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二種のげっ歯類

 ヤマネは今、魔物の牙の剣【小太刀程の刃渡りがある】を腰の紐ベルトに提げています。

 「病み上がりの相手に、こんな数・・・・・・恥ずかしくねぇんかよ!?」

 林道にて、ヤマネは高位のゴブリンであるレッドキャップの群れやフォトスタイパン、凶悪寄生虫に侵されている巨大ネズミ、鱗の鎧を纏った熊に追われていた。


 とっさに彼女は、呪文を唱えながら近くに生えた大木を勢いよくよじ登り、上部へと逃げようとする。

 それで見逃す奴らではなくフォレトスタイパン、鎧の熊はヤマネに続くようその大木に上がろうとするも、四苦八苦位し、巨大ネズミはそいつらの背中を足場にするよう跳びかかる。


 「今だ! タワラさんストゥムさん」


 その時、奴らの背後まで接近したタワラが、金色の炎を操ってフォレトスタイパン、巨大ネズミ、鎧熊を丸焼きにし、ストゥムがエアドラゴンの肺胞を改造したバクパイプを軽く吹いて火だるまの奴らを吹き飛ばして強固な岩に叩きつけた。


 枝上にいるヤマネの方は、彼が起こした大風に対し幹をしがみついて耐え忍んでいる。

 青緑色の木の葉が大量に舞った。


 「キギャッ!」

 ヤマネがいる大木の傍にある別の樹に登ったレッドキャップの群れが、彼女の頭上狙って次々に跳びかかる。

 対し、ヤマネはまず先頭にいるレッドキャップの繰り出したこん棒攻撃を体軸を少しずらして回避した後に、そいつの首筋を牙を研いで造られた剣で掻っ切る。

 斬られたレッドキャップの首筋から大量の血が噴出し、近くにいた奴の同胞の目を潰してしまった。

 瀕死の状態になっている先頭のレッドキャップの片足を掴んだヤマネは、後続の敵めがけて叩きつける様に投げる。

 自らの同胞と衝突した個体は、そのまま地面まで落下。

 三体目の個体には、ヤマネは黒曜石のナイフを取り出して奴の片目めがけて投げて怯ませる。

 怯んでいるそいつの個体に刺さってるナイフを引き抜き腹を蹴るヤマネ。もれなくそいつも墜落した。

 最後の個体である四体目の顔面に、彼女は魔力で強化された飛び蹴りをお見舞いした。

 そいつは、火を纏って横たわっている鎧の熊の鱗に覆われている額に、後頭部をぶつける。

 頭から血を流し悶えている四体目のレッドキャップの顎を、跳躍で追いついたヤマネが片手で掴んで何度もその熊の固い額に容赦なく叩きつけた。

 ついにそいつは、尖ってる鼻の穴から血を流して息絶える。


 「大丈夫か、ヤマネ!?」

 タワラとストゥムが、ヤマネの元に駆け寄る。

 もちろん落下したレッドキャップ共のとどめも、忘れていない。


 「ええ、怪我も無く撃破したっす」

 牙の剣を、鞘に収めるヤマネ。


 ほとんどの魔物達は、ヤマネを積極的に襲う傾向にある。タロットがかけた祟りのせいだ。

 彼女がタワラ達と密集するよう進めば、魔物共の強襲の巻き添えをタワラ達が受けてしまう危険性がある。

 ならばヤマネだけ孤立させればいいだけの話。

 魔物の群れがヤマネを襲った時に、彼女が大声を張り上げながら時間を稼ぎ、ヤマネに意識を集中されて警戒が薄くなっている魔物達を死角から、タワラ達が狙い撃ちする策を採用していた。


 もうこんな魔物襲撃も、12回繰り返されている。


 「ふむ。ヤマネ殿と行動を共にすれば、魔物の素材が不足することは、無いな・・・・・・」

 ストゥムが、ほくほく顔で地に転がっているレッドキャップ共の死体を、自前の壺の中に回収していく。炎に包まれた方の屍らも、ヤマネの水魔術で消火した後に彼がその壺に収納した。


 「まさか、あたしにかかった呪いが、役に立つなんて思いもしませんですっすよ。ハハハ・・・・・・」

 (あ~たぶんその内タロット野郎が、その死体を回収するだろうな~。でも言えねぇ)

