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ミイラ派? キョンシー派?

 要生風=地球で言う酸素。

 マミー=ミイラ。


 タロッタービルァ町の夜時の光源は、建物の壁に取り付けられている吊りランプや、かがりです。

 「ハインリッヒ。すぐに冒険者ギルドと騎士屯所に向かって増援と民間人の避難を頼む!

 奴は、近くの林を仕切る盗賊の頭領で、高い実力を持っているから、気を抜くな!」 


 「ま、まさか噂に聞く賊四天王の一人・・・・・・『NWのデビルフィッシュ』のリーダーだとでも言うんですか彼はっ!?」

 タワラが、奴の事を説明してハインリッヒは驚く。

 「こんな酔っぱらいがですか? 信じられません!! 強そうには、見えない。小手調べに『挟岩ロックサンドイッチ』『雷電ライジングボルト』『火炎陣ファイヤーフォーメーション』『氷柱アイスピラー』」

 次に彼女は、何食わぬ顔で非動作無詠唱で術名を並べた。

 

 「・・・・・・はぁ?」

 ハインリッヒを非戦闘員だと見受けたディオニュクレスは、いきなり彼女が術名を唱えたことにより呆気にとられた。

 その後、奴の周囲の床がひとりでに勢いよく大規模に隆起したかと思えばすぐに奴を強い圧で囲み、そして挟み込んだ。

 次に大電流高電圧の雷が、ディオニュクレスに発生し、大理石の塊ごともろに浴びせる。

 それで攻撃の手が止まることは無く、大理石の塊の足元に赤く輝く魔方陣が浮き出たかと思えば、そこからタワラの魔術を超える程の熱量と体積を有する火炎が容赦なく噴き出し、奴を苦しめる。

