ラティス法第三条 ラティスがおごると言ったら、弟子は、断ってはいけない
※最初は、コモド達の方に視点を移します。
※コモドの鼻頭辺りには、包帯が巻かれてあります。
「ブレイゾンさん。なんで極東にしか生えてないはずの竹が、この地帯に沢山自生しているんすか?」
竹林にて、ライフルマスケットを抱えて大きなカバンを背負っているコモドが、自分の前方に歩いている大きな旗を持った男に話しかける。
「普遍暦120年に、極東の皇帝が当時のこの国の王に友好の証として持ち込んだのが定説だ
他にも、密入国者が魔術でこの植物を召喚した説も、信ぴょう性は低いが一応唱えられているのだがね」
「たかだか綺麗でも何でもない植物送ってもらってもね~」
「軽んじ過ぎだ。竹は、利便の塊だ。籠や水筒・工芸品・弓等の素材になったりするのだし、燃料炭の材料にもなる。
成長しきる前には、なんと食材にもなるのだよ。笹の葉ですら食べ物を包むための紙の代わりになる」
「タケノコね~。あれ、どうにもえぐみって奴に慣れてなくて好きになれないですね。
それより例の太古の壁画が刻まれている山ってどちらにっすか?」
地図を広げるブレイゾン。
「ユミル山脈の隣のフェンリル山だ。危険区域にある高山程でないがかなりの標高を誇るのだよ」
※次からは、ヤマネ達の方へと視点を戻します。
地球基準で2分程昏倒したヤマネは、目が覚めた。
どうやら積まれた枯草の上で寝かされたらしい。
「起きた? 気分は?」
彼女の傍にある岩に腰かけたラティスが、仏頂面を保ったまま声を掛ける。
「ええ、大丈夫っすよ。心配おかけして申し訳・・・・・・なんすかその傷!?」
起き上がったヤマネは、ラティスの頭部にこびりついた血と頬の裂傷に驚いた。
「かすり傷だよ。すぐ治る」
「痛々しくて見てられないっすよ。ちょっと待って」
ヤマネは、呪文を唱えながらラティスに歩み寄り、彼女の患部にそれぞれ手をかざした。
「何を・・・・・・」
「治療魔術『回復』」
彼女の手の平から、淡い緑色の光が発され、ラティスを優しく照らす。
「ふーん。ランクBのラティスでも習得できなかった治癒系の魔術を使うなんてすごいんだね」
「まあ、あたし程度なんて応急処置レベルの効果しか、期待できないんすけどね。
まあ傷痕は、残らないと思いますよ多分」
不貞腐れるようそっぽを向くラティス。
「下級冒険者が、ラティス相手に謙遜、ね。生意気だよ」
(な・・・・・・何だよこいつ・・・・・・可愛くねえの!)
(・・・・・・ありがと・・・・・・)
しかし、ちゃんとか細い声でラティスは、感謝を述べたのだ。まあその言葉も。
「ん? 何か言ったっすか? うわああっ!?」
ラティスの背後で横たわっているドラゴンらの死体に気付いたヤマネが、腰を抜かすことによって届かなかったのだが。
勇気を振り絞った感謝の言葉すら、くみ取れなかったヤマネに、ラティスは頬を膨らませて彼女の脇腹を左拳でどつく。
目的地であるそびえ立つ山脈めがけて進むヤマネら。
ヤマネは迷彩柄のカバンから、昼食用に買ったサンドイッチと魔力回復効果を持つ紫色のポーションを取り出して摂取している。
ラティスは、少し羨ましそうに彼女の手元にあるものを眺めてた。
「お? 欲しいのか」
「べ、別に要らないんだからね・・・・・・!」
「なんかツンデレみたいなこと言ってんな。ほら」
顔を赤らめているラティスに、ヤマネは押し付けるよう渡した・・・・・・紫色のポーションの方を。
「・・・・・・」
「いらないの?」
「・・・・・・まさか君は、さっきの軽いバトル程度で、ラティスが魔力切れになっていると、思っているのかな?
