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カラシリス派? チャイナドレス派?

 ※ヤマネは、現在手袋をはめております。

 『さあ、目覚めるのです。・・・・・・人の子らよ』

 東西南北上下見渡しても純白の地平線と虚空の景色しか見えない異様な空間にて、ヤマネが仰向けで眠っていた。

 

 「う~ん・・・・・・?」

 まぶたをこすりながら目を覚まし、起き上がるヤマネ。

 「え・・・・・・? 何ここ・・・・・・」


 『ここは、いわば夢の中・・・・・・ワタクシの神託を授けるために貴方に夢を見せているのです』

 彼女の前方上空から厳かな声が響く。見知らぬ者の声の方を仰いだヤマネは、息を呑んだ。


 「ま・・・・・・眩しいっ!!」


 そう、上空に浮かぶ『何者』かの姿は、影しか捉えられない。奴から強めの後光が射しているからだ。


 薄っすらと男性の人型の影を怯みながらも見上げているヤマネは、尋ねる。

 「神託・・・・・・?」


 『そう、貴方に害を及ぼす占いの女神・・・・・・タロットの弱点をお教えしましょう』


 憎き名前を耳にしたヤマネは、思わず身構える。

 「タロット野郎の・・・・・・弱点!? 教えてくれんのか!?」


 ええ。と肯定する『何者』かに、彼女は長考し、怪訝な顔をする。

 「・・・・・・待て。本当にお前は信用できるのか? 俺の味方のふりをしているあいつの回し者って線もある。もし本当にお前が味方だとして、何で今更このタイミングで俺とコンタクトをとった!?

 あの女郎から祟りをぶち込まれたのは、今から16年以上も前になる話なんだぞ!!

 それ以前にタロットと俺の関係性を知っているお前は、一体誰なんだ!?」


 ヤマネの叫びに、『何者』かは、少しの間黙ったのだがその後口を開ける。

 『連続で質問されては、困ります。一つずつ順に追って説明しましょう。

 ①ワタクシは、彼女タロットの味方なのか? →いえ、残念ながら信頼に足りる証拠は出せませんが、本当に彼女とは敵対関係を結んでいます。

 ②なぜ今このタイミングで貴方に話しかけたか? →実は貴方とコンタクトをとった理由は、貴方に感謝の意を述べたいと思ったからです。タロットの弱点を密告することなどついでですよ』


 「いや、ついでて、お前・・・・・・感謝? 俺、昔お前になんか有難ありがたがれることしたか?」


 『しています。ワタクシの信徒の暴走を止めてくれました。

 ありがとう・・・・・・!』


 『何者』かの言葉に、ヤマネはクルナートンの顔を思い出し、瞳を見開いた。

 「信徒・・・・・・お前もしかしてオt」


 『③ワタクシは、誰か? →その答えは、貴方が今察している通りです。

 さあ、全部答えました。今から彼女タロットの弱点を述べます。それは・・・・・・』

 そして『何者』かは、タロットの弱点を言った。


 それからすぐにヤマネは、夢から目を覚ましたのであった。

 藁ぶきのベットに、彼女は寝ていた。

 汗を大量にかいている彼女は起き上がり、天井めがけて怒鳴り散らす。

 

 「タロットの弱点が、あいつの裏垢を晒すこと・・・・・・? 

 この世界で出来る訳ねぇだろうがぁあああああああああああああああああああッ!!」


 彼女のツッコミに被さるよう、鶏の甲高い雄叫びが、中世ヨーロッパ風の町に響き渡る。


 起き上がったヤマネがまずすることは、着替えて二枚のタオルを握り、宿屋傍の井戸に向かうことだ。

 廊下に進んている時、すれ違う他の客達から彼女はきつく睨まれた。さっき喧しく叫んだからだ。


 痛い視線の集中砲火に縮こまっているヤマネは、井戸までたどり着き、桶に水を汲み、汲んだ水で浸した布で体を拭く。

 「お風呂のあった宿屋うちが・・・・・・もっというなら入浴文化が盛んな日本が恋しい・・・・・・井戸水冷たっ!!」

 入浴文化があまり浸透していない国で、なぜヤマネの実家にお風呂があるかというと、十二年前の幼少期の彼女が、『お風呂入りたい入りたいっ!!』と駄々をこね、それに応えるために彼女の両親とデモクリを筆頭に村のみんなが浴槽を造り、山水を引いたからだ。