 最期に襲い掛かるのは、冷気だ。熱で溶けている大理石の塊を丸ごと包むよう凍った。


 巨大な氷の奥に包まれる大理石の瓦礫を、ポカーンと眺める冒険者一同。


 「・・・・・・・・・・・・え? これ受付嬢がやったんすか?」


 「そうですけど?」


 「すごい威力っすね・・・・・・」


 「まあ私もエルフの一員なんで、この程度の魔術は、使えてもおかしくはないですよ」


 ハインリッヒの両肩を掴んで激しく揺らすタワラ。

 「なぜそこまでの実力がありながら、受付嬢の位置に甘んじてるのだ貴様はっ!!」


 淡々と返答するハインリッヒ。

 「なぜって・・・・・・単に魔術より事務作業や受付業務の方が、向いていたからですよ。

 それに、騎士や冒険者なんて危険極まりない仕事なんて御免こうむりますし、宮廷魔導士なんて就こうものなら、趣味の神殿巡りを楽しむ機会も限られてしまうじゃないですか。

 しかしこの町のギルド受付嬢で働けば、自分の時間を気軽に神殿巡りに費やすことが・・・・・・」


 「貴殿ら! 無駄話は、終わりだっ!!」

 ストゥムが危険を感じ取ったのか、壺から魔道具のバクパイプを取り出しながら神妙な面持ちでヤマネらを呼び掛ける。

 彼の声を受け止めたタワラとハインリッヒが、ディオニュクレスを封じ込めた氷塊を凝視。

 そこから、ヒビが全体に入りだし、亀裂音が徐々に徐々に大きくなる。


 ついに、

 「失敗だったんじゃねぇかぁあ? 氷漬けした後に攻撃の手を止めたのはぁあ? 無力化した後に高火力で総攻撃でもしてたら勝てたかもしれねぇえのによぉおっ!?」

 ディオニュクレスを封じていた大理石の瓦礫の塊が、氷塊ごと粉々に砕け散った。

 立ち昇る土埃の奥から、どうしようもなく強い殺意の気迫が滲みでている。


 タワラは、息を呑んだ。

 質の高い魔術を畳みかけるよう受けたにもかかわらず、無事で済んでいるディオニュクレス・・・・・・を背後から狙い、奇襲をかけるヤマネにだ。

 彼女は、ストゥムが呼びかけた時に、躊躇わず走り出していた。


 全速力で駆けるヤマネは、呪文を詠唱しながら鞭を取り出す。


 「・・・・・・・・・・・・」


 「だめだ。逃げろヤマネ!」

 魔術でヤマネの足元に蔓の縄を九本急いで生やしたタワラは、それを操ってヤマネの全身に巻き付ける。


 土煙の奥から酒のウォータージェットがヤマネを狙って、発射された。それも音速を優に超える速度で。

 ヤマネの喉に迫るウォータージェットであったが、すんでのところで回避された。

 タワラが操っている蔓が、彼女を神殿の外目掛けて強く投げ飛ばしたからだ。それでもヤマネの肩に掠り傷が出来ている。

 線状に放射された酒は、神殿の柱二本→甲冑で身を固めた騎士の片腕→民家の壁三十二層→町を囲む城壁の順に経由しては貫通し、挙句の果てには、広範囲に林の木々をなぎ倒した。

 

 酒のウォータージェットをディオニュクレスが解いたタイミングで、バクパイプを全力で吹くストゥム。それの排出口から今まで以上の突風が巻き起こり、標的を存分に浴びせた。


 それにより、立ち込めていた土埃が晴れる。

 そこから姿を現したディオニュクレスの姿は、前と変わっていた。


 「・・・・・・鎧武者?」

 

 新たな敵の形態を見て呟いたタワラの感想通り、今のディオニュクレスは白く、そして重厚で厳つい薄金ラメラアーマーと面具を装着していた。

 それも、もちろん特殊な酒粕で構成されており、形式としては日本の大鎧と似ている。

 『めい酒粕 薄板うすいた鎧柏がいはく


 ディオニュクレスは、次々魔術を発動させた。

 今の奴の顔つきは、酩酊での頬の緩みは残ってなく、怒りで引き締まっている。


 『大吟醸 酒豪雨』

 現在、雲一つ見当たらないはずのタロッタービルァ町全域に、突如夜空の方から酒が土砂降りの様に降り注ぎだした。


 『大吟醸 酒海』

 前に神殿のダンジョンで披露したものと同じく、奴の足元から膨大な量の酒が勢いよくあふれ出す。

 この町全体が奴の魔術で冠水するのもそう時間は、かからないだろう。


 『めい酒粕 もろはく槍柏そうはく

 白く鋭い刃を有する長い槍が、ディオニュクレスの右手元に生成された。

 もちろんこれも酒粕のみで構成されている。


 『高位ハイランク召喚術サモン 般若はんにゃたこ群雄ぐんゆう

 ディオニュクレスを中心とするよう、魔方陣が酒の水面を埋め尽くすよう浮き出たかと思えば、そこから通常よりも真っ赤で巨大な蛸が次から次へと這い出てきた。

 もちろんこいつらは、ダンジョン内でヤマネ達を苦しめた魔物と同種・・・・・・ではなく、強さのランクが二段階程上がっている完全戦闘型の近縁種である。


 「数には・・・・・・?」

 

