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ナイル川派? 黄河派?

 最近改稿した時期は、2023年6月30日です。

 (やべぇやべぇっ強さを見誤った! こいつの実力、偽門番位かと思ったがとんでもねぇ、コヨーテさんかコモド団長に匹敵してるっ!!)

 柄になけなしの力をめ、半ば自棄気味に剣をディオニュクレスの首元に突き立てるヤマネだが、奴を包む特殊な酒粕が防いでるせいで僅かなダメージも与えられない。


 「ヤマネ! これを貼り付けろっ!」

 タワラが、緑の札に魔力を込めた後、ヤマネの額めがけて飛ばすも・・・・・・。


 「させるかよっ! これはァ、回復用アイテムだなぁあ?」

 ディオニュクレスがヤマネを力任せに突き飛ばし、自分の左腕に纏わる酒粕を剥がしたのち、その箇所に例の札を奪って貼り付けた。

 しばらく奴の全身から淡く発光した。

 「中々心地良いじゃねぇかっ!!」


 「くそっ!」

 悪態をついたタワラが、左手に印相を結びながら右手の先から蔓の縄を生成し、それを生長させて倒れているヤマネの腹を縛り、印相を解いて両手でその縄の先をこちらの元まで手繰り寄せた後、彼女に最後の一枚の回復札を急いで貼り付ける。

 発光しているヤマネを背負ったタワラとストゥムが、入って来た広間の入り口から向かい先にある出口めがけて全速力で遁走を開始。

 二人とも、泥酔したのと水場に変貌した足場のせいで走る足がおぼつかないでいた。


 「させるかってんだよっ!!」

 体力も魔力も全快したディオニュクレスが自分の頭上の虚空に魔方陣を生み出したかと思えば、そこから酒の鋭利な刃が矢継ぎ早に高速に発射される・・・・・・ヤマネらとは全く別の明後日の方向めがけて・・・・・・。


 「何やってんだあいつ・・・・・・?」


 「私の幻術にかかっているのだ。今、奴はこちらとは反対方向に逃げ回っているわらわ達の幻影に惑わされている」


 「こんな便利な術あんなら、さっさと使ってくださいっすよ!

 ってか、今のうち奇襲が成功すんじゃないっすか!?」


 「とっておきの術なんだから、できるだけ繰り出したくなかったんだ! あと奇襲は、成功しないだろうな・・・・・・そもそもあ奴の全身に纏ってある酒粕の硬度が、常軌を逸していてこちらの攻撃が貫通するとは、思えない!!」


 論争が始まったヤマネとタワラに、呆れているストゥムは、壺から魔道具を取り出した。

 「今そんな言い争いをする余裕も・・・・・・ヒック! 無いだろう?

 ヒック! 我らを追う酒は、触るだけで泥酔させる特殊なモノだ。このまま酒の水路を進んでいけば確実にアルコール中毒で『アウル』の二の舞になる!!」

 それは、二枚貝タイプの貝殻(下層)だ。広さは、なんと小舟程。


 ストゥムは、その魔道具を酒の水面に浸けた後に手を離す。それは、波に流されながらも沈むことは無かった。

 「もしかしてそれを、舟代わりにするってかっ?」

 とりあえずヤマネはタワラから降り、そして彼女らは急いでそれを乗る。三人の体重が圧し掛かったしてもそれは、余裕そうに水上を滑っていた。

 ディオニュクレスの元から酒が溢れ出てくるので、波の進む方向は、広間側から逆。つまりそのまま舟に乗っているだけで奴から離れることができるのだ。


 広場出口を抜けたヤマネ達が現在いる廊下は、ここ地下三階と上層の地下一・二階が繋がっている吹き抜け構造で、地下一階層には、左右両端に狭い柵付きの足場が通路に沿うよう伸びていた。

 あと道の幅は、手を広げた成人男性八人分程度。


 「助かったストゥム! ・・・・・・うぅ。体が熱い。眩暈めまいや吐き気もする。このままじゃうまく闘えない!!」


 「安心しろ! アルコールを解毒する魔道具もあるぞ」

 

