ビール派? 清酒派?
※ジャマダハル・・・ダガーみたいなインドで使用された剣。
※鞴・・・燃焼を促進させるための道具で、構造は蛇腹である。
『『NWのデビルフィッシュ』の郎党を討伐した証拠を採るのを忘れてたぁあ! ヤマネの腕輪で奴らの死体を撮っておけば確実に報酬がもらえたのにぃいいいいっ!!』
「んあぁ?」
路上で寝ころんでいたディオニュクレスが、何者かに腹を踏みつけられたり、二回も脇を蹴られたりしたせいで完全に目が覚めてしまった。
起き上がり、周囲を確認した奴は、ここから去るヤマネ達の背中姿を眺めながら彼女らの会話を盗み聞きした。
ヤマネ『タワラさん達は、タロッターチェア神殿に行ったことあるっすか?』
ディオニュクレスの脳裏に、タワラが先程漏らした『NWのデビルフィッシュ』や『討伐』の単語がこびりついてしまっている。
なぜ眠っている時に発されたタワラの言葉を奴が覚えてるかというと、まあ睡眠学習だからだ。
(オレェの部下がやられたのか・・・・・・? いや夢だ夢。二日酔いになったせいで悪夢見たんだ。
迎え酒でもすっか)
「ボス! こちらにいらっしゃったんすね!!」
酒屋に向かうディオニュクレスに、一人の若者が偽の身分証を携えながらこちらに駆け寄って来た。
そう、奴はヤマネらと林道で戦闘した『NWのデビルフィッシュ』の残党のうちの一人である。
「あぁ? いきなり叫ぶな。頭に響く。何だ?」
「他のみんながやられました!! 残っているのは、僅か・・・・・・ちくしょう! あの冒険者共め! 絶対許さねぇ!!」
「・・・・・・はぁっ!? みんなって・・・・・・オレェの部下の事か!!」
怒鳴ったディオニュクレスに畏縮する若者は、軽く首肯した。
「どうしましょう? ボス・・・・・・」
「ついて来い」
ヤマネらが通った道にディオニュクレスが再び顔を向けるも、そこに彼女らの姿は無かった。
「オレェは、部下共を殺った下手人らに覚えがある。どうやら奴らは、封鎖されてる神殿・・・・・・ダンジョンに向かうかもしれねぇ。機を伺って暗殺してやるから、手伝えや!!」
そして奴は、ヤマネらを尾行しているヒキョウに気付き、彼女にばれないようついていった。
ヒキョウが例の立ち入り禁止区域に進入する際は、番をしている騎士やハインリッヒに自分の『梟』の紋章を見せつけ、事情を話して堂々と入ったが・・・・・・。
「実は、貴方が先程話してた茶髪の冒険者は、危険人物リストの一人です。彼女らを尾行したいのでここを通して下さいませんか・・・・・・?」
「あの活発そうな彼女が!? わかりました。騎士の命には、逆らいません。どうぞ。
それにしても、まさか好印象なあの人が・・・・・・興味深い。いろいろ聞きたいです」
「・・・・・・頼みますから、興味本位に危険人物を詮索することは、お止め下さ・・・・・・クッシュン。花粉・・・・・・? クシュンクシュンクシュン!」
ディオニュクレス達の場合は、部下が繰り出した魔術でヒキョウとハインリッヒ達を怯ませ、その隙をついて侵入したのだ。
そして少し時間が経った後、今に至る。
場面は、例のダンジョンのフロアB3に戻る。
「へっへっへ~」
下品に笑いを零しながらディオニュクレスが、大股で横たわるヒキョウを跨ぐ。
ヤマネらと奴との距離は、地球の単位で20メートル程離れている。
「くっ!」
自分のポーチから朱い文字が書かれた札を一枚取り出し、ディオニュクレスの横脇めがけて瞬時に飛ばした。
しかし、彼は難なく体を捻じって避ける。回避された札は、最終的に仰向けのヒキョウの額に張り付いた。
「ちっ! この速度を避けるか!!」
