A・B・C・D・E +ERROR
〇ヒッポグリフ・・・前半身が鷲・後半身が馬で構成された飛行魔物。
〇コカトリス・・・頭、体が鶏・翼がコウモリ・尻尾が蛇・黄色い羽毛で構成された魔物。
〇グリフィン・・・前半身が鷹・後半体がライオンで構成された飛行魔物。
〇ハーピー・・・人の顔を持つ怪鳥。中には半人半鳥の個体もいる。
〇ワイバーン・・・前肢とコウモリの翼が一体化したドラゴン。
※ちなみにこの話に登場してくるドラゴン達の全長は、全員二階建て家屋よりも高いです。
「てめぇらっ!! 魔物の群れが攻めてきたぞっ!!」
そうサツマが言い終わらないうちに、ギルド内にいる冒険者達が一斉に外へと向かう。
都とそこに住まう人々に仇なす魔物達を討伐するためだ。
ギルド内に残っているのは、いきなりの事で呆然とするヤマネと受付嬢達と清掃員とお腹を壊して悶絶しているアフロ男とトイレで踏ん張っているドワーフくらいだ。
我に返ったヤマネも騒ぎの元へと向かう。
外に出た瞬間に、彼女は息を呑んだ。
多種多様・大量の魔物が、城壁を越えて王都を蹂躙しているからだ。
ヒッポグリフが馬を攫い、コカトリスが毒の霧を吐き、巨大コウモリが牛の血を啜り、グリフィンが民間人を踏み潰し、ワイバーンが騎士達を上空から襲い、ハーピーが怪音波を発し、巨大蜂が群れを成して飛来し、巨大蛾が毒性の鱗粉をまき散らし、宙を舞うクラゲが触手を伸ばし、空を泳ぐ鮫が暴れまわり、巨大なカエルが城壁をよじ登り、ドラゴンが火炎を口から放出する。
ちなみに襲来してくるドラゴンらにもそれぞれ種類が分かれており、アイスドラゴン・ボーンドラゴン・アーマードラゴン・スマートドラゴンなどがいた。特にスマートドラゴン達は背中に地上戦に特化したゴブリンやコボルト・オークの軍団を乗せてきている。
「助けてぇえええええっ!!」
「なんでモンスター共が王都を恐れず侵入してきてんだよ!?
こんなこと今まで無かったぞ!!」
襲われている民間人の絶叫や先陣きって戦っている騎士達の雄たけびが、街中に響いている。
騎士団の中には、非戦闘員である民間人達を安全な場所まで避難誘導している騎士達もいた。
新調した鞭を取り出し、臨戦態勢を取るヤマネの脳裏に、ある説がふと浮かび上がる。
目を背けたくなる考えが。
(この魔物らの襲来は、タロットの祟りのせい・・・・・・?
あたしから発されている体臭が、あいつらをおびき寄せたっていうのかよ!?)
確かにヤマネは王都に入る前、彼女の体臭を誤魔化せれる黒いハーブで自分の体を燻さなかった。
いや燻せなかったのだ。彼女が『火竜騎兵』に拘束されたから。
自分のせいでいろんな人達が魔物らの脅威に晒されていることに気付いたヤマネは、罪悪感で立ち止まってしまった。
茫然自失の彼女の背後に位置する地面が広範囲に隆起する。
石畳を砕いて押しのけ、そこから現れたのは、熊の背丈をはるかに超えるもぐらだ。
口を大きく開けたそいつは、ヤマネを丸呑みにしようと襲い掛かったのだ。
痛々しい音が鳴った。
咀嚼音ではない。巨大もぐらの頬をサツマが殴って妨害したからだ。そいつは痛みで悶えて怯んでいる。
「ヤマネっ!! お前は、そんな軟弱者だったのか!?
何年か前、俺様に土下座して教えを請いたお前の方が、格段に心が強かったぞ!!
