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ラティス法第六条 ラティスの前で、煙管を吹かないで

 『サツマのおっさんっ!! どこにいるっすかああっ!?』


 『Dランク~!! もっと大きな声で助けを求めないとねっ!!』

 知り合いの声をなんとか耳にしたヤマネ達も、大きな声量で呼びかけた。

 

 『う~ん聞きとりづらいね。もうちょっと静かにして耳を澄ましたらどうです・・・・・・?』

 ラティスの提案に、ヤマネは素直に聞きいれた。どうやら探している声の元は、自分達が登って来た方から来ているようだ。徐々にだがそれは大きくなっていく。目的の救助対象者は、こちらに着実に近づいているようだ。

 このまま無事依頼クエスト達成! ・・・・・・とは、ならなかった。

 なぜなら・・・・・・。


 『な・・・・・・なにこの揺れっ!?』

 突如、常軌を逸した震度を誇る地震が、この地帯を支配したからだ。

 足場が崩れてしまいそうな振動に、ラティスは慌てふためいて岩にしがみつき、ヤマネは落ち着いた様子で身体強化の呪文を唱えて二つのリュックを自分達の頭上に掲げて屈む。

 少し時間が経った後、揺れが収まった。

 

 『う・・・・・・地震ですか? この国では、珍しいよ。ましてやこんな大きなの』


 『まだ余震や地滑りなどの二次災害があるかもっす。しばらくこのまま待機した方が良いかもな。

 ラティス、簡易的な堤防を土魔術で造ってくれないか? 落石が怖い』

 とりあえず二つのリュックを雪原上に置くヤマネ。

 

 (・・・・・・なんでこんなに落ち着いていられるの!? ラティスだけ取り乱して恥ずかしいんだよっ!! ランクが高いのは、ラティスなのに・・・・・・)

 『わかったよ。ちょっと待って・・・・・・て・・・・・・』

 立ち上がり尾根側を見上げたラティスは、途端呆気にとられた。

 なぜか・・・・・・?


 膨大な雪が津波のように土砂崩れの如く轟音と共にこちら目掛けて勢いよくなだれてきたからだ。

 このままでは、圧倒的物量でヤマネらの全身が呑み込まれてしまう。

 慌てふためいた彼女は、土壁を急いで生成する。

 わずかな時間で大量の雪が、魔力の土壁に激突した。

 本来ならその程度の脅威は、ラティスの土魔術に敵うわけがない。

 しかし今回のそれは、彼女が錯乱状態で生み出されたのが理由で強度が低く脆かったのだ。

 壁が崩れる。土砂と雪がこちら目掛けて降り注いでくる光景は、十代前半の子にとっては思考停止してしまう程の残酷な物だった。

 

 『ラ・・・・・・ラティスの防壁が・・・・・・数秒しか保てなかった・・・・・・』


 『数秒あれば十二分だっ!! 飛ぶぞっ!!』

 力強くラティスの片手を掴むヤマネ。彼女の首筋には、一本の細いつまようじが刺されてあった。

 ヤマネとラティスは、得物を持った状態でテレポートされた。悲しいことに彼女達のリュックとピッケルは、雪原に置き忘れており、雪崩に呑まれて膨大な雪とともに谷の方に流れてしまった。



 



 そして今に至る。

 前の場所よりもベルディア町から離れている高原だ。


 (・・・・・・そうか、ラティスは無事雪崩から脱したんだね・・・・・・。

 ヤマネのおかげで・・・・・・ヤマネはっ!?)

 「ヤマネっ!!」

 勢いよく立ち上がるラティス。パラパラと彼女に引っ付いていた雪の粉が落ちる。

 彼女は、慌てた様子で辺りを見渡した。すぐに雪にまみれて倒れているヤマネを発見する。

 先程まで晴れだったのが嘘のように吹雪いている。


 (このままでは、ヤマネが凍えちゃう・・・・・・)

 ラティスは、得意の身体強化魔術を駆使して、近くの穴倉までヤマネをおんぶする形で運んだ。

 その横穴の奥には、黒い岩の小さい祠が鎮座してある。


 ※ヤマネが気絶したことによって、彼女が先程発動しておいた身体強化魔術は解除されています。


 (くそ・・・・・・ラティスが炎の元素エレメンタル魔術さえ使えたら・・・・・・!!)