「タワラ達! 下がるのだ我がやるっ!」
ストゥムが己の傍に浮かしてある壺からバクパイプの魔道具を取り出し、吹き口におもいっきり息を吹きかける。それの噴き出し口である管からディオニュクレスの方めがけて暴風が吹き荒れた。
それは、人を吹き飛ばすどころか民家をたやすく崩壊させる程の破壊力を有している。
十秒も経たないうちにその大気の津波とディオニュクレスとの距離は、眼と鼻の先まで縮んでしまった。
「ウィ~・・・・・・『本醸 酒刃』」
手の平を前方に突き出した彼は、その先からバケツ一杯分の透明な液体を生み出して高速に発射し、ストゥムが起こした暴風と衝突させ相殺・・・・・・させるどころか呆気なく貫通させる。
「こんなもの!」
「ゲホッゲホッ危ないっす!」
こちらに迫り来る奴の攻撃に対し、壺から甲羅の盾を取り出して防御の構えるストゥムだったが、妙な悪寒を感じたヤマネは、とっさに横に跳んで彼を全力で横に突き飛ばした。
弧状に飛来する液体は、刀の如く切れ味を持っていて鋼鉄以上の硬度を持つ分厚い甲羅の盾をあっさり切断・・・・・・するだけでは、飽き足らず射線上に位置する大理石の壁に深くきれいな疵を残した。
もしも、ヤマネがストゥムを庇わなかったら、彼は体が真っ二つになってたであろう。
「た・・・・・・助かったヤマネ殿」
「珍しく勘が当たったぁあっ! ゲホッゲホッ・・・・・・痛っ!」
ストゥムを突き飛ばした際、ディオニュクレスの魔術にヤマネの肩が掠り、軽く裂傷ができてしまった。
(・・・・・・オレェの攻撃喰らって顔が紅潮する兆候がねぇなぁあの娘)
「よそ見は、感心せんな」
彼女をまゆをひそめながら観察する奴の死角を狙うよう、タワラが金色の炎を浴びせようとする。
「不意討ちすんなら喋んなアホ『本醸 酒弾』」
ディオニュクレスは、液体の砲丸を複数空中に生成して迎え撃つ。
彼女から噴出された炎は、奴の液体に触れるなり、一旦激しく燃え盛るがすぐにその液体と共に消滅する。
普通の水なら、炎の火力を上げるどころか、すぐさま下げるはずなのに。
残った液体の砲丸が二弾程タワラに命中し、彼女を怯ませた。
「体が熱い・・・・・・今まで繰り出した魔術の正体が毒や油である線も捨てきれないが、この水はやはり術名通り酒の可能性が高いな」
顔を赤くしているタワラに呆れるディオニュクレス。
「『梟』の奴が酩酊している時点で気づけバカ『本醸 噴酒』」
鋭い魚の鱗を壺から十数枚ほど取り出し、手裏剣みたいに投げようとするストゥムを盗み見しながら次の魔術を発動するディオニュクレス。
ストゥムを囲うよう床や側の壁に複数の魔方陣が瞬時に表れたかと思えば、そこから全て酒が、勢いよく噴出された。まさしく激流。
多方面からの攻撃に対応できなかったストゥムは、押し流されてしまい、びしょ濡れになって摘まんでいた手裏剣と共に床に転がる。
酒の水たまりから、甘い香りが漂う。
奴の放つ酒は、自然のそれより早く気化する特徴を有していた。
ヤマネの方は、鞭を革鎧に仕舞い、剣を握っていない方の手で重い甲羅の盾の片割れを拾い、それを抱えながら敵めがけて蛇行移動で駆け抜ける。
武器強化魔術の詠唱も始めていた。
液体の魔術を連撃で繰り出し、タワラを追い詰めるディオニュクレスは、もちろん片手間で酒の刃をこちらに迫り来るヤマネ目掛けて連射する。
乱れ飛ぶ酒に、跳び越したり屈んだり横跳びして避けたヤマネは、十数秒程でディオニュクレスの元までたどり着く。
(タワラさんを相手にしながら奴は、あたしにも攻撃を仕掛けているから、こっち目掛けて飛ばされる斬撃はさっき繰り出したものより少し遅い・・・・・・これなら何とか避けれる!)
