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旅の序盤

 ※ヤマネは、王都に向かうための交通手段は、徒歩を採用しています。

 乗馬の場合は、彼女は馬の手綱を取ることが大の苦手で、辻馬車の場合は、彼女の祟りのせいで同乗者が敵襲に巻き込まれる可能性が高いからです。

 最近改稿した時期は、2021年7月4日です。

 ヤマネが、故郷の村を出発してからそう経ってない時だ。

 涙を流しながら徒歩で進んでいく彼女を狙うよう、林道の脇の大木の陰から巨躯な何者かが爪を立て、急襲した。


 驚愕したヤマネは、自分の頭部めがけて振りかぶってくる引っ掻き攻撃に対し、上段蹴りで敵の手の甲を上部に微かにずらした。狼の攻撃が、彼女の髪に掠める。

 その後ヤマネは、勢いよく後ろに跳んだ。


 「もう敵襲かよっ!?」


 せっかく哀愁に浸っていたとこに妨害されたことで呆れて憤るヤマネを前に、何者かが呻いて彼女の進む道を立ち塞ぐ。

 ヤマネの足裏から、先程の攻防により、痛みが滲むよう表れた。


 (くそ・・・・・・入れた蹴り一つだけでわかる・・・・・・こいつすげぇパワーしてやがるな。

 下手にさっきのをもろに喰らえば、ただじゃ済まなかったぞ・・・・・・っ!

 こっちも鍛えてるっていうのに)

 「お前・・・・・・狼男か?」

 狼男と呼ばれた者の特徴は、成人男性の二倍ほど背丈を持ち、筋肉隆々で体中毛深く、手足の爪が鋭く黒く輝いており、頭部が狼で構成された人型の魔物であった。


 「そうや。嬢ちゃん別嬪べっぴんさんやな・・・・・・犯した後、わいの部下と一緒に食いちぎってやろうか」


 「そのなりで人語を操れるんかよ」


 「別に喋れる魔物は、珍しくないやろ。それよりお嬢ちゃん。よくもだいぶ前に、うちんとこの一匹を爆発で吹き飛ばしとうてくれたな。借りを返させてもらおうか・・・・・・」


 革鎧の腹部ポケットから、新調した鞭を取り出すヤマネ。

 「だいぶ前・・・・・・あん時のか。弔い合戦って奴だな」

 彼女は、ハクビ戦にて、自分の腕に噛みついてきた狼のことを思い出した。


 「そいつは、あん時死んだはずなのになぜか次の日に生き返ったさかい。

 だから弔ってるわけでもないんやが・・・・・・まあ報復は、させてもらうで一応」

 狼男が、遠吠えした後、すぐに木の陰や茂みに潜んでいた狼らが飛び出し、ヤマネの周囲を囲う。

 その中には、尋常ならざる殺意を抱いている個体もいた。


 (いっきにこっちに飛び掛かったタイミングでまとめて痺れさせてやるっ・・・・・・!!)

 呪文を早口で滑らかに唱えたヤマネ。

 「雷属性魔術『雷獣の憤慨』」

 ヤマネの髪から大電流高電圧の雷が発生し、すぐに彼女自身に纏う。


 迸る魔力の紫電を前に、すぐにでも敵をたいらげたいはずの狼共は、どいつも飛び掛かれないでいた。

 雷の耐性を有していない者が、今の彼女に触れてしまえば、体中に電気が流れて黒焦げになるのは、免れないであろう。狼共も、本能的にそれを察している。


 怯える狼共を見て安堵していたヤマネは、いきなり自分の左側に激しい風圧を受けた。

 驚愕した彼女は、とっさに横に跳ぼうとするも、回避しきれずに何者かと衝突してしまった。


 「ガハッ・・・・・・!?」


 激突されたヤマネは、複数の狼を巻き添えにする形で飛ばされ、白樺の幹に叩きつけられ、草むらに転がった。彼女の周辺にある草木は、紫電によって軽く焦げる。


 「ゲホッゲホッ・・・・・・? 今のあたしは、雷を纏ってんだぞ。そんなに電撃を浴びてぇ奴がいるのかよ・・・・・・? あ」

 急いで立ち上がったヤマネは、自分の死角から襲ってきた相手を見た。


 相手の正体は、牛の背丈を超える程巨体な鷲であった。

 ヤマネとぶつかり、あまつさえ電撃を浴びたはずなのに奴は、どこも傷は無く元気よく羽ばたいている。


 「なんであたしの雷魔術をもろに喰らって平気なんだ? ・・・・・・もしかしてめぇっ!?」


 そう、その大鷲は、ハクビ戦の前にヤマネを攫った後、電撃を受けて最期には落下死したはずの大鷲である。

 大鷲の方は、実は奇襲の際に自慢の鋭いあしゆびで、彼女の後頭部を切り裂くつもりだったが、結果的に打撃技になってしまった。


 狼男「気づいたんやな。そいつも復活した一頭やで。

 嬢ちゃんの被害者同士、今わいらは種族関係なく手を組んでるんや」

 (まあ、この大鷲君・・・・・・さっきわいの部下を傷つけたやから、お嬢ちゃんを片付けた後は、わいが始末すうけどな)


