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西派? 東派?

 ディオニュクレス戦後にて、酒によって濡れた神殿の床を踏みしめる者がいた。

 ハインリッヒだ。彼女は、きょろきょろ足元を見下ろす。


 「・・・・・・やはりあの鏡は、紛失ですか。まぁ、酒の噴出によって粉砕されていますから、見つかったところであまり意味が・・・・・・あら?」

 何かに気付くハインリッヒ。彼女の視線先には、かつてダンジョンに通じる縦穴があった地点だ。

 

 一体何を見つけたのか。


 それとも何も見つからなかったのか。

 浅間は、病気で布団の中に寝込んでいた。

 病気といっても、ただの風邪だ・・・・・・しかし、齢5歳の幼子にとっては、微熱と喉の痛みとだるさだけでも、つらいものである。

 そんな幼少の彼の右手を握る存在がいる。

 彼の母だ。

 彼女から伝わる温もりが、彼を心の底から安堵させていたのだ。


 * * *


 そんな生前の記憶が夢で朧げに思い出されたヤマネは、目を覚ました。

 なぜか目尻に雫が溜まっている。周囲を確認すると、どうやら彼女は、簡易テントの中の簡易ベットで寝ていたようだ。

 今の彼女の全身に、包帯が巻かれている。

 

 「・・・・・・・」

 ヤマネの隣には、寝落ちしているタワラが彼女の右手を握っていた。

 「タ・・・・・・タワラさん?」


 声を掛けたヤマネに、目をこすりながら起きるタワラ。

 「お・・・・・・ヤマネ。やっと起きた・・・・・・か?」

 次に彼女は、見下ろした。ヤマネと自分の手が握り合っている方へ。


 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 顔を真っ赤にして、ヤマネから慌てて離れるタワラ。

 「ヤ、ヤ、ヤマネっ!! 違う! これは、何かの間違いだ!!」


 しどろもどろしているタワラを眺めたヤマネは、面白そうな玩具を発見した子供みたいに、にんまりと笑った。

 「タワラさんって、本当に優しいんすねっ!! 手・・・・・・すべすべしててとっても温かかったですよ~?」


 「な・・・・・・何を言っておるのだ!! 妾は、ぜ、絶対優しくないぞ!

 これ以上からかったら、お灸を据えてやりゅ・・・・・・くそっ噛んだ!!」


 (ああ、もう取り乱すタワラさんかわいぃなぁあ~)

 右手を凝視するヤマネ。

 (・・・・・・まだ、温もりが残っている・・・・・・)


 「騒がしいぞ。ヤマネ殿は、起きたのか・・・・・・?」

 ストゥムとハインリッヒが、ヤマネ達のいる簡易テントに入って来た。


 「ストゥムさん! ギルド受付嬢さん! お早うございますっす!!」


 ため息をつくハインリッヒ。

 「名前くらい覚えて欲しいものですね。あと、今昼ですよ」


 「ああ、あたし寝坊してたんすか」


 髪の毛を掻くタワラ。

 「いや、丸一日以上眠っていたぞ。賊との激戦と慣れない超能力の行使で、精神的に疲労してたみたいだな」


 「そんなに、寝てたんすね。それで超能力って・・・・・・」

 首を傾げるヤマネ。すぐに彼女は、ディオニュクレス戦終盤で発揮された不可視な能力を思い出す。


 「人の首筋一帯には、突けば魔術とは違う超能力といった異能を一時的にだが、行使する事ができる経穴が存在する。

 原理は、脳に近い神経網が張られている首筋に強い刺激を与えることで、脳に負荷を掛けて人間の隠された念波の力を発揮することができるというものだ。タワラ、合っているな?」

 タワラの代わりにストゥムが答える。

 それに対し、頷く彼女。

 

 顎に手を添えたヤマネは、次にタワラを見据える。

 「・・・・・それは、あたしにも扱えるんすか? エスパーのツボ押しを」


 「超能力発動に関する経穴は、魔術師しか突くことができない特殊なものだ。つまりヤマネは、使える」

 明らかに嫌な顔を見せるタワラ。

 「ただし、お主は金属アレルギーであろう? 鍼を肌に刺した度に、アナフィラキシーショックを発症してしまうような奴に、教えるわけにはいかない!!」


 (くそっ! ばれちまったか・・・・・・もっと俺は、強くならなきゃいけねぇえのにっ!!)