「熱の如く 我が魔力よ 術者の得物の内部まで 伝達せよ 万遍無く 硬度を 性能を底上げせy・・・・・・ゴホゴホッ」
重たい甲羅の盾を頭上まで掲げたタイミングで、ヤマネがむせた事で詠唱が失敗してしまった。
「あああんの糞骸骨共がぁああぁああああああああああああああああああああっ!!」
そのまま自棄気味に敵の頭めがけて一気にヤマネは、その盾を振り下ろそうとする。
しかしディオニュクレスは、ただ「甘ェ」と呟き右拳を握りしめてアッパーを繰り出した。
殴られた甲羅の盾は、ビスケットみたいに呆気なく砕け散る。
「え・・・・・・」
拳で重量の防具を破られたヤマネは、あまりの事に唖然としてしまった。
ヤマネの隙を見逃さなかったディオニュクレスは、自分にはめてあるウコンの木製ネックレスを掴み、首から外してそれを彼女めがけて容赦なく叩きつけようとする。
「させるかっ!!」
顔が真っ赤になってるタワラが、蔓の縄を魔術で生成しては、仁王立ちしているヤマネの腹に巻き付け、ディオニュクレスの攻撃を当てさせないようこちらに手繰り寄せた。
「しっかりしろヤマネ!」
タワラの呼びかけにより、尻もちをついているヤマネは正気に戻る。
「すいませんタワラさん! 助かったっす。よしまだ固まってないな」
蔓の縄を解き、自分の肩から流れる少量の血を指で掬ってそれをインク代わりに、はめている革手袋に簡易的な魔方陣をヤマネは描いた。
その魔方陣は、描かれた対象者の身体を強化させる効果を有している。
ディオニュクレスは、ヤマネめがけて猛スピードで迫り、拳を構える。
しかし酩酊しているストゥムが氷竜の肺で造り出した鞴を壺から取り出し、弁を開閉してディオニュクレスに向かって氷点下の気流を噴出させる。
その気流に触れた床は霜が降り、冷気が空中に漂い、浴びてしまった奴の全身は、すぐに凍り付いた。
それでヤマネらの攻撃は止まることなく、ヤマネは黒曜石のナイフを奴の首筋目掛けて投げ、タワラは札とお灸を飛ばし、ストゥムは骨の蛇腹剣で斬りかかる。
凍らされて動けないと思われたディオニュクレスだったが、奴は力技で強引に自分に纏う氷を崩し、次に自分の片掌から白い固形物を生成しては手甲みたいに纏わせ、そのままこちらに飛来してくる札とお灸とナイフを拳で叩き落とし、伸びてくる蛇腹剣に裏拳を入れて砕かせる。
奴の様子を見てタワラが言葉を漏らす。
「もしや・・・・・・酒粕か?」
(え? 酒粕って甘酒とかの材料になるあれ?)
「ご名答だぁ。俺の場合、極東出身者相手だと魔術のネタが筒抜けになっちまうな~」
ディオニュクレスは、自身の拳に付着してる酒粕を掲げながら言葉を続ける。
「オレェの造る酒粕は、鋼鉄よりも固いぜぇ」
(くそっ! 近接遠隔どちらも隙が無い・・・・・・厄介だな)
「さて・・・・・・お遊びは、ここらでお開きとしよう。
こっから二次会だぞてめぇらっ!! ぞんぶんにたらふくお酒を浴びるよう呑めやっ!!
今日はオレェのおごりだっ! 『特別本醸 酒雨』」
そうディオニュクレスが興奮気味に術名を叫んだ後、ここ広間の天井一面に魔方陣が生み出されたかと思えば、そこから酒の豪雨が降った。
「おまけに言っとくが、オレェの魔術の酒は特殊でよォ。口内に摂取しなくても肌に直接触れるだけで酔っちまう! 経皮って奴だな」
「くっ・・・・・・やばいぞ!」
アルコールを皮膚で摂取してさらに泥酔したタワラを狙うようディオニュクレスが迫り来る。
しかしヤマネがさせまいと、奴を追いかける。
ディオニュクレスの間合いに、タワラが入ってしまった。
奴の拳に生えてある酒粕の体積が増えて尖りだし、遂にはジャマダハルみたいに変貌した。
「串刺しにしたらぁあああっ!!」
切れ味を有する酒粕の正拳付きで、動きが鈍っているタワラを仕留めようとするディオニュクレスに、跳び蹴りをかまそうとするヤマネであったが。
「だから甘ェんだよ」
ヤマネの方に勢いよく振り返ったディオニュクレスが、掴んでいるウコンのネックレスで叩きつけようとする。
その攻撃に対し、空中にいるヤマネはとっさに胴体を捻って回避し、転ぶよう着地する。
「やっぱり狙いは、あたしか。そのウコン・・・・・・魔道具だろ」