 ハクビが死んだ後、煙のように消えた事を思い出しながら苦笑いするヤマネ。


 「もう少しだお主ら。王都の城壁が遠くから見えるぞ」

 

 「あの~タワラさん・・・・・・」

 おそるおそる挙手をするヤマネ。

 

 どうした? と聞くタワラに、ヤマネが答える。

 「知っての通り、あたしは人食い魔物を引き寄せる呪いがかかってるんすよ。

 もし王都に帰ったら、魔物の群れがまたあの時みたいに都に攻め込むんじゃ・・・・・・」


 「そんなことか。安心しろ、ちゃんと対策は取ってある」

 ニヤリと笑うタワラ。


 城壁の正門前までたどり着いたヤマネは、自分の目を疑った。

 アフロの男ボンバーバンボーが、正門の番兵の横に並んで、嫌そうな顔をしながら仁王立ちしていたのだ。

 番兵の方も、なんで冒険者・・・・・・それもこの国の五指に入る程の実力者が、自分の傍に黙って立っているのか首を傾げている。


 「よう、昼行燈ボンバーバンボー。余計な事しかしないお前が、役に立っている事について私は喜ばしく思うぞ。

 ただただぼーと突っ立っている門番・・・・・・貴様の天職だな!」

 皮肉気味に相手に話しかけるタワラ。

 自分の仕事を侮辱されたと思った番兵が、青筋立てて彼女を睨む。


 「あ、あのタワラさん・・・・・・タワラ様?

 何時までオレは、ここにいなきゃいけないのでしょうか?」

 軽薄な態度を取っている印象があるボンバーバンボーの言葉使いを聞いて、遂には自分の耳まで疑い始めるヤマネ。


 「王都を囲む結界が出来上がるその時まで。

 私は、また魔物の王都襲撃が起きる可能性が高いと予想している。

 それまで、貴様はここで備えていろ」


 「そんな~。なんなら、今ここでオレが王都外周にバリアを張りましょうか?

 そしたら、解放してくれるんですよね?」

 

 眉をひそめるタワラ。

 「は? 王侯貴族側に、何の許可も無く都に結界を張ったら処罰されるだろう。

 私は、これから庁舎シティホールへ向かってその事について許可を取ってくる。

 それまで、貴様はここで待機だ。離れようとしたら・・・・・・分かるな?

 また腹の調子を悪くする経穴を突いてやるぞ!!」


 それだけは、勘弁してください~ という彼の叫びを聞き流しながら、ヤマネはタワラに耳打ちをする。


 (え? これどういう事・・・・・・?)


 (お主は、魔物を呼び寄せる呪いがかかっているだろう?

 都を魔物どもに攻め込ませないために、奴に警備を頼んだんだ。もちろん無報酬で

 最強の冒険者が護っているから安心だな)


 実は、タワラはディオニュクレス戦後、ボンバーバンボーがへまをやらかした事【貴重な情報を吐こうとしているディオニュクレスを無断で殺害】につけこんで脅したのだった。

 いくら最強の存在でも、罪悪感や弱みにつけこめば格下でも身内ならば命令できる事がある。

 ヤマネが王都に帰ったらその都が危なくなることを、タワラは、タロットの祟りの内容を聞いて察し、先手をうっておいたのだ。

 

 ストゥムが自分のとヤマネとタワラのギルドカードを、番兵に提示した。


 泣き崩れるボンバーバンボーを、ヤマネは心底難しそうな顔で見下ろしながら正門を越える。


 「いや~、王都に無事帰ってきたっすよ。

 これからどうするっすか?」


 「うむ。まずギルドに戻って、例のダンジョンについての経緯を受付嬢に報告しないとな。

 まあ、急ぎではない。疲れているなら、茶屋にでも行って休むのも手だ」


 「いえ、全然大丈夫っすよ?」


 ヤマネのケロッとした言葉に、疲労気味のタワラが呆れる。

 (この短時間内で、何回魔物の襲撃にあったと思っておるのだ?

 気丈にふるまっている様子でもない。どんなスタミナをしているのだこ奴は!?)

 ヤマネらは、このままギルドへと向かった。


 

 「いや~っ!! 自分は無実です! 誰かお助けです~!!」


 「黙れ! 大人しくついて来い!!」

 

 冒険者ギルド正門の前に、一人の少女が両腕を縛られて騎士に連行されている。

 騎士に対し必死に抵抗している彼女の特徴は、髪型は赤のオールバックでヤマネより小柄。そしてチュニック型のワンピース・円錐型の帽子・丸眼鏡・白の靴下・革靴を装着していた。

 そして彼女の帽子正面には、穴がある樹の紋章が刺繍されてあった。


 (こんな幼気な子供相手に力任せに引っ張って剣幕を張るなんて、騎士の中には、ろくでもない奴がいるんすねっ!!