 難しい顔をするヤマネに、深くため息をつくタワラ。

 「金属の鍼を使用する場合はな。安心しろ。鋭いつまようじでも代用できる。後でその事を教えてやるからまずは、飲食を摂れ。丸一日寝ていたから腹が減って喉が渇いただろう」

 彼女は、ハムとレタスが挟んであるサンドイッチと水が入ってある小型革袋を、ヤマネに渡す。


 サンドイッチを頬張り、慌ててそれを水で流すヤマネは、あることを思い出して立ち上がる。

 「ダンジョン調査の依頼クエストを忘れてたっ! あの酔っぱらいが邪魔したせいで中断してしまった。早く行かねぇと・・・・・・」

 (タロッターチェア神殿の近くに住んでた奴らが、俺がちんたらしたせいで、何時まで経っても帰れないなんてことあっちゃあだめだっ!!)


 呆れかえる一同。

 「私達は、前々日に推定Aランク・・・・・・つまり遥か格上と長期にわたり戦ったのだぞ。今も戦闘の疲れが取れきっていない。こんな状態でダンジョンにでも潜ってみろ?

 今度は、そこら辺の雑魚に敗れるかもしれないな。とにかく休んでろ。

 誰も、この町を身を挺してまで護ろうとしたお主を咎めることなんてしないさ」


 「金銭についての心配も無用。賊の頭領討伐の報酬は、たんまり貰った。

 ヤマネ殿の分も、今渡そう」

 ストゥムが、持っていた革袋から金貨十枚を取り出し、ヤマネに見せつける。 


 金色に輝く貨幣を見て彼女は、一瞬目を光らせて頬を緩ませたが、すぐ首を振って意見を述べる。

 「金の話じゃねぇんだ・・・・・・あたしが言いたいことは、ダンジョンが近所に残ってあるせいで未だ避難生活を余儀なく強いられている奴らがいてしまう。そいつらをほっとけねぇ事だ!!」


 「なかなか使命感が強いのですのね、貴方。冒険者達の中で珍しいタイプですよ。

 騎士の方が向いているのでは、なくって?

 それと、ダンジョンは潜りたくても、もう潜れませんよ」

 

 ハインリッヒの言葉に、ヤマネは、「どういうことだ・・・・・・?」と訝しがる。


 「ディオニュクレス戦の後日に、尋ねたんですけどね。例のダンジョン。

 タロッターチェア神殿をですね、内外関わらずくまなく探したんですよ・・・・・探したんですが見つかりませんでした。クルナートンさんが前に破壊してできたダンジョンに通じる穴すらも煙のように消えてしまってました・・・・・・」


 「・・・・・・は?」


 「私が推測するに例のダンジョンは、魔物が住み着いた太古の遺跡でも魔術師達で設計されたものでもなく、人間よりも高位の存在が、一時的に超常的な魔法で生み出したものではないか、と。

 思い出してみろ、礼拝や観光で人の往来が激しい神殿のすぐ地下にあるはずなのに、遥か悠久の間、そのダンジョンが誰からも発見されないなんてことがあるか? 

 なにより我らが通路を遠く進んだにもかかわらず、私達が侵入してきた入り口から脱出した地点である出口までの距離が、そこまで離れてなかったのだ。条理に反する。

 つまり、神殿の地下は、本来の世界の空間よりその密度が違うことを意味する。こんなの普通のダンジョンだったらありえない」

 (おそらく、白衣を着たあの女が創り出したモノだろうな・・・・・・あ奴は、恐らく神の使い?)