舐めすぎですDランク!!」
魔術で砂の塊を空中に生成したラティスは、首を傾げているヤマネの顔面におもむろに投げつけた。
どうやら、サンドイッチの方を食べたかったらしい。
「ペッペッ・・・・・・てめぇ何しやがっ・・・・・・」
ヤマネが口に入った砂粒を吐き出し、怒りを隠さずにラティスの襟首を掴む。
「どうやら、お灸が必要らしいな・・・・・・このメスガ」
そう彼女が言った途端、大気の流れが変化した。すぐにその事態を察知する二人。
微かに感じ取れる殺気の元である、上空を仰ぐラティスら。
「『辻刃風 乱れ打ち』!!」
「またてめぇらか、っしつけぇんだよいい加減にっ!!」
何度目になるだろうか。またもや懲りずに大鷲とそいつに乗ってる人狼が、空から奇襲をかけたのだ。
急いで突き飛ばすようにラティスから手を離すヤマネ。
「見えない斬撃に気を付けろ! 奴が腕を素振りした時は、まず避けに徹するんだっ!!」
オルトケルベロが連続で繰り出してきた降り注ぐ数多の風の刃を、ヤマネは腹這で後方に跳び、なんとか全弾回避。
地面に着弾した大気の斬撃らが、土埃を巻き上げ、硬い岩石に深い疵を着けた。
「ゲホッゲホッ、大丈夫かラティス!? ラティス・・・・・・?」
連れの安否を確認するため、左右を慌てて見渡すヤマネだが、どこにもラティスの姿も影も見当たらない。
死体すらも。
それもそのはず。
彼女は今、空高く飛んでいるオルトケルベロの背後まで跳んで来たのだから。
並外れた嗅覚と気配察知で、自身の傍まで敵が接近したことに勘づいた人狼は、ラティスがメタルハンマーをおもいっきり振り下ろした寸前で同胞である大鷲から離脱してぎりぎり回避した。
少し彼女からの攻撃を尖っている右耳に掠めたのだが。
金属の塊をもろに背中に受けた大鷲の方は、無音の悲鳴を上げて墜落した。
もはや何の見せ場も無くそいつは、呆気なく地面の染みになる。
落ちているオルトケルベロは、自分の上空にいるラティスの方を向いて、煽るよう舌を出した。
「残念やな~。ヤマネお嬢ちゃんは、わいがおいしく頂くさかい。無力に打ちひしがれ・・・・・・」
「『重量操作』」
ラティスが何かを呟いた瞬間に。
「な、何や・・・・・・? いきなり体が重く・・・・・・!?」
オルトケルベロに自身が受ける空気抵抗と重力の圧が、一気に何倍も膨れ上がる。
(ま、まずいんや・・・・・・! 思い通り体が動かん!? このままでは、無事に着地すらも・・・・・・)
腕足を空中にばたつかせるのも虚しく、俯せ恰好のそいつは、硬い岩盤に叩きつけられ、哀れカートゥーン独特の表現みたいにそのままの状態で地中に陥没して息絶えた。
沈んでいる人狼の成れの果てを、歩み寄って見下ろしたヤマネは、顔を青ざめたのだ。
彼女の近くに、『軽やかに』着地するラティス。
高所から跳び下りたはずなのに、小柄な彼女は、その事で怪我を負っていなかった。
「・・・・・・・・・・・・」
冷ややかな目でヤマネを凝視するラティス。
「さっき、ラティスに何て言おうとしてたのかな? メスガ・・・・・・何?」
尋問を受けているヤマネは、冷や汗を全身に流しながらしばらく沈黙した後に、自身の後ろ方面にそびえ立つ白化粧された山脈に向かって、勢いよく指差しした。
「何でもないですよ。ラティスお嬢様。さあ、目的地であるユミル山脈はもうすぐですっ!!」
「その山に登る前に、そこの麓にある町に寄るからね」
「ベルディア町ですね。は~い」
長い時間を移動に費やしたラティスらは、最初の目的地であるベルディア町の門前にたどり着いた。
ラティスが、その町の正門に警備している番兵に、自分達の身分証を見せる。
すぐに審査は、通り、彼女らは、無事町の中に入ることができたのだ。
ベルディア町の特徴。
農業よりも羊やヤギの放牧が盛んな、緑が少ない灰色の大地。
民家の比率は、木造の高床式住居が大半を占めている。
他の町や村と比べて気温が低い。
建造物の数と人口は少なめで、町というより村と呼んだほうが近いかもしれない。
