしょ)
「ところで唐突なんだけど・・・・・・」
一回咳払いするコヨーテ。
「山道で燕尾服ってどうなの・・・・・・裾が汚れるし歩きにくいでしょ。
冒険者としてどうなのその服装」
「羽飾り被ってポンチョ来たブーメランの騎士に指摘されたくないですね・・・・・・」
〇タロッタービルァ町の近くに建てられている北天天文台にて。
(また来ましたよあの娘)
少し前にボンバーバンボーに依頼したことがある学者が今、頭を悩ませている。
上述の方から時間は進み、夜中の出来事。
「まあ~いつ見ても素敵なお星様ね~。
赤霧座の隣にある青色の星の名は、なんと言いますの~」
天体望遠鏡を借りて覗いている美女。
彼女の特徴は、髪型は緑で後ろ髪を結んだ三つ編みを左肩にかけている。高身長で巨乳。
バイエルンギャザースカート・白い靴下・革靴を身に着けている。
そして得物は・・・・・・。
「なあプラネテスさんよ。一応ここは関係者かアポを取った方以外立ち入り禁止なんだから入り浸るのは、ちょっと・・・・・・」
接眼レンズから顔を離したプラネテスは、右頬に手の平を添えてのほほんと返答する。
「いいじゃないですか~。ここの元従業員のよしみでしょ~。それに、ここには望遠鏡はもちろんのこと、天球儀などの高価な代物が置かれていますから~賊様に狙われる危険性が常にある。
私は腕に自信があります。望遠鏡を何時でも使えるかわりに用心棒として雇ってくださいな~」
視線を落とす学者。
「いや、うちは国から派遣されている騎士が番してあるから。天文台入り口の門に甲冑着姿の二人が立っているのが見えなかったのですか? 残念だけど間に合ってるんですよ」
そんな~。とのほほんと悲しんでいる彼女に、学者は一つ提案した。
「そう言えば、近々パーキング町で武闘大会が開かれると聞いている。
腕に自信があるとおっしゃるなら参加してみては如何かな?
賞金さえ手に入れば、自前の天体望遠鏡を買えるはずですよ」
彼の案は、プラネテウスにとって魅惑的なものだった。
「まあそれは、本当でございますの~? こうしては、いられませんわ~。
いまから修行しなくては~・・・・・・!!」
そう語った彼女は、急いでこの施設から出ようとする。
「・・・・・・・・・・・・」
見下ろす学者。彼の視線先には、鎖に繋がれた鉄球・・・・・・フレイルタイプのモーニングスターが床の上に転がっている。もちろん鎖を掴んでいるのは、プラネテウスだ。
物騒な鉄塊を勢いよく振り回している彼女の姿を思い出している彼は、どこの誰かもわからない彼女の未来の対戦相手の無事を祈る。
〇トガルポルから海峡にはばまれている南西側の国『タネガランド』にて。
その国の王城、門衛塔の話。
「ただいまだわぁ」
紫髪のグラマラスな女性が、ここの玄関に帰って来た。
「危うくラットボンの外周が結界で閉じられるところだったわよぉ。その前に脱せられたけどね?
ねえ聞いてよエキドナ」
「うるせえよアマサキス」
鞘に入れた大剣を肩にかけて、額の汗を手拭いで拭いている女性が、忌々しそうに怒鳴る。
「そんなぁ。せっかく隣国(間に海峡があるけど)の情勢を探る危険な任務をしてたのにぃ。
ちょっとは、ねぎらってよぅ」
「てめぇの喋り方は、気持ち悪りんだよっ!!」
エキドナが大剣を抜刀しようとする。
口論している女性二人に、間を割るよう一人の壮年の男が頭を下げて挨拶する。
「よくご無事で御帰還なされましたねアマサキス将軍。
それとエキドナ将軍、差し出がましいようですが仲間内と争い事・・・・・・それも城内での武器の威嚇行為は控えた方がよろしいかと・・・・・・」
「まあまあモウコ将軍。貴方は、今あたくし達と同じ地位にいますから、そう畏まらなくてもいいわよぉ」
「おいモウコ。後輩なら先輩の喧嘩に口出しすんな」
先輩二人からの言葉に対し、壮年の男は無言でただ頭を深く下げるだけだった。
次に彼は、門衛塔から出ようとする。
「おい先輩無視してどこ行こうとするんだ? 後輩」
エキドナの方を向き軽く会釈する壮年の男。
「玉座の間へ。国王陛下から呼び出されましたので。
おそらく新たな任務を命じるためと思われます」
〇危険区域の奥のさらなる奥にて。
うっそうと生い茂る森・・・・・・その場所は、食人植物や毒の沼など危険なものがひしめいており、たとえ上位魔族でも足を踏み入れてしまえば帰還できることはほぼ不可能だろうと評される程の魔境。