 「あの駄女神がっ!! おおかた雷耐性の加護でも授けやがったなぁああああああっ!?」


 「なぁ、敵の嬢ちゃんにアドバイスするのも変やが、今のあんさん集中力が乱れたせいか、雷の魔術解除されてるんよ」


 「しまっ・・・・・・!!」

 自身の様子を確認するヤマネに対し、狼共は、彼女めがけて群がる。


 「『曇らせよ 地表の大雲よ 方位はヒュドラ座の元 範囲は広大

 水気の無い霧よ 辺り一面に満たせ』

 撹乱魔術『スモークスクリーン』」

 舌打ちしたヤマネは、呪文を唱えながら側の大木の太い枝めがけて鞭を伸ばした。

 伸びた鞭の先端が枝にうまく巻き付き、彼女はそれを利用するよう手繰り寄せ登り、すぐに枝上まで這い上がった。次に彼女は、鞭を枝からほどく。

 

 狼共も、ヤマネを捕えるため垂直にジャンプしたり木の幹に上がろうとするも、失敗する。

 (こいつら、木登りは苦手なんだな)


 大鷲がヤマネを襲う寸前に、彼女の魔術が発動する。先程の詠唱通りに彼女を中心にするよう、辺り一面が白い煙が漂った。

 視界が白一色になったことで、眼が鋭い大鷲が驚愕し、攻撃するのを中断して慌てるよう低空に飛び回る。


 狼男がヤマネの炎魔術の詠唱を耳にしながら怒鳴る。

 「大鷲君や、さぼってないで翼を羽ばたかせて煙を吹き飛ばすんやっ!

 それとお嬢ちゃん。狼という生き物は鼻が利くんやさかい・・・・・・目隠しごときでなんとかなるぅ思うなっ!!」

 次に奴は、彼女が登っていた木まで一つ跳びで距離を詰め、おもいっきり殴る。

 ただの打撃だけで、大木の幹は簡単にへし折られたのだ。

 ヤマネ(初めの引っ掻き攻撃は、手加減されてたのかよっ!? おおかた俺を犯すために力を抜いたってことか)

 

 突如、煙の中でオレンジ色の光が、木の枝上でなく地上にて一つだけ少しの間淡く灯る。

 

 「なんやもう嬢ちゃん木から降りて逃げてたんやな。それより自ら居場所をばらすなんて・・・・・・ぎゃぁあああああああああああっ!?」

 呟いている狼男が、いきなり鼻を両手で覆いのたうち回る。

 奴の近くには、焦げたハーブが大量に舞い落ちている。このハーブは、大半の魔物が嫌う匂いを放つ特徴を持つのだ。もちろんそれらは、ヤマネがリュックから取り出し、炎魔術で焦がし、ばら撒いたもの。

 ※このハーブは、焚かないと効き目が薄いです。


 火をつけた線香みたいな香りが、辺りに充満し、ただでさえ鼻が利く狼共が悶え苦しむ。

 これで敵側が無力化した・・・・・・なんてことは無く次に暴風が吹き荒れ、煙とハーブの匂いが散ってしまった。

 この暴風の正体は、大鷲の羽ばたきである。

 

 (ただ翼動かしただけでさっきの暴風起こしたとでもいうのかよっ!?

 こっちまで飛ばされそうだ。息すら出来ねぇ・・・・・・どんだけタロットから強化されたんだチクショウっ!!)


 煙から姿を現したヤマネは、身体強化魔術の呪文を唱えながら王都方向先に道なりに遁走する。彼女と狼男共との距離は、かなり離れていた。


 「なあ部下共! ふざけた真似してくれたお嬢ちゃんを追うんやっ!」

 狼男の命令を聞こうにも、狼共は、ハーブの残り香で悶絶している。

 チィッ と舌打ちした狼男は、傍の大木を片手で地面に引き抜いては肩上まで軽々と持ち上げ、次に槍投ジャベリンげの要領で助走しながら投げる。

 

 投擲の風切り音を耳にしたことによって、後ろを振り向いたヤマネの顔の血の気が引いた。

 飛ばされた大木が、射られた矢と同じ速度で、的確にこちらめがけて迫ってきているからだ。


 ヤマネは、飛ばされた大木を側転でぎりぎり回避する。

 地に激突した大木が、深々と突き刺さる。もし身体強化の魔術を発動してなかったら、今頃彼女はあれの下敷きになってたであろう。


 「大鷲君。わいを乗せるんや」

 狼男を背中に乗せた大鷲が、空高く飛び上がる。


 「あいつら・・・・・・このまま俺・・・・・・あたしの頭上から襲う気だな」


 見晴らしが良い整地された道を走るのは、狙われやすくなると踏んだヤマネは、木々がぼうぼう生えてる獣道を進んだ。


 成人男性の五倍の体重を有する狼男を乗せているにもかかわらず、大鷲は余裕そうに俊敏に旋回している。


 ヤマネの方はというと、息を潜めながら、足場が悪い雑草の中を音を立てないよう歩く。

 (人工の道と違って、あいつらとは別の魔物とエンカウントしやすくはなるが、仕方ねぇ・・・・・・げっ!!)