 長いタワラの説明に、安堵のため息をつくヤマネ。

 「そっか・・・・・・それじゃあ、もう心配する必要もねぇな」


 頭を抱えるタワラ。

 「その・・・・・・ヤマネ、あまりに荒唐無稽な事だから信じてもらえないかもしれないが、一応伝えたいことがある・・・・・・それは・・・・・・」

 彼女は、一昨日現れたタロットとそいつが残した言伝を、ヤマネに伝える。


 「・・・・・・は?」


 「いや、突拍子も無いことを言ってる事は、分かってはいる。だが、確かに伝えなければいけないことだt」


 「タロットぉおおおぉおおおおっっ!! 

 大概にしとけよあの糞やろぉがぁああああああああああああああっ!!

 俺が、今までどうやりくりして来たと思ってたんだ!!

 冒険者ギルドのカードは、金属だぞ! 革手袋はめてやっと扱えた物も触れなくなる?

 魔物除けの黒いハーブは、もう意味無し? それじゃぁあこれから、どうやって冒険すればいいんだよ!! ・・・・・・まだそれは、許せる。ぎり許せる。

 だが、何の関係もねぇ俺の両親らや、大切な友人や恩人を人質にするような祟りをかけたことは、何があっても絶対我慢ならん!! 」


 話を聞いたヤマネの怒声に、タワラ達は軽く気圧された。


 ストゥムがなだめる。

 「落ち着けヤマネ殿。大方あの偽の医者と深い因縁があることを察するが、ここは避難場所だ。

 声を張り上げれば他の者共に迷惑になるぞ」


 「・・・・・・悪かったよ。それより俺、あたしがぐーすか寝坊したせいでストゥムさん達、ここで立ち往生しているだろ?

 シャルルが待ってる。王都まで帰って潜ったダンジョンの情報を早く伝えなきゃな」

 震えながら立ち上がるヤマネに、タワラは心配そうに制止しようとする。

 「まだ病み上がりだろうに。もう少し休んでも良いのだぞ?」


 「いや、時間は無駄にはできない、したくない」

 そう言ったヤマネは、やっと自分が身に着けている服装に気付いた。

 一昨日まで着ていた毛皮のポンチョではなく、シンプルで清潔な薄青色の麻のシャツと長ズボン・・・・・・病衣びょういの一張羅だ。

 「あれ? 何時の間に・・・・・・」


 「この町の医療班が、着替えさせたんだ。ヤマネが気絶している間にな。

 ちなみにお主のポンチョは、戦闘時にてボロボロになってはいるが、捨てずに私が預かってある。

 革鎧レザーアーマーの方は、流石に修繕不可能だから捨てておいたが、大丈夫だったか?」


 「ありがとうっす。大丈夫っすよ」

 

 ヤマネ達は、そのテントから外出する。

 彼女達がいる現在地は、町の北側にあるアクロポリス頂上・・・・・・ディオニュクレス戦終盤で彼女達がいた神殿の傍である。

 今ここは、避難所へと変貌していた。

 周りを見渡せば、ヤマネらが利用した物以外のテントが点在してあった。

 麓へと続く坂道前の傍には、点在してあるテントより一回り大きい天蓋てんまくが設営されており、そこ目掛けて進むヤマネら。

 そこは、町中の医者達が待機している仮設の病院である。


 「・・・・・・・・・・・・」

 天幕の病院に彼女らが向かっている途中、葉っぱの冠を被っている集団全員が、ヤマネめがけて殺意を含んでいる眼光を飛ばしていた。

 彼らの一番奥にいる可憐な娘の額には、絆創膏が貼られてある。もちろんヤマネが投げたブーメラに被弾したから。

 その集団は、怒るに怒れないでいた。彼女がブーメランを投げた事も、子どもを守るためにしたことだと知っていたし、賊の魔の手からこの町を身を挺して護ったヤマネを今更責めれば、こちら以外のこの町の住民が黙ってはいない事も理解していたからだ。

 (くそぅ・・・・・・春初めの時期なら、桜精霊の巫女の力を思う存分発揮できたのに!