 「今思うと、潔癖症のわがままメスガキだったんだな、あたし・・・・・・」

 自己嫌悪に苛まれながらヤマネは、乾いたタオルで自分の体の水気を除き、宿屋に戻る。


 宿屋一階に、質素なフードコーナーがあり、ヤマネはそこで軽めの朝食を摂る。

 朝食の内容は、ブレットと干し肉のシチュー。


 (安宿で食べられる飯なんてこんなものか・・・・・・)

 味気が薄い料理をほうけながら淡々と口に運ぶヤマネ。

 食事を終えた彼女は、一旦自分の部屋に戻り、迷彩柄のカバンを携え退室し、そして外出する。


 もちろん自分が借りた部屋から出るたびに、戸締りを怠らなかった。


 外の景色を見まわすヤマネ。

 石畳の道路や建物の壁に所々人間のものとも魔物のものとも分からない血痕がこびりついている。

 もちろん昨晩の魔物襲撃時にて零れたものだ。

 この国の騎士見習い達が、魔物共の死体を片付けている。


 ヤマネがチェックインした宿屋の隣に、仕立て屋がある。彼女はそこに入る。

 そこは、値段がリーズナブルでそれに反して販売品の一つ一つのどれもが質が良いとコヨーテが太鼓判を押している店だ。


 扉に取り付けられたベルの音を聞き流しながらヤマネは、店内を見渡す。

 様々な種類の服や帽子などを取り付けられたマネキンが、等間隔に陳列さえている。

 壁際にある棚には、畳まれた衣服や靴下や布が収納されている。


 「ふわ~・・・・・・広い店だな。服屋でわくわくすることなんて初めてだ」


  近くに置かれた販売品の麻服の値段札を見つけるヤマネ。値段は、銅貨15枚。

 「う~ん・・・・・・確かにかなり安いけど・・・・・・」

 腕を組み、顔をしかめる彼女。

 「昨日は、宿代と武器防具で地味に金が減った。後で黒いハーブとかも買わなきゃならねぇし~。

 あれ地味に高いんだよな~。安物の服やズボンの二つや三つは買えるっちゃ買えるけど、それやったら後々心元無くなっちゃうかもだし~。

 もしクルナートン討伐報酬で火竜擬き共から銀貨を取り上げられなかったら余裕で上等の服もためらわずたくさん買えたのに~」

 独り言を呟きながら、間延び顔をしてるコモドを思い出す。

 「やべぇ、無性にあいつの顔をぶん殴りたくなってきた・・・・・・」


 金が溜まるまで、コヨーテさんから頂いたポンチョで我慢するか。丁度スペアもあるし と考え、買うのを諦め出店しようとするヤマネの耳に、聞き覚えのある女性の声が届いた。


 「店主よ。型紙を持参した。これを参考に着物を二着程繕つくろうてくれぬか」


 タワラ ナスノ


 昨日冒険者ギルドにて、ヤマネと会った和風金髪美少女だ。

 今、彼女は朱いチャイナドレスを着用し、フェルト製の黒い靴を履き、両サイドの髪にアジアンシニヨンカバーを取り付けている。

 タワラは、店内右奥にて、カウンター越しにこの店の店主と会話している。

 

 注文を受けているその店主は、困惑していた。

 「いやねぇ、常連さん。いつもいつもあんたは、ワシが見たこともない東の民族衣装ばっかり頼むじゃないかね。わしはもう、造り慣れてない服を仕立てるのは、こりごりだ。

 現にさぁ、今あんたが着ているこの服も、わしが型紙とにらめっこして四苦八苦して造ったもの」


 「そこをなんとか・・・・・・!