オレ様は、惨劇を前にしただけで足が竦むような雑魚を鍛えた覚えはねぇっ!!」
「・・・・・・確かにその通りだな」
喝を入れられたことで、虚ろになってたヤマネの瞳に、闘志の炎が灯る。
起きてしまったことに、嘆き、後悔したところで時間が戻るわけではない。
だったら即刻、動け。まだある命を、自らが作り出した脅威から護るために。全力で。
彼女は、身体強化魔術の詠唱を滑らかに唱え、その後再び攻撃してくるモグラの額に重い跳び蹴りを喰らわせた。
そいつは、とうとう気絶してしまったのだ。
「悪ぃ!! おかげで目が覚めたぜ。サツマのおっさん」
「それでいいっ・・・・・・ふふ、まるで鬼のように強くなったな、ヤマネ。
また呆然と立ち竦んでみろ? 俺様がクレティマンにお前の軟弱さをチクってやるからな!!」
強固な体を持つボーンドラゴンの頭を、踵落とし一撃で粉砕するサツマ。
カラカラッと、軽い落下音が鳴る。
「ははは、そいつはこえーや・・・・・・」
迷彩柄のバックから木製のブーメランを取り出すヤマネ。
それは、実はコヨーテの魔力で生成された武器で、それに持ち主の魔力を流せば流した分だけ硬度と射程距離と速度が比例して上昇する効果を有していた。
「『雷の如く 我が魔力よ 術者の得物の内部まで 伝達せよ 万遍無く
切れ味を 硬度を 性能を 底上げせよ』
付加魔術『武器強化』」
ヤマネは呪文を唱えながらブーメランに魔力を軽く注ぎ、垂直面に立てて一体の巨大蜂の翅めがけて投げた。
それは、弧を描くよう回転しながら飛来し、そして・・・・・・。
「・・・・・・あ」
彼女の意図に反してタワラの額に軽く突き刺さったのだ。
練習もせず慣れない飛び道具・・・・・・それも癖の強いものを投げれば、思い通りに飛ばないのは当たり前である。
「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」
ブーメランを投げたヤマネと額に微量な血を流すタワラは、少しの間お互い見つめ合う。
フッ・・・・・・と漏らすよう笑ったタワラは次の瞬間。
「上等だ貴様ぁああああああああっ!! 宣戦布告と捉えようっ!! 我がお灸の恐ろしさ。存分に味合わせてやろうではないかぁあああああああああああああああああああああああっ!!」
激高しながら袂内に収めてある鍼用の針とお札を複数袖口から取り出す。
そんな暴走している彼女を羽交い絞めして止めているのは、古代エジプトの恰好をしたストゥムだ。
「すいませんすいません。わざとじゃないっす。本当にすみませんっ!!」
「慣れてないのですか。武器に魔力を注いで強化するの・・・・・・」
ギラギラに細かい装飾を施されている巨大超重量のメタルハンマーを竹刀みたいに振り回す幼女・・・・・・ラティスが、ヤマネの失態を流し見ながら話しかける。
「え・・・・・・まあそうなんすけど」
「見ててよ、ラティスが教える。
まず『ルーン・マン』→『ルーン・エオニ』→『ルーン・ティール』の順で単語を思い浮かべながら・・・・・・」
尻尾を振り落としてラティスを叩き潰そうとするアーマードラゴンに対し、彼女は講釈を垂れながら垂直にジャンプして回避する。
ちなみにそいつの尻尾に当たった箇所に、深く広い亀裂が生んでしまった。絶大な威力を持つ証拠だ。
「自分が所持している得物に魔力を注ぎます。流す際に、得物の触感と自身の魔力の流れ具合を意識するのがコツなんだけど」
地表から三階建て家屋より僅かに高く跳んでいるラティスは、そのまま巨大メタルハンマーをアーマードラゴンの頭部めがけて容赦なく振り下ろした。
衝突の際、長く響き渡るような金属音が生じる。
彼女の攻撃をもろに喰らったアーマードラゴンの頭部は、ひしゃげた金属と肉片へと変貌する。
※アーマードラゴンの皮膚全体を覆う金属の鱗は、下手な鋼鉄より遥かに硬いです。
高所から落下したにも関わらず、何事も無く着地する彼女。
「ちなにみ武器強化の呪文を詠唱する場合は、始めに『雷の如く』よりも『熱の如く』のほうが、初心者は、成功しやすいですよ?」
「あ、うん。教えてくれてありがとう・・・・・・」
ピクリとも動かなくなった上位のドラゴンを唖然と眺めながら適当に言葉を返すヤマネ。
「だ~か~ら。止まるなと言ったばかりじゃねぇかっ!! ヤマネ!!