防寒着を身に着けた町人が、石畳が並べられていない平らにならされただけの道を往来していた。
まさしく寒冷地特有の町。
「おおーっ!」
新しく来訪してきた町に目を輝かせるヤマネに、ラティスはこの町の冒険者ギルド支部に行こうと、誘う。
「ここの支部の場所、分かるっすか?」
「うん。前にも何回か来たことあるからね」
この町の支部は、二階建てのレンガ製のビルだ。
支部内部にお邪魔したラティスら。
その建物内は、おしゃれ雰囲気を醸し出していた。
床はフローリングで天井には天井扇が備えられている。
北側には暖炉があった。
早速彼女らは、ここの受付嬢に尋ねる。
「サツマ様ですか? はい。確かに四日前にここに訪れて、ユミル山脈に登る許可を取りました。
例の山脈に湧くとされる温泉湯を手に入れる依頼を達成させるために。
ご要望でしたなら、彼の登山許可書と誓約書を提示しても構いませんが」
「山を登るのにいちいち書類にサインを書かなきゃいけないのか? 面倒だな」
受付嬢の説明を受けて首を傾げるヤマネに、ラティスはユミル山脈について詳しく語った。
「ユミル山脈の名前の由来は、この国の神話に登場する氷の巨人ユミルが、死した後、その体に長い時を経て土砂が積もり、そして例の山脈に変貌したって、言い伝えがあるんだよ。
そしてここからが重要なんだけど、その氷の巨人の屍が原因か、その山脈の高所には、季節関係なく真冬のように雪が積もっているんだ。つまり豪雪地域。
そんな危ない山に登るんだから、面倒な手続きをしなきゃならないんだ。
もちろん、緊急依頼であるサツマ捜索の為、ラティス達もその書類のサインを書かなきゃいけない・・・・・」
ベルディア町が寒冷地なのも、近くにそびえ立つユミル山脈の冷気がここまで流れているからだ。
「代わりにご説明して下さりありがとうございます。
では、お二人分の登山許可書と誓約書を用意させて頂きますので、少々お待ち下さい」
席を外した受付嬢は、奥の部屋に向かった。
向かっている途中に彼女は、(ギルドマスターから、王都に対して緊急依頼を出したっ、なんて連絡、聞いてないんだけど・・・・・・?)という不穏な事を、小さな声で呟いてたのだが。
まあ、その言葉は、ラティス達には届いてない。
すぐに受付嬢は、カウンター上に四枚の書類を提示し、冒険者二人は記す。
誓約書の方は、『もし登山によって私が遭難を始めとするトラブルが起きても、私・又は私の親類・知人が冒険者ギルドに賠償金を請求したり起訴をしないことを誓います』なんて物騒な内容であった。
受付嬢に感謝を述べたヤマネは、ラティスと共にギルド支部から外出し、商店通りに向かった。
「今から、登山用具を買うんだよ」
ラティスは、登山用店にてまず、二人分の輪かんじきとラティス用のピッケルを購入。
金属アレルギーの祟りを受けたヤマネは、先端に黒曜石を取り付けた棒で代用するから大丈夫だ・・・・・・?
(それとは他に・・・・・・)
ヤマネの恰好をじろじろ眺めるラティスが、彼女に言う。
「次は、仕立て屋に行くんだよ。今の君の恰好では、山の上では凍え死ぬしかないですからね」
そう、今のヤマネの恰好は、軽装である紫のキトンだ。これでは、防寒の役割は、期待できそうにない。
早速木造の仕立て屋に向かう二人。
この店には、毛皮・革・羊毛など様々な素材でできた外衣だけではなく、編み笠や蓑まで陳列されていた。
その中には・・・・・・。
「え? 何じゃいこれ」
「おおっ! これは、何なんです!?」
本物をなめして造られたとしか思えない、人狼の毛皮が売られてあった。
上顎部分がそのままフードになっており、目玉や歯もそのまま残ってある。
全くもってリアル。仮にそれを遠目で見たら、本物の人狼がいると錯覚させるぐらい完成度が高いものだ。もはや着ぐるみだ。
「何の悪い冗談だよ。良い趣味してんな本当。誰が買うんだ? なあラティス。ラティス・・・・・・?」
妙な悪寒を感じ取ったヤマネは、ラティスの顔を覗き見る。
そこには、頬を赤らめ、輝いた眼で例の毛皮を凝視する彼女の姿が・・・・・・!