 「数だな。ハインリッヒ! 済まないが、時間稼ぎを頼む!」


 「早く逃げたいのも私の本音ですが・・・・・・仕方ないですね」

 床を滑るようこちらを囲う巨大蛸の群れに、タワラは、一つまみ程の米をポーチから取り出しならが詠唱し、ストゥムは自前の壺を床に置いた。

 タワラ達が準備している間、ハインリッヒが『挟岩ロックサンドイッチ』と『氷柱アイスピラー』を連発してディオニュクレスや一部の巨大蛸を足止めしている。


 『我は 未熟な仙人見習い 道士の呪いにて 我が体に潜む寄生の三匹よ

 力足らずの我を 手助けせよ 庚申こうしん日の是非に関わらず 顕現せよ

 脳内は青 腹心は白 腰孔は黒

 善なる性質を持つ三匹の虫よ 掌上の一穀を代償に 出でよ 憧憬どうけいなる外へと』

 『極東式イースト召喚術サモン 三尸さんしの益虫』

 タワラが呪文を終えて持っていた米をそこら辺に撒いた途端、白煙が舞った。

 そこからチャンパオを着た亜人と甲虫類特有の外骨格を全身に纏った大きなムジナと人間の一本足の魔物が姿を現した。


 ストゥムの方も、収納用異空間に通じる壺の口から全身に包帯を巻かれたマミーを次々に呼び出した。

 マミー達は、半分程ディオニュクレスを足止めするため奴めがけて群がり、もう半分は、巨大蛸を肉弾で相手している。 


 「上尸、中尸、あの賊の相手をしろ! 下尸、ヤマネをサポートしろ!」

 召喚主であるタワラの命令にチャンパオ着の亜人は、石の貨幣をディオニュクレスに見せつけるよう掲げ、甲虫ムジナは三本の爪を立て、片足の魔物は急いでヤマネがいる神殿外へとケンケンパの要領で向かった。


 額に片手を添えて足をもつらせるディオニュクレス。

 (く・・・・・・!? どうもあの石貨幣がらくたから意識を逸らせねぇ・・・・・・おそらく亜人の方は、敵の精神に異常をきたせる能力を有しているなぁあ?

 硬貨を敵に見せつけることがぁあ条件だねぇえきっと・・・・・・)


 怯んで隙を見せた奴を見逃すタワラ達では、なかった。

 タワラは、金色の炎を操り、ストゥムはバクパイプを吹き、ハインリッヒは魔術で大量の油を噴出させ、甲虫ムジナが爪を突き立て跳躍し、ミイラの群れが駆け寄ってくる。

 こちらに迫り来る脅威を、

 「・・・・・・ふんっ!!」

 ディオニュクレスは、酒粕槍の一薙ぎで対処する。

 その一撃は、油と風で火力が爆発的に底上げされた大火をかき消し、甲虫ムジナやミイラの大群、そして自身で召喚したはずの巨大蛸を神殿外、遥か彼方に叩き飛ばした。

 槍の一撃を受けた召喚されたモノらが、市街地一帯へと散らばるよう降り注がれる。

 あまりに奴の一撃が凄まじいせいか、気流が乱され、今度はタワラ達が気圧されて転ばされてしまう事態に。

 その上、辺りに冠水している酒のせいで、タワラとストゥムは、肝臓の魔道具があるにも関わらずに再度酩酊状態に陥ってしまった。


 今度は、ディオニュクレスが敵の隙を突く番。

 奴は、首元に身に着けていたウコンの木製ネックレスを外して一気にハインリッヒ目掛けて駆け寄る。

 「あんだけ酒を浴びてんのによぉ、ちょっとしか酔ってないってことは、お前も上戸だろっ!!」

 顔が赤らめ始めた彼女は、魔術を発動させようとするも、背後から這い寄って来た巨大蛸に捕まり、触手で縛られてしまった。


 「何ですか!? 索敵魔術を発動しているはずなのに!!」

 (まさかあの巨大蛸は索敵サーチ魔術を阻害する隠密ステルス能力を有しているのでしょうか? それも全個体に!!)


 「強いダークエルフちゃん今死にまぁあ~す!」

 今まさに標的めがけてウコンネックレスを振り下ろすディオニュクレス。

 

 「させるかってんだよっ!!」

 しかしすんでのところで、下尸と呼ばれた片足魔物を両手で抱えた何者かが、そいつを槍代わりにディオニュクレスの掲げた腕めがけてどついたのだ。


 何者かから攻撃を受けたことにより、ディオニュクレスの振り下ろしは、狙う先がずれてハインリッヒを外してしまった。


 「・・・・・・ちっ、てめぇえかぁあ」


 「ふっ・・・・・・ヤマネ遅いぞ」


 「すいませんタワラさん。でもぎり間に合ったんでいいでしょ? ・・・・・・ハハハ、ハ」


 何者かの正体は、ヤマネ。なぜヤマネがここに戻るまで時間がかかってしまったのかと言うと、タワラの命令で下尸が彼女の元までたどり着いた。・・・・・・そこまでは、良かったのだが。