今ここは、戦場になっているんだ!」
彼女の生じた隙を見逃さないよう横から狙うゴブリンを、回し蹴りで倒すサツマ。
「全く・・・・・・サツマももの好きよの・・・・・・木偶の坊のお守りを前にやっていたとは・・・・・・」
こちらに迫り来るオークの群れに対し、タワラは摘まんでいる細かな複数の針を勢いよく飛ばす。飛ばされた針は、全てオーク達の首元に突き刺さるも、奴らは意にも介して無い。
「おい、危ねぇぞっ!!」
先頭にいるオークが、こん棒でタワラの首めがけて薙ごうとする寸前に、いきなりそいつが自分の首元を抑えながら倒れた。それに続くよう後方のオーク達も次々に地に転がる。
そいつらは、泡を吹き、汗と涙を流して悶え、遂には白目を剥いてしまったのだ。
「え・・・・・・一体何を・・・・・・?」
何が起こったのか理解できないヤマネに、タワラはため息ついて先頭のオークに突き刺さっている針に指をさす。
「そやつらの首元にある『呼吸器官の活動を著しく阻害する』ツボあたりに、鍼で突いただけだ」
「ツボ・・・・・・もしかしてそれって」
何の脈絡も無くヤマネの手首に焦げているヨモギの葉っぱが出現する。
「あじゃっあじゃっ熱ぅぁああああああああああああっ!? 何何ナニっ!?」
「先程のお返しよ。そのお灸に据えている箇所には、『集中力を高める』効果を持つツボがある。
逃げても隠れても良いから、まず動け。こちらの気が散る・・・・・・っ!!」
「なんだかんだ文句を言いながらも、新人に気遣って優しいね~。タワラちゅあ~んのツンデレ頂きました!」
「黙れ! 貴様は、妾、じゃなくて私より強いくせに何をさぼっておるっ!」
からかわれたことで赤面したタワラは、からかってきたウォールナッツの額めがけてお札を飛ばすも、彼は涼しい顔したまま躱す。
ちなみに避けられたお札は、偶然にも飛び回っているハーピーの額に貼り付いた。
札を貼られた瞬間、そいつはもがき苦しみ、翼の動きが乱れ、最終的に地に墜落した。
「いや、仕方ねぇじゃん。俺らの周囲にモンスター共がぶちまけた毒の霧と鱗粉が空中に広がっているから、動きたくても迂闊に動けねェもん」
「だったら、我が除去してやろう・・・・・・」
ストゥムが自分の傍に浮かしている小さな壺から、それの容量を遥かに超えるはずの巨大な内臓の塊をつっかえることも無くスムーズに取り出した。
どうやらその壺の中には、異次元に通じているようだ。
「うげぇ・・・・・・」
ヒグマ程の大きさを持つグロテクスな物体が、いきなり自分の視界に出現したから、ヤマネは吐き気を催してしまったのだ。
「なんだそれ・・・・・・」
「エアードラゴンの肺とジャングルオークの肝臓を防腐処理した後お互いを縫合したものだ。
さぁ、作動せよ」
ストゥムが命令した瞬間、その臓器の塊は、ひとりでにチューブ型吸引口から辺りの空気もろとも毒性の霧と鱗粉を吸い始め、少し経った後新鮮な空気を放出した。その二つの工程を何度も繰り返す。
短時間で、王都の空気が清浄に戻った。
「ストゥムが扱う武具は、手に入れた魔物の臓器や筋肉などを改造して魔道具にしたものよ」
タワラの説明を余所に、ヤマネはその光景に若干引いている。
「これで・・・・・・」
「思う存分動けるぜっ!!」