 そしたら、憎たらしいポンチョ娘を誰にも悟られず祈殺きさつできたのにぃいぃいいいいっ!!)


 恨めしい呪詛の唸り声を耳にしたヤマネは、申し訳なさそうにその集団めがけて軽く会釈する。

 

 

 

 「ふむ・・・・・・怪我もほとんど治っているな。魔力も完全に回復。血中のアルコールも分解されて健康状態だね。もちろん金属アレルギーの発症も完治」

 天幕室内にて、彫刻の蛇が巻かれてある杖を携えている青年の医者が、ヤマネに施されている包帯を解いた。

 彼の名は、アスクレピウス クリーンバンデッジ

 特徴としては、髪型はカール気味の緑の短髪。顔立ちが整っていてる。キトンの上に白衣を着ていた。

 

 「それじゃあ、もう帰れるっすか?」

 ヤマネの問いに、アスクレピウスは、にっこり頷く。

 「ああ、疲れもだいぶとれただろう。これなら冒険も戦闘も問題ないはずだよ」


 「助かったっすよ。ところでお代は・・・・・・?」


 「こんな緊急事態にお金なんて貰えないよ。ましてやこの町を護った英雄様なら、なおさらさ。

 後で国から報酬をきっちり頂くから心配ないよ。

 何か体に違和感が出たなら、躊躇わずまた来なさい。

 もちろん麗しい極東美女の方も一緒にお越し下されば、何の不満も無いよ?」

 そうヤマネに伝えたアスクレピウスは、耳を赤らめながら彼女の背後にいるタワラの方へと目線を移す。


 「どうかな、国すら傾むけるほどの麗しさを持つお嬢さん。今晩ボクと一緒にお食事d」


 「ストゥム。さっさと王都へ戻るぞ」

 

 「あ・・・・・・ああ」

 

 そうタワラが彼に言った後、アスクレピウスはスキンヘッドの男めがけて血涙を流しながら睨みつける。


 いたたまれなくなったヤマネは、アスクレピウスに感謝を述べた後、着替え室で着替えて病衣を返却し、慌ててみんなと仮設の病院から退院した。

 今の彼女は、紫に染められたキトンを着ている。この町民から贈呈されたものだ。

 

 町へと続く坂道を下り、丘の麓を通り過ぎ、短時間で街へとたどり着くヤマネら。

 現在の街の状態は、酒の海はひいているものの、ところどころ酒の水たまりが点在しており、家具や公共物が道路にそこら中転がり、辺りに甘ったるい匂いが人の鼻を突いてくる。

 ここに滞在している騎士達や民間人達が、復興作業で汗を流していた。


 「本当にとんでもなかったんだな。酔っぱらいのおっさんの術」


 とりあえずヤマネらは、泊まっていた宿屋から各々自分の持ち物を回収し、この町の冒険者ギルドへと向かう。

 ※ヤマネがチェックインした部屋は、酒の海の被害から免れた二階にあるので持ち物は、無事で済みました。


 「うわ~、やっぱりここの一階も他と同じく滅茶苦茶」

 濡れた書類がギルドの床にそこら中散らばり、椅子や机が隅に追いやられていた。

 もちろんこれも酒の波が原因。


 「これは、完全に復興するのも、手間と時間が必要だな。

 ハインリッヒ。何か手伝えることがあれば、・・・・・・何をしている?」


 タワラの視線先には、ハインリッヒが掛けたはしごを足場にして、ギルドの一階の天井裏をまさぐっている。

 「よし! 私の自信作の神話研究レポートは、無事ですね!」


 「仕事場に己の趣味の嗜好品を持ち込んで仕舞うなたわけ!!」

 ギルドの天井裏を改造して私物化しているハインリッヒに、タワラが呆れかえる。


 天井裏に頭を突っ込んでいた彼女が、項垂れてヤマネらを見下ろして語る。

 「こちらの心配は、不要です。そもそもギルド内の復興は、私達ギルド嬢とギルドマスターなどの管轄です。王都の冒険者が手伝う義務は、ありません。

 気持ちだけ受け取らせて頂きます」


 その言葉に、ヤマネは困り顔で否定した。

 「いや、そもそもあたし達がうまく酔っぱらいのおっさんを、ダンジョン内で倒しておけばこんなことには、ならなかったんだ・・・・・・町の惨状は、あたし達が間接的に引き起こしたと言っても」