 事情は、何も知らねぇけど!!)

 怒っているヤマネをよそに、タワラは頭を抱えてストゥムが深いため息をついた。


 そんな一同に、背の低い女が助けを求める。

 「おおっ! タワラ君にストゥム君に・・・・・・知らないお方。

 誰か助けてですっ!! この私は、間違っても幼児を攫うなんてことは、するはずないですっ!!」


 「幼児・・・・・・?

 どういう事っすか? 幼児はどう見てもこの子じゃ・・・・・・」

 脳内はてなマークだらけのヤマネの肩を、俯きながら軽く叩くタワラ。


 ストゥムが騎士に話しかける。

 「一体何があったのか?」


 「こいつが、幼い男に話しかけてギルド内に連れ去ろうとする通報が、先程入った。

 今度の今度は、許さんぞ金の亡者ショタコン糞年齢詐称メガネザルっ!!」


 騎士の方が、女を無理やり引っ張り、彼女の方は叫び続ける。もう揉みくちゃ状態だ。

 そこへ、別の騎士が幼い男を連れて駆けてくる。

 「証言取りました。彼の話によれば、『別に変な事はされていない。足の怪我を手当てしてくれただけ』と申しております」


 女が、激しく首肯する。

 「そうそう、目の前でこの子が転んで擦り傷を負ったから、この私が治療したんだ!

 誘拐なんてしてないですっ! 無実だっ!!」


 その話を聞いた騎士は、女の両手を拘束しているロープを外し、悪態をつきながら踵を返す。

 「ケッ! またかよ。だいたいいつもいつも紛らわしいんだよ、ギルド長は」

 

 「こらーっ!! 何なんですかその態度っ!! この偉い私が冤罪で捕まったんですよっ!!

 悪口もいっぱい言われたんですっ!! 謝罪は無いんですか謝罪はっ!? 国王に直接文句言ってやるですっ!!」


 両腕を虚空にぶんぶん振り回している女に対し、 民営の鶏口ごときが、国王陛下相手に下らない理由で謁見を頼めるわけねえだろ と暴言を吐いて去っていく一人の騎士を、ヤマネらは黙って見送っていた。


 「え~と・・・・・・ギルド長??」

 先程聞いた騎士の言葉に、ヤマネは唖然とした。

 彼女の視線先には、十代前半としか思えない容姿の女性がいた。

 「初めましてです! この私は、ムササビ ツリーハウス と申しますです。

 冒険者ギルドのギルド長をやらせて頂いておりますですっ!!」


 「ギルド長!? こんな子供がっ!!」


 タワラが口を挟む。

 「ムササビさんは、こう見えて30代を越えているぞ」


 30代!? と驚くヤマネを見て、ムササビの眉間に影が射す。

 「タワラく~ん? 淑女相手に、年齢をばらすなんて、少々礼を欠いていると、思わないですか~?」

 

 「はい、すみません。ムササビさん。私の横にいる少女は、ヤマネと申しまして前に冒険者ギルドで登録した新人です。

 それでおりいった話があるのですが・・・・・・」


 語るタワラに軽く頷くムササビは、答える。

 「まあ、詳しい話は、後で聞きますです。

 察するですけど、君達は、依頼クエストから帰ってきてるんですよね。受付嬢に報告した後でいいですから、ギルド長室へ」


 「承りました。ストゥム。長話済まなかった。待たせたな」

 振り向いたタワラの前に、ストゥムがもう一人の騎士と話していた。


 「悪いなタワラ。王城側から、検死の依頼が来た。前日処刑されたクルナートンを解剖しろとのお達しだ。ギルドは、ヤマネと共に行ってくれ、我はこれで失礼する。」

 淡々と述べたストゥムは、もう一人の騎士と一緒に王城へと向かった。


 「さよならっす。ストゥムさん。本当にいろいろお世話になりました!

 小型のふいごとウィードタイガーの牙の剣もありがとうございますっ!!」

 (偽門番、やっぱり死刑と処されたんすね・・・・・・あれ?