遂にウォールナッツが、自身の刀を鞘から抜く。
「『妖刀:送塩』」
彼の得物を見たヤマネは、驚いてしまった。
「なんだ・・・・・・? それ刀身の真ん中がぽっきり折れているぞ・・・・・・なんでそんな欠陥品使ってんだ?」
「そりゃあ、決まってんだろ」
ウォールナッツが、敵の集団めがけて勢いよく迫る。
「ハンデさ・・・・・・!」
ヤマネがまばたきしている間に、彼が家屋の屋根から屋根へと縦横無尽に跳び回り、大多数の魔物・・・・・・ヒッポグリフ二頭・コカトリス一頭・巨大コウモリ二十五頭・グリフィン一頭・ハーピー三十頭・巨大蜂全体・巨大蛾半数・ドラゴン八頭を次々に斬り伏せる。
まぶたを開けたヤマネは、いきなり空を飛び交う大群の敵共が、鮮血を零しながら力なく落下していく様に、驚愕してしまった。
すぐに彼女は、それがウォールナッツの仕業だと察する。
「す・・・・・・すげぇっ! コモドの野郎が発射した弾丸より速ぇんじゃねぇの・・・・・・?
お前一体何者だよ・・・・・・!?」
「ヘヘ~ン、どうだすごいだろ。何者かって・・・・・・? 強いて言うなら一流の冒険者ってとこかな・・・・・・!
ってか、コモドって誰?」
「新人。そやつをあまり誉めそやすな・・・・・・すぐに天狗になるからな。
あとタ、ウォールナッツ!! 『火竜騎兵』の隊長名くらい知っておれ! 一般常識だぞ!!」
他の冒険者達が次々と魔物の群れを蹴散らしていく様子を見て、興奮しているヤマネはふと月を見上げて一つの事に疑問に思う。
「なんで夜中なのにこんなに視界がくっきりしてるんだ? 一応光源であるランプの街灯はあるが、それでも昼みたいに目が見えている理由にはならない・・・・・・」
美しい音色が彼女の傍で鳴る。
「そのことについて、このボクが答えよう~♬」
「うぉっ!? びっくりした!! いきなり背後から出てくんなよ」
吟遊詩人の恰好をしたエルフ・・・・・・ルイスがヤマネに歩み寄り話しかける。
「先程、この琴の音色が届いている冒険者の皆さ~まを対象に~♪ 『暗視』の魔術を、付加しておいた~のさ~♪ 仲間のサポートをするのが~このボクの一番の~得意分野~♪」
コボルトの頸動脈や怪物のクラゲの触手を瞬発的に斬り捨てているウォールナッツが、一旦立ち止まってルイスにツッコミを入れる。
「いや、聖属性魔術の攻撃したほうが強ぇだろお前・・・・・・」
タワラが金色の炎を操ってアイスドラゴンの冷気の息吹きを何とか牽制しながら、ウォールナッツに尋ねる。
「おいっ!!あのアフロはどうした!? あやつさえいれば、こんな魔物の群れなんて簡単に一掃できるだろ!!」
「それが、あいつこの前虹色に輝くキノコを食べて食中毒にかかってしまって、今絶賛腹下し中」
「何やっとるんじゃ、あの昼行燈っ!!」
奔流する冷気に押されそうになっているタワラをフォローするよう、ラティスがアイスドラゴンの腹部を横からメタルハンマーで殴り飛ばした。
石造家に激突したアイスドラゴンは、もうピクリとも動かなくなった。
「困ったらラティスを呼んで・・・・・・」
「すまぬ、助かった」
「フフフ、待ってオレ。今雷迸る魔術を顕現させるための魔方陣を・・・・・・」
「一体いつになったら完成するのだ!? 今のお前は、敵共の恰好の的だぞっ!!」