 狼男の眷属である狼と彼女が、鉢合わせてしまった。

 どうやら、先程のハーブの匂いが薄まったことよって、狼共の鼻は回復し、ヤマネを嗅覚で追ってきたのだ。


 革鎧のポケットからヤマネは、黒くて鋭い石を取り出した。

 それは黒曜石のナイフ。持ち手部分には、包帯が巻かれてあった。


 黙って狼の喉笛を狙うヤマネ。しかし残念ながら彼女の刃が届く寸前に、狼の方は、遠吠えをする。

 舌打ちするヤマネは、隙ができた狼に黒曜石のナイフでとどめを刺す。


 先程の遠吠えで、狼男共から彼女の居場所がばれてしまったのだ。

 その上、その大声で、奴らとは別の魔物も寄って来たのだ。


 「ああっもうっ!! 次から次へとっ!!」

 狼の次にヤマネを遠方から狙うのは、歯は臼歯は無く狼みたいに尖っており、一般的なのより毛量が多くもっさりしてあり、黒の粉末と鉄片を羊毛に有する羊・・・・・・鉄火グレネードシープだ。

 もちろんハクビが率いていた残党が野生化したものである。


 煙幕魔術の呪文を詠唱しながら革鎧のポケットから紐状の道具・・・・・・投石器スリングを取り出すヤマネ。

 羊の方はというと、メェ~と鳴きながらヤマネに走り寄る。


 投石器スリングの真ん中にある口みたいな部分に黒曜石をはめたヤマネは、それを頭上に振り回す。

 煙が発生した時点で、ヤマネは今の状態を保ったまま連続で別の魔術の呪文を唱える。


 狼男を乗せてる大鷲はというと、遠吠えした方めがけて勢いよく下降した際、いきなり煙幕が木々を呑み込むほど広範囲に充満したことに気づき、煙の近くまで寄ってホバリングする。


 「全くあの嬢ちゃん、同じ手ばかり使いおって。

 大鷲君、また煙を取り除・・・・・・ん? 空にいるはずなのに、血の匂いが・・・・・・」


 煙の中から血に染まってる黒曜石が、大鷲目掛けて飛来してきたのだ。

 片目にその石が刺さった大鷲は、羽ばたき攻撃をする寸前で怯んで暴れる。


 混乱している大鷲に命令する狼男。

 「落ち着けやっ! 一旦安全な場所まで・・・・・・はっ?」

 すぐに奴は、呆気にとられることになる。


 なぜなら煙の中から鉄火グレネードシープがこちらの至近距離まで飛んできたからだ。

 そいつは、空中にもがきながら毛を震わせている。


 花火のように、青空に一つの閃光が炸裂した。

 爆風が白煙を一掃。

 黒焦げになった狼男と鉄片が体中に刺さった大鷲が力なく落下し、茂みの奥へと消えた。


 「やった・・・・・・無事成功した・・・・・・っ!」

 ヤマネが、弱々しく呟く。

 少し前に彼女は、まず煙幕が漂うタイミングで、すぐに索敵魔術の呪文を詠唱して発動。

 次に、索敵魔術の効果で大鷲共の位置を探知し、あらかじめ回しておいた投石器スリングの勢いを利用し、黒曜石を投擲とうてきする。

 無事に大鷲の片目に当たった後早速、ヤマネに突進してくる鉄火グレネードシープの前足を鞭で巻き付け、ハンマー投げの要領でターンしながら回って投げ飛ばす。(投げ飛ばす直前、鞭はほどいています)

 本来なら飛来してくる黒曜石や羊など、大鷲なららくらく回避できたはずだが、煙によって視界が遮られたせいで、いきなり現れ迫るものには、対応できなかったのだ。

 そして今に至る。


 「ああクソッ!! もう魔力が枯渇してんな・・・・・・」

 リュックから魔力を回復する効果を持つ液状薬品ポーションの瓶を取り出し、その中身をヤマネは飲み干す。

 「もうここは、村に戻るか・・・・・・別れの挨拶を済ましたばっかりで、のこのこ村に顔出す・・・・・・?

 クソだせぇけど仕方ねぇ。黒曜石と魔力のポーションを仕入れ・・・・・・」

 独り言を呟くヤマネに、背後から呻き声が届く。


 声の方を向けば、狼男の眷属の残党である狼達が、ヤマネに向かって忍び寄ってくる。


 「ああ、もう決めた・・・・・・」

 ため息をついたヤマネは、身体強化魔術を発動したまま逃げるため走り出した。

 「後戻りしねぇっ!! このまま突っ走ってやるっ!!」 

 

 


 

 

 比較的平和なカスドース村周辺でも、狼以外の危険な魔物は、少数ですけど一応生息しています。

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