 魔術師というものは、それぞれ修得できる魔術が、才能によって違ってくる。

 ヤマネみたいなあらゆる元素魔術を行使できる術師は、少し貴重で冒険者ギルドや騎士団の中では、まあまあ重宝されるのだ。

 【元素魔術師で、火・水・土・風・氷・雷・光・闇・植物属性全て修得できる比率は、二十人中一人のみ】


 〈寒そうですわね。暖を取りたいですか?〉

 ラティスの至近距離の真横にいる女性がこちらに話しかける。


 「は? え、何時の間にっ!?」

 いきなり見知らぬ者から声を掛けられたことで緊張と悪寒が走り、即座に臨戦態勢を取るラティス。


 巨大な金槌を前に、彼女は少し焦った様子を見せる。あちらに攻撃の意思は、無さそうだ。

 <こちらに敵意は、ないわ。落ち着いて頂戴>


 「こ、言葉がわからないのです。何を言っているの・・・・・・?」


 <あちゃ~言葉が通じないか。それもそうね、なぜなら何千年も過ぎれば・・・・・・>

 女性が話している途中で、ヤマネの目が開いた。

 ⑦超能力をはじめとした魔術以外の特殊能力を行使した後、必ず地球の時間基準で2分程対象者が失神する。という祟りが、解除されたのだ。

 彼女は、まずラティスの顔を見上げた後、女性の方へと向く。


 「・・・・・・竜人族?」   

 ヤマネは、女性の容姿を見て呟く。

 そう、彼女は、人間ではないのだ。

 淡いオレンジ色の長髪を持つ彼女の頭には、黒色の鹿の角が生えている。臀部からトカゲの鱗を纏う肉厚な尻尾が動いている。服装は、灰色の毛皮を纏っており、ローズマリーの花の髪飾りを着けていて、草履を履いていた。

 

 元気よく立ち上がるヤマネ。

 「うわあっ!! 初めて見た竜人族! この角と尻尾本物!? ねえ触って良い!? ねえいいでしょおっ!!」

 ハイテンションでヤマネの言葉攻めにあっている竜人族の彼女は、苦笑したまま少し後退りした。

 <あはは、狼の服着ている方の子ちょっと怖いですわね。落ち着いて、って言葉は通じないか>


 「ん? あんたの喋り方・・・・・・もしかしてスカンディナ語か?」

 <なああんたは、あたしの言葉が上手く通じるか・・・・・・?>


 <おお! 言葉が通じる方と出会えましたわ。これは僥倖>


 (デモクリの爺ちゃんにスカンディナ語を教えてもらって助かったぜ・・・・・・)


 デモクリ『ヤマネよ。エルフを始めとして長い寿命を持つ種族の中には、頑なに現在主流になっている言語で喋りたがらん頑固者もいる。旧式語を学んでおいて損は、ないぞ』


 <あたしはヤマネ。あんたの横にいるハンマー使いがラティスってんで冒険者だ。

 あんたは、何者だ? あたし達の敵とかじゃ・・・・・・ねえよな・・・・・・>


 <安心して。信じてもらえないかもしれないけど、あたくしは、貴方達に危害を加えるつもりは、ないわ。

 あたくしの名前は、ピターヤ。竜人族の戦士兼医者で、霜の巨人の力を抑えるためにここに眠っていたの>


 <あたし達が、騒いだせいで起こしちまったてことか。済まねえな>

 

 <いいえ、ただ眠ったのでは、ありませんわ。あたくしにかかっていた封印状態が解除されたのです。お気になさらないでね>


 (封印が解除・・・・・・タロットの祟りの影響を受けたってことか。やっぱりあたしが起こしたのも同然じゃねえか。

 ピターヤから敵意や悪意なんてものは、感じねえな)


 「・・・・・・・・・・・・」

 自分にとって知らない言語で会話する二人を眺めて、ラティスは、疎外感を受けてしかめっ面をしていた。

 彼女は、ヤマネに耳打ちする。

 (ねえ、あのドラゴン娘、信用できるの・・・・・・? さっさと不意討ちした方が良いと思うですよ)


 (疑心暗鬼になってむやみに攻撃したら返り討ちに遭うかもしれねえだろ。竜人族だからといって全員が人間と敵対しているわけ・・・・・・じゃねえと思っているぜ)


 この国の現代において人間と竜人の関係は、険悪そのものである。


 <ところで貴方達は、なぜ霜の巨人の墓場までお越しになられたのかしら?