チョークで魔方陣を石畳に記している魔術師・・・・・・マーロンに怒るサツマ。
実はマーロンは、騒ぎに聞きつけギルドを出てから今まで悠長に魔方陣を作成していたのだ・・・・・・それも無駄に緻密で複雑なものをだ。
四つん這い態勢のマーロンを上空から襲う魔物がいた。
海ではなく大気を泳ぐ鮫だ。そいつは、鋭い牙を見せつける様に顎を最大限まで開き、隙だらけの彼めがけて突進する。
「危ねぇぞおっさん!!」
しかし、マーロンは無事だった。ヤマネがそいつの鼻先に向かって飛び蹴りしたからだ。
鮫にとって大切な器官がある部分に、魔力で身体強化された重い一撃をもろに受けてしまったのだ。
そいつは、彼女の攻撃を受けた後、捕食行為を中断し、一目散に空に上昇して逃げる。
まあその後哀れにも、ウォールナッツに脇腹を捌かれたのだが。
「済まない・・・・・・助かった」
「え~と、マーロンさん、だっけ? おっさんは、安心して魔方陣を描いてくれ。その間あたしとサツマのおっさんが守ってやるからよ」
「・・・・・・分かった。背中は預けるぞ。ヤマネお嬢さん」
ヤマネのその言葉と笑顔を前に、マーロンも微笑み返す。
なんかサツマの方は、ヤマネらを何とも言えない表情で睨んでいる。
ちなみにヤマネ達の近くの路地裏にて、彼女を尾行している『梟』の一人・・・・・・ヒキョウが、冒険者達の様子を眺めていた。
彼女の足元には、氷漬けになったオークやコボルトの屍が転がっている。
ヒキョウ「さて、城壁の方は大丈夫・・・・・・?」
※城壁西側へと視点を変えます。
白い羽毛が生えている翼を携えた痩せ型のドラゴン・・・・・・スマートドラゴンの一体が、城壁上空を旋回しながら思考に耽っていた。
(あの虫けら女郎め・・・・・・何が『この国は今、他国と現在戦争しているからぁ、この人間の大集落の防衛は手薄になっているのよぉ。
襲うのは、今がチャンスだわぁ』だ。全然兵力がそちらに残っているではないか。
・・・・・・劣勢だな。今回攻め落とすのは諦めて敵側の情報をできるだけ集めることに専念・・・・・・ん?
何だこれは・・・・・・!?)
一本の木製ブーメランが、王城の方からこのドラゴンめがけて旋回しながらそいつが対応できない程の速度で接近してくる。
(まずい・・・・・・避けきれない!! 『あれ』は、ただの木塊ではない・・・・・・!?
なんとか魔力で防壁を・・・・・・!!)
もはやこのスマートドラゴンの首とブーメランとの距離は目と鼻の先・・・・・・。
「・・・・・・助かった?」
しかし、その武器が奴を切り裂くことは無かった。
スマートドラゴンが防壁を張るのが間に合ったわけではない。確かにそのブーメランには、奴を斃す程の威力が込められていた。
ではなぜ奴は、助かったのか?
王城から飛来してきた鉛玉が、それを撃ち落としたからだ。
実は現在、王城の主塔西側の窓際で、コヨーテとマスケットを掲げるコモドが口論している。
「何、自分の攻撃を妨害してんの!? ふざけた真似をするなんて許さないんだよ!!」
「うるせぇ!! たまたま俺の撃った弾丸が、偶然にも当たっただけだ!!」
「ふん!! つまりちゃんと敵を狙った・・・・・・と君は、言いたいんだね?