 「ヤマネさん」

 ハインリッヒがはしごを下りながら、悔やんでいるヤマネの言葉を遮った。

 「ご存じですか? ディオニュクレスさんの術で殉職した方は、『アウル』のヒキョウさんのみ。

 確かに腕を損傷した騎士もいましたが、民間人の死者は、誰一人もいませんよ。

 まあアルコール中毒にかかった方も多いですけど、重体患者も見受けられません。

 言ってしまえば、なんですがこの町には、住んでいる人達の割合が、酒に強いのが特徴なので、それも犠牲者を抑えられた要因の一つですが・・・・・・。

 タワラさん。ストゥムさん。ミイラの方々。三尸の益虫達・・・・・・そしてヤマネさん。

 貴方達のどれかが一人でも欠けていたら、今よりも比にならない程の犠牲が出ました。

 つまり、みんなの頑張りでこの町を護り切ったのです。

 今の貴方がするべきことは、頭を抱えることではない」

 ヤマネの傍まで歩み寄ったハインリッヒは、彼女の両肩を掴む。

 「堂々と、胸を張って誇る事です。

 貴方達は、私達の町を護ってくださりました。ありがとう」


 目尻に雫を溜めているヤマネは、片腕でそれを拭う。


 「・・・・・・ギルドに寄って思い出したっすけど、あたしのギルドカードは?」


 「金属アレルギーのお主に持たせると思うか? 今、私が預かっている。

 王都に戻ったら、ギルドマスターあたりに非金属製のギルドカードを作成できるか、相談してみるといい」


 ヤマネは、ハインリッヒに魔道具の『レンズクリスタル』を一旦貸した後、冒険者ギルドの建物をバックに、彼女とストゥムとタワラ・・・・・・そしてチャンパオを着た亜人と一本足の化け物と密集するよう並ぶ。

 残念ながらムジナ型のタワラの召喚獣は、いない。ディオニュクレス戦で殉じたからだ。

 記念の集合写真だ。

 パシャリ。

 眩い閃光の後、ハインリッヒは、ヤマネにその魔道具を返した。

 

 ハインリッヒに別れの挨拶を述べたヤマネ達。

 タロッタービルァ町に去る前に、彼女達は、冒険に必要な道具一式を商人から買った後、この町を後にする。


 「・・・・・・金貨の報酬をもらったのは、いいっすけど今のあたし硬貨タイプの貨幣持てないっすよ。新たな祟りの項目を聞く限り、例え薄皮の非金属で間接的に触れただけでもアウトなら、金貨じゃらじゃらの財布を、どうやって持てばいいんすかぁああああああああぁああああああっ!!」


 帰路である赤い岩壁に挟まれた谷の道【21話参照】を、一同が歩いている中、ヤマネが新たに改悪アップデートされた祟りの深刻さに気付いて叫ぶ。

 「落ち着け、この国にも紙幣が存在する【※ただし信用度は硬貨と比べてかなり低い】。それでなんとかだましだましやるしかない」

 タワラが、ストゥムに耳打ちする。

 (そういえば、ストゥム。たしかヤマネの注射代である銀貨を徴収しなくてよいのか)


 聞かれた彼は、不思議そうに肩をすくめながらとぼける。

 「何のことか? 思い出せないな~。

 まさか、金にがめつい我が、後輩なんかのために価値の高い貨幣を貸すとでも?」


 「全く・・・・・・」

 呆れのため息をついたタワラは、一瞬だけ微笑んだ。

 「貴様も大概お人好しだな。これでよく新人冒険者を甘やかす我をからかえるものだな!?」


 左肩に手を掛けて黙って顔を歪ませるヤマネ。

 その肩を何度も回している彼女に、不審に思ったタワラが話しかける。


 「どうした・・・・・・?