 司法側から殺害された場合、タロットの野郎から蘇生されるんかな? それもタロットと敵対しているオテン神側の人間を・・・・・・)


 次に、ギルドの入り口を潜るヤマネとタワラ。



 「コモドの旦那。最新式の銃器は、どうかい。ライフルマスケットっていうんすけど。

 射程も使いやすさもマスケットより、段違いっすよ」


 「ライフル・・・・・・螺旋状の溝の事か。へ~なかなかいい小銃じゃね~の?

 遠くから狼とか撃ったらスカッとするだろうな~」

 ギルド内の中央には、円卓を挟んでコモドと小太り短足ひげもじゃおっさんが座って話していた。

 その卓上には、砲身が長い銃火器と羊皮紙が置かれてあった。

 「ところで、今日は旦那は、非番かね?」


 「おう、ブレイゾンさんが歴史的価値が高い古代の壁画を見せてやるって誘われたんだよ」


 「久しぶりっすね。コモド隊長」


 「おお、ヤマネか。久しぶりだな。元気にしてたか?」


 「ええ、そりゃあもちろん」


 にこにこ笑いながらスキップでコモドの元まで近づいたヤマネは、右の拳を力強く握り、そして。

 

 「ぐえぇぼっ!?」


 おもいっきり彼の鼻頭に、右ストレートを決める。


 床に仰向けではっ倒されるコモドを見て、タワラもおっさんもシャルルもギルド内にいる他の方々も開いた口が塞がらなくなった。


 「偽門番の討伐報酬をちょろまかす最新厨を殴り飛ばす位には、元気にしてましたっすよ?」


 「な、な、何をしてるんだヤマネ!? 一応奴は、『火竜フレアドラゴン騎兵ナイト』の隊長だぞ!!」


 自分の右拳に、ふぅと息を吹きかけるヤマネに、タワラが焦る。


 「お~い大丈夫かコモドの旦那?」

 おっさんの呼びかけに、彼は答えなかった。鼻血を流して白目を剥いている。


 周りがざわつき始める。

 「おい、あの新人、『火竜の口』を拳一発でのしたぞ・・・・・・!?」


 「なんて狂犬だ。出会って一発容赦なく殴りかかるとは」


 「やべぇな。まあ、あいつはランクがAのくせに打たれ弱いことで有名だし当然だな」


 びくびく怯えながらヤマネに話しかけるおっさん。

 「お、お嬢ちゃん。コモドの旦那と何か因縁があると察するけど、何かあったのかね?」


 彼女は、王城の地下通路での出来事を話した。【第15・16話参照】


 「な、なんと推定Bランクであるクルナートンを討伐したお嬢ちゃんは、君の事だったんだね。

 旦那から噂は、かねがね聞いていたよ。殴り飛ばしたのも、まあ分からなくはない。

 ああ、済まない、自己紹介がまだだったね。

 わしは、マッチロック フィルマンと申す。見ての通り種族は、ドワーフで。

 モノ作りが得意な冒険者だ」


 「ご存じかもしれないっすけどヤマネ フルボルトっす。

 連れを殴り飛ばして悪かった。これからは、よろしく!

 だから・・・・・・え~と怖がらなくていいんすよ。別にあたしは、手あたり次第に手を出すような暴れん坊って奴じゃねぇし」


 びくびく震えているドワーフに、ヤマネはいたたまれなくなった。


 「そ、そうかね。何か造って欲しいものがあったら、儂の出来る範囲であれば、造らせてもらおう。もちろん報酬も頂くがね」


 咳払いをするヤマネ。それに吃驚するマッチロック。

 「え~と。おっさんドワーフなんすよね?

 その種族の人、初めて会いました。よかったら・・・・・・サインとか握手とか・・・・・・」



 「お待たせしましたタワラさん。さあ、シャルルの元へと行きましょうか」

 マッチロックとの握手を終え、別れの挨拶をしたヤマネは、タワラと共に受付のカウンターへと向かった。


 「ヤマネさんすごいっ! まさか騎兵隊の隊長を一発で倒すとは、さすがです!」

 目をキラキラして祈る様に両手を組んでいるシャルルを前に、ヤマネはため息をついた。


 「まあ鍛えてるからね。それとこの魔道具は、返すよ」

 自分の手首にはめられた魔道具『レンズクリスタル』を返却するヤマネ。


 「では、確かに受け取りました!」

 腕輪の魔道具をまじまじと凝視するシャルル。

 「んん? 何かヒビが入っているような・・・・・・ヤマネさん?」


 彼女の低い声に、ヤマネは、ぎくりと背筋を凍らせる。

 そうなのだ。二発以上も自爆魔術をヤマネは繰り出したせいで、その衝撃をもろに受けたレンズクリスタルが、無事で済まなくなったのだ。


 「私、損壊したらきっちり弁償してもらいますって、言いましたよね!?