 「うげぇっ! 何だその赤黒いの。レバーか?」

 そう、ストゥムが続けて取り出したのは、魔物の肝臓。それも三つ。


 「強酸アシッド家鴨ダックの肝臓に防腐処理を施して吸盤を取り付けたものだ。腕でも額でも良い。肌に貼り付けろ!」

 彼の言うとおりに、嫌々ながらも自分の太ももに各々一人一つずつ貼り付けるヤマネ達。ストゥムは、右腹部に取り付けた。


 ヤマネ達が体制を整え直している中、酒の水位は目視ではっきりわかる程早く上昇している。

 もしもここの通路が吹き抜けでなかったら今頃完全に水没してしまい、彼女らは溺死しただろう。

 ストゥムが貝の舟を用意できなかった場合、ヤマネを除いてタワラ達は、短時間でアルコール中毒で死んでいた。


 肝臓の魔道具を使用しているタワラ達は、全快とはいかないものの、あまり時間が経たない内にかなり酔いが醒め始める。

 すぐに・・・・・・。


 

 「てめぇらよくも騙しやがったなぁあっ!!」

 野太い男の怒号が、先程ヤマネらがいた広間からここまで轟いたのだ。


 「相手が虚けで助かったな。普通もっと早い段階で自分が幻術にかかってると気づくはずなのだがな・・・・・・フフッ」


 「笑っている場合っすか! 酒の波の勢いが段違いで上がってるすよ!?

 早く、地上まで行かないとっ!!」

 『風の象徴であるシルフよ 我は命ずる あらゆる壁を突き破る風を起こせ

 方位は赤霧座の元 威力は強 精霊の猛威を 我が前に示せ』

 「風属性魔術『突風ガスト』っ!!」

 貝の舟の後ろに乗っているヤマネが、剣を貝底に置き、船尾先に向かって両掌を伸ばしたかと思えば、そこから横に噴出する暴風を起こしたのだ。

 ヤマネは、その術で舟に推進力を与えたのだ。まさしく魔力が燃料のモーターボート。

 波に揺られて滑るだけのその舟は、彼女の起こした大風により、一気に速度を加速させる。


 「おおっ、流石だな」


 「言っておきますけど、属性魔術を長い間維持したまま発動したら、あたしなんてあっという間に魔力が空になりますからね! 体調が良くなったらストゥムさんと交代しますよ? ストゥムさんあたしの術とは、段違いの風速風量を持つ突風を魔道具で起こせるじゃないっすか!」


 「了解・・・・・・と、言いたいところだが我も今から手が離せなくなったな」

 見上げるストゥムの視線先には、黒煙みたいな半透明の揺らめく人型の存在が漂い、局部が針みたいに尖っているコウモリが天井付近に大量に舞っていた。


 「奇遇だな。わらわもだ」

 見下ろすタワラの前には、巨大な蛸が、酒の水面下に数多く潜んでいた。


 そいつらは、一斉にヤマネめがけて殺到する。


 「いや、ちょっと、えぇええええええぇえええええええええっ!?」


 壺から竜の牙の小刀を取り出したストゥムは、水面から弾むよう空中に跳んできた巨大蛸らの胴を次から次に斬り捨てる。


 乱れるよう一斉に急降下してくる黒煙の存在・・・・・・悪霊ゴーストと化け蝙蝠の群れに対し、タワラは掲げた掌先から金色の炎を噴き出して一掃する。

 彼女の扱う金色の炎は、実は人間が使った場合は、闇属性や死霊の類を浄化させ、魔物が使った場合は、聖なる力や存在を穢して弱らせる効果を有しているのだ。


 (なんだ・・・・・・? なぜ魔物や悪霊共は、ヤマネのみを真っ先に狙うのだ。

 それと、酒の海に泳いでいる大蛸は、どこから出てきた? もしや・・・・・・)


 「オレェの愛しいペットちゃんは、どうだ? 可愛いだろぅ」

 ヤマネらの近く・・・・・・詳しくは貝の舟の後ろ近くからディオニュクレスの声が響いた。

 奴は、天井近くに宙に浮いていてヤマネらを見下ろしながら追っている・・・・・・いや、正確には奴の靴裏から大量の酒を噴出させることでできた水圧を利用してフライボートの容量で空中に移動しているのだ。


 (やはりあ奴の召喚術で呼び出した魔物だったか)