 『なんだてめぇっ! 酒野郎の手下かダンジョンに住んでた魔物かコノヤロー!』

 敵だと勘違いしたヤマネが、少しの間そいつと交戦していたのだ。


 その事を聞いたタワラは、複雑な表情をして頭を抱える。


 「それは、そうと酒野郎てめぇ。さっきまで散々あたしにそのネックレス当てようとしてたし、次にハインリッヒさんも狙ったな」

 ヤマネは、ハインリッヒの顔色を流し見る。

 「おおかた対酒豪用の魔道具だろ、それ。例えば酒に強い奴にそれ当てれば、大ダメージを与えれる効果を有したりしてな」


 その言葉に、ディオニュクレスは無言で対応したが、一瞬だけ眉を動かした。


 「・・・・・・」

 (なんだ・・・・・・オレェ、あのメスガキ見るたびに・・・・・・)


 「はい? あいつ、なんかあたしのことじろじろ黙って見つめやがって。まるで欲情してきたゴブリンやオークみたいに・・・・・・」

 そう言いながらヤマネは、こちらに迫る巨大蛸共を下尸の蹴りで一掃する。

 

 (ムラムラするぜ・・・・・・酒のせいか?)


 「戦闘中によそ見とは、感心せんな・・・・・・離れよ、皆!」  

 バクパイプを構えたストゥムが、吹き口に口を付ける。その際に、ハインリッヒが肺胞表面に両手を添えた。

 ヤマネ達は、急いでディオニュクレスから距離を取る。

 そのままの状態で彼は、奴めがけて強力な突風を起こす。

 

 今回もディオニュクレスは、ストゥムの攻撃に耐える・・・・・・と思われたが、

 「ぐおぉおおおおおぉおおおおおおおぉおおおっ!?」

 奴は呆気なく神殿天井を突き破っては吹き飛ばされ、住宅通り上を越え、少し遠くにあるアクロポリスの岩壁に激突。

 それでも酒粕の鎧に軽いヒビが入る程度で済んでいたが。

 『酒海』の魔術は、術者のディオニュクレスがその場から離れていようと関係なく発動をその場で維持されている。つまり奴を倒さない限り、魔力が続くまで延々と酒がこの町に溢れてしまうのだ。


 バクパイプの魔道具を壺内に収納しながら呟くストゥム。

 「ふぅむ。ヒック! 即興の合わせ技にしては、上出来だな」

 実は、彼がパグパイプを吹こうとする前に、ハインリッヒがそれに風速と威力を底上げする付加術をかけていたのだ。


 「無駄口叩いている場合か? さっさと高所に上らないとならぬぞ」

 タワラの言葉に賛同する一同。


 とりあえず近くの五階建ての塔にお邪魔して、階段を上って屋上までたどり着く一同。

 「タワラさん。一般人達は、無事避難しているんでしょうか?」


 「何を言っている・・・・・・? この大雨と酒の氾濫だ。とっくに異常に気付いた騎士達が民間人達を、丘の上まで急いで向かわせているはずだ」

 

 そうだと良いんすけどね と漏らすヤマネを余所に、ストゥムとハインリッヒの顔色が赤から青へと徐々に変わる。


 「・・・・・・済まない、タワラ。やらかしてしまった・・・・・・」




 ※その頃、ディオニュクレスの方は。


 「・・・・・・くそっ! 油断していたぜぇえ」

 (さっきの一本足、おおよそ蹴った対象の性欲を上げる効果でも有してんのかぁあ?)