 ここは、予言者によれば数万年かけて強い冷気が満ちる場所だと言われて、強者でさえ避ける危険な場所なのに・・・・・・それとももう冷気は、止んだのかしら。今の季節が冬なだけで>


 <いえ、まだ異常な冷気は湧いているらしいっすよ。今夏近くだし。あたし達は、この山で遭難している仲間を探してるんだ>


 <ふむ・・・・・・では、ゆっくりこの穴倉で休息を取っている暇は、ありませんね?>

  でも、吹雪が強くて外に出れば凍えてしまう・・・・・・ と言い淀んでいるヤマネに、ピターヤは指を一つ鳴らした。

 途端に、ヤマネとラティスの周囲に熱気が湧きだし纏ったのだ。

 

 にやりとしたり顔で呟くピターヤ。

 「あたくしは、火竜の特性を有する者。火炎に溶岩はもちろんあらゆる熱もあたくしの意のままですわよ?」


 <おおっ助かるっ! 全然寒くなくなった。流石だな>


 <ふふふ。褒められるのは、嫌いでは、ないわね>


 <さあ立ち止まる暇は、ありませんわよ。お友達を探すんでしょう?

 あたくしも再び封印る前に久しぶりの外を堪能させて頂きますわ>


 ヤマネを先頭に、三人は穴倉から外出する。

 強い吹雪に晒されても、彼女達を纏う熱気は、散らすことも冷ますこともなかった。


 二人の方へと振り向くヤマネ。

 「ラティス。まだ視界は、雪で悪いからまた輝く水晶を・・・・・・」 


 一つの乾いた音が、フェンリル山から鳴った。




 ※少し時間を遡ってコモドサイドに変わります。


 二人は、全速力ででフェンリル山に下山していた。

 「コモド君。ベルディア町と雪崩が落ちた場所の様子を標準機スコープで確認してください。

 急いでっ!!」

 ブレイゾンの命令通りに遂行するコモド。もちろん足は止めない。

 標準機を通して大まかに町中を遠方から眺めてみたところ、特に家屋が倒壊したりした様子は、見られない。

 次に彼は、雪崩が起きた方へと標準機スコープを合わせる。

 人影は見当たらない。霧みたいな雪の粉が広範囲に舞っていた。

 

 (吹雪で視界が曇っているな。他にも被害は、出てねえか・・・・・・?)

 ユミル山脈の全体の様子を捉えるよう標準機スコープの軸を激しく動かす。


 「私は、ベルディア町の安全確認及び避難誘導をしてきます。貴方は、引き続き山脈で雪崩に巻き込まれた被災者がいないか探索を・・・・・・!!」


 「ええ、もちろんっす・・・・・・」

 探すうち、その機器を通してコモドの目に三つの影が届いた。


 バカでかいハンマーを持っている少女と竜の角と尻尾を生やした女性と二足歩行の狼の姿が。

 狼と竜人が、少女を挟み撃ちに追い込んでいるように見えた。


 「大変じゃねえかっ。化け物共から早く冒険者を助けねえと!!」

 彼は、瞬時に最新式のライフルの装填を済ませて標準を合わし、引き金を引いた。



 ※ヤマネの方へと戻ります。


 ラティス達が乾いた発砲音を捉えるよりも遥かに速い瞬間に、粉末付きの鉛玉がヤマネの頭部近くまで迫ってくる。

 このまま彼女の頭は、無慈悲に弾け飛ぶかに思えた。


 「え・・・・・・?」

 寸前、いきなりヤマネの左肩が何者かに強く引っ張られた。それにより彼女はバランスを崩して横に倒れてしまい、はからずもその弾丸を避けることができたのだ。

 そのままその弾は・・・・・・。


 <痛っ!?>

 ピターヤの頬を掠め、次に超々ぶ厚い山脈を貫通し、地球基準で631キロメートルのまま飛来し、挙句の果てにとある山の上の城内にて野外訓練所で大剣を振っている女兵士の元にたどり着く。

 もちろんその流れ弾は、国境を越えていた。


 「あん? 何でえこりゃ。隣国からの挑発か牽制か・・・・・・?」

 マッハ3を超える速度の鉛玉をその剣で簡単に弾き落とす女兵士。

 ちなみに彼女の顔は、ヤマネの母親の若い頃にうり二つであった。


 地に倒れているヤマネは、先程起きた違和感に見覚えがある。

 (タロッタービルァ町帰りで起きた左肩の重みと似ている。あたしの左側には、今誰もいないはずなのに・・・・・・?

 もしや霊障・・・・・・!? めっちゃ怖いな。ん・・・・・・?)