 どういうことですか、これは!!」

 

 「ひぃいいいいすんません。でもまだ全然使えるっすよ?」


 カシャッと試し撮りをしたシャルルは、微笑んだ。

 「まあいいでしょう。ランクAの賊さんと闘ったと、タロッタービルァ町の方から伺っております。

 激闘を繰り広げて、レンズクリスタルが少しのきずで済んだのであれば、まあ御の字ですね。

 壊れてないのなら、弁償させる必要も無いでしょう。

 大変だったんですね、ヤマネさん。ディオニュクレスさんとの戦いは。

 ・・・・・・私が、ちゃんと初心者向きの依頼クエストをご案内すれば、こんなことには・・・・・・」

 俯いて震えるシャルルに、ヤマネはしどろもどろする。


 「わあ悲しまないでくださいっすよ! シャルルのせいじゃねぇっす! 酔っ払いのおっさんとエンカウントしたことは、ただただ運が悪かっただけ。誰のせいでもないんすよ」


 「そうですか。そう仰ってくれるとありがたいです!

 とにかく・・・・・・ヤマネさん、タワラさん。無事に帰ってくれて良かった・・・・・・!!

 ところでストゥムさんは・・・・・・ストゥムさんはどちらに・・・・・・まさかっ!?」


 タワラが答える。

 「安心しろ、ストゥムも無事生還している。ただ野暮用があって来られないんだと。

 ところで報告なんだが、例のダンジョンは、煙のように消失した。これは、依頼クエスト失敗という扱いでいいのか? 違約料を払う必要があるのか?」


 (違約料!? そうか依頼クエストを失敗したら、大なり小なり金を払わなきゃいけねぇのか・・・・・・やだな~余計な金を取られんの)


 「ええ、タロッターチェア神殿のダンジョンが消失したのも、ハインリッヒさんから伺いましたよ?

 大丈夫です。今回の依頼クエストの趣旨は、ダンジョンが危険かどうか調べること・・・・・・つまり、例のダンジョンの危険性が無くなれば、依頼クエスト主の本来の目的を達成したことも同然なんですよ。

 ということで、ハイ報酬ですっ!!」

 シャルルが銀貨と銅貨が詰められた革袋を渡し、タワラが受け取る。


 「ちゃんと後で、ストゥムさんとも山分けして下さいね?」


 「もちろんそのつもりだが・・・・・・」

 タワラが、ヤマネを流し見る。

 「報酬の一部を紙幣に両替できるか? 三分の一程」


 顎に手を添えるシャルル。申し訳なさそうにするヤマネ。

 「紙幣ですか・・・・・・もちろんできますよ。では、その革袋をこちらに一旦預からせてもらいます。少々お待ちください。

 あの、言いずらいのですけど、紙のお金は、信用度がとっても低いですよ?

 下手したら使うとき、相手側から断れるかも」


 「ああ、それで構わない」


 シャルルが奥の部屋に入って少し経った後、この場に戻った彼女から、紙幣と硬貨が入り混じった革袋をタワラ達は手に入れた。


 ヤマネが質問する。

 「シャルル。知っての通りあたし達はこの前、賊の親分を倒したんすけど・・・・・・冒険者のランクとか上がってないっすかね~?

 ランクがDからB,A辺りとかに」


 「え・・・・・・? 申しずらいですけど、上がってないですよ?

 ディオニュクレスさんを倒したことは、確かにすごい事ですけど、それはタワラさんとストゥムさん、そしてハインリッヒさん達と協力したから勝てたんじゃないですか?

 これが一人で例の彼を倒したのであれば、Cランクまで上がれたかもしれませんでしたけどね・・・・・・?」


 「一人で・・・・・・」

 シャルルの言葉に、ヤマネは絶句した。あんな大質量の酒を自在に操れる強者を自分だけで倒せるビジョンが、全く浮かばなかった。

 (厳しすぎね?)