 店主の腕を見込んで頼んでいる。報酬も弾むから。是非仕立ててくれないか?」


 薄い髪の毛を掻いている店主は、ため息をついてカウンターに置かれた型紙を広げて見つめる。

 「しょうがない。承ろうじゃないか。えりの形は丸。袖口は広く袖の端には紐を通せばいいのかね?

 下は裾を括っているハカマか。胸元には菊の形の装飾品を取り付け・・・・・・ハァ・・・・・・またこんな常軌を逸したものを・・・・・・素材は? なんで造る?」


 絹で。と答えるタワラに、店主は かしこまりましたよっと。 と答え、彼女が持参した型紙を自分の背後にある棚に畳んで収納した。


 「お~チャイナドレスなのか、それ!?」

 自分の注文が通ったことで頬が緩んでいるタワラに、ヤマネが目をキラキラさせて話しかける。


 「お主は、昨日の新入りか。チャイナ? このイーストドレスのことか! ふふふ美しいだろう。

 ワラワ、じゃなかった私が店主に無理言って依頼した自慢の一品だ」


 「このポンチョは・・・・・・あの梟騎士が頼んだものか。何時もそうだ。どいつもこいつもわしの知らない服ばっかり注文してくる。着物、カラシリス、軍服、サリー、他にも・・・・・・もう嫌だ。もういい加減この国になじみが深いコートやドレスやシルクハットとかを造らせてくれ!!」

 店主の方はというと、ヤマネ・・・・・・の服を見るなり、自身の頭を抱え、震えながら小声で言葉を垂れ流す。

 

 そんな彼を無視するようタワラが、尋ねる。

 「お主も、店主に服を依頼しようと・・・・・・?」


 「いや安物の販売品を買おうと思って。・・・・・・だけど今金欠で、服や下着を買うのにも迷ってて・・・・・・」


 「ならば、後で私が着なくなったイーストドレスをやろう。サイズが合わぬなら、店主に調整を頼めば良い」


 「え? 良いっすか? あざ~す!」

 視界端にいる店主に同情の念を送りながら、ヤマネはタワラに感謝した。


 とりあえずヤマネは、安物の下着一式を二つ程購入した後、タワラと共にこの仕立て屋から出店する。

 冒険者ギルドに向かっているのだ。


 「ところで、え~とタワラ・・・・・・さん? タワラさんって、ランクどれくらいなんすか?」


 「慣れ親しんでいない相手に、いきなり強さのランクを聞くのは、礼を少々欠いているぞ?

 まあ、威張れる程私は高くはないさ。受付嬢が言うには、C判定だそうだ」


 「いや、すげぇっすよ。あたしなんてDっすよD」


 「おぉっ! 冒険者の新入りにしては、中々見込みのある位だぞ。

 使える術も伝えておこう。私は、知っての通り金色の炎やモグサを生じさせることができる。得意な技能としては、人体の・・・・・・う~むどう言えばよいか」


 「ツボっすよね。人の体に点在するというもので、そこに熱の刺激を与えると病気が治るとかいう」


 ヤマネの言葉に、タワラが軽く驚く。

 「ほう。経絡について存じておるのか。この国では鍼灸について詳しい人がほとんどいなのでそれについて話し合える仲ができなくて少々寂しい思いをしてたのだ。共通の話題を話し合う者に出会えてうれしく思う。

 そう、その経絡を突く技術で、自分含む味方側には解毒及びバフ効果・デバフ解消を、敵側にはデバフ効果を戦闘時に与えるのが、私の得意な戦法なのだ。お札とかも使用するがな」

 彼女は、腰に巻いているポーチから、難しい漢字が書かれたお札を見せつける。

 