それだったら自分のブーメランにも対処できない程コモドの動体視力が鈍いってことの証明じゃん!!」
「一流スナイパーを事欠いて動体視力が鈍いだぁあ・・・・・・? 舐められたものだな。
まず年上を敬えない礼儀知らずの小娘を先に片付けてやろうか・・・・・・!!」
収納用異空間から魔術で原始的な手りゅう弾を手元に取り出すコモド。
「『接触感知術者』班に丸投げでもしないと簡単な仕事も達成できない無能な隊長に下げるような、軽くて安い頭を持ち合わせてないんだよ! 自分は!!」
創造魔術で黒曜石の剣を創り出して構えるコヨーテ。
まさしく一触即発・・・・・・お互いを睨み合っている二人が、いつ衝突してもおかしくない。
そんな彼らに、一人の女性が仲裁してくる。
「はいはい、騎士隊同士の私闘は、禁止のはずよ・・・・・・?
ましてやここは王族の居住区域でもある主塔。喧嘩をする場所では、ありませんね」
ザクロ アントワネータ
にっこり笑っている彼女を前に、彼女の部下であるコヨーテばかりか、同じ地位にいるはずのコモドですらビビって口論をやめた。
コヨーテがザクロに告げ口をする。
「聞いて下さいよザクロさん。コモドの奴が、自分の攻撃を邪魔するんですよ」
「まぁそうなのですか?」
「あぁ・・・・・・その通りです。大人げない行為でした。謝罪します」
軍帽を外し、頭を下げるコモドに、コヨーテは嬉しそうに舌を出した。
「今、魔物の群れが都の西側から侵攻しているのですね・・・・・・?
そして、先程貴方達は、スマートドラゴンを狙っていたのですね?」
「はい、その通りです。
余計な情報かもしれませんが、大きなカエルの方は、一般騎士団の騎士長様が、討伐しました。あと残っているのは、ドラゴンくらいでしょう」
「では、私ザクロが、不肖ながらお二人の代わりにそのドラゴンをお相手致しましょう」
(そのドラゴンの方は、人気のない農地の上空辺りを飛来していますね・・・・・・今なら!)
ザクロが、無詠唱非動作で自分の特殊能力を発動させた。
「0.5サンムーブ【日本基準で59分程】」
そう彼女が唱えた瞬間、遥か先にいる例のスマートドラゴンの息の根が、タイムラグ無く止まった。
自分の最期の予兆すら気づけず奴は、力なく落下し、遂に農地に激突した。
高い上空から撃墜されたにもかかわらず、そのドラゴンの皮膚には、掠り傷一つも無い。
「北西あたりに堕としました。
今すぐに兵達を呼び集め、竜の屍を拘束して下さい」
「了解しました」
「わかりました。では、失礼します」
コモド達は、ザクロの指示をまっとうするよう各々の部下を急いで呼び集めるためにこの場を離れる。
人気のない農地に横たわっているスマートドラゴンの口から、一匹の蛆虫が這い出た。
※侵略してきた魔物達のほとんどを討伐して落ち着いてきた頃のタワラ達の話。
自分の魔道具である臓器の塊の表面に浮き出た文字を読むストゥム。
タワラ「何かわかったか・・・・・・?」
ストゥム「王都上空に散布された毒物の種類を調べてみたんだが、侵入してきたコカトリスの息や巨大蛾の鱗粉・・・・・・あれ全部『逆毒』だぞ」
タワラ「『逆毒』だと・・・・・・?
ただの魔物が、なぜ人工毒物を体内に具えている?
不思議だ。まるで狐につままれたような感触だな」
ストゥム「どうする?」
タワラ「決まっている。急いで回復術師や医者達に伝えねばなるまい。
『毒を受けた患者を治療するな』とな」