転生トラック巨大ロボ トラッキオン
※1話から17年前までに遡ります。
最近改稿した時期は、2025年5月です。
「死にたくねぇっ・・・・・・!」
一人の男が、高層ビルが密集している都市内のとある歩道にて、息を切らしながら全速力で駆け抜けていた。
彼の名は浅間。高校生だ。
現在浅間は、暴走している中型トラックになぜか追われている。
別に彼は、トラックの運ちゃんに恨まれたから襲われているわけではない・・・・・・それどころか、そのトラックの運転席や助手席には誰も乗っていなかったのだ。なのに不思議とひとりでに走っているのだ。
本来自動車は、歩道に進入してはいけないのだが、そのトラックはお構いなし。
人の移動速度は、自動車に勝てるわけがないのだが、なぜ浅間が無事かというと、トラックが彼を轢こうとする寸前に、彼は真横に跳んで避け、トラックの向きが変更している隙を見て距離を取っているからだ。
しかしそれもずっと続かない・・・・・・彼の体力は限界を迎えていた。
浅間が屋内に入って避難しようと何度も試してみたものの、なぜか自動・手動関わらずどんなに閉まっているドアや窓に力を加えようとしてもびくともしなかった。
「何だ何だ俺が一体何したってんだよ!? ・・・・・・ハァッハァッ普通に家に帰ろうとしてただけなのに。警察警察・・・・・・誰か助けを・・・・・・ん?」
左右を見渡しながら駆けている浅間は、人がぎりぎり通れるくらいの路地裏を発見した。
もちろん即、逃げ込む。
トラックの方は馬鹿の一つ覚えみたいに、浅間を追うのだが、車体の幅がその路地裏より広いので入り込めないのだ。
その様子を見た浅間は、胸をなでおろす。気が休まった彼は徐々に怒りが込み上げてきた。
なぜこんな理不尽な目に遭わなければならないのかと・・・・・・。
「へいへいざまぁ見やがれこのイノシシイカレ野郎が! 悔しかったらここまでおいで。この体当たりだけが取り柄のガラクタ!
お尻ペンペ・・・・・・」
浅間が怒りと安心感により機械相手に煽っている時に、そのトラックは、一旦少し後進し、その後左折し、次に荷台であるコンテナ部分を展開させた。
その中から現れたのは・・・・・・。
「ここ日本だよ・・・・・・?」
巨躯なガトリング砲だ。すぐにそれの複数の銃身が回転し始める。
そう、標的に体当たりできないと判断したトラックは、搭載してある銃火器で辺り一帯を一掃する気なのだ。
「ふざけんじゃねぇえぇええええええええぇええええっ!!
銃刀法くらい守れやこの野郎ぉおおおおおおぉおおおおおおおっ!!」
急いで路地裏の奥まで逃げる浅間の背後から、確かに発砲音が連続で届いた。
足を止めたら確実にハチの巣になる・・・・・・そう察した彼は、一目散に路地裏を進む。
息を切らしている浅間には、違和感があった・・・・・・トラックに追われる前から自分以外の人間が一向に見当たらない。
そのことについて彼は、心の奥底で不幸中の幸いだと呟いた。もし、他の人が自分を追っている暴走トラックに巻き込まれでもしたら、罪悪感とショックで自分の足が竦んで動かなくなっていただろうと。
路地裏を通り抜けた後、左を向いた浅間は、絶句した。
ガトリング砲を搭載している方とは、別の無人中型トラックが、遠方から猛スピードでこちらに迫っていることに、彼は勘付く。
迷わず右を選ぶ・・・・・・彼の足は疲労によって震えていた。
(この先はたしか・・・・・・○○公園があったはず・・・・・・あそこさえ、たどり着ければ・・・・・・っ!)
一分も経たないうちに、浅間の視界左に芝生地帯と散歩道を捉えた。目的地だ・・・・・・彼は公園の正門を潜った。
広い公園を駆けずり回り、脇腹を抱えている浅間の顔に、軽い笑みが生まれた。
公園中央にある湖を発見。
しかしその緩んだ頬も元に戻る・・・・・・彼の背後から自動車の排気ガスと駆動音が重なるよう聞こえたからだ。
足を動かしながら後ろを向いた浅間の顔に、血の気が引く。
なぜなら四台の中型トラックと一台の大型トラックが近くまで来てるからだ。
その中には、先程まで浅間を追い回したガトリング砲搭載のトラックも見当たる。
(諦めるな・・・・・・! 水の中さえ入れば・・・・・・っ!)