 「さてよくもオレェを騙してくれたなぁあ? 本醸・・・・・・ウォッ!?」

 攻撃を開始しようとするディオニュクレスに、下方から突風が舞い上がったのだ。もちろんヤマネの魔術。舟の推進力をそのまま奴に対しての牽制へと使用する。

 風圧をもろに受けたディオニュクレスは、体勢のバランスが崩れて落下し、そのまま酒の水面へと着水した。

 地に踏ん張っている時ならともかく、今奴は、不安定なバランスをとってる状態で飛んでいるようなものなので、少しの衝撃でもかなり影響を受けてしまうのだ。

 敵の隙を捉えたヤマネは、一気に舟を走らせる。


 「・・・・・・やってくれたな」

 水面から顔を出してヤマネらを見送るディオニュクレス。今ここの水路は、大人の背よりも高く水かさが増している。


 貝の舟の方はというと。

 「よくやったヤマネよ。あとは、我にまかせろ」

 風の魔術を解いたヤマネをストゥムが労って、バクパイプの魔道具を取り出した。

 さっそく船尾まで移動した彼は、 しっかりつかまってろ と言った後に進む方向の反対めがけてそれを思いっきり吹いた。


 そのバクパイプの排出口からヤマネの風魔術とは、段違いの風量と風圧を有する暴風が爆発的に噴出し、それによって発生した強力な推進力によって舟がグングン猛スピードで移動する。


 「すっ・・・・・・すげぇええっ! このまま逃げ切れんじゃねぇか?」


 「喋るなヤマネ! 舌を噛むぞ」

 (確かあの糞アフロが、この町近くに行くって前言ってた・・・・・・酒の敵は、奴に任せた方が確実だな、ん!?)


 「舟を止めろストゥム! 前方からも敵襲だ!!」

 何かひび割れるような音を耳にしたタワラの言うとおり、舟が進む先の通路の両側面から壁に根を張る大木が異常な速度で横方向に生長しており、それのせいで通路が半ば塞がってしまったのだ。


 バグパイプの吹き口の管から口を急いで離し、それを壺内に戻すストゥム。

 しかし強い推進力を残した舟は、すぐには止まれない。

 試しに炎魔術で燃やそうとするタワラだが、その大木は、緑色の樹脂を纏っているせいなのか炭になることは無くて軽く焦げる程度で止まった。

 

 「うわぁあこのままじゃ、衝突するよぉっ!!」

 絶叫するヤマネをしり目にストゥムが自分の壺から何かを取り出した。

 それは、黒い鉄片と粉が絡んでいる羊毛だ。

 ヤマネは、その羊毛を見て少し前の事を思い出す。


 (あれ、何か見覚えあるな・・・・・・羊毛、シラカバ山、ケンタウロス・・・・・・まさかっ!?)【第6話参照】


 「皆の者! すぐに舟から降りろ!!」


 「はぁ!? ストゥム。何を申して・・・・・って、え!?」

 壁から生えている大木と貝の舟が衝突する寸前に、戸惑っているタワラの襟をヤマネが強引に引っ張って酒の水中まで二人とも避難する。

 ストゥムも、その羊毛を強くこすって大木目掛けて投げた後、ヤマネらに続いて舟から降りる。


 彼が着水した瞬間に、羊毛が大爆発を起こした。

 通路を塞いでいた大木が、文字通り木っ端みじんになる。爆破の熱に晒された水面部分の酒が蒸発した。巨大な貝殻と骨付きの剣は、粉砕されて酒の底に沈む。


 (やっぱり、ケンタウロスのおっさんが操ってた爆発羊の羊毛と同じものかっ!!

 く・・・・・・目がみる・・・・・・っ!!)

 目を瞑っているヤマネらに、さらなる脅威が迫る。

 水路を泳ぐ巨大蛸の大群に囲まれたのだ。そいつらは、軟体な足をゴムみたいに伸ばして彼女らの足に纏わりつこうとする。例え、蛸らを退けさせたとしても、ディオニュクレスの酒に浸かったままでは、そう時間が経たない内にこちらがアルコール中毒で死んでしまう。


 水面から顔を出したタワラが、地下一階層にある足場の柵めがけて蔓の縄を生長させ、巻き付けさせた。

 「ヤマネ! 早く上れ!! 蛸共の相手は、妾達がやるっ!!」


 「え? でも酒に耐性があるあたしの方が、そいつらの相手をした方が・・・・・・」


 「さっさと行けっ!! Dランクの新人如きが、玄人の冒険者を心配するなっ!!」

 タワラの強い気迫に押されたヤマネは、急いで柵に繋いでいる縄を登り始める。

 その縄に繋がってある柵の奥の足場には。


 「しぶといな~」

 ナイフを携えた若者がいた。もちろんディオニュクレスの部下で、『NWのデビルフィッシュ』の残党である。

 実は、ヤマネらが前に進んだ十字路の右の通路を通って、先回りしていたのだ。

 