「かわいい・・・・・・かっこいい・・・・・・。
ラティス決めた。これ買うです」
「マジかよてめぇっ!? やめときなってっ!!」
小さな手で人狼の毛皮をモフモフしているラティスの決意は、揺るがない。
ため息をつき、片手で自分の頭を抱えるヤマネであった。
すぐにここの店主に頼み込んで、試着するラティス。だが・・・・・・。
「・・・・・・・・・・・・」
「サイズが合わないね・・・・・・」
「サイズが合わねえな・・・・・・」
そう、人狼の毛皮は、彼女にとって少し大きかったのだ。
ダボダボの毛皮を着こんだラティスは、しばらく黙った後号泣した。
(こんなことならさっきの人狼をできるだけ綺麗に殺しておけば良かったです。
そしてそのまま皮膚の面積を調整するように生皮をはいでやったのに・・・・・・)
なんて残酷な言葉を小声で言う始末。この言葉は、しっかりヤマネに届いた。
次に彼女は、店主と共にヤマネの方を向く。
「な・・・・・・何だよ・・・・・・」
嫌な予感をひしひし受ける彼女。
「着てよ・・・・・・代わりに。試しにです。おごるから」
諦めが付けないラティスであった。
もちろんその提案も。
「着る訳ねぇだろっ! そんな着ぐるみ! 何が悲しゅうて登山するのにこんな悪趣味のコスプレしなきゃいけねぇえんだよっ!!」
嫌がるヤマネであったが、目尻に沢山の雫を溜めてじっと見つめるラティスに遂に根負けしてしまったのだ。
試着。結果から言うとこの人狼の毛皮は、ヤマネにベストフィット。
「おお・・・・・・これは、これは」
「悔しんだけど似合うんだよ」
赤面する彼女。
それに反し、褒める二人であった。
(・・・・・・あれもこれもこんな辱めを受けたのも、全部サツマのおっさんが遭難したからだっ!!
今に見てろよ・・・・・・発見した際、あんたがどんな状況であろうとも容赦なく金玉蹴り上げてやるっ!!)
心の中で、野望を決めたヤマネであった。
ラティスは、何の変哲もない派手な赤色の小型のコートを代わりに買って着用している。
各々不満気味に仕立て屋から出るヤマネら。
「次は、携帯食や水を買うんだよ。ヤマネは、炎属性や水属性の魔術使えるです?
使えるのなら、購入する燃料や水が少なくて済むんだけど。
ヤマネ・・・・・・?」
今、彼女は、必死に戦っている。
己の羞恥心と・・・・・・。
この町の人々が、みょうちきりんなコスプレ同然の恰好をしているヤマネを、遠くから奇異な目で見ていた。
このまま彼女らは、他に必要な物を買った後、この町から旅立った。
サツマがいる高くそびえ立つ山を目指して・・・・・・。
※視点を、コモド達の方へと戻します。
編み笠と蓑を着用している二人は、フェンリル山の中腹辺りを登っていた。
大きな旗を得物にしているブレイゾンが、後方にいるコモドに話しかける。
「悪いなコモド。私の趣味に付き合ってくれて」
「別にいいっすよ。気にしないでください。こんな道楽に誘える友達なんて、俺ぐらいしかいないんでしょ?」
所属が違うとはいえ、自分の上司であるブレイゾンに対して、失言を躊躇わず吐くコモド。
「それに、こちらも狙いがあって、ブレイゾンさんの頼みを聞いたっすからね」
「ふむ。そういう事なら私も気に病む必要が無くて助かる。して、その狙いとは・・・・・・得物でも狩るのか?」
新たな武器・・・・・・ライフルマケットを布で磨いているコモドは、肯定した。
「その通りっす。この銃を試し撃ちしてえし、最近買った標準器の性能も気になる。
最近ここら辺で強い人狼が出没するらしいじゃないっすか。
例の人狼を、見事撃ち抜きてえなぁ・・・・・・ヒヒっ!」
ご覧下さりありがとうございました。