 まだ本調子では、ないのか」


 「あ、いや。さっきからあたしの左肩に違和感というか、重みがあるな~て。

 アハハッ、大丈夫っすよ」


 「そうか、きつかったら言ってくれ」


 その後にヤマネは、タワラからは経穴について、ストゥムからは魔物の臓器の魔道具生成方法について歩きながら教えてもらったのだ。





 その頃、


 「たくよぉお~。油断し過ぎじゃねぇえのか?

 クソアフロは、今はぁあいねぇえな~。チャンスだぜぇえ、テメェえらぁあっ!!」

 赤銅色の丘上の崖際にて、谷底に歩くヤマネらを見下ろす男がいた。

 ディオニュクレスだ。

 奴の背後には、奴の部下達が全員待機している。

 そいつらの割合では、ヤマネらの戦いで生き残った者よりもタロットの力によって蘇生された者達の方が多く占められていた。


 ニヤリと笑うディオニュクレス。

 「力がみなぎる・・・・・・筋力だけじゃねぇ。魔力もだ!

 これなら、今ならとっておきの『最上大吟醸 酒彗星ラウジョイ』の連発も可能だっ!!

 パワーアップしてもらった礼だ。タロット嬢のために憎いヤマネを挽肉にしようぜ、てめぇえらっ!!」

 配下の士気を高めるため声を張り上げるディオニュクレスは、背後を振り向いた。


 「・・・・・・てめぇ、ら?」

 ただ、奴の・・・・・・頭領の呼びかけに答える配下は、誰一人もいなかった・・・・・・。


 なぜなら、刀を携えた長髪の男も、斧を持った低身長のおっさんも、血色の悪い部下も、凛々しい顔つきのアーチャーも、オーバーオールと三角巾を身に着けた若者も、そして他の配下達全員も・・・・・・ただの肉塊となって大量の血を零しながら転がっていたからだ。


 「ジムナーカス? ヘルメイス? ロデオ? アイスマン? ジュリエス? てめぇら?

 何だ何だどういうことだっ!?」


 自分の部下全員がいきなり死亡したことについて、ディオニュクレスは、極めて錯乱してしまった。

 その感情も、発された美しく可憐な声で遮られる。


 「私、じゃなかったボクが殺しました。

 次は、貴方ですよ」


 ディオニュクレスの目前に、無残に散らばる屍上に、いつの間にか一人の女性が立っていた。

 彼女は、肩まで伸ばした金髪の美女で、透き通るような白い肌を持ち、古代ローマの兜を身に着け、金の梟のマークを胸元に刺しゅうされてる白のキトンを着ていた。年齢は、22歳。

 

 アテナイ ドウェルグハンド


 特殊騎士隊である『アウル』の新入りだ。今のアテナイは、金の槍と鉛の盾を装備している。

 残虐と美麗を兼ね備える戦の女神にも似た彼女は、冷酷な目でディオニュクレスを見据える。


 「お、お前もしや最近南西の賊達を蹂躙した騎士の新入りか・・・・・・?」


 「どうでも、いいでしょう。そんなこと」


 戦闘態勢を取るディオニュクレス。

 「そうか、お前の事だったんだな。ヘパイs」


 アテナイは、ディオニュクレスが語っている間に、金の槍を薙いだ。

 それも容赦なく。


 「・・・・・・がっ」


 それだけで、奴の首と胴は、綺麗に別れてしまう。

 またもや、奴はタロットのお世話になりそうだ。


 引き攣った表情をした男の生首を踏みつけにしたアテナイは、忌々しそうに嫌悪に溢れて呟く。

 


 「薄汚い棒共は、ボクが殲滅する」

 

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