 丘の岩壁から離れてフライボートの要領で飛んでいる奴は、とりあえず近くの民家の屋根へと降りた。

 「さて、またバカ正直に姿を見せるのもな・・・・・・舐めプは終わりさ。今度は遠距離から奇襲を謀ってやr」

 独り言を宣うディオニュクレスを背後から狙うモノがいた。

 甲冑類の外骨格を持つムジナ・・・・・・中尸だ。

 不意を突かれたディオニュクレスは、背中を爪で引き裂かれたのだ。本来酒粕の鎧で防げたはずの攻撃だったが、あいにくヒビが入ったところを狙われたので、傷を負ってしまっている。


 「くそがっ!!」

 酒粕の槍一突きで、中尸の喉を串刺しにするディオニュクレス。

 ぷらーんと体が槍に垂れている中尸の死体を、足元に投げ捨てた奴は、舌打ちした。

 他に敵がいないか見渡す奴。町の道路には、ストゥムが召喚したマミーがうようよ徘徊している。

 その中の一体が、ふとこちらを見上げた。その後どす黒いオーラを全身から放ちだしたのだ。

 (ミイラ野郎特有の呪いか? それとも声の代わりに仲間にコミュニュケーションを取るための手段ってかぁあ? どちらでもいい)

 

 『本醸 神酒みき

 そう奴が術名を唱えた後、透明度の高い水飛沫がディオニュクレス頭上に発生し、次に道路上のマミー達に降り注いだ。

 すると、飛沫にかかったマミー達全員が、力なく倒れこんでしまっている。

 この酒の魔術は、アンデット系のモンスターを浄化する聖属性の側面も持っているのだ。


 床に転がるマミー達を生き残った(?)他の個体が見つけて異常を察知し、黒いオーラを出し始めた。

 それを見た別の個体も連鎖するよう続けてそのオーラを出す。


 「おい、これあの禿げに、オレェの位置をばらそうとしてねぇえかぁあ、あいつら? やべぇな。全滅でもさせねェとあいつらに見つかっちまう・・・・・・」

 きょろきょろ見渡して身を潜めるのに適した場所を探すディオニュクレスは、ある行列を見つけて思わず頬を緩ませた。

 奴の視線先には、冠水した酒から逃げるために丘の頂へと続く坂道を登る民間人の行列であった。


 早速その行列に紛れて身を潜めるため、酒のフライボートを再び行使しようとするディオニュクレスであったが、管内に何か詰まっているみたいになぜか勢いよく足裏から酒がでない。おまけに肝臓機能が低下しているせいか自分が発した酒の返り水で軽く酔ってしまったのだ。

 「・・・・・・あのムジナがぁあああっ!! オレェの臓器の働きを弱体化しやがってっ!!」

 三尸の益虫の状態異常付加の効果は、時間差で発動する。


 

 ※ヤマネ達の方へと視点を戻します。


 「民間人が危ない! なぜ敵を飛ばした時の墜落地点を考えておかなかったんだ!?」

 憤るタワラに、ストゥムは申し訳なさそうにしている。

 ちなみに上尸とは、別行動を取っている。今頃そいつは、タワラの命令で身動きが取れない民間人を手助けするため家々を回っているだろう。


 今、ヤマネ達は酒に冠水している道路を避けるよう、屋根から屋根へと、時には塀や木の枝にも飛び石の様に飛び移ってディオニュクレスの元へと向かっていた。

 