 シャルルに感謝を述べた後、二人は、ダンジョン二階にあるギルド長室に行くため入り口傍の階段を上った。


 「タワラさん? ギルド長室の隣の部屋は、なんすか?」

 木製の扉を見たヤマネが質問する。


 「資料室だ。魔物や歴史、魔術のハウツー本などがたくさん収められている。冒険者なら誰でも利用できるぞ」


 (学校の図書室を思い出すな。へぇ~是非活用したいっすね。下手したら俺なら入り浸るかも)


 ギルド長室前にたどり着いた二人。タワラが扉を軽く叩く。

 そこから、すぐに扉越しにムササビの声が どうぞ と聞こえてきた。

 ヤマネが、緊張で息を呑む。


 ギルド長室に入室する二人。

 そこは、質素な部屋で、東側には小物入れや本棚が設置されており、西側の壁には地図などが貼られてある掲示板が取り付けられている。

 部屋の奥には、重厚な高い机が置かれてあった。


 「・・・・・・あれ? ムササビさん? がいないじゃないっすか」

 きょろきょろ見渡したヤマネの視線先には、ギルド長の影も形も捉えられなかった。


 「ここにいるですここにっ!」

 高い机の奥から背の低いムササビが、現われる。

 「とりあえずソファーに座るのです。どうぞです」


 「では、失礼します」

 タワラ達は、中央にあるソファーに席に着いた。


 「で? 要件とは何です?」


 ムササビの質問に、ヤマネではなくタワラが説明した。ヤマネが重度の金属アレルギーであること。そして非金属製のギルドカードは、造れるのか という内容を。



 「・・・・・・ふむ。成程です。というか、金属アレルギー持ちの冒険者なんて前代未聞じゃ……めっちゃ不利じゃん。金属の牙や爪を持つ魔物も珍しくなく、賊共に至っては鋼鉄・銅の武器ばっかり使うから。まじ今まで生き残ってこれたな」


 「ギルド長・・・・・・口調がなんか変わっていませんでしょうか」


 (そういうタワラさんも、珍しく丁寧口調だな)


 「オホンっ! 失礼、取り乱しました。まあできないことは、ないですよ。後でマッチロックさんに頼んでおきますです。それでも一夕一朝で出来ないと思いますから、その間に紙製の身分証でも代用して下さい」


 「承知致しました」


 「分かりましたっす。ありがとうございます。ギルドマスター」


 「他に何か質問でも?」


 「ええ、強めの呪いを解く方法をご存じですか?」

 (タワラさん・・・・・・あたしのことを心配して・・・・・・)


 「誰か知り合いが呪われたんです? まあ普通の呪いなら解呪魔術で一発ですけど。

 強めの呪いなら、解くための方法も限られているんですよね。

 そしてわざわざこの私に尋ねてくるという事は、消したい呪いは、とても強いと察するですよ。まあこれから解呪の方法を調べますから、後日またたずねに来てください」


 「はい、助かります!」


 (違う・・・・・・違うんすよタワラさん。あたしにかかってんのは、呪いではなく女神からかけられた祟り。きっと地上の方法では、あたしにかけられたそれは、きっと消えない・・・・・・)


 感謝を述べた二人は、ギルド長室をあとにする。


 「いろいろありがとうっす。タワラさん」


 「大したことは、してないさ。

 それより今からどうするのだ? 私は仕立て屋に寄った後、庁舎シティホールに向かう。

 王都周辺に結界を張れるかどうか尋ねるためな」


 「あたしは・・・・・・そうだな。依頼クエストを受けるっす」


 「魔物の群れの連戦後に、また都の外へと向かう、か

 どんな体力をしているのだお主は。

 こんな早い頻度で依頼を受けるのは、まるで・・・・・・」


 「ラティスは、すぐ行けるよ。サツマの救助依頼。

 たしかここから北東にあるユミル山脈で行方不明になったんだね?」

 受付の場にて、シャルルと一人の幼女が話し合っていた。


 彼女は、自身の背丈の三倍ほど巨大なアイアンハンマーを得物にし、艶やかな銀髪と透き通るような白い肌を有し、金色に縁取りをしている白を基調にしたドレスジャケットと同じく金色の縁取りをしている白のミニスカートと革靴を着用していた。


 ヤマネが、その話に張り叫ぶような大声で割り込む。


 



 「サツマのおっさんが、行方不明になってんのかっ!?」

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