 談笑により、タワラは機嫌が良い・・・・・・のもつかの間、大通りにいる二人組を一瞥するや否や、険しい顔つきに変わってそっぽを向いた。


 二人組の内、後方にいる少女はフードをかぶり、ボロ着を身に着けて力なく歩く。

 なんと彼女の首元には、鎖につながれた首輪がはめられており、前方にいる恰幅の良い男に犬の散歩みたいにその鎖で連れていかれているのだ。

 鎖につながれた少女の頭部から狼の耳が生えていることが、フードの隙間を覗くことで確認できた。


 この国にも、テンプレよろしく奴隷制度が根付いて獣人という人種も存在している。


 「不愉快だ。この国の奴らは、人間達と同じ言語を操り、繊細な感情表現をし、高い知能を有する獣人族を、獣の耳や尻尾が生えているという理由だけでまるで獣・・・・・・いや、獣以下の様に扱う。

 ・・・・・・この国は、国民が何の罪もない獣人達の自由を束縛しているのが現状だ・・・・・・酷い事だとは、思わないか? ヤマネ・・・・・・ヤマネ?」

 さっきタワラの隣にいたはずのヤマネが、いつの間にか消えていた。

 それもそのはず。


 「な・・・・・・何だね君は!?」


 「うわ~可愛いお耳。初めて獣人って奴に会えたぞ!! 嬢ちゃん、名前は? ねぇ尻尾も生えているの? 何の種類の獣人? 犬? 猫? それともきつね? その耳で遠くの音まで良く聞こえるんすか? もっと君の事を知りたいぜ」


 奴隷の少女まで急接近して、質問攻めにしているからだ。

 目を輝かせて興奮しているヤマネに、少女が唖然とし、彼女の持ち主が取り乱し、タワラが呆気にとられた。


 「何をやっとるんじゃこのたわけがっ!?」

 頭部に特大のお灸を据えられ、気絶してしまったヤマネの襟を怒りのままに引っ張って、急いでこの場からタワラは離れる。


 すぐに目が覚めるヤマネ。彼女はまだタワラに引きずられているのだ。

 「は!? 俺は一体・・・・・・」


 「は!? 俺は一体・・・・・・ではない!! なんじゃ貴様、いきなり見知らぬ他人の奴隷に話しかけるとは? 非常識にも程があるぞ!!」


 「え? ・・・・・・あいつって奴隷なの?」


 額を片手で抑え、難しい顔をするタワラ。

 「いや、あの少女が首輪をはめられ、鎖で繋がれているのが見えなかったのか?」


 「てっきり、そういうプレイかと思った」


 「・・・・・・・・・・・・次からは、奴隷を見かけても意味も無く来やすく話しかけるでない。

 あといい加減自分で歩いたらどうだ?」


 は~い とヤマネは答え、立ち上がる。そう時間が経たずに彼女らはギルドにたどり着いた。

 二人が、ギルドの扉を開ける。


 「『神殿破壊の容疑者クルナートンついに検挙される。王都の南西にある【アズジョーレ村】を襲撃及び占拠の犯行も重ねていた模様』ですか~♪ やっと捕まったんですか良かったですよ~♪

 ほらほらストゥムも御覧なさ~い♬ 新聞の右端に~犯人の似顔絵が描いてありますよ~♪」


 「本当か? うむ・・・・・・まさか凶悪な件の犯人の正体が、こんな優男だったとは・・・・・・」

 ルイスがストゥムに対し、呼んでいる新聞紙を見せつけていた。


 「ようストゥム。今何の話をしていたのだ?」

 タワラが話しかける。

 

 「ヤマネさ~ん! あなたのギルドカードが完成しましたよ~」 

 シャルルが席を立ち、元気よく片腕を頭上に振ってアピールしている。

 

 「おっ! 本当っすか!?」

 急いでシャルルの前のカウンター席まで駆け寄るヤマネ。

 シャルルは、カードをヤマネに手渡す。

 質感と大きさは、地球基準で例えるなら自動車免許とほぼ同じ。

 ちなみにそのカードには、名称・生年・強さのランクなどの彼女の個人情報が刻印されていた。

 (これ、もしかしたら金属製か? そうだとしたら素手で触るのは危険すぎるよな・・・・・・)