 タワラが扱う蔓の縄も高層の建物を上る際に役立っている。

 彼女らの内、タワラとストゥムは、酩酊しているせいか、足元がおぼつかなく頼りなさそうだ。


 三階建ての棟の屋上からレンガ瓦を敷いた屋根まで、ヤマネらが飛び移る際事故が起きた。

 ストゥムが屋根に片足をせた時、彼が足を滑らせ瓦ごと路地裏まで落ちそうになる。

 先に屋根に渡っていたヤマネが革鎧の腹ポケットから革の鞭を取り出し、落下寸前のストゥムの手首にそれを巻き付かせて引き上げようとする。

 ちなみにその腹ポケットから鞭を取り出す際に、赤い帽子もそこから零れ出していた。

 彼女に続くようタワラやストゥムも鞭を掴んで引っ張って手助けする。

 そう経たずに、ヤマネらは、ストゥムを救助。


 屋根まで上りきったストゥムが、息を乱して四つん這いになりながら、感謝を述べた。

 「ヤマネ殿、助かった。タワラや受付のお嬢も感謝する」


 「酩酊さえしなければ、妾、私達が足でまといになることは、ないのに・・・・・・! 済まないヤマネ!」

 頭をうなだれるタワラを余所に、ヤマネは、ストゥムの傍に浮いてある壺に目を向けた。


 「ねぇ・・・・・・もしかして壺の中に人間も入れるっすか? ストゥムさん」


 「ああ、一応壺内も入れるが、魔道具の腐食防止のため空間内は、要生風さんそ濃度がかなり薄いぞ。

 泥酔している我らを壺の収納用空間に避難させてヤマネがそれを持って移動する算段のつもりか知らんが、残念ながらその案は、非現実的だ」


 ヤマネの考え事を見抜いたストゥムに、片手を揚げて言うハインリッヒ。

 「ようは、要生風さんそがあれば、いいんですね? 私は、魔術で大気を生み出せます。これで問題は、解決でしょう」


 彼女の提案に、タワラとストゥムは不服そうにやむを得ず承諾する。

 新人冒険者だけ危険な目に遭わせることは、彼らにとってできる限り避けたかったことだ。

 しかし迷っている暇は、無い。

 早く奴を倒さねば、状況はどんどん悪化する。


 タワラ達が壺内に吸い込まれた後、ヤマネがそれを脇に抱える。

 彼女達だけでなく数々の魔道具が入っているにもかかわらず、ヤマネが感じる重量感は、一つの壺分だけしかなかった。


 「・・・・・・行くか」

 そうヤマネが呟いた瞬間に、巨大蛸の群れが彼女を囲むよう道路の水路から跳ねて現れた。

 まず彼女は、足場の瓦を足裏で蹴りで飛ばし、巨大蛸一体の目に命中させて怯ませる。

 他の個体全てが触手を伸ばしてヤマネを締めようとするも、片足魔物の下尸を武器代わりにジャイアントスイングの要領で文字通り蹴散らす。

 巨大蛸達をいなしたヤマネは、急いで近くの棟の屋上へと跳び移る。

 

 ヤマネが空中にいる時、突如巨大蛸の一体が近くの壁に張り付いた状態で姿を現し、次に触手を伸ばしてヤマネを強い力で叩き落とした。

 

 酒の水路まで墜落したヤマネ。

 もはやここ一帯は、彼女の腰まで水位が上がってきていた。

 勢いよく立ち上がったヤマネは、機動力を上げるために重い下尸を置き去りにする。

 「チッ! 蛸らしく周りの景色に擬態できる能力持ちやがって。

 あんたを武器代わりにして悪かったよ。どっか避難してろ」


 すぐに側の二階建て民家に押し入ろうとするヤマネであったが、巨大蛸が次々と彼女に向かって群がってくる。


 「・・・・・・『雷獣の憤慨』」

 そう、ポツリとヤマネが呟いた瞬間、彼女を中心に水路に電流が走る。

 電気を浴びた巨大蛸の連中は、痺れて少しの間に動きが止まった。

 

 呆れるヤマネ。

 「水場で移動させる召喚魔に、雷耐性くらい付与させろよ、ったく浅はかだな」

 一応、水路にいるかもしれない一般人を気遣ってか、彼女はその魔術の威力を抑えて発動していたのだ。

 側の民家の扉を蹴破って侵入し、慌てて階段を上り、バルコニーに出る。


 次に彼女は魔力で強化した足にまかせてここから隣接している棟の屋上まで上がろうとするも。

 「またかよっしつこいぞ!!」

 その屋上に巨大蛸が待ち伏せしていたのか、周りの景色の擬態を解いたそいつが、ヤマネの首めがけて触手を伸ばす。

 (くそっやべぇっ!!)