そこの中央部・・・・・・。
「気持ち良い風」
おどろおどろしい木と別の木で繋いでいるハンモックにくつろいで横たわる女性の姿が。
人外魔境でこのような休憩行為を取る事は、まさしく無防備を通り越して自殺行為だ。
本来なら、ここに住まう化け物に速攻で喰われるというのが火を見るより明らかである。
本来なら・・・・・・。
しかしなぜかどの生物も彼女を襲うことは、しなかった・・・・・・いやできなかった。
彼女から発されているあふれ出す魔力に、鋭敏な危険察知能力を具えている化け物達がこぞって恐れをなしている。
フランク カードコール
フランクの特徴は、茶髪で髪型はドレッドの上、頭頂部辺りに縛った膝下まで届く長いポニーテール。小麦色の肌。革鎧と麻の服とズボンと革靴を身に着けており、鞭を得物にしている。
ヤマネと比べて背が高く、腹や太ももも引き締まっている。
「もうすぐ物資が尽きそうよね・・・・・・都に戻るか」
ぽつりとつぶやいたフランクは、指を鳴らす。
それだけの動作で彼女の傍に、巨大な影が、密集している大木らをなぎ倒してこの世界に顕現した。
そいつは、巨人を超える巨体を誇る蚕だ。
すぐにフランクはハンモックから降りて、ひとっ跳びで巨大蚕の背に跨る。
「う~んモフモフ」
蚕特有の覆われた毛を体全体で堪能する彼女。
巨大な蚕は、彼女が自分の体にしっかり掴んだタイミングで翅をはばたかせた。一息で雲上まで召喚主と共に昇る。
普通の蚕は、飛行能力が衰えているにもかかわらず、そいつは軽々と空を我が物顔で飛来した。それも音速すら超えて。
実は、そいつは召喚されるタイミングで、フランクから極限まで身体や魔力を強化されたのだ。
そう彼女は、希少なSランクの冒険者で、ボンバーバンボーと肩を並べる程の召喚士だ。
「そういえば、もうすぐ武闘大会の時期か・・・・・・にしし、もしSランクの冒険者が大会に出場すれば、他の弱いメンバー達は、どんな面白い顔をするのかな?」
〇ベルディア町にて。
ベルディア町冒険者ギルド支部。
「すいませんっす・・・・・・」
「本当に申し訳ないんだよ・・・・・・」
ヤマネとラティスは、受付嬢相手に涙を流しながら謝罪した。
「くまなく彼を探したんすけど、どうしても見つけることは出来ませんでした・・・・・・!!」
「これ違約料なんだよ」
ラティスが、金貨一枚を受付嬢に渡そうとする。
しかしそれを彼女は断った。
※ピターヤから『弁償』で奪い取られたメタルハンマー分の金を返してもらってます。
「受け取れませんよ。実を言いますと依頼要請は、どうもこちらの不手際で発行されたみたいです。つまりサツマ様から救援は、最初っから無かったと言うことです。貴方側に違約料を支払う義務も存在してません」
(まあもちろん本部からの不手際のせいという線も、ありますけどね)
ヤマネとラティスは、その説明に えっ? と呆けるよう呟く。
それから二人は安堵の息を漏らした。
「な~んだ。結局ここに来たのは、無駄骨だったのかよ。
はぁあ、ここに来て金がごりごり減ってしまった・・・・・・受付嬢さん。なんか報酬が良い依頼とかないっすか」
たった今雪山から下りたはずなのに元気いっぱいのヤマネに呆れる受付嬢。
彼女は少しの間考え、すぐに案が出る。
「そういえば、初夏辺りにパーキング町で武闘大会が開かれますよ。詳しい日時が記されたチラシを持っていきますね。本選まで勝ち残るだけでも相当な賞金が手に入りますよ。
冒険者なら、参加してみては、いかがでしょうか?」
受付嬢は、一旦事務室に引っ込んで短時間で戻ってくる。
「これが例のチラシです」
羊皮紙のチラシをヤマネに渡す受付嬢。
「武闘大会・・・・・・・・・・・・」
チラシを凝視して長考する彼女。
「ラティスは、どうするっすか?」
「Sランクにあたってしまったら、プライドがズタボロになるような完敗を味合わせられるんだよ。絶対参加しないです!!」
「あたしは、本選まで勝ち残るだけで、それでいいっすけど・・・・・・。
とりあえずサツマのおっさん救助の経緯を、王都に戻って本部に報告しましょ。
参加するかどうかは、それからゆっくり考えて決めるよ」
※フランクが召喚した蚕・・・Aランク