 「まだ誰かいんのか!?」


 「まぁ、ここまでお疲れ様。じゃああとは地獄で休んでな」

 若者が、タワラが伸ばした蔓の縄をナイフで切り落とそうとする。このままでは、酒に浸かってない足場にたどれない。

 とっさにヤマネは、自分の太ももに張り付いている肝臓を掴み、それを若者の賊めがけて投げつける。


 「うわっ!? 何だこの気持ち悪いのは!!」

 無事その肝臓は、奴の顔に命中した。吸盤によって自分に張り付いてくるグロテクスな内臓に奴は、怯んでナイフの手を止めてしまう。

 その隙を利用したヤマネは、急いで縄を上りきり、柵を乗り越えて足場にたどり着いた。

 そして間髪入れずに強化した身体に任せて若者の首を掴む。


 「舐めるなぁああああああああああああああっ!!」

 肝臓に顔を貼り付けたまま怒り狂う若者は、ヤマネの頭上である天井から大質量の大木を発生させて生長させる。

 葉っぱが生えていないその大木は、枝の全てが針みたいに鋭利で、突き刺されたら最悪死ぬ程殺傷能力が高いと、見ただけですぐに理解できるだろう。

 ヤマネは、下方向に伸びてくる大木目掛けて、強化した身体に任せて奴の体を、思いっきり投げた。

 

 「がはっ!!」

 自身で生み出された魔術に衝突して張り巡らされた枝に体中串刺しにされた若者は、苦しむことなく即死。

 血にしたたっている若者の死体を見上げたヤマネは、罪悪感で心が混濁する中、引き絞った声を発する。

 「お疲れ様。冥界にいるタロットにパワーアップでもしてもらえ!」

 

 若者撃破後、タワラとストゥムが息を乱しながらも五体満足で蔓の縄を上り、安全な足場までたどり着いた。

 二人共、また酔い始めている。


 「はぁはぁっ! お札の材料を防水紙にしておいて良かった」


 「蛸料理どんくらいできるのだ? 我が斬り捨てたモノだけで数は二十は超えるぞ」


 「タワラさん! ストゥムさん! 無事だったんですね」

 酒の水中で攻めてきた巨大蛸を、タワラは札で、ストゥムは小刀で対処していたのだ。

 蛸の死体が、酒の水面に大量に浮いている。


 「とりあえず、少しだけ休ませてくれないか・・・・・・?」


 (近くに死体があんのに、ノーリアクションだな・・・・・・よっぽど見慣れてんのか? タワラさん達)

 

 尻もちついているタワラに、柵の下を見下ろしているストゥムが、残念そうに呟いた。

 「どうもそういかないみたいだ。奴の酒の水位が前とは段違いに増している。すぐにここも水没するだろう・・・・・」

 

 「どうすれば・・・・・・」

 絶望しているヤマネの頭頂部にそよ風が吹いてくる。

 見上げるとどうも天井とそこから生えている大木の隙間から気流が発生しているようだ。

 (ん? 地下にいる時は自然の風なんか感じなかった・・・・・・まさかっ!?)


 「ストゥムさん! さっき出してた爆発羊の羊毛は、まだ残っていますか?」


 「ヒック! 鉄火グレネードシープの魔道具のことか? まだ一つ壺内にあるが」


 天井に根を張る大木に指を差すヤマネ。

 「こっから、風がわずかに吹いていました。

 もしかしたら地上まで繋がっているかも・・・・・・?」

 

 「成程・・・・・・ヒック! 試してみる価値は、あるな」


 「正気か!? 地下の天井を爆破するなどと・・・・・・。

 もしも無事そこを破壊することが成功しても、地上に繋がらず厚い地盤しかなかったら、どうする!!