湖を囲う木柵を飛び越えた浅間は、芝生の坂を転がるよう降りて、水面にダイブした。
彼の鼻に、水藻の臭いが入り込む。服やズボンが水を吸収し、重くなる。
「やったぁあああっ! 後は最奥部にある小島まで泳ごう。そこまでいけばもう安全だっ!」
浅間のいる湖の端ら辺は浅瀬なので、彼はトラックらの様子を一旦伺う。
五台の暴走トラックの方はというと、進行するのを止め、停車している。
どうも水中まで無理して進む気はないようだ。
「水陸両用じゃなくて助かった・・・・・・はっ? 何の冗談だ?」
開いた口が塞がらなくなった浅間。
なぜなら彼が目にしたものは、少しの間動きを見せなかったトラックらが、いきなり空に向かって重力を無視して飛翔し、それぞれが形態変化し、合体したからだ。
中型トラックの方が、それぞれ手足となり、大型の方は、胴体と顔に変形した。
なんか、ロボットになったトラックらの車内ラジオから、合成音の歌がけたたましく鳴り始めてきた。
♪ぶぉんぶぉん うぉん ワ~レ~は ヒ~ト~を問答ォ~無用でェ~転生させ~る転生トラックロボ
トラッキオン! (キラッ☆) 女神さ~ま~に 恥をっかかせた無礼者を あの世にお~く~る~
ギアチェンジ! トランスミッション! さぁ進め!
ア~ア~ 女神さ~ま~ ご期待ください ただ今 浅間を ブッコロス~
(間奏が一分ほど続く)
ぶぉんぶぉん うぉん ワ~レ~は ヒ~ト~を情けェ~容赦なしイ~に異界に送~る転生トラックロボ
トラッキオン! (ビシッ❕) 女神さ~ま~の 憎むっべき怨敵を 轢~き逃げ~る
クラッチ! シフトチェンジ! さあ跪け!
ア~ア~ 女神さ~ま~ ご要望通り ただ今 穢れた魂を 届ケマス~
転生トラック巨大ロボ トラッキオン!! (キラッ☆)♪
「いかれてやがる・・・・・・」
ラジオの歌を一通り聞いた浅間は、戦々恐々していた。
もはや体が言うことを聞かない。
例の歌の通り、あのロボットはこちらを殺害する気満々である。
(どうすれば・・・・・・警察でも空を飛ぶ巨大ロボに対抗できんのか!?
というか、助けに来てくれるのか? ここに!!)
長考して立ち竦んでいる浅間・・・・・・彼に。
「どうしたんだ君っ! 早くこちらまでおいで!」
一人の男が、声を掛けた。
声の方を振り向いた先には、貸出ボートに乗っている大人がいた。
浅間は、藁をもすがる思いで彼の方へと泳ぐ。
たどり着いた浅間は、ボート上に乗るために何とか這い上がろうとする。そしてそれを手助けする男。
「ゲホッ! 助かった・・・・・・」
「大丈夫ですか君・・・・・・あの巨大ロボットに狙われているのでしょうか?」
無事に乗船した浅間に、男が尋ねる。
彼の言葉に、浅間は後悔し始めた。もしかしたら、俺を助けたことで、恩人である彼も危険な目に遭うのではないか・・・・・・と。
「ごめんやっぱり降りるわっ! 確かにあのロボットは俺を狙っている。俺から離れないとあんたも巻き添えを喰らうかもしれない!」
「ま、まあ落ち着いて下さい・・・・・・あのロボットはホバリングしています。どうもこちらを襲ってくる気は、今は無いようですよ」
「あのロボは、俺の命を執拗に狙ってきたトラックらが変形したものだ! 油断はできない・・・・・・やっぱり俺降りるよ・・・・・・」
「大丈夫ですよ。あのトラッキオンは、もう君を襲う必要は無くなりましたよ」
「は? なんであんたがそんなことわか・・・・・・」
怪訝そうにしている浅間に、前触れもなく激痛が走る。
なぜなら、ボートの男が、浅間の腹部にナイフを容赦なく突き立てたのだから。
「は・・・・・・え・・・・・・?」
「なぜならあなたは、ここで死ぬからですよ」
何が何やらわからず、意識が混濁する浅間から大量に血が零れる。
(熱い・・・・・・痛い・・・・・・苦しい・・・・・・俺・・・・・・死ぬのか?
まだ親孝行らしいこともしてねぇ・・・・・・やりたいことも食べたい物もたくさんあった・・・・・・自分の書いたウェブ小説が、書籍化になるという夢も果たせずに・・・・・・ああ。何やら痛みが治まってきた・・・・・・もう眠い・・・・・・っ)
ボートの席を赤く染めた浅間は、力が抜けるよううつ伏せに倒れた。そして彼は、息を引き取ったのだ。
浅間を殺害した男は、恍惚そうに天に向かって呟いた。
「怨敵を討つ事ができました。
どうか、彼の魂に苦難をお与えください・・・・・・タロット様」
ご覧下さりありがとうございます。