「たっく、下戸より上戸の敵の方が嫌いだな。まさかオレェの酒をたらふく浴びてもシラフみたいにピンピンしやがって」
(・・・・・・まさかあたしが酒に強かったなんて知らなかった・・・・・・。
酒豪の母に感謝しなくちゃな・・・・・・)
そう、ヤマネの高いアルコール耐性は、ボア譲りである。
ディオニュクレスは、『噴酒』や『酒刃』を発動させながらウコンのネックレスを振り回す。
それに対し、ヤマネは床や壁から発射される酒の間欠泉に流されぬよう後方に跳び、液体の斬撃を横転して回避。奴の打撃に当たらぬよう強靭な肉体に任せて間合いを取る。
(くっそ、このままじゃジリ貧だ)
「離れろヤマネ殿!」
ストゥムが叫び、持っているバクパイプに口を付けておもいっきり吹く。
噴出口の管からまたも暴風が噴き荒れる。
「えっ・・・・・・ちょちょちょっとっストゥムさん!?」
今度こそ、その魔道具の攻撃が人に命中した。
・・・・・・まあ、ヤマネに。
絶大な風速と威力を持つ風に投げられたヤマネは、入り口近くの壁に叩きつけられ、そして床に墜落した。もしも彼女が身体強化の魔術を発動させてなかったら、ペチャンコのミンチになってたであろう。
「ヒック! 済まないヤマネ殿! わざとじゃないんだ。ヒック!」
そう、ストゥムはちゃんとディオニュクレスに標準を合わせたつもりだったが、酔っているせいで手元が狂い、結果的にヤマネに誤射してしまったのだ!
「ストゥム! 何をやっているこの酔っぱらいがっ! 大丈夫かヤマネ?」
タワラが、心配して急いで駆け寄り、優しく話しかける・・・・・・いつの間にか広間に侵入して来た一体のスケルトンに向かって。
「酔っぱらいは、あんただろタワラさんっ!! あたしをスケルトンと間違えてんじゃねぇよっ!!」
鼻血を流しているヤマネが勢いよく立ち上がり、持っていた骨付き剣でスケルトンをとりあえず切り裂いて無力化する。もちろんスケルトンの方は倒れた際、砂状になるが今度こそヤマネらはそれを吸わなかった。
ヤマネがタワラを引きずって距離を取ったからだ。
「ひゃははっ。ぐっだぐだじゃねぇかテメェラァ!」
隙だらけのヤマネらを狙って急接近したディオニュクレスが、ウコンのネックレスを振り落とす。
(や・・・・・・やべ)
しかしその攻撃がヤマネに当たることは、無かった。
「タ・・・・・・タワラさん?」
彼女をタワラが身を挺して庇ったからだ。
しかし自信満々のディオニュクレスの攻撃をもろに受けたはずなのに、タワラには、怪我どころか一片のダメージも生じてない。
「魔術特化の相手に接近するとは、とんだ虚けだな!」
タワラがディオニュクレスの顔面目掛けて金色の炎を至近距離から浴びせた。
輝く炎に包まれる奴だが・・・・・・。
「酒を操れる奴が、水を操れないわけないよなっ!! ましてやオレェは、盗賊頭領!」
大体積の水を、自分の頭上に生成し、滝のように流すディオニュクレス。
奴の体に纏わりつく金色の炎が短時間で鎮火する。
上半身が軽く焦げ、服は焼き切れているが、奴は致命傷を負ってはいない上、ネックレスの方も無事。
黒煙が辺りに充満した。
「さてこれで終わりか?」
髪の毛がパンチパーマみたいになっているディオニュクレスが、余裕の表情で話しかける。
対して追い詰められているはずのタワラの方も、頬を緩ませた。
「・・・・・・貴様が立っている場所に見覚えは、あるか?」
「ああん? 確かテメェらやオレェが通って来た広間の入り口辺りだろ?」
「少し不正解。私らと貴様と迷い込んできた骸骨・・・・・・あと他にもいるだろ」
(何を言ってる? はったりか。あいつが使う武器の内、確か札が・・・・・・)
「まさかっ!!」
「酩酊してるせいか、記憶がおぼろげだな下戸下衆。悪いな騎士様! 後で供養してやるから体を貸せっ!!」
ディオニュクレスが背後から何者かに羽交い絞めされてしまった。
先程まで床に寝ころんだ死体・・・・・・ヒキョウにだ。
そう、タワラはディオニュクレスと出会った後のタイミングで、人の屍をキョンシーへと変質させる効果を持つ札をヒキョー目掛けて飛ばしていたのだ。
今、ヒキョーは、札の持ち主であるタワラに操られている。
(く・・・・・・何だこのパワー!? 全然解けねぇっ!!)