 <そうか、そういうわけか・・・・・・>

 わなわなと体を小刻みに震わせるピターヤ。

 彼女から激しい熱気と殺気が溢れ出したことにより、ラティスは距離を取って得物を構えた。


 <ピターヤさん・・・・・・? どうしたんだ?>


 <しらばっくれてんじゃないわよっ!! 道理で変だと思った!! こんな猛吹雪の時に辺境に人間が訪ねてくるなんて!! 冷気も収まってないのにあたくしが封印から抜け出ているのが何よりの証拠よ。

 大方、貴方達霜の巨人の復活を目論む悪の組織なのでしょう・・・・・・!?

 それで邪魔になる火竜のあたくしを始末しに来たのねっ!!>


 急いで立ち上がり弁明するヤマネ。

 <な、何を勘違いしているか分かんねえけど。あたし達はユミル復活とか狙ってねえぞ。

 なんか怪我でもしているけどそれもあたし達のせいじゃねえ>


 <嘘吐きの言葉は、もうたくさんっ!!

 どうせ山の麓か別の山に仲間がいるのでしょう? 金属の塊を命中させるため貴方達があたくしを外まで誘導したのでしょう!?>

 (いや、外に出たのは、あんたの意思でしょっ!?)


 美しく麗しい顔を鬼の形相で歪めてこちらを見据えるピターヤを言葉でなだめようとするヤマネに、ラティスは。


 「ヤマネ。状況は分からないですけど、臨戦態勢は取ってください」

 

 とアドバイスする。


 呪文を唱えながら火山灰を生み出すピターヤ。

 <見習い戦士が扱う刃を潰した模擬専用の剣 駆け出し魔術師に渡される薄い石板 入りたての射手隊に支給される安物の弓と矢

 我は初心を忘れることはない この陣において いかような者も 口を閉ざしたまま魔の精に命ずることが できると思うな 範囲は広大 期間は少々傾陽>


 「旧式魔術『呪文スペルサークル』だとっ!?」

 驚愕するヤマネ。

 その瞬間、彼女達の頭上にユミル山脈よりも広範囲に伸びる赤く輝く魔方陣が出現された。


 「ラティスの知らない魔術・・・・・・?」


 (この術を使った後の最適解は・・・・・・)

 「『風の象徴であるシルフよ 我は命ずる 天に昇る大風を起こせ

 方位は北極星 威力は弱 精霊の猛威を我の前に示せ 竜巻トルネード』」


 ピターヤの周囲に漂う大量の火山灰が、ラティス目掛けて殺到する。

 それに対し、彼女は黙ったまま自分の前に分厚く強固な土壁を生成しようと・・・・・・。


 (ん? ・・・・・・発動しない!?)


 術が失敗して軽く錯乱しているラティスの口と鼻に濁った煙が侵入しようとする。

 「むがっ・・・・・・!?」

 しかしその攻撃は、防がれた。

 風魔術の詠唱を唱えながら全速力で駆け抜けるヤマネが、ラティスの方にたどり着き、次に自分と仲間の口元を手で塞いだからだ。

 ヤマネの方の術は、無事成功する。

 辺りに強い風が巻き起こり、こちらに纏わりつく灰を晴らしたからだ。

 

 「喉を潰すことだっ! 危ねぇ。ラティスの魔術を封じられたら、こっちは負け確だった・・・・・・!!」

 

 <・・・・・・珍しい初見殺しなのによくご存じですわね。対策も見事>


 <上の陣・・・・・・それの直下の範囲中では呪文を詠唱したりしないと術が発動しなくなる効果を持っているだろ?

 あたしの魔術の師匠は、結構物知りでね>


 <あらその方に、あたくしも師事したいわ。そんな優秀な弟子と相方と一戦交えるなんてついてませんわよ。

 せめて外野の方を先に潰しましょうか。あちら辺りは一般人もいなさそうだし・・・・・・>

 そう言ったピターヤは、フェンリル山の麓めがけて手の平を向けた。


 (・・・・・・なんだ?)


 そこから火球が射出された。それも先程コモドが放った弾丸よりも微かに速い速度で。


 コモド「・・・・・・は?」


 雪原にその火球が着弾した後に、火炎が広範囲に広がり盛った。その範囲も温度も凄まじい。

 タワラが全力で放つ炎なんて比較にならないほどに・・・・・・まさしく火の海。

 例えディオニュクレスが真水の大海を生み出しても完全に消火するのに、骨が折れるだろう。


 フェンリル山とユミル山の間にある谷一面が焼き尽くされている光景を見て、ヤマネは絶句した。



 巨人狩り ピターヤ ニーズヘッグ。

 彼女の頬には今、血が微かに流れている。 

 流れ続いている。

 

 

 

 ※少々傾陽・・・・・・地球基準で約15分程度

 ご覧下さりありがとうございます。



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