 空中にいるせいで今の彼女は、思うように回避ができない。

 そしてついにヤマネの首がそいつの触手に縛られてしまったのだ。

 「ぐがっ!? ぐぅ・・・・・・」

 (なんていうパワーだ!! あたしの強化した筋肉でも、振り解くのは、む・・・・・・やべぇ・・・・・・意識が・・・・・・)


 首を縛られて呼吸困難にヤマネが陥っている時、屋上にある扉からマミーが次から次に出てきて、巨大蛸を数の利で取り押さえる。

 それによって巨大蛸の触手の力が弱まり、失神寸前の彼女を放してしまったのだ。

 屋上に叩き落とされた彼女は、正気を取り戻して周りを見渡す。

 「ゲホッゲホッ・・・・・・ミイラ? なんかあの蛸からあたしを助けた・・・・・・なぜだ?」

 (ミイラ→エジプト→古代エジプトの恰好をしたストゥム・・・・・・)

 連想でマミー達の正体を、勘付いたヤマネ。

 「そうかっ!! おそらくストゥムの召喚したものだな! ありがとうだぜてめぇらっ!!」


 マミー達に感謝を述べた彼女は、再びディオニュクレスの元へと向かう。

 彼女は、革鎧に収納してある黒曜石のナイフでこちらに迫り来る蛸達の触手を切り落とし、対処した。

 

 そして少し時間が経った後、丘の頂に続く坂道までヤマネは、たどり着く。

 彼女は、壺の口に片手を突っ込み、そして勢いよく引っ張る。

 そこからヤマネの手を握るタワラと、彼女の袖を掴んでいるストゥムとハインリッヒが出てきたのだ。


 「よくやったなヤマネ! どこか怪我は、無いか? ヤマネ・・・・・・?」


 (タワラさんの手、すべすべしてたな)

 温かくなった自分の手をまじまじと見つめるヤマネに、タワラ達は心配そうに話しかける。


 「え? あ、すみません。ぼーっとしてたっす。さっそく酒のおっさんの方へと向かいましょうよ」


 「しかし、あ奴の現在地がわからぬ・・・・・・一体どうしたものか・・・・・・」

 そう考えこむストゥムの前に、一体のマミーが丘の麓から歩み寄ってきた。

 次に奴は、自身の体から黒いオーラをリズミカルに発する。

 「ふむふむ・・・・・・わかった。奴は、丘の頂に向かったか・・・・・・」


 マミーの様子を見て頷いているストゥムに、ヤマネは首を傾げる。

 「え? なんであいつの居場所が、分かったんすか」


 そんな彼女の問いに、ストゥムではなく代わりにタワラが答えた。

 「声を出せないミイラ達は、闇属性の魔術の波動という手段でコミュニュケーションを取る。

 ストゥムは、そ奴らの意思をくみ取ることができるのだ」


 豊満な胸に手を添えてため息をつくハインリッヒ。

 「マミーさんが仰ったことが本当でしたら大変ですよ。今、彼は民間人に紛れているかもしれません。下手をすれば人質を取っているかも」

 彼女の推測に、ヤマネらは、難しい顔で悩む。


 「くそっ! あ奴は、顔が世間に知られていない賊。何食わぬ顔で避難所で身を潜めている。そこで攻撃でも仕掛けてみろ! 辺りは、パニック状態になるぞ!! どのみち民間人に危険が及んでしまう!!」


 「でも、ほっといたらほっといたで状況は、もっと悪化するし・・・・・・ん?」

 ふと、下方を向くヤマネ。自分の革鎧に零れる赤い帽子を彼女が見つけた後、酒に沈む町を見下ろす。

 ニヤリとヤマネは、笑う。

 「・・・・・・何とかなるかもしれないっすね。

 タワラさん。あたしの全身に、状態異常を起こす悪質なツボを突いてくれないっすか?」


 そんなヤマネの言葉に、タワラはしばらく開いた口が塞がらなかった。

 「な・・・・・・何を言っているのだ。お主が言っていることは、つまりはこの危機的状況で仲間を追い詰めろと言っているようなものだぞ!! 下手をすれば死んでしまう!

 被虐趣味は、時と場合を選べっ!!」



 「いや、誰がマゾっすか!?」


 

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