力任せに暴れるディオニュクレスだが、キョンシーになったヒキョーの怪力に成す術も無く拘束され続ける。
(くそっ! とりあえず聖なる酒で極東アンデットを浄化させるか・・・・・・何だこのボソボソ音は?)
『我ストゥム ムーンレイが畏くも申し上げる 我の前に賊が立ちはだかっている
畏れ多くも 神々や 精霊方に 力を拝借できないであろうか
我が崇める正義の門番よ どうか我が用意した像に 一時魂を宿ってはくれぬか』
掠れ声を耳にしたディオニュクレスは、声の元を向く。
奴の視線先には、呪文を唱えるストゥムがいた。
そして彼の傍には、壺から取り出したのか、あらゆる魔物の多種多様な骨を立体パズルみたいに綺麗に組み混ませた人面獅子の模型が立っていた。
その高さはストゥムの背の二倍程もある。
「な・・・・・・何だこれは!?」
「貴様が知る必要は無い」
「何、何ナニ!? タワラさん!! 何なのこれ?」
タワラがヤマネを強引に引っ張ってその場から急いで離れる。
「ストゥムは、本気だ。巻き添えを受けるぞ」
「放て『スフィンクスブレス』」
模型である人面獅子がディオニュクレスに標準を合わせた後、そいつの口から淡く輝く魔力の塊を高速で放たれた。まさしくレーザー。
降り注がれたその攻撃の威力はすさまじく、ここのダンジョン全体が衝撃で揺れ、レーザーが着弾した箇所に深いクレーターと焦げ目ができており、ここの広間の天井が少しだけ崩落した。
白い煙がその場に拡散される。
「・・・・・・偽門番が繰り出した暴風に匹敵すんじゃねえか、さっきのそれ?」
と、ストゥムの術を眺めて驚くヤマネ。
白煙から・・・・・・。
「舐めてんじゃねぇぞカタギ共がぁああああああああああああああッ!!」
怒りに任せて叫ぶディオニュクレスの声が聞こえてきた。
驚くタワラ。
「な・・・・・・あれをもろに受けてまだ生きてるのか・・・・・・ヤマネ!?」
ディオニュクレスの声を耳にした途端、ヤマネが躊躇いも無く白煙の中に向かって全速力で駆けて入る。
次に彼女は、視界が悪い中、呪文を詠唱した。
喉が時間経過によって回復したのか、詠唱を成功させることができたのだ。
そう、
『弾けろ 爆ぜろ 火薬ではない奔流している魔力で
我自身に再現せよ 威力は絶大』
自爆魔術を彼女は、発動させる。
再びダンジョン全域に揺れが生じる。
爆発の衝撃をディオニュクレスは、至近距離から浴びてしまった。
火気が無い爆風によって白煙が晴れる。クレーターがさらに深くなった。
晴れたことによって奴とヤマネの全貌が見下ろせた。
そこにいたのは、体力と魔力を失ってもなお刃が欠けた剣で敵の首を斬りつけようとするボロボロのヤマネと酒粕を全身に纏って身をよじって抵抗しているディオニュクレス。
彼女らの足元には、バラバラに千切れたヒキョーの無残な死体がクレーターの底に転がっている。
「た・・・・・・タワラ・・・・・・さ、ん」
掠れた声で呟くヤマネ。
「すんません。どうか林にいた時貼ってくれた回復の札をまたあたしに付けてください・・・・・・貴重品だと、わかってる。何時か・・・・・・弁償するから。そして絶対奴を倒すからっ!!
どうか・・・・・・お願いっ!!」
「わ、わかった!!」
満身創痍のヤマネを見て動揺しているタワラが、焦って自分のポーチをまさぐる。
彼女がお目当ての札を取り出したタイミングで。
「もう手加減無しだクソッたれ共めぇええええええええええええええっ!!
『大吟醸 酒海』」
「・・・・・・え。
何だこの水量はっ!! ヤマネ、ストゥムっ!! 逃げろっ!!」
ディオニュクレスが術名を唱えることに成功した瞬間、奴の足元から大海を想起させるほどの膨大な酒が溢れかえり、瞬く間に広間を冠水させた。
※ディオニュクレスが扱う魔術の酒のアルコール度数は、90パーセントを超えています。