 最悪、大量の瓦礫や土砂に飲み込まれるか、爆破に巻き込まれて死ぬかもしれないのだぞ!!」


 「タワラさん、どうも言い争ったり迷ったりしている暇は、無いみたいっすよ」

 視線でタワラに伝えるヤマネ。彼女の見下ろしている先には、酒に浸かりだした足だ。

 もう水かさは、彼女達近くまで達していた。ここもそう経たずに水没するだろう。

 

 少しの間悩むタワラ。そして答えを出した。

 「わかった。賭けよう」


 「合図をしたら、この場から急いで下がれ」

 彼女の承諾を得たストゥムは、早速鉄火グレネードシープの羊毛を取り出し、強く擦り始める。次に頭上に放り投げた。

 「今だ!!」


 彼が叫んでこの場から離れた瞬間に、タワラ達も柵を飛び越えて足場から降りる。


 眩い閃光と激しい轟音と迸る衝撃がダンジョン内に炸裂した。

 天井が崩落する。

 


 ※その頃、タロッターチェア神殿奥では。


 冒険者ギルドタロッタービルァ町支部の受付嬢であるハインリッヒが、月夜に照らされながら台座に置かれている丸い縁取りの立て鏡を眺めていた。

 「ふ~むいつ見ても綺麗な鏡ですね。本当にこれはh・・・・・・ん? 何の音」


 何か地響きと建物の崩落音をハインリッヒが微かに感じたかと思えば、すぐに・・・・・・。

 彼女の前方の床が広範囲に崩壊したかと思えば、そこから・・・・・・。



 「外だぁああああああぁああああああああああああああああっ!!」

 ヤマネ・タワラ・ストゥムが溢れ出る酒と共に、間欠泉みたいに噴出された。

 巻き添えを受けた立て鏡と台座は、高く跳ね上げられ、そしてその後落下して地面に叩きつけられたのだ。

 酒に濡れた鏡と石灰岩の破片が、床に散らばる。

 

 「え? ちょっと、何です何です!?」

 いつも周りからクールビューティーの印象を抱かれたハインリッヒだが、先程まで別れたはずの冒険者達がいきなり現れたことで、今回ばかりは彼女は驚きを隠せないでいた。


 床に転がるよう着地するヤマネ達。


 「いやぁあ助かったっ!!」


 「ヤマネ殿の見立て通りでしたな・・・・・・っ!」


 「全く・・・・・・もう二度とこんな無謀な真似は、巻き込まれたくは無い。

 ん? ハインリッヒ、どうしたんだ?」


 腰を抜かして座っているハインリッヒは、タワラの言葉で正気に戻り、深呼吸をした後、怒りに任せて叫んだ。

 「どうしたんだは、こちらのセリフですよ!? 何なんですか、貴方達!! 目前にいきなり飛び出してきたら、誰だって放心状態にな・・・・・・あれ?」

 彼女の顔は、みるみる青ざめる。

 (あれ? あれ!? 何かパンツが濡れている感触が・・・・・・。

 まさかこの歳でおもらし!? いくら驚愕したとはいえ、もう私は1200歳ですよ!?

 ・・・・・・彼らは、気づいてない? 頼みます、気づかないでください!! もうおもらしがばれたら私、表立って歩けないじゃあないですかっ!!)


 「大丈夫か? なぜかいきなり黙り始めて・・・・・・。

 ああ、そうだ。ここのダンジョンが賊の手により酒で冠水したんだ。ここから離れた方が良い。

 この酒は、経皮で酩酊状態になる危険な魔術だ」


 「お酒・・・・・・?」

 見下ろすハインリッヒ。視線先には、ヤマネらが出てきた崩落箇所から噴出してくる液体があった。

 それを確認して、深いため息と共に胸をなでおろす彼女であった。

 「良かった~。てっきりこの歳でおもらししたかと勘違いしましたよ~」


 「おもらし? それより大変なんだ! ダンジョンに乱入してきた賊があまりにも強くて・・・・・・どうか増援を呼んできてくれないっすか?」


 「え? 何時の間に侵入して来たんでしょうか? で、その賊は、どちらに・・・・・・」


 「ここだぜぇえ~?」

 辺りに緊張が走る。

 野太い声の元を振り向くヤマネら。


 彼らの視線先・・・・・・前にヤマネが入って来たダンジョンに通じる穴から、ディオニュクレスが現れたのだ。


 「・・・・・・くそ。自身で生み出された酒に溺れていれば儲けものだったが、そうもいかんか。

 ハインリッヒ・・・・・・今すぐ逃げて増援を呼べ。もちろん近隣住民の避難も忘れずにな。

 わらわ達は、奴の足止めをしておく」


 「さ~て」

 舌なめずりをするディオニュクレス。

 「オレェの顔を見た奴は、全員ぶっ殺してやるぜぇ~」


 奴の左腕には、未だに緑の札が貼り付けられてたままであった。

 ※ちなみに、ハインリッヒ達を狙って花粉をばらまいたのも、ディオニュクレスの部下である若者の仕業です。

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