 「うわぁ・・・・・・まるで俺が読んだ小説に出てくるカードそのものじゃねぇか・・・・・・」

 ヤマネは、眼を輝かせて自分のカードをしばし見つめる。


 「冒険者になったことで、本来一般人が立ち入ることが禁止された危険地域を、一部ですが行けるようになりました。

 あとこれ一つ見せるだけで、トガルポル国内なら、どの関所でも通ることができますよ」

 シャルルは、カウンター上にこの国の地図を広げる。その地図には、白色と赤と黒で部分的に色分けされていた。

 

 「白色は、一般人が行ける地域で、赤は冒険者などの一部の人が立ち入れる場所。北東にある黒の箇所は、最高危険地域ですね。つまりヤマネさんは、今日から赤にマークされた場所に自由に進めることができます。もちろんその時は、カードを忘れずに」


 「へ~・・・・・・。んで、依頼クエストってのも今から受けられるってのか?」


 「はいそうです。貴方がそうおっしゃると思い、初心者向けの依頼書を用意しました。」

 地図の上に、文字が書かれた羊皮紙を置く。


 「おぉっ! 早いな」


 「えっへん! では、この依頼書について詳細を説明させて頂きますね?

 目的地は、王都から北西にある町『タロッタービルァ』の神殿『タロッターチェア』・・・・・・タロット様をたてまつる神殿のうちの一つですね。

 依頼内容は、新発見されたダンジョンを調査することです」


 「神殿にダンジョン?」


 「今話題になっているクルナートンさんが、だいぶ前に神殿を魔術で破壊したことは、新聞で御存じですよね・・・・・・?

 その破壊によってできた穴は実は、なんとダンジョンに繋がる地下通路の入り口なんですよ!」


 ヤマネの背後まで、タワラが近寄り彼女らの話に加わる。

 「待て、それは、本当に新人向けの依頼か・・・・・・?

 Dランクの冒険者一人だけで、未踏のダンジョンを行かせるなど危険すぎるぞ・・・・・・!」


 「確かにそうですね。では、タワラさんもヤマネさんと一緒にパーティーを組むという案は、如何ですか?」


 「もちろんそのつもりだが?」


 「おやおや、やっぱりタワラちゃんは、新人に対して優しいでちゅね~」


 シャルルからの提案に、間髪入れずに答えたタワラに対し、ウォールナッツがからかってくる。

 からかわれた彼女は、鍼を飛ばすも彼は、ひょいとかわす。

 

 「例の神殿が建てられたのは、大昔の話だが? なぜ今までそれの地下にあるダンジョンが発見されなかったのかね。なにかと不自然なんだが・・・・・・」

 タワラに続きストゥムも話に加わる。


 「まあ、神殿を始めとして重要文化財に手をかけることは禁止されてますからね?

 神殿を壊して地面を掘ることができなかったから今まで例のダンジョンは、発見されなかったんでしょう。

 では・・・・・・」

 依頼書の隣に水晶がはめられた木製の腕輪を置くシャルル。

 その水晶は、鏡みたいに周囲の景色を投影している。


 「それは何だ?」


 「『レンズクリスタル』の腕輪か。その水晶は、それに映っている景色を瞬時に模写し、水晶内に記録する効果を有する。発動条件は、その魔道具に魔力を込めることだな」


 (模写・・・・・・? ああつまり、カメラみたいなものか・・・・・・)


 「もうタワラさん! 私が説明しようと思ってたのに~・・・・・・そう、それでダンジョン内の建造物や魔物などを撮ってください」

 

 腕輪を拾うヤマネ。

 「おおっ! 借りてもいいのか?」


 「もちろんです。ですがこれは実は、結構いい値段をするので、紛失や損壊した場合、きっちり弁償させて頂きますからね・・・・・・ご注意ください!」


 鬼気迫るシャルルの威圧に、ヤマネは少し後退りした。

 「お・・・・・・おう、気を付けるよ」


 「試し撮りしたらどうだ? 現地に着いてからそれがぶっ壊れたことが判明したら、目も当てられねぇだろ・・・・・・」


 ウォールナッツの助言に、ヤマネも納得し、自分の体に力を込める。

 それに釣られてシャルルは、ピースのポーズをした。


 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 しかし一向にこの腕輪から何の変化も見られない。


 「・・・・・・え? これもう撮れてんのか?」

 

 「いや、撮影の際は、閃光を一瞬だけ放つはずだ・・・・・・? 壊れたか?」


 あっ! と声を張り上げたヤマネは、なぜこの魔道具が発動してないのか察した。

 「あたし呪文唱えてないと物に魔力を込められなかったの忘れてたわ」


 「・・・・・・魔術使える者は、大概呪文を唱えずとも物に魔力を込めることは、造作もないと思うが・・・・・・」


 とりあえずヤマネは、呪文を唱えて魔道具を使用した。特にこれと言って不調なんてものは無く無事にシャルルのピース写真を収められた。


 「もう、一応ギルドの備品ですから、私用に使ったら本来駄目なんですよ?」


 「お固いこと言うなよ。試し撮りは必要だろ?

 てか、てめぇもノリノリだったじゃねぇか。なんだあのハサミのポーズ」


 「まあそうですね・・・・・・では、これでこの依頼クエストについての説明は終わらせて頂きます。何かご質問等無ければ、このまま目的地まで向かっても大丈夫ですよ?」


 シャルルの言葉に、ヤマネは驚いた。

 「え!! 今から!?」


 「何か困る事でもあるのか?」


 「いや、てっきり依頼主に依頼クエストを承ったことを伝えてから、出かけるのかと・・・・・・」


 水晶玉を指差すシャルルが説明する。

 「後で私が通信魔道具で依頼主のいる町のギルド支部に伝えておきます。

 例の依頼(クエスト)を受けますよって。

 ですが、準備が整ってない場合は、依頼受理は、後日でも構いません。

 貴方は、これが初めての冒険者デビューですから、急ぐ事はありませんよ」


 (急ぐ事はありません・・・・・・か。

 ・・・・・・二十歳になる前に魔王を倒さないといけないのに、足踏みする時間なんて微塵も無えよ・・・・・・)

 自分の『前後』の両親の顔を思い浮かべるヤマネは、瞳に熱を込め心を振るわせて口にする。

 

 「シャルル。今から依頼主に伝えてくれ。ダンジョン探索は任せてくれ・・・・・・と!」

 タワラに対し、ヤマネは頭を下げる。

 タワラさん・・・・・・右も左も分からねぇ新入りのあたしだが、全力で頑張るからこれからよろしくお願いします!!」

 ※ヤマネに話しかけられた獣人の少女とその主人の続きの話


 二人組は、立派な屋敷に帰った

 玄関では、メイド服を着た獣人達が彼らをお出迎えする


 「いや~ドサドたん。ぼくちんいきなり女の子に話しかけられてびっくりしましたですぞ」

 主人が、タオルで顔の汗を拭いながら隣にいる獣人の少女に話しかける。


 「オスブタ。なんだ往来の場で取り乱しやがってみっともねぇ。本当にてめぇ貴族かよ」

 自分の主人に向かって威圧的に罵倒する少女

 彼女は、自分に取り付けられた鎖付けの首輪を外し、玄関の隅に投げる

 「全く、なんで首輪なんて窮屈なもんはめて散歩しなきゃならねぇんだよ」


 「ごめんな、この国の決まりなんだ。都で獣人を外出させる時は、魔道拘束具をはめなきゃいけないんだ」


 「分かってるよ。あ~なんであたいら獣人は、こんな扱いを受けなきゃならねェんだ?

 イライラするぜ」


 もじもじする主人

 「あの~ドサドちゃん? 差し支えなければ、後でぼくちんをいじめてくれないかな?」


 呆れたような目で自分の主人を見上げるドサド

 その後、軽く頭を抱える

 「なんであたいの主人は、こんなドマゾの豚なんだ? 悲しくなるぜ

 わかったわかった飯食った後しばいてやるよ。この糞伯爵野郎」

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